「出勤率」とは? 社員に付与する有給休暇を計算する方法を解説

2021年07月19日
  • 一般企業法務
  • 出勤率
「出勤率」とは? 社員に付与する有給休暇を計算する方法を解説

使用者が従業員に対して年次有給休暇を付与する必要があるかどうかを判断する基準の一つとして、「出勤率」があります。

要件を満たす従業員には年次有給休暇を付与する必要があるため、正しく年次有給休暇を付与するうえでは、「出勤率」の考え方についても正確に理解しておくことが大切です。

本コラムでは、年次有給休暇の付与にあたって重要となる「出勤率」の考え方について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、従業員の「出勤率」と年次有給休暇の関係

労働基準法では、従業員が以下の2つの要件を満たした場合には、使用者は従業員に対して10労働日の年次有給休暇を付与しなければならないとされています(第39条第1項)。

  • 雇い入れの時から起算して6か月間継続勤務したこと
  • 上記の6か月間の間に、「全労働日の8割以上」出勤したこと


また、雇い入れの時から1年6か月以上が経過した従業員については、使用者は雇い入れから6か月が経過した日から継続勤務年数1年ごとに、以下の日数の年次有給休暇を付与しなければなりません(1週間の所定労働時間が30時間以上の場合)。
ただし、この場合にも、1年ごとに「全労働日の8割以上」出勤したかどうかが審査されます(同条第2項)。

6か月経過日から起算した継続勤務年数 年次有給休暇の日数
1年 11日
2年 12日
3年 14日
4年 16日
5年 18日
6年以上 20日


このように、使用者が従業員に対して年次有給休暇を付与する義務を負うかどうかは、「全労働日の8割以上」という出勤率要件を満たしているかどうかによって左右されるのです

2、「出勤率」の考え方・計算方法

年次有給休暇の付与に関する「全労働日の8割以上」の出勤率要件を満たすかどうかを判断するにあたっては、従業員の出勤率は以下の計算式によって計算されます。

<出勤率の計算式>
出勤日数(算定期間の全労働日のうち出勤した日数)
÷全労働日(算定期間の総暦日数から就業規則等で定めた休日を除いた日数)


ただし、「全労働日」および「出勤日数」については、実際の日数をベースとするものの、条件によっては日数が修正される場合があるのです。

  1. (1)全労働日から除外される日数

    上記のとおり、出勤率の計算に用いられる「全労働日」とは、原則として「算定期間の総暦日数から就業規則等で定めた休日を除いた日数」を意味します。

    ただし、以下のいずれかに該当する日については、「全労働日」から除外されるのです

    • ① 使用者側に起因する管理・経営上の事由によって休業した日
    • ② 正当なストライキその他の正当な争議行為により労務が全くなされなかった日
    • ③ 休日労働させた日
    • ④ 法定外の休日等で、就業規則等で休日とされる日等であって労働させた日
    • ⑤ 不可抗力によって休業した日


    ①②については、本来労働日であるはずの日に労働が行われていないという状況でありながらも、労働者側には責任がない休業とみなされるので、出勤率の計算に影響を与えないものとされています。

    また、③④については、本来休日であるはずの日に労働が行われていますが、休日(法定休日・法定外休日)の労働は一律、出勤率計算の対象から除外されるのです(分母にも分子にも算入されません)。

  2. (2)出勤したものとして取り扱う日数

    労働日において従業員が休業した場合でも、以下のいずれかに該当する場合は、当該日は出勤したものとして取り扱われます。

    • ① 業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
    • ② 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定により休業した日
    • ③ 育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業した日
    • ④ 年次有給休暇を取得した日


    上記の①~④は、いずれも従業員が正当な権利を行使した結果の休業となりますので、出勤率計算において、従業員にとって有利に取り扱うものとされています。

  3. (3)「出勤率」の計算例

    それでは、以下の設例を用いて、従業員の出勤率を実際に計算してみましょう。

    <設例>
    • Xは、2019年4月1日にA社に入社
    • 2019年10月1日から2020年9月30日までの期間(本設例において「算定期間」といいます)に対応する、A社の労働日は240日
    • 算定期間中における、Xの実際の出勤日数は160日
    • 算定期間中に、Xは10日間の年次有給休暇を取得
    • 算定期間中に、Xは業務上の負傷により10日間休業
    • 算定期間中に、A社は新型コロナウイルス感染症の影響により20日間休業


    この設例では、算定期間におけるA社の労働日は240日であるのに対して、Xの実際の出勤日数は160日にとどまります。
    この段階では、Xの出勤率は66.7%しかないように思われるかもしれません。

    しかし、A社は「新型コロナウイルス感染症の影響により20日間休業」しています。
    感染症対策による休業の取り扱いには様々な考え方がありますが、「不可抗力による休業」と認められる可能性もありますそして「不可抗力による休業」となると、全労働日から除外されます
    この場合、出勤率の計算上、算定期間におけるA社の「全労働日」は「220日」となるのです。

    また、「10日間の年次有給休暇」と「業務上の負傷による10日間の休業」は、いずれも出勤したものとみなされます。
    よって、出勤率の計算上、算定期間におけるXの「出勤日数」は「180日」となります。

    上記により、Xは算定期間中の全労働日である「220日」に対して「180日」出勤したことになるため、出勤率は「81.8%」となりました。

    したがって、Xには算定期間後の1年間である「2020年10月1日から2021年9月30日まで」の期間について、年次有給休暇が付与されるのです。

3、年次有給休暇の付与方法に関する使用者の義務と罰則について

使用者には、年次有給休暇を付与する方法についても、一定の義務が課されています。

  1. (1)年次有給休暇は原則として、従業員が請求する時季に与える必要がある

    労働者が取得できる年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければなりません(労働基準法第39条第5項本文)。

    ただし、請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができるとされています(同項ただし書き)。
    これを使用者の「時季変更権」といいます

    たとえば、年次有給休暇の取得申請があった時期が繁忙期の場合や、その時期に年次有給休暇の取得申請が重なり、一定の労働人員を確保する必要がある場合などには、時季変更権を行使して、違う時期に年次有給休暇を取得させることが認められているのです。

    これに対して、従業員の年次有給休暇が時効消滅してしまう場合や、退職が間近で年次有給休暇を消化しきれなくなってしまう場合などには、時季変更権の行使が認められないことがあります。

  2. (2)5日間は必ず年次有給休暇を取得させなければならない(罰則あり)

    年次有給休暇が10労働日以上付与される労働者については、使用者は1年ごとに最低5日間、労働者ごとに時期を定めて年次有給休暇を取得させなければなりません(労働基準法第39条第7項)。

    特に、業務多忙により年次有給休暇の取得を申請しようとしない労働者に対しては、使用者側が積極的に年次有給休暇の取得を促すことが求められます。

    なお、使用者が上記の年次有給休暇を取得させる義務に違反した場合には、「30万円以下の罰金」という刑事罰に処される可能性があります(同法第120条第1号)。
    また、労働基準監督署による行政処分等の対象となる可能性もあるので、使用者は労働者の年次有給休暇の取得状況について、適切に管理・把握することが重要です

4、年次有給休暇や出勤率に関する疑問点は弁護士に相談を

年次有給休暇に関しては、労働基準法において詳細なルールが定められています。
使用者が労働者との間のトラブルや、行政処分・刑事罰等の制裁を回避して、安定した業務運営を続けていくためには、年次有給休暇に関するルールを正しく理解し、実践することが大切です。

年次有給休暇の付与・管理方法などについて、自社の取り扱いに不安な点がある場合には、弁護士のリーガルチェックを受けると安心です。

ベリーベスト法律事務所の弁護士は、年次有給休暇に関する社内規定の内容や、実際の付与の方法などに関して、隅々まで分析・検討したうえで改善案を提案いたします。
年次有給休暇に関する疑問などは、ぜひ、ベリーベスト法律事務所へご相談ください

5、まとめ

使用者が労働者に対して年次有給休暇を付与すべきかどうかは、労働者の出勤率が全労働日の8割以上に達しているかどうかが一つの基準となります。
出勤率の計算方法についてはいくつか細かいルールが存在するので、わからない点があれば弁護士にご相談ください。

ベリーベスト法律事務所では、年次有給休暇の付与を含めた労務管理全般について、企業向けの法律相談を承っております。
各種の顧問契約プランもご用意がありますので、労務管理その他の法律問題に適切に対処したいとお考えの企業経営者・人事担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 広島オフィスにまでご相談ください

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