義父の介護をした長男の妻も相続財産がもらえる!? 特別寄与料について解説

2019年12月02日
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義父の介護をした長男の妻も相続財産がもらえる!? 特別寄与料について解説

近年、平成30年7月には民法の一部である相続法の分野を約40年ぶりに改正する法律(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)が成立しました。

この改正相続法では、義父の介護をした長男の妻も一定の要件のもとで特別寄与料を請求できる権利を有することを規定しています。

本コラムでは、相続法改正で新設された「特別寄与料」の制度についてベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説していきます。

1、特別寄与料とは

  1. (1)特別寄与料とは

    特別寄与料とは、相続人以外の親族が被相続人の療養看護などを行った場合、一定の要件のもとで特別寄与者の貢献に応じて相続人に対し支払いを請求できる金銭のことをいいます。

    たとえば被相続人には長男と長女がいたものの、長男が死亡して長男の妻がひとりで被相続人(義父・義母)の介護をしてきたケースで考えてみます。
    従来の法律では、長女は相続人として相続財産を取得できるのに対して、長男の妻は相続人ではないので相続財産の分配を得られず不公平であるという問題がありました。その上、このケースでは長男が死亡しているので、長男夫婦に子どもがいなければ長男の妻にとって金銭的に全く報われない結果になりました。

    しかし、改正相続法では、一定の要件を満たせば長男の妻は相続人である長女に対して相続開始後に「特別寄与料」を請求できるようになりました。
    「特別寄与料」の制度が創設されたことで、相続人以外の親族が介護などで貢献した分だけ報われ、公平が図られる可能性が高くなりました。

  2. (2)いつから施行される?

    平成30年7月に成立した改正相続法の施行期日は、原則として令和元年7月1日からです。一部施行期日が異なる制度もありますが、特別寄与の制度については原則どおり令和元年7月1日に施行されています。
    そのため令和元年7月1日以降に開始した相続については特別寄与の制度の適用がありますが、これより前に開始した相続については適用がないので注意が必要です。

2、特別寄与は寄与とどのように違う?

特別寄与と似た制度として、民法で以前から認められている「寄与」の制度があります。
特別寄与と寄与は、どのように違うのか解説します。

  1. (1)寄与とは?

    寄与の制度は、民法に規定があります。

    民法904条の2
    共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。


    寄与分が認められた共同相続人は、寄与分を考慮して算出した相続財産から相続分と寄与分を受け取ることができます。

  2. (2)特別寄与と寄与の違い

    特別寄与は、主に次のような点で寄与と違いがあります。

    ① 請求者の違い
    特別寄与は「相続人以外の親族」に認められる制度ですが、寄与は「相続人」に認められる制度です。

    ② 請求可能範囲の違い
    特別寄与料は、被相続人に対して「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」によって被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与があった場合に請求できます。
    一方、寄与は、「被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」によって被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に請求できます。


    つまり、特別寄与は、寄与より限定された労務の提供の範囲でのみ請求が許されます。たとえば寄与では財産上の給付をした場合にも請求できるのに対し、特別寄与では財産上の給付をしても請求できません。このような違いは、特別寄与が相続人以外の親族に特別に認められたものであるため、限定的に解しトラブルを最小限に抑えるためといえます。

3、特別寄与料の請求が認められる要件とは?

特別寄与料の請求は、次の要件をすべて満たす場合に認められます。

  1. (1)被相続人の親族であること

    特別寄与料の請求ができるのは、被相続人の親族だけです。親族とは、6親等以内の血族と配偶者と3親等以内の姻族(配偶者の血族と血族の配偶者)をいいます。
    ただし親族でも、相続人や相続放棄者や相続欠格に該当する者や相続廃除をされている者は特別寄与料を請求できないとされています。
    被相続人の子どもの妻は3親等以内の姻族にあたるので、特別寄与料を請求することが可能です。
    しかし、被相続人の友人や近所の住民などは、どんなに介護に貢献しても特別寄与料を請求することはできません。

  2. (2)無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと

    特別寄与料の請求は、無償で療養看護その他の労務の提供をした場合にのみ認められます。
    これは被相続人の介護や被相続人の事業を無償で手伝った場合など、相続人でないという形式的な理由で相続財産の分配を受けられないことに対する不公平感が特に強いためです。

  3. (3)被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしたこと

    特別寄与料の請求は、被相続人の療養看護などをしたことによって被相続人の財産の維持または増加に貢献した場合に可能です。
    この要件については、特に長年にわたって介護をした場合には、介護サービスの利用料などが節減されることになるので認められやすいと考えられます。

4、特別寄与料の請求期限はある?金額はどう決める?

  1. (1)請求期限に注意

    特別寄与者が相続開始および相続人を知ったときから6ヶ月を経過した場合には、特別寄与料の請求が認められなくなります。また、特別寄与者が相続開始を知らなくても相続開始から1年を経過した場合にも請求が認められなくなります。
    特別寄与者は被相続人の死亡を知ることができるケースが多いことや、相続人にとって早期に権利を確定させる必要性があることからこのような短い請求期限が設定されています。

  2. (2)特別寄与料の金額の決め方

    特別寄与料の金額は、まず特別寄与者と相続人との間の話し合いで決めます。
    しかし、話し合いで合意できないときや話し合いができないときには、最終的には申し立てを受けた家庭裁判所が金額を決めます。家庭裁判所は、寄与の時期・方法・程度や相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の金額を決めることになります。
    なお、特別寄与料は、相続人が複数いる場合には原則として法定相続分に応じて負担します。ただし、相続人の一人又は複数を選択して請求することもできます。
    また、特別寄与料の金額は、被相続人の相続開始時の財産の価額から遺贈の価額を控除した金額を超えることができません。

  3. (3)特別寄与料があるときの相続額の計算方法

    たとえば被相続人の財産6500万円を被相続人の配偶者Aと子どもBと子どもCが3分の1ずつ相続し、高齢のAの代わりに被相続人の介護をしてきたBの妻Dに特別寄与料を500万円支払うことに合意したとします。
    この場合、法定相続人ABCの相続額は、相続財産6500万円からDに支払う特別寄与料500万円を除いた6000万円を相続分に応じて計算します。

    ちなみに法定相続分は、被相続人の配偶者であるAが2分の1で被相続人の子どもBとCは4分の1ずつです。
    そのためAは6000×1/2=3000万円、BとCは6000×1/4=1500万円ずつ相続することになります。

5、特別寄与料に税金はかかる?

特別寄与制度の創設などの民法改正に伴い、税制改正も行われています。
特別寄与料については、税法上被相続人から遺贈によって取得したものとみなされ「相続税」が課税されることになりました。
特別寄与料に関する相続税の申告・納付期限は、特別寄与料が確定してから10ヶ月以内となっているので注意する必要があります。
なお、特別寄与料を支払った相続人に関しては、相続税の課税価格から特別寄与料を控除して税額を計算します。

6、特別寄与料に関するご相談は弁護士に

特別寄与の制度は施行されたばかりで、実務上の運用には困難が伴うことも予想されます。
また、特別寄与料を請求しても相続人が認めてくれなかった場合には、どのような証拠があれば家庭裁判所に認められやすいのかといったこともなかなかご自身では判断できないことも考えられます。
ご自身だけでは判断できないような場合でも、弁護士であればご相談者さまにとって有利になる証拠収集のアドバイスや相続人との交渉などを行うことができます。
特別寄与料は請求期限が短いので、できるだけ早期から弁護士に相談することが重要です。

7、まとめ

本コラムでは、特別寄与料についてご説明していきました。まだ運用には困難が想定される制度であることから、特別寄与料に関してお悩みの際には、ぜひ早めに弁護士までご相談ください。
ベリーベストグループには税理士も所属しており、相続問題をワンストップでトータルにサポートすることができます。相続問題で悩みを抱えている場合は、一度、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています