遺言書の正しい遺し方とは? 広島市の弁護士がくわしく解説

2018年11月22日
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遺言書の正しい遺し方とは? 広島市の弁護士がくわしく解説

広島県では、平成14年に亡くなった被相続人が遺していた「自分で赤い斜線を引いた遺言書」の有効性を裁判で争う親族間のトラブルがありました。広島地方裁判所で行われた裁判の1審は平成25年11月に判決が下るものの原告が控訴し、広島高等裁判所での判決を不満としてさらに控訴。平成27年に東京にある最高裁判所が、これまでの判決を覆す「無効」という判断を示し、結審しています。

普段は仲が良いと思われる血のつながった兄弟だろうと、親族同士であろうと、遺産問題が発生した途端、大きなトラブルへ発展することは少なくありません。それは、遺産の金額の大小は関わりなく、心情的な問題もかかわってくるため、一度こじれてしまうと長期にわたるもめごとになってしまうこともあります。冒頭の例では、遺されていた遺言書が有効かどうか? という争点で、実質10年以上もの間、争うことになってしまいました。

できれば、自分の親族が相続問題で争うことなど、想像したくないものです。では、親族間のトラブルを避けるためには、どのような遺言書を遺せば良いのでしょうか。今回は、遺言書の正しい書式の概要を、広島オフィスの弁護士が解説します。これから遺言書を作成しようと思っている方や、遺産のことで親族にもめてほしくないと考える方は、ぜひ参考にしてみてください。

1、遺言には3つの種類がある

まずは、遺言の種類について知っておきましょう。民法上では、相続財産を遺して亡くなった方(遺言書をつくる方)を「被相続人」と呼びます。遺産を相続することになる遺族が「相続人」です。

そもそも、「遺言」とは、亡くなってしまった本人が、遺族に向けて何らかの言葉を遺すことを指します。遺言そのものには、特に法律上な縛りはありません。自分の気持ちや感謝の言葉など、自由に遺すことができます。

ただし、自らが遺す財産の分け方などを自分で決めて、親族に示しておきたい……つまり、「相続」にかかわる内容を指定したいときは、民法で定められた方式で書かれた「遺言書」を作成しなければなりません。

民法によって効力があると認められる「遺言書」は、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」があります。特別方式遺言書は、被相続人にとって思いがけない死が直前に迫った緊急時に作成するものであり、作成日から6ヶ月経過したときに生存していた時点で無効となります。

多くの方は、普通方式で遺言書を作成することになります。とはいえ、普通方式の遺言書だけでも3種あります。では、3種類の遺言について、その特性とメリット・デメリットなどを解説しましょう。

  1. (1)自筆証書遺言

    自筆証書遺言とは、「被相続人が自分の字で書く」遺言書です。作成時はもちろん、作成後に手続きや証人も不要なうえ、紙とペン、印鑑さえあればいつでも作成できます。つまり、3種の普通方式遺言書の中で、もっとも簡単な作成方法といえるでしょう。

    自筆証書遺言は、主に次の3つの内容を自分で書き、署名と押印をすれば完成します。

    • 遺言の全文
    • 作成した日付
    • 氏名


    押印は認め印でも指印でもよいですが、偽造を防ぐためにもなるべく実印を使用しましょう。

    なお、自分の字で書かずにパソコンで作成した文書を印刷したり、だれかに代筆してもらったりした遺言書は無効となります。そのほかにも、内容の証明はもちろん、遺言書があるという証明もなされていないため、改ざんや紛失の危険性もあります。

    さらに、相続人が自筆証書遺言書を開封するときには、必ず家庭裁判所へ足を運び「検認」手続きを行う必要があります。

  2. (2)公正証書遺言

    公正証書遺言とは、公証役場の公証人が被相続人の代わりに文章にまとめ、作成してもらえる遺言です。作成のためには、相続人ではない2名の証人をたてる必要があります。証人になってもらう方に依頼して、公証人役場まで一緒に来てもらわなければなりません。

    また、公正証書遺言を作成するためには、下記書類をはじめとする様々な資料の提出が求められます。

    • 遺言者の印鑑証明書
    • 遺産目録
    • 不動産の登記簿謄本および評価証明書
    • 相続人や受遺者の戸籍謄本・住民票


    正確を期すため、書類の取り寄せなどにやや手間がかかることと、作成に多少の費用がかかる点、それから、証人に内容を知られてしまうという点がデメリットといえるでしょう。しかし、それ以上に、公証人という専門家が作成してくれるため、無効になりづらく、かつ確実な遺言書が作成できます。さらに、原本は公証役場に保管されるため、相続人が遺言書を開封するときは、公証役場へ足を運びコピーを請求するだけで手続きが終わります。

    書類準備や、口が堅い証人を依頼することに心配があるときは、弁護士や司法書士、行政書士などに依頼することをおすすめします。

  3. (3)秘密証書遺言

    秘密証書遺言とは、被相続人が自分で作成して封をした遺言書を公証人役場へ持ち込み、「遺言の存在」のみを公証人に証明してもらう遺言です。

    秘密証書遺言は自分の字で書いたものでなくてもよいですし、パソコンで作成して印字したものでも、ほかの人が代わりに書いたものでも問題ないとされています。ただし、遺言者の署名と押印は必要です。

    秘密証書遺言は、自筆証書遺言書と公正証書遺言書の特徴を併せ持つ遺言書の作成方式ですが、もちろんデメリットがあります。まずは、自分だけで内容を決められるため、いざ相続となったとき、内容に不備があれば冒頭の裁判のように、その内容が「無効」になる可能性があります。また、遺言書の存在の証明はしてもらえますが、保管は自分で行う必要があるため、改ざん紛失の危険が残り、また、開封時には裁判所による検認手続きが必要です。

    遺言書の作成に不安がある人は、封をする前に弁護士や司法書士、行政書士などにチェックしてもらうと良いでしょう。

2、無効にならない遺言書を作成するためには?

冒頭に紹介した事例のように、いくら遺言書を遺しておいても、内容によっては遺言自体が無効となってしまうケースがあるので注意して作成する必要があります。

それぞれの作成方式において、注意すべき項目を紹介しましょう。

  1. (1)自筆証書遺言で注意すべきこと

    自筆証書遺言をする際に注意すべき項目は、以下のとおりです。

    • 全文を自分の字で書く

    自筆証書遺言は、すべて自分の字で書かなければ無効となってしまいます。録音した音声も無効となりますので、注意しましょう。ただし、平成31年1月13日以降からは法改正により、財産目録に関しては通帳のコピーやパソコンで作成して印刷したものでも認められるようになります。

    • 日付の記入や押印を忘れない

    自筆証書遺言には、日付の記入と署名および押印が必要です。もしも平成30年8月吉日と書いてあれば、無効となってしまう可能性が極めて高いので注意してください。ただし、書いた日を確実に特定できる表現であれば無効とはなりません。たとえば、「平成30年夏至」とあれば「平成30年6月21日」と特定できるので有効です。
    また、押印のし忘れにも十分に注意しましょう。

  2. (2)公正証書遺言で注意すべきこと

    公正証書遺言を作成する際に注意すべき項目は、以下のとおりです。

    • 証人として認められる人を指定する

    公正証書遺言をするには、2名の証人が必要です。しかし、証人にはだれでもなれるわけではありません。次に該当する人物は証人として認められないため、注意してください。

    • 未成年者
    • 相続人や受遺者(遺言書によって財産を受け継ぐと指定された人)
    • 相続人や受遺者の配偶者、直系血族(祖父母、両親、子ども、孫など)
    • 公証人の配偶者や親族、書記


    • 遺言を作成する間は退席しない

    公正証書遺言を作成している途中で、証人が席を外したケースでは、証人としての役割を果たしていないと判断される可能性があります。2名の証人は、公正証書遺言の作成が終わるまで、その場から離れないよう注意しましょう。

  3. (3)秘密証書遺言で注意すべきこと

    次に、秘密証書遺言を作成する際に注意すべき項目を紹介します。

    • 遺言書と封筒に同じ印を押す

    秘密証書遺言の場合は、遺言書の本文に押す印と、封かんした際に押す印が異なると、無効になる危険があります。よく確認してから押してください。

    • 自筆の署名をする

    自筆証書遺言同様、秘密証書遺言では、自筆の署名はもちろん、日付がなければ無効となる危険があります。たとえ本文を代筆してもらったとしても、署名だけは自分で行いましょう。

3、まとめ

せっかく今後のことを深く考え、遺言書を作成しても、不備があるせいで遺言自体が無効となれば、冒頭の裁判のように、親族間のトラブルが発生するどころか、激化してしまう可能性もあるでしょう。

遺産の内容によっても選ぶべき遺言の種類は異なります。できるだけトラブルにならない遺言書を作成したいときは、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士へご相談ください。遺言についての知識を有する弁護士が誠心誠意、アドバイスさせていただきます。当事務所は、税理士法人との連携もあるため、税制上も配慮した相続の対応が可能です。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています