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入れ墨をしている社員を解雇できるか? 不当解雇のリスクについて解説

2021年01月25日
  • 労働問題
  • 入れ墨
  • 解雇
入れ墨をしている社員を解雇できるか? 不当解雇のリスクについて解説

全国暴力追放運動推進センターと警察庁組織犯罪対策部が発表した「企業・行政対象暴力の現状と暴力団情勢」によると、令和2年現在、日本全国には24の指定暴力団が存在します。広島県内にも指定暴力団は2つ存在しており、構成員はあわせて約210人とされているのです。

近年ではファッションの流行の変化や国際化などが影響して、若い人がタトゥーを入れることは珍しくなくなりました。一方で、入れ墨は暴力団と関連付けられて、反社会性の象徴と考えられることが多いことは否めません。自社の社員が入れ墨を入れていることを顧客や取引先に知られると、自社が遠ざけられてしまい、業務や経営に悪影響が生じるおそれもあります。

そのため、会社の経営者としては、入れ墨を入れた社員の存在をリスクとみなして、解雇を検討する場合もあるでしょう。
しかし、「入れ墨を入れている」というだけで社員を解雇しようとすることは、不当解雇とみなされる可能性が高いのです。

本コラムでは、社員の入れ墨が発覚した場合の対応や入れ墨の禁止の判断基準から、不当解雇とならずに社員を解雇する方法について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説いたします。

1、社員の入れ墨に気がついた場合の対応

  1. (1)入れ墨を禁止することは難しい

    入れ墨を入れた社員が会社に在籍していることを、好ましく思わない経営者も多いでしょう。
    しかし、「採用した後に、入れ墨を入れていることが判明した」というだけで、社員を解雇しようとしたり、入れ墨を消すように社員に対して命令を行ったりすることは、法律的にみて困難です。
    日本の労働法には、「労働者が入れ墨を入れていること」に関する規定はありません。そして、社員には私生活上の自由があります。入れ墨は社員がプライベートの時間に本人の判断で入れるものである、ということをふまえると、原則的には、社員の入れ墨について会社が指図を行うことは認められないのです

  2. (2)業務への影響を検討する

    一方で、社員が入れ墨を入れていることは、その社員が担う会社の業務に負の影響を及ぼす可能性があります。
    会社の業種、当該社員の職務内容、入れ墨が入っている身体の部位や入れ墨の規模(うなじなどの目につかない箇所にワンポイントのタトゥーが入れられているか、腕などの目立つ箇所の大部分に墨が入れられているか)によって、具体的な影響は変わります。
    たとえば、顧客や取引先と直接やり取りする接客業や営業職に従事する社員が目立つ場所に入れ墨を入れている場合には、入れ墨の存在がその社員の業務の成果などに影響を及ぼす可能性が生じるでしょう。

  3. (3)入れ墨の禁止を就業規則や服務規定に明記する

    社員が私生活上で行う行為であったとしても、その行為が会社の業務に影響を及ぼす場合には、会社側は「服務規定」や「就業規則」に明記することによってその行為を制限できる場合があります。
    たとえば、運送業などのドライバー職は、就業日前日の一定時刻の後の飲酒を制限されています。接客業のなかには「茶髪・金髪禁止」「長髪禁止」の職場があることも周知のとおりです。
    これらと同様に、すでに雇用した社員が入れ墨を入れることは、服務規定や就業規則によって制限できる可能性があるのです。「入れ墨を入れた場合は懲戒処分を行う」ことも明記して、処分の内容を具体的に定めておけば、実際に社員が入れ墨を入れた場合にも対処を適切にすすめることができます
    ただし、飲酒行為や髪形とは異なり、いちど入れてしまった入れ墨を消すことは困難な場合が多いものです。そして、懲戒処分には「懲戒規定の制定以前の行為には適用できない」という「不遡及の原則」が存在します。そのため、入れ墨をした社員が入社した後に「入れ墨禁止」のルールを服務規定や就業規則に明記して懲戒処分を下そうとしても、無効になるでしょう。

2、入れ墨を禁止することの判断基準

服務規定や就業規則に「入れ墨禁止」のルールをもうけることが妥当であるかどうかは、その職場の業務や経営形態によって、判断が異なります。

  1. (1)公務員や公益法人の場合

    公務員は、国または地方公共団体の公務を担う職種であり、その賃金は国民や住民が納めている税金から支払われています。そのため、公務員には清廉性が求められます。
    「清廉性」の具体的な基準は存在しませんが、入れ墨の問題に関しては、「平均的で一般的な国民(住民)は入れ墨についてどのように感じているか」という観点から判断することができるでしょう。そして、現代の日本では、入れ墨に不快感を抱く国民の方がまだ多数派であると言えます
    さらに、入れ墨が「暴力団」や「反社会的勢力」のイメージと関連付いていることは、公務員にとっては特に重大な問題となります。
    そのため、公務員に対して市民の目に入る可能性がある場所への入れ墨の禁止は、大半の場合に認められうるのです。

    また、学校法人などの公益法人の職員も、公益事業を担う立場であるという点では公務員に近い存在です。そして、公益法人の賃金の一部には国や自治体からの補助金、つまり税金が含まれています。
    そのため、公益法人の職員に対して入れ墨を禁止することも、公務員の場合と同じように認められうるでしょう

  2. (2)営利企業の場合

    営利企業の社員が入れ墨を入れていることの影響は、先述したように、企業の業種や当該社員の職務内容によって異なります。
    接客や受付、営業などの業務に服する社員は、顧客や取引先と対面してコミュニケーションする機会が多くなるでしょう。そのため、これらの業務を担当する部署については「入れ墨禁止」を服務規定や就業規則に明記することは合理的であるといえます。ただし、その場合でも、通常は人目に触れることのない部分(うなじや背中など)における入れ墨までを禁止することは、「厳し過ぎる」と社員に思われて不評を買ってしまうおそれがあります。
    また、工場作業やシステムエンジニアリングに従事する社員の場合は、顧客や取引先とのコミュニケーションが業務に含まれていない場合も多いです。そのような社員の入れ墨を禁止することにも、社員から反感を買ってしまうリスクがあるのです。

3、入れ墨の社員を解雇することはできるか?

日本の労働法では、労働者の権利はかたく守られており、特に労働者が正社員である場合には、適切な理由もなく会社側が一方的に解雇を行うことはできません。
そのため、「入れ墨を入れているから」という理由で当該社員をただちに解雇することは難しいのです
解雇を強行することは、労働契約法第16条に規定されている、「会社による解雇権の濫用」にあたるおそれがあります。いわゆる「不当解雇」とみなされて、解雇そのものが無効になる可能性が高いのです。

4、不当解雇のリスクを避けるには?

社員を不当解雇することには、解雇が無効になるだけでなく、会社の評判が悪くなるというリスクも存在します。そのため、会社側は労働関連法令に違反しないようにしつつ、適切なかたちで解雇をすすめる必要があるのです。

  1. (1)解雇するまでの手段を尽くす

    入れ墨を入れている社員が接客や営業などの業務に服しており、業務に悪影響を生じさせている場合には、異動命令を出して顧客や取引先と関わらない業務への配置転換を行う、という対処が可能です。

  2. (2)退職勧奨をする

    異動や配置転換ができない場合には、業務に生じている悪影響などについて説明したうえで、「入れ墨を消してください」と社員に要請するという手段があります。
    入れ墨を消すことが可能であるのに、いつまでたっても社員が要請に応じない場合には、「退職勧奨」を行いましょう
    退職勧奨とは、会社側から社員に対して「退職したらどうか?」とすすめて、会社と社員による合意のもと、社員が自己都合退職を行うことです。勧奨を行うのは会社側ですが、最終的に退職を判断するのはあくまで社員であるという点で、解雇とは異なります。
    退職勧奨を行う際には、当該社員に「退職してもいいかもしれない」と思わせるために、再就職支援や退職金の割り増しなど、社員側にとって有利な条件を提示することも考慮しましょう。
    ただし、あまりにも執拗に退職勧奨を行うことは、社員側からは「退職強要」とみなされるおそれがあります。退職強要とみなされると、慰謝料や損害賠償を請求される可能性がある点に、注意が必要です。

  3. (3)解雇する

    社員を解雇するためには、「解雇以外の手段による対応を会社側が行ったが、その対応は成功しなかった」という事実が必要とされます
    この事実が認められた場合には、解雇を行うことは「客観的で合理的な理由を持ち、社会通念上相当である」と判断されるのです。
    入れ墨を入れている社員側が配置転換や異動に従わない、社員に対して「入れ墨を消してください」と要請したが社員側は聞ない、そして退職勧奨も社員側に受け入れられない場合には、会社側として取ることのできる対応はほぼすべて取った、ということになるでしょう。それにもかかわらず、業務に影響を及ぼす内容の入れ墨を周りから目に入る可能性のある部位に入れていると、解雇を行っても「不当解雇」とみなされるおそれが少なくなります。

    解雇には「整理解雇」や「懲戒解雇」などの種類が存在しますが、これまでに述べたような状況では、「普通解雇」が相当であると考えられます。
    普通解雇は、心身の健康状態の悪化により労働能力が低下して業務に耐えられなくなった社員や、会社がいくら指導を行っても成績不良・勤怠不良・職場規律違反などの問題が改善されない社員に対して行われる解雇です。

    解雇を行う会社側には、以下のルールを守ることが義務付けられています。

    • 解雇する日の30日前までに解雇予告を行う(労働基準法第20条)
    • 解雇予告をせず解雇する場合は、解雇予告手当として最低30日分の平均賃金を支払う(同第12条)
    • 社員から解雇理由証明書(雇用期間、賃金、業種、社内地位、解雇理由が記載された書面)を交付する要請があった場合は、すみやかに交付する(同第22条第1項および第2項)
    • 社員が退職した日の翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出する(雇用保険法第7条)
    • 社員から「雇用保険被保険者離職票」を交付する要請があった場合は、すみやかに交付する(雇用保険法第7条および労働基準法第22条)


    もっとも、これらのルールを順守したからといって、必ずしも解雇が認められるわけではないことは既に述べたとおりです

5、まとめ

通常、特別の事情がない限り、「入れ墨を入れているから」という理由で社員をただちに解雇することはできません。まず、異動や配置転換、入れ墨を消すことの要請や退職勧奨など、会社側が行える手段を尽くすことが必要とされます。
実際に解雇を行う際にも、労働関連法令によって会社側に課されているルールを守り、「不当解雇」ではないことを当該社員や第三者機関に示せる状態で行わなければならないのです
また、現時点で在籍している社員や今後入社してくる社員が入れ墨を入れることを禁止するために服務規定や就業規則に「入れ墨禁止」の規定をもうける際にも、その規定が合理的なものであるか、懲戒の規定は妥当であるかなどに、ついて判断することが必要となります。
法律の専門家である弁護士であれば、服務規定や就業規則を適切に改訂することが可能です。また、解雇した社員が「不当解雇である」と訴えたり、暴力を持って会社に復讐したりするなどのトラブルを起こそうとした場合にも、弁護士であればトラブルを適切に処理することができます。
ベリーベスト法律事務所広島オフィスでは、企業法務や労働トラブルの経験法務な弁護士が、労働問題をはじめとして会社の経営者が直面する様々な法律問題について、ご相談を受け付けております。広島県や近隣県にお住まいの会社経営者の方々は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスにまでご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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