これだけは知っておきたい「おしどり贈与」の5つのポイント

2020年01月14日
  • 遺産を残す方
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これだけは知っておきたい「おしどり贈与」の5つのポイント

広島国税局の報道発表資料によると、広島県では平成29年中に亡くなった3万795人のうち8.3%に当たる2565人の被相続人に対して相続税が課税されています。

相続に関しては、民法の相続法が約40年ぶりに改正されたこともありニュースや雑誌の特集などで取り上げられることも少なくありません。その中でも「おしどり贈与」といわれる特例について、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「おしどり贈与」は上手に活用すれば、生前対策として相続税の軽減につなげられる可能性がある有効な制度です。しかし、「おしどり贈与」をしても、あまりメリットがないケースもあります。そのため「おしどり贈与」に興味を持ち検討されている方は、特例の条件や注意点などを理解した上で慎重に判断することが重要になります。

本コラムでは、「おしどり贈与」とはどのような特例なのか、どのようなケースで有効なのかなどについてベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説していきます。

1、おしどり贈与とは

おしどり贈与とは、贈与税の特例のひとつです。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合に、最高2000万円まで配偶者控除することができます。
贈与税にはもともと基礎控除の110万円があるので、おしどり贈与特例を利用すれば最高2110万円まで非課税で、居住用不動産やその取得のための金銭を配偶者に贈与することができることになります。

おしどり贈与を活用すれば、贈与者の相続財産が減少することができます。そのため、贈与した分だけ贈与者が死亡したときに、相続人などが支払う相続税を節税できる可能性があります。
このことから相続税対策として有効といわれることが多いものですが、一方ではかえって他の税金などの負担が増加してしまうケースもあるので注意が必要です。
まずは、おしどり贈与の条件などを確認していきましょう。

2、おしどり贈与はどのような条件を満たせば適用できる?

おしどり贈与を適用するためには、以下の条件をすべて満たしている必要があります。

  1. (1)夫婦の婚姻期間が20年経過後に贈与が行われたこと

    おしどり贈与は、婚姻期間が20年以上と長期にわたる夫婦間の贈与について適用される特例です。
    そのため夫婦は婚姻届を提出している法律上の夫婦である必要があります。内縁関係の夫婦の場合、20年以上関係を続けていたとしてもおしどり贈与の対象にはなりません。

  2. (2)居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭が贈与されたこと

    おしどり贈与は、長年夫婦関係にあった配偶者の居住環境や将来の生活を保護するためのものです。そのため贈与の対象財産は、居住用不動産や居住用不動産を取得するためのお金に限定されています。投資用物件や賃貸用物件については、適用の対象になりません。
    居住用不動産とは、贈与を受けた配偶者が居住するための国内にある家屋やその敷地をいいます。家屋の敷地には、所有権に限られず借地権も含まれます。
    なお、居住用家屋の敷地が借地権のときに配偶者から金銭の贈与を受けて地主から所有権を取得した場合も、おしどり贈与として配偶者控除の適用があります。
    また、居住用家屋と敷地が一括で贈与される必要はなく、家屋のみまたは敷地のみの贈与を受けた場合でも次のいずれかに該当するときにはおしどり贈与の対象となります。

    ・ 夫または妻が居住用家屋を所有
    たとえば妻が居住用家屋を所有し夫がその敷地を所有する場合に、妻が夫から敷地の贈与を受けるケースが該当します。

    ・ 贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有
    たとえば夫婦と同居する子どもが居住用家屋を所有し、夫がその敷地を所有する場合に、妻が夫から敷地の贈与を受けるケースなどが該当します。

  3. (3)居住用不動産に現実に住み引き続き住む見込みであること

    居住用不動産に対する特例なので贈与を受けた年の翌年の3月15日までに該当の居住用不動産に贈与を受けた配偶者が実際に住んでおり、そのあとも引き続き住む見込みであることが要件となります。

3、おしどり贈与の適用を受けるために必要な手続き

  1. (1)納税額がない場合でも申告が必要

    おしどり贈与の適用を受けるためには、贈与された居住用不動産や金銭が2110万円未満で贈与税が課税されない場合であっても申告が必要になります。
    贈与税の申告と納税は、贈与を受けた配偶者の住所地を管轄する税務署に行います。
    なお、申告と納税の期間は、原則として贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間になります。申告書は、郵便などによる送付やe-Taxを利用して送信して提出することもできます。

  2. (2)申告時に必要な添付書類

    おしどり贈与の適用を受けるためには、原則として要件などを証明する以下の書類を添付して贈与税の申告をしなければなりません。

    • 贈与を受けた日から10日経過以後に作成された戸籍謄本(抄本)
    • 贈与を受けた日から10日経過以後に作成された戸籍の附票の写し
    • 対象不動産の登記事項証明書などの居住用不動産を取得したことを証する書類
    • 居住用不動産の贈与を受けた場合は対象不動産の固定資産税評価証明書など


    詳しくは、ご自身が申告する管轄の税務署に確認するとよいでしょう。

4、おしどり贈与は相続税対策として有効なの?

  1. (1)おしどり贈与は相続税対策として有効なケースばかりではない!

    おしどり贈与は被相続人の相続財産を生前に贈与するものなので、相続税の節税につながるメリットが思い浮かぶと思います。
    しかし、相続財産が「相続における配偶者控除」の範囲内で収まるのであれば、おしどり贈与が相続税対策として有益にはならないといえます。
    そればかりか贈与で生じる税金の負担が重荷になることもあるので、慎重に検討する必要があります。

  2. (2)相続における配偶者控除や特例も検討することが大切

    相続における配偶者控除は、「1億6000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれかのうち多額になる方の金額とされています。
    贈与と同様に相続においても配偶者控除があり、控除額の範囲内であれば相続税が非課税になります。
    そのため、おしどり贈与をしなくても、相続税がかからないケースも少なくありません。
    また、土地に関しては、相続時には一定の要件のもとで「小規模宅地等の特例」として課税価格を大幅に縮減できるため、おしどり贈与をしない方が税金面で得になるケースもあります。

  3. (3)おしどり贈与では税金が多額になることも

    おしどり贈与で不動産を配偶者に贈与した場合には、贈与税は非課税になったとしても「不動産取得税」や所有権移転登記の際に必要な「登録免許税」がかかってきます。
    一方、相続を原因として不動産を取得した場合には、「不動産取得税」はかからず、「登録免許税」も贈与より少額で済みます。
    おしどり贈与を検討する場合には、おしどり贈与によって受けられるメリットとかかる税金などのコストを比較して結論を出すとよいといえるでしょう。

5、おしどり贈与の注意点とは

  1. (1)同一の配偶者には一度しか使えない

    おしどり贈与は、原則として一度しか適用を受けられない制度なので注意する必要があります。
    しかし、厳密にいえば同一の配偶者からの贈与については一度限りという意味なので、再婚相手とも20年以上婚姻関係が続き、その他の要件も満たすのであれば再度の適用は認められます。

  2. (2)亡くなる直前の贈与でも適用される

    相続開始前の3年以内に贈与された財産については、相続財産に加算され相続税の課税対象になるのが原則です。
    これは、相続税の節税目的で死亡直前に生前贈与を行うといった駆け込みの対策を防止するためです。
    しかし、おしどり贈与については、相続開始前3年以内の居住用不動産または居住用不動産の取得のための贈与であっても適用され、相続税の課税対象にはなりません。
    いろいろ検討した結果、おしどり贈与が有益だと思われる場合には相続発生のタイミングを気にすることなく、実行していくとよいでしょう。

6、まとめ

本コラムでは、「おしどり贈与」について解説していきました。おしどり贈与の条件や注意点などを押さえつつ、税理士や相続に詳しい弁護士に相談しながら進めることがもっとも効果の高い生前対策や相続対策となるものです。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士は、グループ内の税理士や他の士業とも連携をとりながらワンストップで相続問題の解決に取り組んでおります。おしどり贈与をはじめ、相続問題で悩みを抱えているようでしたら、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています