離婚後、子どもの氏や戸籍を変更したい場合はどうする? 弁護士が解説
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令和2年10月、婚姻届や離婚届を提出するときの押印を廃止する方向で検討がすすんでいると法務大臣が発表しました。官公庁の世界でも「脱はんこ化」がすすむ昨今では、将来的には結婚や離婚に関するほかの手続きでも押印が廃止される可能性があるでしょう。
ところで、離婚の際に子どもがいる場合は、親権や養育費が問題となりがちです。また、特に母親と子どもが一緒に暮らすことになったときには「子どもの氏(姓)や戸籍をどうするか」という問題も生じます。
今回は、離婚後の子どもの氏や戸籍を変更する方法について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、戸籍とは
戸籍とは、日本国籍を持つ人であれば、誰しもが持っているものです。
普段の生活で戸籍の存在を意識するのは、パスポートを作るときくらいでしょう。
しかし、離婚をする際には、戸籍が大いに関係してきます。
そもそも戸籍とは何であるのか、離婚すると妻の氏や戸籍はどうなるのかについて、解説いたします。
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(1)戸籍とは
「戸籍」とは、日本国籍を持つ者に対して作成される、出生から死亡までの親族的身分関係を証明するための公文書のことです。
戸籍には、氏名や生年月日のほか、婚姻、離婚、養子縁組、認知などの親族関係に関する情報が記載されています。
戸籍は、原則として「夫婦と氏を同じくする未婚の子ども」をひとつの単位として作られます。しかし、「夫婦のみ」「未婚の親と子ども」という単位で作られる場合もあります。また、戸籍法により、戸籍を構成するのは2世代までとされています。たとえば親・子・孫のように3世代にわたる戸籍は法律上作ってはならないことにされているのです。
戸籍は日本国籍を持つ者であればだれでも持っているものであり、海外生活の長い方であっても、国籍が日本であれば戸籍は作られます。一方、日本にずっと暮らしていても日本国籍を持たない外国人には、戸籍はないのです。 -
(2)妻が離婚後に旧姓に戻る場合
ほとんどの夫婦では、妻の方が結婚するときに氏を夫のものに変えます。
結婚するときに氏を変えた人は、離婚すると、原則として結婚前の氏に戻り、戸籍も結婚前に入っていたものに戻ることになります。これを「復氏」「復籍」と呼びます。 -
(3)妻が離婚後も夫の氏を名乗り続ける場合
夫と離婚した女性であっても、仕事などにおける都合を考慮して、夫の姓を使い続けることを希望する場合があります。
離婚の日から3か月以内に「離婚のときに称していた氏を称する旨の届」を役所に提出すれば、離婚後も夫の姓を名乗り続けることができます。ただし、夫の姓を選べるのは、離婚後に妻自身が筆頭者となる戸籍を作った場合のみに限られます。以前の戸籍に復籍する場合は、その戸籍に登録されている人と同じ氏を名乗らなければならず、夫の姓を名乗り続けることはできないという点に、注意してください。
2、離婚後の子どもの氏と戸籍はどうなる?
自分の姓が変わることは、子どもにとっても一大事です。子どもの年齢が高ければ高いほど、友人や仕事などの人間関係が築かれているため、その影響は大きくなります。離婚をする前には、子どもの戸籍や氏をどうするのか、子ども本人の希望も聞きながら夫婦でよく話し合ったほうがよいでしょう。
離婚したときに子どもがいる場合に、子どもの氏や戸籍はどうなるのかについて、解説いたします。
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(1)離婚しても子どもの氏や戸籍はそのまま
原則として、両親が離婚しても子どもの氏や戸籍が自動的に変更されることはありません。つまり、離婚しても子どもの氏や戸籍は筆頭者(大半の場合は父親)と同じ戸籍に入ったままになるのです。母親は父親の戸籍から抜けることになるため、母親が親権者(監護権者)になったとしても、何も手続きをしなければ子どもとは別々の戸籍に入ることになります。
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(2)親権と戸籍は関係ない
離婚時に未成熟子(経済的に自立していない子ども)がいる場合には、父母のどちらが親権を持つかを決めなければなりません。
親権者とは、子どもの日常的な世話をするための「身上監護権」と、子どもの法的な行為や財産管理をするための「財産管理権」を持つ者のこととなります。
先述のとおり、母親が親権者(監護権者)となっても子どもの戸籍が母親の方に自動的に移行するわけではないため、戸籍の筆頭者が父親である場合には、母親と子どもは別々の戸籍になります。母親が離婚後も父親と同じ氏を名乗る場合でも、父親と母親はそれぞれ別々の戸籍になるので、氏やその読み方が同じであるだけで子どもとは別の氏とみなされることになるのです。
「親権者と子どもが同じ戸籍でないことには違和感がある」と思われる方や、「親子の戸籍が違うと、家族としての一体感がなくなってしまうのではないか」と心配される方もいらっしゃるでしょう。しかし、法律的には、親権と戸籍はまったく関係ないものとして扱われます。そのため、母親と子どもの戸籍が異なるまま一緒に暮らしていたとしても、すくなくとも法律上は、まったく問題がないのです。 -
(3)子どもと氏が異なると不都合なことも
母親が旧姓に戻ったときに、子どもの姓が父親のもののままであると、勤務先で子どもを扶養に入れる手続きをするときに「なぜ親子で姓が異なるのか」と勤務先の担当者などに疑問を持たれてしまうことがあるでしょう。
また、子どもが進学する学校などによっては母親と子どもの両方の戸籍を提出することを求められる場合がり、戸籍を取り寄せるのに時間や手間暇がかかってしまう可能性もあります。
母親と子どもの名字が異なることで生じる不都合に対処するため、子どもの戸籍を自分の戸籍に入れることができます。この手続きの期限は特にありませんが、離婚からあまりに時間が経ってしまうと、役所から戸籍を変更する必要性を疑われてしまう可能性もあります。そのため、将来の不都合が予想される場合には、離婚届を出した後にでも子どもの戸籍変更の申し立てをすみやかに行いましょう。
3、子どもの氏と戸籍を変えるときの手続きの流れ
子どもの氏や戸籍を変えるときには、子どもの氏を変える手続きと、子どもの戸籍を変える(母親の戸籍に入籍させる)手続きの、両方が必要とされます。
それぞれの手続きを行うための手順や必要な準備について、解説いたします。
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(1)子どもの氏を変えるときの手続き
子どもを自分の戸籍に入籍させるためには、まず、子どもの氏を変える手続きを行わなければいけません。子どもの氏を変えるために、自分の住所地を管轄する家庭裁判所にまで「子の氏の変更許可」の申し立てを行う必要があります。
申し立てには、一般的に以下のものが必要とされます。
- 子の氏の変更許可申立書
- 戸籍謄本などの添付書類
- 収入印紙(子ども一人あたり800円)
- 書類送付用の郵便切手
子どもが15歳未満の場合には、法定代理人として母親が申し立てを行います。
しかし、子どもが15歳以上である場合には、「自分の戸籍を変更するべきかどうか」の判断は子ども本人が自分で行える、とみなされます。そのため、変更の申し立ては、母親ではなく子ども本人が行う必要があるのです。ただし、手続きを行うときに親が付き添いをすることは、許可されています。
申立書には、申立人となる子どもが15歳以上の場合は「申立人の記名押印」の欄に子どもの名前を記入します。15歳未満の場合には、法定代理人として親の名前を記入します。
申し立てを行った後には、特別な事情がない場合には、家庭裁判所から氏の変更の許可がおりて、「審判書謄本」が交付されることになります。 -
(2)氏を変更した子どもを自分の戸籍に入れる手続き
子の氏の変更の申し立てが家庭裁判所に許可された後には、母親と子どもの氏は同一になります。
しかし、家庭裁判所の許可だけでは、子どもを母親の戸籍に入れることはできません。同じ戸籍にするためには、役場にて、子どもの入籍手続きを行う必要があるのです。
入籍手続きを行うためには、住所地のある市区町村役場に家庭裁判所から交付された「審判書謄本」と「子どもの入籍届書」を提出します。
入籍届が役所に受理されると、母親の戸籍に子どもの戸籍を入れることができるのです。 -
(3)旧姓に戻った母親の戸籍に子どもを入籍させるときの留意点
母親が復籍した戸籍の筆頭者でない場合には、子どもを入籍させると祖父母・母親・子どもと3代にわたる戸籍となり、戸籍法違反となってしまいます。
この場合には、子どもの親(母親)を筆頭者とする戸籍を新たに作成したうえで、その新しい戸籍に子どもを入籍させるという手続きが必要になるのです。
4、親権を得られなかった場合に子どもの氏や戸籍の変更はできる?
先述したとおり、「親権」と「子どもの戸籍」は、法律上は関係がないものとしてみなされます。
しかし、実際には、親権を得てない親が子どもの氏や戸籍を自分と同じ氏・戸籍に変更することは難しいことが多いのです。
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(1)親権を持たない親が自分の戸籍に子どもを入れるのは難しい
子どもが15歳以上である場合には、子ども本人が氏の変更許可申し立ての手続きを行うことができます。したがって、子どもが15歳以上の場合には夫婦と子どもで話し合ったうえで、最終的には子ども自身の意思で親権を持たない方の親の氏や戸籍に変更することができるでしょう。
しかし、子どもが15歳未満の場合に親権を持たない親が子どもの氏の変更許可を申し立てても、裁判所から許可がおりず、そのために戸籍の変更もできなくなる可能性があるのです。 -
(2)親権者の変更も簡単には認められない
「親権を持たない親が子どもの氏や戸籍を変更できない場合には、親権者を変更すればよいのではないか」と考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、親権者の変更が認められるのは、親権者が子どもを虐待したり育児放棄したりしている場合や、心身の病気などにより親権者が育児に耐えられない場合などです。親権者の変更は、よほどの事情がない限りは、認められないと考えていた方がよいでしょう。
そのため、子どもの氏や戸籍を自分のものと同一にしたい場合には、離婚を決定する前から親権については慎重に話し合いをすすめることが必要となるのです。
5、親権者が再婚した場合の子どもの氏や戸籍は?
昨今では離婚する方が増えており、連れ子のいる再婚家庭が珍しくありません。
親権者が離婚してしばらく経った後に新たなパートナーと出会って再婚をするとき、子どもの氏や戸籍はどうなるのでしょうか。
親権者が母親である場合を想定して、解説いたします。
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(1)母親の戸籍に子どもが入っている場合
母親と子どもが同じ戸籍に入っている場合には、母親が新たなパートナーと再婚して相手方の氏になると、子どもの氏もその相手方のものになります。一方、相手方が母親の氏に改姓した場合には、子どもは引き続き再婚前と同じ氏を名乗ることができるのです。
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(2)子どもの戸籍が父親と同じ戸籍にある場合
子どもの戸籍が父親の戸籍に残っている場合には、家庭裁判所に子の氏の変更許可の申し立てを行うことになります。その後に、住所地のある市区町村役場に入籍手続きを済ませれば、再婚相手と同じ氏を名乗ることができるでしょう。
ただし、再婚相手と子どもが同じ戸籍に入ったからといって、法律上は親子関係が発生するわけではありません。そのため、再婚相手と子どもには、お互いに相続権がないのです。法律上の親子関係を成立させるためには、「養子縁組」を行う必要があります。しかし、いちど養子縁組を成立させると、それを解消することは非常に難しくなります。そのため、養子縁組を行うなら、よく考えて手続きをするべきでしょう。
6、まとめ
離婚をするときには、自分の氏や戸籍をどうするかだけでなく、子どもの氏や戸籍をどうするかも考えなければいけません。親権者が子どもと異なる氏を名乗ることには、法律上は問題がありませんが、扶養の手続きなどで支障が出る可能性があります。
また、子どもの氏が変わることによって、子ども自身の気持ちに悪影響が出る可能性もあります。そのため、離婚後に子どもの氏や戸籍を変更することを検討している場合は、離婚問題の経験豊富な弁護士に相談してアドバイスを受けながら、夫婦での話し合いや離婚の手続きを慎重にすすめるべきでしょう。
離婚のすすめ方や、離婚後の子どもの氏や戸籍に関して悩まれている方は、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスにまでお気軽にご相談ください。
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