外国人雇用状況の届け出とは? 雇用保険との関係・雇用時の注意点など
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広島労働局のデータによると、令和1年10月末時点における広島県内の外国人労働者の数は36607名でした。前年比14.9%の大幅増となっており、外国人労働者の届け出が義務化されて以降、最高の数値を更新しました。
事業主が外国人労働者を雇用する際には、「外国人雇用状況」の届け出を行う必要があります。
その他にも、外国人を雇用する場合には、日本人を雇用する場合とは異なる特有の注意点などが存在します。
そのため、実際に外国人を雇用する際には、何が必要となるか、何を確認すべきなのかということを事前に把握することが重要になるのです。
本コラムでは、外国人労働者を雇用する際の外国人雇用状況の届け出や、その他の法律上・実務上の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が詳しく解説いたします。
(出典:「外国人雇用状況の届け出状況(令和元年10月末現在)」(広島労働局))
1、外国人の雇用に関連する法律は?
外国人の就労と雇用は、不法就労を防止したり、日本に慣れていない外国人の労働環境を改善したりする目的で、さまざまな法律によって規制されています。
まずは、外国人の雇用に関連する法律にはどのようなものがあるのかについて見ていきましょう。
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(1)出入国管理及び難民認定法(入管法)
「出入国管理及び難民認定法」(通称:入管法、入国管理法)では、外国人の在留資格などが定められています。
外国人が日本において就労する場合には、その労働を行うために必要となる在留資格を備えている必要があるのです。
近年では、外国人労働者による労働力確保の必要性が高まっていることを受けて、在留資格の要件が緩和される傾向にあります。 -
(2)労働施策総合推進法
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称:労働施策総合推進法)は、労働者が持っている能力を有効に発揮させるために、雇用主に対して一定の義務や努力義務を課すこと目的とした法律です。
2018年の法改正以前は、「雇用対策法」という名称でありました。
外国人労働者を雇用する事業主に対しては、雇用管理の改善や再就職の促進などの措置が義務付けられています。
その一環として、外国人を雇用する事業主は、同法及び厚生労働省令の定めるところにより、外国人労働者の雇用状況について、厚生労働大臣に対する届け出を行う必要があります(同法第28条第1項)。
なお、「特別永住者」の資格で在留する外国人と、「外交」または「公用」の在留資格で在留する外国人については、雇用状況の届け出義務が免除されています。
2、外国人雇用状況に関する届出書の提出先と提出期限は?
労働施策総合推進法に基づく、外国人雇用状況に関する届け出の書類は、外国人が雇用保険の被保険者となるか否かによって、提出先や提出期限が異なります。
それぞれの場合における、届け出書の提出先と提出期限について記します。
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(1)外国人が雇用保険の被保険者となる場合
外国人が雇用保険の被保険者となる場合には、雇用保険被保険者資格取得届の提出が、雇用状況に関する届け出の提出を兼ねることになります。
(参考:「雇用保険被保険者資格取得届」様式(厚生労働省HP))
雇用保険被保険者資格取得届の提出先は、「雇用保険の適用を受けている事業所を管轄する、ハローワーク」です。
また、提出期限は「雇い入れの日が属する月の、翌月10日」となります。
なお、外国人労働者が離職した際には、雇用保険被保険者資格喪失届の提出が必要になります。
(参考:「雇用保険被保険者資格喪失届」様式(厚生労働省HP))
雇用保険被保険者資格喪失届の提出先は、雇い入れ時の届け出と同じく、「雇用保険の適用を受けている事業所を管轄する、ハローワーク」となります。
ただし、提出期限は、「被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内」と短くなっておりますので、その点に注意してください。 -
(2)外国人が雇用保険の被保険者とならない場合
外国人が雇用保険の被保険者とならない場合には、雇い入れ時・離職時ともに、外国人雇用状況届出書を提出することになります。
(参考:「外国人雇用状況届出書」様式(厚生労働省HP))
いずれについても、提出先は「当該外国人が勤務する事業施設の住所を管轄する、ハローワーク」です。
提出期限は、「雇い入れ時・離職の日が属する月の、翌月末日」となります。
3、外国人を雇用する際に確認・注意すべきこと
事業主が外国人労働者を雇用する場合には、関連法令の規制内容を踏まえて、以下のことについて確認・注意する必要があります。
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(1)在留資格があるかどうかを確認する
外国人が日本国内で就労するためには、入管法に基づく適切な在留資格を有していることが必要とされます。
そのため、外国人労働者を雇用しようとする事業主は、雇い入れの際に、外国人労働者が適切な在留資格を有しているかどうかを確認する義務を負っているのです。
この義務を怠って、在留カードなどを確認せずに在留資格がないことを見落としたり、在留資格がないと知っているのに外国人労働者を雇い入れたりした場合には、「不法就労助長罪」(入管法第73条の2第1項第1号)により罪に問われてしまう可能性があります。
不法就労助長罪の法定刑は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」であり、決して軽くありません。
そのため、事業主の方は、外国人労働者の在留資格をしっかりと確認するように努めましょう。 -
(2)雇用管理の改善が努力義務とされている
外国人労働者を雇用する事業主は、雇用する外国人がその有する能力を有効に発揮できるよう、職業に適応することを容易にするための措置の実施その他の雇用管理の改善に努めるべきとされています。
厚生労働省の公表する指針では、事業主が実施すべきとされる、雇用管理の改善などに関する措置の主な内容が、以下のように示されています。
- ① 国籍で差別しない公平な採用選考を行う
- ② 労働基準法や健康保険法などの法令を遵守する
- ③ 安易な解雇などを行わないようにするほか、やむを得ず解雇をする場合にも、再就職に対する援助などを行う
4、外国人を雇用する際に発生する可能性があるトラブルは?
事業主が外国人を雇用する場合には、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。
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(1)コミュニケーション不足
外国人労働者のなかには、日本語が十分にしゃべれない人も多くいます。
日本語でうまくコミュニケーションが取れないと、雇い入れ時の労働条件や契約内容についての情報が十分に伝わらなかったり、業務内容の指導が十分に行き届かなかったりすることで、労使間でのミスマッチが発生するおそれがあるのです。 -
(2)在留資格なし・劣悪な労働条件などの違法労働
先述したように、外国人労働者を雇い入れる事業主には、日本人を雇う場合とは異なる義務や確認事項が課されています。
特に在留資格の点については、よく確認しないままに雇い入れてしまうと、事業主側にも刑事罰を含むペナルティが科されてしまう危険性があります。そのため、雇い入れの際には、在留資格は必ず確認しましょう。
また、労働基準法や最低賃金法などの労働者を保護するための法令は、外国人労働者に対しても適用されます。
外国人だからという理由で、日本人に比べて劣悪な条件で雇用することは、認められないのです。
そのため、労働条件が法令を遵守しているかについても、しっかり確認を行うべきでしょう。 -
(3)外国人労働者の逃亡
労働環境や労働条件に対する不満、日本での生活における不安などを背景として、外国人労働者が突然逃亡してしまう事例も一部に存在します。
外国人労働者の逃亡などが起こる原因のひとつには、コミュニケーション不足による労使間のミスマッチがあると考えられます。
そのため、事業主の側から外国人労働者に対するケアをこまめに行い、コミュニケーション不足が発生しないように対処することで、逃亡を未然に防げられる可能性が高まります。
たとえば、英語が話せる外国人であれば、英語に対して比較的抵抗がない従業員を指導役や相談役につけて、仕事上や生活上の悩み相談に乗ってもらうなどの方法が考えられるでしょう。
上記のようなトラブルを予防するため、外国人を雇用する際には、外国人労働者の特性や文化、外国人の就労を規制する法令の内容などを事前に把握しておきましょう。
もしどのように対策を打っていいかわからないという場合には、お気軽にベリーベスト法律事務所の弁護士にまでご相談ください。
5、まとめ
事業主が外国人を雇い入れる際には、外国人雇用状況に関する届け出を行う必要があります。
届け出先や提出期限は、外国人が雇用保険の対象になっているかどうかによって変わります。そのため、最寄りのハローワークや弁護士に確認しましょう。
届け出の他にも、外国人労働者を雇用しようとする事業主には、日本人労働者を雇用する場合には求められないような、さまざまな義務や努力義務が課されています。
さらに、事業主と外国人労働者の間では、言語の壁や文化の違いなどを背景としたミスマッチやコミュニケーション不足が生じやすい傾向にあります。そのため、事業主の側から定期的にケアを行うことが大切になるのです。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士は、外国人労働者の雇用を検討する企業や個人事業主の方に対して、法令を中心としたさまざまな観点からのアドバイスを提供いたせます。
これから外国人を雇用しようとする事業主の方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスにまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています