特別休暇と有給休暇はどう違う? 特別休暇の概要やよくある例を解説
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広島県庁が公表する「令和4年度 広島県職場環境実態調査」のデータによると、令和4年、広島県内の1014事業所の年次有給休暇について、それぞれ年平均で付与日数は16.2日、取得日数は9.6日とのことでした。
会社を休んだ場合に有給扱いとなるか、つまり給料が発生するかどうかは、休暇の種類によって異なります。また、有給休暇とは別に、平均賃金の6割以上が支払われる「休業手当」も存在します。
労働者に付与される休暇の種類はさまざまですが、有給休暇のほかにも、休暇の一種として「特別休暇」がある企業も少なくありません。会社に取得を打診されて初めて特別休暇の存在を知った方もいるはずです。このような特別休暇と有給休暇の違いを、具体的に把握できていない方もいるでしょう。
本コラムでは、特別休暇の概要や種類、有給休暇との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、特別休暇とは
特別休暇とは、使用者(経営者や事業主など)から労働者に福利厚生の一環として付与される休暇制度のことです。特別休暇の具体例としては、冠婚葬祭などのための慶弔休暇や、会社に貢献した社員を慰労するためのリフレッシュ休暇などがあります。
労働者に認められる休暇としてはほかにも有給休暇がありますが、有給休暇が法律に規定されているのに対して、特別休暇は法律では規定されていません。労働者の福利厚生などを目的として、企業ごとに就業規則や雇用契約などによって独自に設定されているのが、特別休暇なのです。
企業が独自に設定する制度であることから、特別休暇の有無やどのような休暇制度が導入されているかは企業によって異なります。また、特別休暇は派遣労働者にも適用される場合がありますが、その休暇の内容は労働者派遣契約によって規定されます。
2、よくある特別休暇の例
企業が導入する特別休暇の、一般的な例を紹介します。
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(1)慶弔休暇
慶弔休暇は、祝いごとである慶事や、悔やみごとである弔事が発生した場合に取得できる休暇です。慶弔休暇の対象となる事柄は規定によって異なりますが、慶事では婚姻や出産が、弔事では葬儀や通夜などが一般的です。
取得できる休暇の日数は慶事や弔事の種類によって異なります。また、同じ種類の慶事や弔事でも、対象によって休暇日数が異なる場合があります。たとえば従業員本人が婚姻する場合は5日である一方で、従業員の子どもが婚姻する場合は2日になる、などです。忌引休暇も、亡くなられた方が父母であるか兄弟姉妹であるかなど、休暇を取る従業員と故人との関係によって日数が増減することが一般的です。 -
(2)夏季休暇
夏の期間、特にお盆の時期などに、企業が従業員にまとまった連休を与える休暇制度です。お盆の時期には帰省をしたり、さまざまな行事に参加したりする従業員が多いため、多くの企業が夏季休暇を導入しています。
また、企業によっては、計画年休などを用いて夏休みの時期に有給休暇を連続して消化するように従業員に強制する場合があります。この場合は「法律で定められた有給休暇を消費する」ということになるので、特別休暇とは扱いが異なります。 -
(3)病気休暇
従業員が怪我や病気になったとき、療養のために取得できる休暇制度です。1日単位の取得だけでなく、治療や通院の必要に応じて、半日単位や時間単位で取得できる場合もあります。また、職場環境や仕事内容が原因によるうつ病などの精神面・心理面での治療が必要な場合にも取得できることが一般的です。
詳細は各企業の就業規則によって異なりますが、インフルエンザやコロナウイルスに罹患した場合にも、病気休暇を取得できることが多いでしょう。 -
(4)リフレッシュ休暇
会社に貢献してきた従業員を慰労するための特別休暇です。勤続年数が一定の年数に達した従業員や、一定の年齢に達した従業員などに付与されることが一般的です。
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(5)誕生日休暇
従業員が、自分の誕生日に休暇を取得できる制度です。バースデー休暇と呼ばれることもあります。誕生日の当日に1日だけ休暇を取れるという企業が多いですが、誕生日の前後の1週間に1〜3日間の休暇が取れる場合もあるなど、幅を持たせた制度が導入されている場合もあります。
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(6)ボランティア休暇
従業員がボランティア活動に参加する場合に取得できる休暇です。社会貢献活動休暇と呼ばれることもあります。以前までは珍しい休暇でしたが、東日本大震災以降、企業が社会貢献の一環としてボランティア休暇を導入する事例も増えてきました。
有給にするか無給にするかは規定によりますが、従業員を社会貢献に積極的に参加させたい企業では有給にすることも多いようです。ボランティア休暇の期間はさまざまですが、海外でのボランティアを想定して数年単位の長期制度を設定することもあります。 -
(7)教育訓練休暇
仕事に役立つ技術や知識を身に付けることを目的として、仕事から離れて教育や訓練を受けるための休暇制度です。従業員にとっては自らのスキルアップの機会となることはもちろん、会社にとっても人材の能力向上につながるため、双方にメリットがある休暇だといえます。
3、有給休暇(法定休暇)と特別休暇の違いは?
労働者が取得できる休暇は、労働基準法などの法律に規定されている「法定休暇」と、そうではない「法定外休暇」に分かれます。上述した通り、有給休暇は法定休暇に該当し、特別休暇は法定外休暇に該当します。
法的休暇は、どの企業で働いていても、所定の要件を満たせば原則的にすべての労働者に認められている休暇です。年次有給休暇のほか、出産のための産前産後休業、育児のための育児休業、家族の介護のための介護休業、生理日の就業が著しく困難な女性のための生理休暇などがあります。
有給休暇と特別休暇の主な違いは、以下の通りになります。
- 法律の要件を満たす場合には、使用者(企業)は労働者に有給休暇を必ず与えなければならない。一方、特別休暇を導入するかどうかは労働者と使用者とで取り決めした規定による。
- 労働者が有給休暇を取得した場合、労働基準法によって使用者は給料を必ず支払われなければならない。一方、特別休暇に対して給料が支払われるかどうかは規定による。
- 有給休暇は、原則として労働者は自分が指定した日に自由に取得できる(ただし、使用者は時季変更権を行使して取得の時期を変更できる場合がある)。特別休暇は取得できる日付や取得の要件が規定されている場合が多い。
- 有給休暇は労働者が休息するための当然の権利とされており、利用目的は限定されず、有給を取得する目的を使用者に伝える義務もない。一方で、特別休暇は一定の利用目的に限って導入されていることが大半であり、特別休暇を利用するときには目的を伝える必要がある場合も多い。
- 有給休暇が年間に10日以上ある場合、年間に5日以上労働者に取得させることが、使用者の義務として労働基準法に規定されている。特別休暇は年間の取得数などに義務はない。
- 有給休暇は労働基準法によって2年の時効があるため、2年以上の繰り越しはできない。特別休暇は時効の規定がなく、有効期限は基本的に自由に定めることができる。
有給休暇と特別休暇には上記のような違いがあるため、自分が両方の休暇を使用できる状況にいる場合、どちらの休暇を使用したほうが自分にとって都合がよいかを検討することが大切だといえるでしょう。
4、インフルエンザやコロナウイルスが原因の休みは、特別休暇に含まれる?
日本では、冬になるとインフルエンザが毎年のように流行します。また、令和2年は新型コロナウイルスが猛威を振るいました。インフルエンザやコロナウイルスに罹患した場合の特別休暇や有給休暇の扱いについて、解説いたします。
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(1)インフルエンザは特別休暇に含まれるか
どのような種類の休暇が特別休暇として定められているかは使用者と労働者の取り決め(就業規則など)によるため、インフルエンザに感染した場合にも、特別休暇が使用できるかどうかは勤め先によって異なります。
どのようなインフルエンザが休暇の対象になるか(季節性インフルエンザのみか新型インフルエンザも含まれるかなど)、特別休暇を取得するために必要な条件(医師の診断書が必要かなど)、休暇を取得した場合の待遇(有給扱いとなるか無給となるかなど)といった条項も、各会社の就業規則によって規定されています。 -
(2)インフルエンザは就業制限の対象になるか
労働安全衛生法第68条では、悪質なものとして指定されている感染症に労働者が罹患した場合、使用者はその労働者が就業することを禁止するように定められています。
このとき、法律上は、労働者は使用者に対して賃金や休業手当を支払う義務がありません。そのため、病気休暇などの特別休暇が規定されていない場合には、労働者は有給休暇を使用したり無給で休みを取ったりする必要が生じます。
インフルエンザの場合、新型インフルエンザや再興型インフルエンザは指定感染症に含まれている一方で、季節性インフルエンザは指定感染症に含まれておりません。
しかし、使用者は労働者に対する安全配慮義務を担っていることから、季節性インフルエンザに罹患した社員の出社を禁止する事例も一般的です。労働者が自主的に欠勤したり有給休暇を使用せずに使用者が強制的に休ませたりする場合は、「会社都合」での休みとなります。このとき、使用者は労働者に対して休業手当を支払う義務があるのです。
つまり、新型インフルエンザに罹患した労働者に対しては休業手当の支払い義務はありませんが、季節性インフルエンザに罹患した労働者に対しては平均賃金の6割以上の休業手当の支払い義務が存在するということです。
そのため、インフルエンザに罹患した労働者は、インフルエンザが季節性であるか新型であるかに応じて、特別休暇や有給休暇を使用するか休業手当をもらうかを検討したほうがよいでしょう。 -
(3)新型コロナウイルスの扱いは?
季節性インフルエンザと同様に、新型コロナウイルスも労働安全衛生法第68条の就業制限の対象ではありません。
そのため、季節性インフルエンザの場合と同じく、使用者は休業手当の支払いをせずに労働者の就業を禁止することはできません。
ただし、インフルエンザにせよコロナウイルスにせよ、感染症に罹患した際の休暇の扱いが就業規則で特別に定められている場合はあります。
5、まとめ
労働者が取得できる休暇の種類には、労働基準法などの法律で規定されている「法定休暇」と、法律に規定のない「法定外休暇」があることを解説しました。有給休暇は法定休暇に、特別休暇は法定外休暇にあたります。
特別休暇は従業員の福利厚生などを目的として、各企業で使用者と労働者とが取り決めして規定されるものです。特別休暇の制度があるかどうか、どのような特別休暇の制度が規定されているかは、企業によって異なります。
インフルエンザやコロナウイルスなどの感染症に罹患した場合、特別休暇として病気休暇などが規定されていれば、それを使用できる場合があるため、規定の確認をするようにしましょう。また、季節性インフルエンザやコロナウイルスであれば、会社から休業を命じられる代わりに休業手当が支払われる可能性があります。一方で、新型インフルエンザの場合には、法律上では会社には休業手当の支払い義務はありません。
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