内定取り消しの連絡が来た! 損害賠償ができるのはどのようなとき?
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新型コロナウイルスの影響で、内定を取り消される大学生が増加しているとのニュースもあります。
もし、内定を受けていた会社から、取り消しの連絡が届いたらどうすべきでしょうか。内定先以外の就職先はすでに断ってしまっており、すぐに就職をすることも困難です。
生活に影響が出てしまうのが通常ですが、このような場合、損害賠償請求ができるのか、どのように対応すべきか、広島オフィス所属の弁護士が説明します。
1、内定が出た会社とはどのような関係になる?
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(1)就職するまでのプロセス
日本では、学生が新卒で本採用される場合、企業にもよりますが、企業の求人・募集、エントリーシート提出、採用試験・面接、採用内々定、採用内定、誓約書提出、研修、入社式、本採用…と非常に多くのプロセスを経ることになります。
このプロセスのうち、後になればなるほど学生の本採用への期待は高まり、他社への就職の機会を放棄していくのが通常ですから、他社からの内定を断り、就職活動を終えた後で突然内定取り消しされた場合、当面の就職先がなくなってしまう学生の衝撃は想像を絶するものがあります。 -
(2)内定の法的性格について
では、内定とは、法律的にはどのように扱われるのでしょうか。
この点につき、実は、法律にはっきりと決まりがあるわけではありません。
しかし、内定の法的性質については、最高裁判所判例で、事案によって異なるとのことわりつきではあるものの、「始期付解約権留保付きの労働契約の締結」とされています(最判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁)。
内定の段階で、すでに「労働契約」が成立しているというのがポイントです。
労働契約が成立していると、労働契約が成立していないとされる場合に比べて、労働者としての地位が確認されることから、労働者がより手厚い救済を受けることができるといえます。 -
(3)内定取り消しの法的性格
以上に述べたように、採用内定によって留保付きではあるものの、労働契約が成立しています。
ですから、企業から採用内定を取り消された場合、法律的には労働契約の解約(解雇)として扱われます。
日本では、現在、解雇には厳しい制限がありますから(労働契約法16条)、これが類推適用されるなどして、内定取り消しについても厳しい制限がかかることになると考えられます。 -
(4)内定取り消しが適法となるかどうか
先ほど述べたように、内定取り消しは企業が自由にできるものではなく、一定の制限があります。
先に挙げた最高裁判例でも、採用内定中の地位は使用期間中の地位と同じとしたうえで、内定取り消し事由は、「①採用当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、②これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できるものに限られる」(ナンバリングは筆者が挿入したもの)、と述べています。
では、どのようなものが内定取り消しとして、適法になるのでしょうか。
たとえば、健康状態の著しい悪化は、なかなか予見ができませんから、内定取り消し事由として認められやすいのではないかと考えられます。また、別の最高裁判例で、内定期間中にデモに参加し、現行犯逮捕され、起訴猶予になった事案で内定取り消しが適法となったケースがあります(最判昭和55年5月30日民集34巻3号464頁)。
これに対し、面接時の印象、性別等は採用当時に明らかにわかるものですから、面接時の印象、性別等に基づく内定取り消しが適法となる可能性は低いと考えられます。 -
(5)経営悪化のような経済的理由による内定取り消しの場合
採用後に企業側が経営悪化した場合も自由に内定取り消しできるわけではありません。
企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取り消し)をする場合には、整理解雇のときと同様に、
① 人員削減の必要性
② 人員削減の手段として整理解雇することの必要性
③ 被解雇者選定の合理性
④ 手続きの妥当性
という整理解雇が適切であるかどうかを判断するための4つの要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきであるとした裁判例があります(東京地裁決定平成9年10月31日労判726号37頁)。
もっとも、③被解雇者を誰にするかの判断にあたっては、今勤めている人よりも内定者を優先して選ぶことは不合理ではないとして、整理解雇の場合よりもやや緩やかに内定取り消しが認められているようです。
2、内定取り消しの損害賠償は請求できる?
では、内定が労働契約の成立を認められるほどのものと評価できる場合で、不適法な内定取り消しをされたとき、会社に対し、どのようなことを求めることができるのでしょうか。裁判で請求できる可能性があるものをあげますと、
① 従業員である地位の確認
② 不法行為に基づく損害賠償請求
③ 現実に業務をしていたら得られたと考えられる逸失利益(賃金相当額)
の3つがあげられます。
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(1)従業員である地位の確認
不適法な内定取り消しをされた場合、従業員である地位の確認を求めることができるとされています。そのため、やはりその会社で働きたいという場合は、従業員である地位の確認をするという方法が考えられます。
しかし、当職が実際に法律相談を担当していると、相談者さまの中には、「このような内定切りをする会社では働きたくない」という方もたくさんいらっしゃるので、審判や訴訟を起こす場合であっても、従業員である地位の確認はしないことも多いです。
もっとも、会社側の視点でみると、従業員である地位の確認が認められますと、内定を断った人が戻ってきてしまって気まずいですし、人件費の予定が狂ってしまうことになります。そのため、会社側は、従業員である地位の確認がされている場合は、和解金をしっかり払って和解で解決しようとすることが多いです。そのため、「その会社に戻ってもいいし、和解金によっては辞めてあげてもいい」という場合で訴訟や審判をするときには、従業員である地位の確認もあわせて請求しておくとよいでしょう。 -
(2)不法行為に基づく損害賠償請求
先ほど紹介した昭和54年の最高裁判例では、相当な精神的苦痛を被っている場合であるとして、慰謝料を認めた高裁の判断を特にとがめたりはしていません。
そのため、最高裁は、場合によって慰謝料を認めうる立場であると考えることができるでしょう。 -
(3)現実に業務をしていたら得られたと考えられる逸失利益(賃金相当額)
また、内定取り消しがなかったらもらえたはずの賃金相当額を求めることができます。
もっとも、試用期間の予定があった場合は、試用期間分の賃金しか認められなかったケースもあります(東京地裁判決平成24年7月30日労働経済判例速報2154号24頁)。 -
(4) 実際の案件の経過について
上記は「判決になったらどうなるか」を念頭においてお話しました。
しかし、実際は、和解で解決するケースも多々あります。
また、和解で解決したほうが早期に解決したり、源泉徴収の関係で有利になったりするケースもあるため、和解も解決方法のひとつとして考えることも重要です。
3、損害賠償請求のためにすべき準備
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(1)証拠収集
会社など雇用主が内定取り消しをしたという証拠を収集することが重要です。
意外に思われるかもしれませんが、弁護士が交渉等を始めると、そもそも内定していなかった、ですとか、内定取り消しなどなかった、と主張してくることも少なくありません。
そのため、たとえば、内定通知や内定取り消し通知など、雇用契約に関する資料があれば、必ず保管し、法律相談の際に弁護士に見せるようにしてください。
このほかにも、内定取り消し通知の電話連絡などの録音や、求人情報などが証拠になり得ます。インターネット上の求人情報は、交渉を始めると削除されてしまうことも多々ありますから、事前にプリントアウトしておいた方がいいでしょう。 -
(2)金額の計算
損害額がいくらか、賃金額等を考慮して計算しておきます。
遅延損害金等も忘れずに計算しておきたいところですが、遅延損害金は計算が複雑ですので、弁護士に依頼しておいた方がよいところです。
4、弁護士に相談したほうが良い理由
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(1)適切な法的アドバイスがもらえる
内定と一言でいっても、事案によって保護される程度はさまざまですから、裁判をした場合に勝訴できる見込みも事案によって大きく異なります。
内定取り消しされたらいつでもお金がもらえる、というわけではありませんので、裁判をした場合の見込みを弁護士からある程度聞いておくことが重要です。
そうでないと、裁判で勝てそうにない場合に、裁判で認められる金額以上の有利な和解提案が会社側から提示されたにもかかわらず、有利であると知らずに断ってしまい、結果として損をしてしまった、ということになりかねません。 -
(2)計算や内容証明の作成を弁護士に依頼できる
また、遅延損害金の計算や内容証明の作成は専門的な知識がないと難しいものです。
弁護士に依頼すると、このようなものを弁護士に依頼できます。
5、まとめ
内定が取り消されてしまって、途方に暮れてしまうのは当然のことです。
しかし、今後の生活のために、もし雇用主から請求できるものがあれば、泣き寝入りするだけではなく、しっかり払ってもらった方がよいでしょう。
労働問題に対する経験が豊富な弁護士が、あなたの労働問題を解決するために必要なサポートを行いますので、どうぞお気軽にベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています