能力不足を理由に解雇されそうな場合、どのような対応をとるべき?
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突然上司に呼ばれ「解雇する」と告げられたら、誰でも驚き動揺すると思います。特にその理由が成績不良や能力不足によるものの場合、納得がいかないというケースが多いでしょう。
そもそも能力不足や成績不良を理由に一方的に解雇することは認められるのでしょうか。
今回は、解雇が認められる要件と解雇された場合に労働者がとりうる法的な手段について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説していきます。
1、能力不足を理由とした解雇は認められるのか?
そもそも能力不足を理由に解雇することは許されるのでしょうか。結論から言うと解雇することは不可能ではありませんが、要件が厳格であり非常に難しいといえます。
たとえば、「営業成績が悪いので解雇」という場合は、そう簡単には解雇は認められません。
成績が悪いという評価は、会社(上司)が判断するわけですが、他の社員と比べて成績が悪いというだけでは解雇は認められません。能力という抽象的な概念で安易に解雇が認められるならば、労働者は安心して働くことができないからです。
能力不足を理由に解雇できる場合というのは、おおむね以下の事情を総合的に考慮して判断されています。
② 業務に支障が出ていること
③ 改善の余地がないこと
④ 労働者に対し適切な指導や管理をしていること
⑤ 他の労働者と不均衡な取り扱いをしていないこと
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(1)著しい成績不良
著しく成績が不良であるという要件は、就労させることがふさわしくないほどの成績不良であることが必要です。ただし、専門性を理由に高い報酬で雇われた社員については、判断基準は少し緩いといえます。たとえば、プログラマーとして高報酬で採用したのに、プログラミングが全くできないという場合などです。
逆に、成果が図りにくい一般事務職のような場合には、よほどのことがない限り成績不良を理由に解雇することは認められません。また、新卒社員は長期にわたって業務を学ぶことを前提にしているので、成績不良を理由にすぐに解雇することは基本的に許されないでしょう。 -
(2)業務の支障
労働者の能力が著しく低いとしても、会社の業務に支障が出ていないのであれば、解雇の正当な理由になりません。会社に損失が出ている場合なら、雇い続けることは難しいといえますが、業務に支障がないのであれば安易に解雇することは認められないということです。
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(3)改善の余地
現状のままでは従業員に改善が見込めない場合でも、たとえば営業部門から事務部門への配置転換をすることにより改善が見込まれる場合などには解雇は認められにくくなります。改善の余地があるのであれば、会社としてはそれを実行すべきだからです。
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(4)適切な指導
成績不良な社員を非難することは簡単ですが、採用したのは会社です。それを棚に上げて、何もせず単に社員の成績不良を理由に解雇することは許されません。会社として研修をしたり、先輩社員が指導したりするなど、適切な指導をしていることが求められます。
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(5)平等な取り扱い
同じような成績なのに、愛想のいい社員Aは残留で、愛想のない社員Bは解雇というような不平等な取り扱いは許されません。解雇する場合、客観的基準に基づいて平等にしなければならないということです。
2、解雇を告げられたとき、まずすべきこと
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(1)証拠を集める
企業が従業員を解雇する場合、少なくとも30日前に「解雇予告」をしなければなりません。会社は義務を履行したことを証明する必要があるので、書面でなされることが多いです。この解雇予告通知書は必ず保存しておいてください。
ただし、
① 30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う場合
② 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
③ 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
においては、この限りではないとされています。
解雇予告通知書に解雇理由も書かれているのが一般的ですが、しっかりとした理由が書かれてない場合には、解雇理由について書面で提出するよう依頼してください。もし、会社から「解雇理由証明書を提出しない」と言われた場合には、「理由のない解雇は無効である」と主張しましょう。
解雇された場合、雇用保険からいわゆる「失業給付」を受けられるのですが、雇用保険の申請に必要な離職票に「退職の理由」欄があります。ここに「会社都合」となっているか確認してください。もし、「自己都合」と書いてあった場合は、「会社都合」に修正してもらう必要があります。その他、業務記録、就業規則、会社との交渉の録音などを確保しておくとよいでしょう。 -
(2)弁護士に相談する
会社からの解雇通告を受けた場合、そのような会社には見切りをつけて、転職するというのもひとつの選択です。他方、「自分は悪くないのだから会社の言いなりになるのは納得がいかない」ということで争うというのも理解できます。
争うということになると、一人で戦うのは限界があるので、早期に弁護士に相談することをおすすめします。相手は企業なので、顧問弁護士がいるかもしれません。法律に詳しくない場合、法律論で戦うのは非常に難しいといえます。
弁護士に相談する場合は、就業規則、解雇予告通知、解雇理由書、解雇に関するメールなどの資料を持参して相談するようにしましょう。口頭だけだと具体的な話ができないことがあるからです。ただ、すべての証拠が集まるまで待っていると日にちが経過してしまい対応が遅れる場合もあるので、できるだけ早い段階で、その時点で保有している資料を持参して相談するようにしてください。 -
(3)労働基準監督署に相談する
労働基準法に違反して解雇がなされているような場合には、労働基準監督署に相談することで、労働基準監督署が会社に対して立ち入り検査をしてくれる可能性があります。そこで、違反事実が認められれば、指導や勧告がなされることになります。それによって、会社が解雇を撤回してくれる可能性もあります。
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(4)安易に会社の求めに応じない
会社側は解雇するにあたり、従業員に退職の同意書への署名押印を求めてきたりすることがあります。しかし、納得できない場合、署名押印はしないようにしましょう。同意書に署名をしてしまうと、不当解雇として裁判で争う場合、不利になる可能性があるからです。
3、納得できない場合の対応方法
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(1)退職する場合
解雇に納得できない場合でも、そのような会社に残りたいとは思わないという方もいるでしょう。その場合であっても、弁護士に相談し、弁護士が会社と交渉をすることで解決金を支払ってもらえることもあります。なお、解雇された場合、雇用保険の受給要件を満たしていれば、いわゆる「失業給付」を解雇後すぐに受けることができます。転職先がみつかるまでは、その失業給付で生活費を確保することができます。また、受給期間中に再就職できた場合には「再就職手当」をもらうことができます。
不当解雇と思う場合には、労働基準監督署に通報することも考えてみてもよいかもしれません。労働基準監督署は会社を調査し、違法の事実が認められれば、指導や勧告をしてくれるでしょう。 -
(2)会社に残りたい場合
会社に残りたい場合には、会社と争うしかありません。その手段としては、労働審判や裁判ということになります。この場合、個人で会社と争うことは難しいので、弁護士に依頼することが一般的です。
労働組合がある場合、労働組合が会社との交渉をしてくれる場合もありますが、最近は労働組合も弱体化しているので、どこまで対応してくれるかは労働組合次第です。
4、不当解雇問題に対して弁護士ができること
不当な解雇に対して、弁護士に依頼することでどのようなことができるのでしょうか。弁護士は、不当解雇について相談を受けた場合、証拠の内容を精査して、違法な点や裁判へ発展する場合、勝ち目があるかどうかを判断することができます。最終的には裁判ということになるので、裁判をした場合に勝ち目があるかどうか判断することはとても重要になります。
もっとも、すべての事件が裁判になるわけではありません。むしろ和解によって解決に至るケースが多いでしょう。弁護士が会社に対し、不当解雇だと主張し、交渉するだけで、解雇を撤回してくることもあり得るのです。
労働審判をするにせよ、裁判となるにせよ、手続きには一定の法律的な知識が必要となりますので、弁護士でないと勝つことは難しいといえます。また、審判や裁判は時間がかかるため、その間の賃金なども心配になります。
そのような場合には、地位保全・賃金仮払いの仮処分を受けることによって現在の地位を取りあえず維持することができます。その手続きも弁護士でないと難しいといえます。
5、まとめ
会社員にとって、解雇は自分の生活の基盤を失うことになるため、とても大きな問題といえます。不当解雇だと思うのであれば、会社側と争わなければなりません。
その場合は、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。一定の期間が経過してしまうと、解雇した事実を受け入れたと判断されてしまう危険性もあるからです。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、不当解雇はもちろん、労働問題に関する相談を受け付けております。労働問題で悩みをお持ちの方は、どうぞお気軽に弁護士までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています