死後事務委任契約とは? 正しい活用方法と注意点を弁護士が解説

2024年01月11日
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死後事務委任契約とは? 正しい活用方法と注意点を弁護士が解説

令和4年11月末時点での広島市の人口は117万9400名で、そのうち30万9703人が高齢者(65歳以上)でした。今は元気で自らの身の回りのことがすべてできていても、たとえば亡くなったあとの手続きや身辺整理については、年齢問わず誰しもが自身では行えないものです。

そこで、ご自身の死後の身辺整理などに不安がある場合には、「死後事務委任契約」を締結するという選択があります。信頼できる人を受任者に指定して、死後事務委任契約を締結すれば、死後の身辺整理を安心して任せることができるでしょう。ただし、死後事務委任契約の締結にあたっては法律上の注意点が存在します。そのため、事前に弁護士へご相談いただくことをおすすめいたします。

本コラムでは、死後事務委任契約について、活用例から注意点、弁護士に相談するメリットについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、死後事務委任契約とは?

「死後事務委任契約」とは、本人が亡くなった後のさまざまな事務手続きを、信頼できる人に委任する(任せる)内容の契約です

委任をすることのできる事務の内容はさまざまですが、たとえば、以下のようなものが挙げられます。

  • 自治体などの公的機関への届け出に関する事務(死亡届など)
  • 金融機関の相続手続きに関する事務
  • 葬儀などに関する事務(通夜、告別式、火葬、遺骨の処理など)
  • 親族への連絡に関する事務
  • 遺品整理に関する事務
  • 電子機器の処分に関する事務

2、死後事務委任契約を締結するとよい場合の例

死後事務委任契約を締結するメリットは、主に、「本人の希望する死後事務処理の方法を定めておけること」と「信頼できる人に死後事務を任せられること」の2点になります。

そのため、以下のいずれかに該当する場合には、死後事務委任契約を締結することをおすすめします。

  1. (1)身辺整理について、親族に迷惑をかけたくない場合

    本人が亡くなった後、残された親族は身辺整理を行うことになります。

    しかし、生活状況や物の管理状況などは本人にしかわからない部分が多く、本人が亡くなった後では確認が難しいケースもよくあります。
    この場合、親族は手探りで身辺整理を行わざるを得ず、多大な労力を要することになってしまうでしょう。

    死後事務委任契約を締結して、身辺整理の方法などをあらかじめ示しておけば、身辺整理にかかる親族の労力は大幅に軽減されます。
    死後の身辺整理について、親族に迷惑をかけたくないと考える場合には、死後事務委任契約の締結を検討すべきでしょう

  2. (2)身辺整理に関して特別の希望がある場合

    死後事務委任契約を締結していない場合、死後の身辺整理は、親族がその場その場の判断で進めていくことになります。

    本人が生前に何らかの希望を言い残していれば、その内容を尊重しながら身辺整理が行われるケースも多いでしょう。
    しかし、口頭で伝えただけでは、本人がどのような内容を希望していたのか、不明確になってしまう部分があります。
    また、「対応するのが面倒だ」などの理由で、本人の希望とは異なる形で身辺整理が進められてしまうこともあり得ます。

    死後事務委任契約を締結しておけば、本人の希望する身辺整理の内容を、明確に記録しておくことができます
    さらに、身辺整理に関する事務処理の内容は当事者である受任者を拘束するため、本人の希望どおりに身辺整理が行われる可能性が高いでしょう。

  3. (3)身辺整理を任せられる親族などがいない場合

    近くに頼れる親族などがいない状態で亡くなってしまうと、誰も身辺整理を行う人がおらず、住居などが荒廃してしまうおそれがあります。

    この場合、あらかじめ死後事務委任契約を締結して、信頼できる人に死後事務を任せておくことが安心です。

3、死後事務委任契約を作成・締結する際の注意点

死後事務委任契約の作成や締結には、法律上の注意点が存在します。
また、死後事務を誰に任せるかの人選も非常に重要となります。

死後事務委任契約の締結を検討する際には、以下のポイントにご注意ください。

  1. (1)財産の処分は遺言書で定めるべき|併用が望ましい

    亡くなった方の財産の処分は、本来は遺言によって行われるべきものです。そして、遺言は民法によって「要式行為」とされています。
    遺言書の体裁を整えていない死後事務委任契約で財産の処分を規定しても、その部分は「無効な遺言」と評価され、法的拘束力を生じないということにもなりかねません。

    このような事態を避けるためには、身辺整理などの事務については死後事務委任契約で定める一方で、財産の処分については遺言書を作成して規定するのがよいでしょう
    死後事務委任契約と遺言書を併用することによって、相続対策はより万全なものに近づきます。

  2. (2)死後事務委任契約の終了・解約に注意すべき

    死後事務委任契約の委任者である本人が死亡したことに伴い、死後事務委任契約が終了するか、または解約されないかについては、法的な観点からの検討が必要になります

    委任契約は、委任者の死亡によって終了するのが原則とされています(民法第653条第1項)。
    ただし、上記の原則は任意規定と解されています(最高裁平成4年9月4日判決参照)。そのため、死後事務委任契約において、委任者の死亡後も契約を存続させることも可能です。

    また、委任者には死後事務委任契約の解除権があります(民法第651条第1項)。この解除権が相続の対象になるかどうかも、法律上の問題となるのです。
    この点については、相続人が委任契約を解除することを許さない合意を包含する趣旨ものであり、相続人は特段の事情のない限り死後事務委任契約を解除することができないとも考えられています(東京高裁平成21年12月21日判決参照)。
    相続人がいる場合には、死後事務委任契約の取り扱いについて、あらかじめ相続人との間で調整を行っておくことが望ましいでしょう。

  3. (3)信頼できる人に死後事務を委任すべき

    死後事務委任契約でルールを明確かつ詳細に定めても、契約どおりに死後事務を執行してくれるかどうかは、結局のところは受任者次第です。
    したがって、死後事務委任契約の受任者には、信頼できる人を選ぶ必要があります

    原則として、死後事務委任契約の受任者には、誰にでもなることができます。親族かどうか、あるいは専門的な資格を持っているかどうかは要件になりません。
    しかし、受任者として適任かどうかは、その人の性格や能力、さらに親族との人間関係なども含めてよく観察したうえで、判断しなければなりません。

4、死後事務委任契約について弁護士に相談するメリット

死後事務委任契約を締結して、その内容のとおりに死後事務を処理してもらいたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
死後事務委任契約について弁護士に相談するメリットとしては、以下のようなものがあります。

  1. (1)契約内容・有効性について十分な検討ができる

    死後事務委任契約の内容は、個々の事例においてさまざまに変わります。
    そして、法的有効性についても注意すべき点があります。

    本人の意向に従った内容の死後事務委任契約を、法的に有効な形で締結するためには、法律の専門家である弁護士のサポートを受けることが最善です

  2. (2)身寄りがなくても身辺整理などを任せられる

    親族などの身寄りがない方にとっては、弁護士を受任者として死後事務委任契約を締結することが、信頼性の観点から良い選択肢になります。

    弁護士は、公正・誠実に業務を行う職責を負っており、職務上の秘密保持義務も厳格に課されています。
    弁護士を受任者として死後事務委任契約を締結すれば、自分の死後に、契約内容に従って死後事務が処理されることが確実になるでしょう

  3. (3)相続全般について総合的なサポートを受けられる

    弁護士に相談すれば、死後事務委任契約の締結のみならず、財産の承継を含めた相続手続き全般について総合的なサポートを受けられます。

    弁護士のサポートにより、相続人間で深刻なもめ事に発展することが少なくなり、スムーズに相続手続きを完了できる可能性が高まるのです

    死後事務委任契約書の作成・締結や、その他の相続手続きについては、お早めに弁護士までご相談ください。

    なお、ベリーベスト法律事務所では、介護施設、訪問看護、クリーンサービス(生前整理・遺品整理)、葬儀、エンゼルケア(湯灌・メイク)等を必要とされている方に向けて、介護事業者や葬儀社のご紹介をすることもできます。

5、まとめ

死後事務委任契約を締結すると、ご自身の希望を反映させたうえで、身辺整理に関するめどを付けることができます。
遺言書と死後事務委任契約を併用すれば、より万全な形で生前の相続対策を行うことが可能です。

ベリーベスト法律事務所では、相続手続きを円滑に完了するため、総合的なサービスをご提供しております。死後事務委任契約に関しても、お客さまからのヒアリングを通じて、ご意向を反映した内容の契約作成・締結までのサポートが可能です。
死後事務委任契約にご関心をお持ちの方や、生前の相続対策をご検討中の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています