債務不存在確認訴訟とは? 対悪質クレーマー対応で行う意義と注意点

2023年09月25日
  • 一般企業法務
  • 債務不存在確認訴訟
  • クレーマー
債務不存在確認訴訟とは? 対悪質クレーマー対応で行う意義と注意点

顧客からの悪質なクレームに悩まされている企業の担当者は少なくないようです。クレーマーからの執拗(しつよう)なクレームに対応していると、時間と手間をとられてしまい、本来の業務に支障が生じてしまうこともあります。

クレーマーに対しては、毅然(きぜん)とした態度で要求を拒否することが大切です。慰謝料や金銭などを要求してくる悪質なクレーマーに対しては、「債務不存在確認訴訟」という方法が有効な手段となります。

本コラムでは、債務不存在確認訴訟の基本的知識から、クレーマーに対して行う際のポイントと注意点について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、「債務不存在確認訴訟」とは?

債務不存在確認訴訟とは、「債務が存在しないこと」の確認を求めるための訴訟です。
訴訟といえば、お金の請求をしたり、物の引き渡しを請求したりするなど、積極的な権利の実現を求めて提起するというイメージが一般的でしょう。

しかし、債権者が訴訟を提起せず、債務者の側には紛争を解決するための手段を持ち合わせていないという場合には、いつまでも紛争が解決せずに、債務者はひどく不安定な立場におかれることになります。そのようなときに、債務者の側から紛争を解決するための手段として存在するのが、債務不存在確認訴訟です

債務不存在確認訴訟は、いわれのない請求を長期に亘って受けているときなどに、該当の債務が存在しないことを裁判所によって確認してもらうための訴訟です。そのため、悪質なクレーマーから金銭や慰謝料などの請求を受けているような場合には、有効な解決手段となるのです。

2、クレーマー対策に債務不存在確認訴訟が有効な場合

クレーマー対策として債務不存在確認訴訟が有効となる場合について、具体的に解説します。

  1. (1)裁判手続きを利用することで問題が沈静化する可能性がある

    商品やサービスなどにクレームをつけるクレーマーのなかには、金銭や慰謝料を請求してくる人も存在します。クレーマーの主張は、身勝手かつ理不尽なものであることが大半であり、正当な根拠に基づいて金銭や慰謝料の請求をしていないことも多いです。
    企業の担当者としては、毅然とした態度で要求を拒絶することが重要です。しかし、拒絶されてもなお執拗に請求を続けてくるクレーマーもいます。

    このような場合には、債務不存在確認訴訟を提起することによって問題が沈静化する可能性があります。
    原則的に、クレーマーの主張に法的根拠がなければ、裁判でクレーマーの損害賠償請求権が認められることはありません
    また、企業の担当者に対しては強い口調で要求していたクレーマーであっても、裁判手続きを利用されることで企業側が断固として対応しようとしていることを認識して、債務不存在確認訴訟を提起された時点でクレームをやめる可能性もあります。

  2. (2)損害賠償請求よりも立証が容易

    悪質なクレーマーに悩まされる企業としては、クレーマーに対しては業務妨害を理由として損害賠償請求を行いたいと考える方も多いかもしれません。
    しかし、損害賠償請求をするためには、クレーマーによる業務妨害によって実際に損害が発生したことを立証する必要があります。この立証は、容易なことではありません。多くの労力をかけて損害賠償請求をしたとしても、立証に失敗したり損害が認定されなかったりするおそれがあるのです。さらに、クレーマーを感情的にさせてしまい、クレーム行為を悪化させるおそれもあります。

    これに対して、債務不存在確認訴訟では、訴訟を提起した原告(企業)ではなく、被告(クレーマー)の側に、債務の発生を根拠づける事実を立証することが求められます
    クレーマーが身勝手かつ理不尽な理由で金銭や慰謝料を要求している場合には、客観的な根拠がないということであるので、法的手続きの場で債務の発生を立証することは困難でしょう。したがって、企業としては、主張立証に要する手間をかけることなく、悪質なクレーマーを排除することができるというメリットがあるのです。

3、債務不存在確認訴訟を起こす際の注意点

債務不存在確認訴訟を提起する場合には、以下の点に注意が必要となります。

  1. (1)債務不存在確認訴訟を起こす目的はクレームを封じること

    債務不存在訴訟を起こす目的は、クレーマーに対して金銭を請求することではなく、クレームを封じることにあります。クレーム対応に時間や労力を削らされてしまった企業としては、「クレーマーを訴えるのであれば、金銭も請求したい」と考えるものかもしれません。

    しかし、クレーマーを訴えて金銭の請求をしたとしても、損害額を立証することは容易ではありません。損害賠償が請求できたとしても、想定していたものよりもずっと低い金額しか認められない可能性もあります。

    また、訴訟を提起したとしても、損害の発生が認められなければ、企業側が敗訴してしまうリスクもあります。その場合、企業側の請求が裁判所に認められなかったということで、クレーマーが「自分のクレームは法律的に正当なのだ」と認識してしまい、クレーマーからの要求が一層過激化してしまう、という事態も考えられるのです。

  2. (2)相手から反訴されて損害賠償を請求される可能性がある

    金銭の支払いを求める「給付訴訟」とは異なり、債務不存在確認訴訟の判決には「権利関係を確認する」という効果しかありません。そのため、債務不存在訴訟で被告の主張が認められて、原告が敗訴することになったとしても、金銭の支払いを求められるわけではないのです。

    しかし、原告(企業)からの債務不存在確認訴訟に対して、被告(クレーマー)が金銭の支払いを求める損害賠償請求訴訟を反訴として提起してくる可能性があります。そして、被告の請求が認められると、原告は裁判所によって金銭の支払いを命じられることになるのです。

    債務不存在確認訴訟は、債務者が不安定な地位を解消するというメリットがある訴訟です。しかし、債務不存在訴訟を提起することによって、債権者からの反訴を誘発する、というデメリットも存在しているのです。
    したがって、債務不存在確認訴訟を提起する場合には、「相手が反訴した場合に、相手の請求が裁判所によって認められる可能性がどの程度あるのか」を事前に精査することが望ましいでしょう。

4、クレーマーに対して法律的に対応するなら弁護士に相談

クレーマーに対して法的手段で対抗する際には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)クレーマー対策についてアドバイスを受けることができる

    クレーマーへの対応策として、クレーマーからの理不尽な要求に対しても謝罪や譲歩によって穏便に収めようとする、という方法もあります。しかし、一般の顧客からの苦情への対応であれば問題がなくても、クレーマーに対して謝罪や譲歩をすることは、クレーマーの要求を助長させる原因になってしまいます。そのため、クレーマーへの対応策としては、「毅然とした態度で接して、クレーマーの要求を拒絶する」というものが基本となります。

    もっとも、クレーマーからの要求が正当なものであるか不当なものであるのかについては、正確に判断することが難しい場合もあります
    法律の専門家である弁護士なら、クレーマー対策について相談を受けた場合には、クレーマーの要求に法的根拠があるかどうかを正確に判断して、適切な対応方法についてアドバイスをすることができます。

  2. (2)クレーマーの対応を任せることができる

    悪質なクレーマーについては、企業の担当者が対応することが難しいというケースもあります。また、自社のみで判断してしまい、誤った対応をしてしまうとトラブルや損害が拡大してしまうおそれもあります。

    そのような場合には、クレーマーの対応を弁護士に任せることも可能です

    弁護士には「法律」という武器があるため、クレーマーから理不尽な要求を突き付けられたとしても、法的根拠がないことを明らかにして、毅然とした態度でクレーマーの要求を排斥することができます。
    また、クレーマーへの対応は時間と労力を要することになりますが、弁護士に対応を任せることによって、企業の経営者や担当者は本業に集中することができるようになるのです。

  3. (3)債務不存在確認訴訟の提起をしてもらうことができる

    前章までで解説した通り、金銭や慰謝料などを執拗に要求してくるクレーマーに対しては、債務不存在確認訴訟を提起するのが有効な手段となります。

    しかし、債務不存在確認訴訟は、通常の給付訴訟と比べて特殊な手続きとなります。訴訟提起から訴訟の進行までを適切に行っていくためには、法律の知識と経験が不可欠となるのです。
    弁護士に依頼をすることによって、債務不存在確認訴訟に関する複雑な手続きも、安心して任せることができます

5、まとめ

理不尽な要求や嫌がらせを行うクレーマー対応をしなければならない企業の担当者には、精神的に大きな負担がかかるものです。毅然とした態度でクレーマーからの要求を拒絶したとしても、なお執拗に要求を繰り返してくるクレーマーに対しては、債務不存在確認訴訟を提起することによって、問題を解決することができる場合があります。

クレーマーに対して、債務不存在確認訴訟を行うなど法的手段を講じることを検討しているときは、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。しかし、クレーマーが反訴をして逆に損害賠償請求をした場合、相手の主張が裁判所に認められると、損害賠償を支払わなければならなくなる可能性があることは否定できません。そのような事態を回避するためには、訴訟を検討する事案について、詳細な精査が必要です。

広島県内でクレーマーへの対応にお困りの企業や事業者は、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスへ、お気軽にご相談ください。弁護士が適切なクレーム対応についてのアドバイスを行うとともに、法的な対応を用いて企業運営をサポートします。リーズナブルな価格導入できる、顧問弁護士サービスも提供中です。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています