相続させたくない! 特定の相続人に遺産を渡さないようにする方法とは?
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広島県が発表している「家事調停事件の事件別新受件数」によると、平成28年に広島県で「遺産の分割に関する処分」について裁判所へ調停を申し立てた方の数は、319件でした。平成24年から数字が掲載されていますが、多少の増減はあるもののおよそ300件前後を推移しています。相続問題で頭を悩ませている方は、県内にも一定数いることがわかるでしょう。
親族が亡くなり遺産を分割し相続することは、遺言書があったとしても、法定相続人それぞれの思惑がありスムーズに進まないものです。ましてや兄弟姉妹が不仲であったり、法定相続人のひとりが亡くなった方に対してひどいふるまいをしていた事実があったりすれば、なおさらです。たとえまだ相続が発生していなかったとしても「その人には相続させたくない!」という心理になることは当然のことなのかもしれません。
今回は、特定の相続人に遺産を相続させたくないときに、どのような方法をとることができるのかを、制度の概要と具体的方法にいたるまで詳しく解説いたします。
1、特定の相続人に相続させない方法はある?
相続権を持っている人から、個人的な感情だけで相続権を奪うことはできません。しかし、故人に対して侮辱や暴力をはたらくなどの行為をしていた場合、相続させたくないと感じる気持ちが生じるのは当然でしょう。
このような場合、民法に規定された条件を満たせば利用できる制度があります。
2、相続人の廃除制度の概要
今回ご紹介するのは「相続人の廃除制度」です。どのような制度なのか、有効な対象者は誰かについてご紹介します。
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(1)相続人の廃除とは
特定の相続人が保有する相続権を喪失させる手続きを「相続人の廃除」と呼びます。民法第892条に定められた、正当な手続きです。
以下、3つの条件のいずれかに該当する場合に、被相続人が家庭裁判所に申請するか、あらかじめ遺言への記載をしておけば遺言執行者が代行して手続きをとることができます。① 被相続人へ虐待を行っていた
親族として共に生活を続けるのが難しいほどの虐待を行っていた場合です。たとえば寝たきりにもかかわらず食事を与えない、殴る蹴るなどの暴力を日常的にふるう、罵声を浴びせるといったことが該当します。
② 被相続人へ重度の侮辱行為をしていた
親族として共に生活を続けることに支障をきたすほどの侮辱行為をしていた場合です。たとえば、自尊心や名誉を傷つける発言などが該当します。しかし、一時の感情で行ったものであれば、重大な侮辱行為にまであたらないとした判例があります。
③ 相続人の非行
犯罪に手を染めた、お酒などに溺れる、浪費がひどい、働こうとせず被相続人に無心するといった場合が該当します。
ただし、相続が発生する前、財産を持つ本人が生前に手続きをしておく必要がある点に注意が必要です。 -
(2)相続欠格との違いについて
廃除と混同されやすい制度に「相続欠格」があります。欠格事由に該当する場合には、自動的に相続権を失います。
前述のとおり、「相続人の廃除」を行うためには被相続人による遺言書への記載、もしくは家庭裁判所への申請などの手続きが必要です。しかし「相続欠格」はこれらの手続きは必要ありませんし、故人の意思とも関係ありません。
以下に該当した場合に自動的に権利を失います。- 自分より優位にある相続人や被相続人を死亡させた、もしくは死亡させようとし、刑に処された場合
- 被相続人が殺害されたことを知って、告発・告訴をしなかった場合
- 詐欺または脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた場合
- 詐欺または脅迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた場合
- 遺言書を隠す、破棄する、書き替えるなどをした場合
被相続人が廃除の手続きを行う前に亡くなったとき、相続人個人ができることは実のところさほど多くはありません。他の相続人に相続させないためには、欠格事由に当てはまるか否かが問題となるため、念のため確認をしてみるのもひとつの手かもしれません。 -
(3)相続人の廃除の対象となる人
たとえ、被相続人自身が自らの財産について決めたいと考えていたとしても、「誰に対しても自由に廃除手続きをとることができる」というわけではありません。対象者は遺留分を保有している相続人です。
遺留分を保有しない相続人に対して廃除を行っても目的を果たせませんし、そもそも手続きできません。なぜならば、遺留分がない者に対しては、あらかじめ遺言書に相続させない旨を記載することで対応できるからです。
一方、配偶者、子ども、直系尊属に関しては、いくら遺言書で相続させないこととしても、遺留分減殺請求を行うことで本来保有している割合を取り戻すことができます。そのため、遺言書による廃除は、「遺留分を有している相続人に対して有効」な手段になりえるでしょう。
3、相続人の廃除の方法
相続廃除の2つの方法を流れに沿って解説します。
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(1)家庭裁判所への申し立て
ひとつ目の方法は家庭裁判所に申し立てを行う方法です。これは、被相続人本人が生前に行う必要があります。これを生前廃除と呼びます。
相続廃除の申し立てを行う家庭裁判所は、被相続人の住居地を管轄する裁判所です。被相続人は「推定相続人廃除審判の申立書」を提出して手続きを行います。基本的に調停はなく、家庭裁判所内での審理がなされ、廃除に相応するか否かの判決が下されます。
仮に調停が行われ、当事者間で合意がなされたとしても、最終的に決断を下すのは家庭裁判所となります。
被相続人の申し立てが認められ、相続廃除となった場合は市・区役所などに届け出を行う必要があります。家庭裁判所での審判が確定した日から10日以内と期日が定められているため、注意が必要です。 -
(2)遺言書に記載する
2つ目の方法は被相続人が遺言書に記載する方法です。これを遺言廃除と呼びます。
ただし被相続人が逝去した後、遺言執行者が代理となって手続きする必要があります。そこで、生前に遺言執行者に相続廃除の手続きをしてもらいたいという意向を伝えた上で、指定しておくことが大切です。
遺言執行者は被相続人が最期に住居地をおいていた家庭裁判所に対して廃除の申し立てを行います。前述の推定相続人廃除の審判申立書に加えて、相続廃除の意向が記載された遺言書の写しや廃除の理由書などが必要となります。
この場合も、家庭裁判所が廃除にふさわしいかどうかの審理を行った後に決断を下します。相続権をはく奪するかどうかの判断は非常に難しく、申し立てをすれば必ず受理されるとは限りません。実際のところ、相続廃除が認められたケースはあまり多くないといえるでしょう。
4、相続問題を弁護士に依頼するメリット
相続問題がこじれてしまうと、話し合いがストップしてしまうだけでなく、できてしまった溝がより深くなってしまうなどデメリットが多く生じます。またそうなると、今後の付き合いにも影響する可能性も高くなることは避けられません。そこで第三者を介入させることで、遺産相続トラブルの仲裁をしてもらうことができます。
被相続人が遺言書に相続廃除の意向を記載していたとしても、法的な手続きは何かと煩雑で面倒となります。もし、相続排除された相続人が他界していた場合はその子どもに相続される可能性も否定できません。そのような事態を踏まえ、書類の作成はもちろん、さまざまなアドバイスを行ってくれることで、正確にかつ迅速に手続きをすませることができるでしょう。
知らないために相続で損をしてしまうことも少なくありません。弁護士に依頼しておけば、慣れない遺産相続手続きでつい見落としてしまいがちな問題もフォローしてもらえるので安心です。
5、まとめ
遺産相続問題はテレビドラマなどだけの出来事ではありません。実際に多くの親族間で起こっています。病気で介護が必要な状態の被相続人に十分な介護を行わないだけではなく、暴力をふるうという事例も後を絶ちません。たとえ相続する権利があったとしても、この人には相続させたくないといった意向が遺言書で明らかな場合などは相続廃除という方法をとることができます。
遺産相続で悩んでいる、相続人の廃除をしたいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスにご相談ください。より良い方法をご提案します。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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