降格と降職の違いとは? 人事処分の注意点
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令和3年度に広島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は2万6798件でした。その内、労働局長による指導・助言が最も多かったのが「いじめ・嫌がらせ」、次いで「労働条件の引き下げ」になっています。
しかし企業としては、役職者として求められるパフォーマンスを発揮できない労働者(従業員、社員)については、減給につながるような「降格」や「降職」の処分を行うことも検討したいむきもあるでしょう。
降格と降職の間に実質的な違いはなく、いずれも就業規則等の根拠を確認した上で、処分が適切であるかどうかよく検討することが大切です。本記事では降格と降職の違いや、降格・降職処分を行う際の注意点などをベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
出典:「個別労働紛争解決制度の施行状況について(令和3年度)」(広島労働局)
1、降格と降職に違いはあるのか?
「降格」と「降職」には、いずれも「役職・地位・等級などを引き下げる」という意味があります。
会社によって、労働者の役職(管理職など)を引き下げることを「降格」と呼ぶ場合と「降職」と呼ぶ場合がありますが、どちらも実質的な処分内容に違いはありません。
会社としては、「降格」と「降職」の言葉の違いにこだわるのではなく、就業規則等の根拠を確認した上で、処分が適切であるかどうかを検討することが大切になります。
2、降格・降職を行う際の注意点
労働者に対して降格・降職処分を行うに当たって、会社は以下の各点に注意した上で検討を行いましょう。
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(1)人事権の行使と懲戒処分で要件が異なる
降格・降職処分には、人事権の行使として行われる場合(降格人事、人事降格、人事異動)と、懲戒処分として行われる場合の2通りがあります。どちらに該当するかによって、降格・処分が認められるための要件が異なります。
人事権の行使としての降格・降職処分は、就業規則等に特別の定めがなくても行うことができるとされています(東京地裁平成7年12月4日判決等)。労働者をさまざまな職務やポストに配置する長期雇用システムでは、降格・降職によって一定の職位(役職)を解くことは、労働契約上当然に予定されているからです。
ただし、労働契約において職位を限定する特約が定められている場合には、その限定を超える降格・降職処分は、人事権の逸脱として無効です。また、人事権の範囲内である降格・降職処分であっても、濫用に及ぶ場合は無効となります(労働契約法第3条第5項)。
懲戒処分としての降格・降職処分を行う場合は、就業規則上の根拠が必要です。具体的には、就業規則において降格・降職処分を行うことがある旨が定められており、かつ労働者の行為が就業規則上の懲戒事由のいずれかに該当している必要があります。 -
(2)降格・降職が認められる正当な理由
人事権の行使としての降格・降職処分を適法に行うためには、当該処分が労働契約に基づく人事権の範囲内であって、人事権の濫用に当たらないことが必要です。
人事権の行使としての降格・降職処分が人事権の濫用に当たるかどうかは、以下の事情などを総合的に考慮して判断されます。- 業務上および組織上の必要性の有無および程度
- 能力および適正の欠如など、労働者側における帰責性の有無および程度
- 労働者の被る不利益の有無および程度
人事権の行使としての降格・降職処分は、懲戒処分に比べると、職位(役職)にパフォーマンスが見合わない労働者に対して広く行い得ると考えられます。ただし、降格・降職に伴って待遇が大幅に悪化する場合は、人事権の濫用と評価されるリスクが高まる点に注意が必要です。
一方、懲戒処分としての降格・降職処分については、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、懲戒権の濫用として無効となります。
懲戒処分としての降格・降職処分が懲戒権の濫用に当たるかどうかは、以下の事情などを総合的に考慮して判断されます。- 労働者の行為の内容および悪質性の程度
- 同種の行為について過去に行われた改善指導の有無および結果
- 同一の労働者に対して過去に行われた懲戒処分の有無および内容
懲戒処分としての降格・降職処分は、非違行為に対するペナルティーであるため、労働者の帰責性に焦点を当ててその適法性が判断されます。
人事上の必要性等を理由に懲戒処分としての降格・降職処分はできず、労働者の行為が相当程度悪質であり、改善指導も十分に奏功していないなどの事情が認められることが必要です。 -
(3)降格・降職に伴い認められる減給の幅
降格・降職処分については、人事権の行使および懲戒処分のいずれに該当する場合でも、それに伴う減給の幅は法律上限定されていません。
ただし、大幅な給与の減額が行われる場合には、降格・降職処分が人事権または懲戒権の濫用として違法・無効とされる可能性が高まります。一概にはいえませんが、20~30%程度以上の減給を伴う降格・降職処分は、違法・無効となるリスクが高いといえるでしょう。
3、降格(降職)以外の懲戒処分の種類
懲戒処分としての降格(降職)は、懲戒解雇および諭旨解雇(諭旨退職)に次いで重い処分に位置づけられます。
懲戒処分を行う際には、労働者の行為の性質・態様等に見合った種類の処分を選択しなければなりません。降格(降職)が比較的重い懲戒処分であることを踏まえて、状況によってはより軽い懲戒処分から段階的に行うことも検討しましょう。
降格(降職)以外の懲戒処分の種類について、各概要を解説します。
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(1)戒告・けん責・訓告
戒告・けん責・訓告は、いずれも労働者に対して厳重注意を行う懲戒処分です。呼称は会社によって異なり、始末書の提出の要否などによって処分の種類を分けている会社もあります。
人事評価等に悪影響が生じることはあり得ますが、少なくとも建前上は労働者の待遇等に影響がないため、戒告・けん責・訓告はもっとも軽い懲戒処分と位置づけられています。 -
(2)減給
減給とは、労働者の賃金を減額する懲戒処分です。降格(降職)も賃金の減額を伴う場合がありますが、減給は降格と異なり、地位(役職)の引き下げは行われません。
減給の懲戒処分については、その金額を次の基準以下にとどめなければなりません(労働基準法第91条)。- ① 1回の金額が平均賃金の1日分の半分以下
- ② 総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1以下
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(3)出勤停止
出勤停止とは、労働者に対して一定期間出勤を禁止した上で、その期間中の賃金を支給しない懲戒処分です。降格(降職)よりも一段階軽い懲戒処分に位置づけられています。
出勤停止については、減給とは異なり、期間および減給の幅は法律上限定されていません。ただし、あまりにも長期間にわたる出勤停止処分は、懲戒権の濫用として無効となるリスクが高い点に注意が必要です。 -
(4)諭旨解雇(諭旨退職)
諭旨解雇(諭旨退職)は、労働者に対して自発的な退職を勧告する懲戒処分です。
労働者が退職を拒否した場合は、改めて懲戒解雇処分が行われることが多いです。したがって、実質的に退職を拒否する余地はありません。
ただし、あくまでも労働者に自発的な退職を促すものであること、および退職条件が懲戒解雇よりもやや有利な場合が多いことなどから、懲戒解雇よりは一段階軽い懲戒処分とされています。 -
(5)懲戒解雇
懲戒解雇は、会社が労働契約を終了させ、労働者を強制的に退職させる懲戒処分です。もっとも重い懲戒処分として位置づけられます。
懲戒解雇を行う際には、「解雇権濫用の法理」に注意が必要です。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒解雇は無効となります(労働契約法第16条)。
解雇権濫用の法理は非常に厳格に運用されており、安易な懲戒解雇は無効となる可能性が高いと考えられます。いきなり懲戒解雇をするのではなく、軽い懲戒処分から段階的に行うことを検討すべきでしょう。
4、人事・労務体制の整備は弁護士に相談を
労働者の規律や非違行為に対する対応などの人事・労務管理については、弁護士にアドバイスを求めることをおすすめします。
弁護士は、労働基準法や労働契約法などの法令のルールを踏まえつつ、会社の実情に即した人事・労務管理の体制づくりについてアドバイスすることが可能です。労働者との間でトラブルが生じた際にも、適切な対応ができるように弁護士がサポートします。
人事・労務管理にお悩みの企業は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、労働者への適切な処分や法令に基づいた体制づくりのサポートなど、法務に関するご相談を随時受け付けております。ニーズや規模によって選べる月額3980円からの顧問弁護士サービス「リーガルプロテクト」もご用意がありますので、コスト面が気になる場合も、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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