未成年の子どもが万引きをして、窃盗罪で逮捕されてしまったときの対応とは?
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広島県警が発表している資料によると、平成29年中に検挙・補導された非行少年の総数は1319人であり、うち、刑法犯として検挙された14歳から20歳未満の子ども(刑法犯少年)は1112人もいたことがわかっています。さらに刑法犯少年の都道府県別少年人口比で換算すると、全国ワースト10位であり、広島県内で非行に走る子どもは依然多いといえるでしょう。
また、広島県内で検挙された刑法犯少年の内訳をみると、「万引き」で検挙された子どもがもっとも多く、刑法犯少年の35.4%を占める点は見逃せません。なんと、394名の少年が万引き犯として検挙されているのです。
万引きは「たかがこれくらい」「子どもがすることだから」と軽視される風潮があるようです。しかし、万引きもまた、刑法に規定された「窃盗」罪というれっきとした犯罪行為です。「少年院」送致となる可能性もあるでしょう。
ここでは、14歳以上の子どもによる万引き事件を主軸にしながら、窃盗罪の概要、窃盗罪における少年事件の流れ、窃盗癖の治療法などについて、広島オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、窃盗罪の定義や罰則について
万引きは「窃盗罪」の手口のひとつです。刑法41条では「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と定めていますが、14歳以上で未成年者が万引きを行い、逮捕されるケースも少なくありません。
そこでまずは、窃盗罪についてしっかりと理解しておきましょう。
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(1)窃盗罪の定義
窃盗罪は刑法第235条に規定されています。
刑法の条文には「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とする」ことが明記されています。
「他人」とは、自らを除く他人が広く対象となります。例外として、親・兄弟姉妹・子どもなどの親族は「親族相盗例」によって刑罰が免除されることがあります。一般的に、万引きの被害者となる店舗は、明らかに「他人」だといえるでしょう。
次に「財物(ざいぶつ)」とは、金銭・物品などのような財産的価値を持つモノを指します。万引きのケースにおける「財物」は、店舗が所有する商品です。
そして「窃取(せっしゅ)」とは、意思に反してひそかに盗み取るという意味を持ちます。万引きでは、購入していない商品を持ち去ることを店舗側が許していないので、「窃取」が成立します。
窃盗という犯罪は「他人のモノをひそかに盗み取る」ことすべてが該当します。つまり、本人しか価値を感じないモノや、覚せい剤・けん銃などのように所持が禁止されている禁制品であっても、他人のモノを盗み取れば窃盗の罪に問われます。
また、形のあるモノだけでなく、「管理可能なモノ」である「電気」も財物とみなすことが示されています。つまり、「許可を得ず、店舗の電源を勝手に借りて、スマホの充電をした」というケースも窃盗になりえるわけです。
ただし、「意思に反して」ですから、被害者から金品を預かる、被害者をだまして自ら金品を差し出させるなどの行為は、横領や詐欺に該当し、窃盗にはなりません。 -
(2)窃盗罪の罰則
窃盗罪の罰則は、刑法第235条に「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。
以前は「お金がないからこそ窃盗をはたらくのだから、罰金刑を科すのは妥当ではない」と考えられており、懲役刑しか規定されていませんでした。ところが、近年では、財布にお金が入っているのに、スリルを求めて病的に万引きを繰り返してしまうケースが増加したことなどから、平成18年の改正によって罰金刑が新設されました。これにより、成人が窃盗で逮捕された際は、より起訴されやすくなった傾向があるようです。 -
(3)窃盗罪の時効
窃盗罪の時効は7年です。「万引き」も、窃盗罪の手口のひとつにすぎません。よって、万引きの時効も7年となります。つまり、窃盗を犯したその日から7年が経過すると、検察官は公訴を提起することができなくなります。
2、窃盗罪と逮捕の関係
「窃盗」罪は、全刑法犯の発生件数のうち7割以上を占める犯罪です。警察の捜査や被害者・目撃者による確保などによって逮捕に至る事件も多いことから、窃盗罪と逮捕は密接な関係にあります。
ここでは、窃盗罪と逮捕の関係について触れておきましょう。
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(1)「現行犯逮捕」される場合
多くの窃盗事件は「現行犯逮捕」をきっかけに発覚します。
「現行犯逮捕」とは、犯行が行われた時点や、犯行直後に、身柄を確保されることです。犯行時や犯行直後に身柄を抑えられる現行犯逮捕では、捜査を尽くさなくても犯人が明らかです。通報によって駆けつけた警察官はもちろん、その場に居合わせた被害者・目撃者などの一般人によって身柄を拘束することが許されています。これを「常人逮捕」や「私人の現行犯逮捕」と呼びます。
特に、スーパーやコンビニなどでの万引き、路上でのひったくりなどは現行犯逮捕されるケースが多い手口です。万引きでは、主に店舗の経営者や従業員、警備員などによって逮捕されることが多くあります。 -
(2)通常逮捕される場合
窃盗の現場で誰にも見つからなかったり、追っ手を振り切って逃走したりした場合は、のちの捜査によって犯行が発覚し、逮捕されることがあります。
後日、逮捕に至るケースは「通常逮捕」と呼ばれていて、捜査資料をもとに裁判所から逮捕状の発付を受けて行われる逮捕方法です。逮捕状がいつ出るのかなどは、捜査の進展具合によるため、具体的に、犯行後、いつになったら逮捕されるのかわかりません。
たとえば、万引きでは、防犯ビデオカメラの映像・画像や、販売記録などから犯人が特定された場合に通常逮捕されることがあります。その他の手口では、ひったくりが追っ手を振り切って逃走したあと、犯行現場から遠く離れた場所で発見された場合や、空き巣が指紋などの鑑識資料によって犯人特定に至った場合などにおいて、通常逮捕されます。
3、少年が万引き事件を起こした場合
満14歳以上の未成年が万引きして検挙されたケースと、成人が万引きを起こして逮捕されたケースでは、やや手続きが異なります。
なお、成人が逮捕された場合は次のような刑事手続きを経ることになります。
- 「逮捕」による身柄拘束。(48時間)
- 「送致(そうち)」後の身柄拘束。(24時間)※ここまでは弁護士以外の人物とは面会禁止
- 「勾留(こうりゅう)」の決定。(原則10日間・延長で最大20日間)
- 起訴後の「被告人勾留(ひこくにんこうりゅう)」。(刑事裁判が結審するまで)
「送致(そうち)」とは、事件と事件を起こしたと思われる本人を、警察から検察に送ることを指します。「勾留(こうりゅう)」とは、捜査などのために身柄を引き続き拘束することです。送致・勾留が続けば、逮捕から最大23日間は、日常に戻ることができなくなります。
ここまでが成人のケースですが、14歳以上の未成年者が事件を起こして検挙された場合も、基本的には逮捕・勾留請求までは同じ手続きを踏むことになります。逮捕後の捜査中は、外部と連絡をとることや、家族との面会が禁じられる点も、成人・未成年とも変わりません。
ただし、14歳以上の未成年者は、勾留の決定後から成人とは異なる手続きを受けることになります。
勾留請求が認められたあと
- 成人:警察に身柄が戻されて再び警察署の留置施設で勾留
- 14歳以上の未成年者:少年鑑別所に留置されるケースも
勾留後に行われる検察の措置
- 成人:検察官が起訴の必要性を検討。起訴、不起訴を決定し、起訴されれば刑罰の必要性を問う刑事裁判が開かれる。
- 14歳以上の未成年者:勾留期間が満期を迎えるまでに家庭裁判所へ送られる。家庭裁判所が「審判」の必要性を検討。必要に応じて審判が行われる。
家庭裁判所で行われる「審判」とは、少年を更生させるために最適な処遇を、非公開の場で決定する手続きです。審判の結果によって、少年院送致・保護観察などの保護処分を受けるほか、不処分によって教育的な働きかけを行うにとどまる場合があります。
また、審判を開くまでもなく教育的指導だけで更生が可能と判断されれば、審判が不開始となることもあります。
未成年の子どもが刑法に触れる行動をした場合、警察や検察、さらに家庭裁判所は、少年の非行を更生させる目的で、捜査およびその後の対応を決めていきます。刑罰を科すのが目的ではないため、殺人などの重大事件でない限り、刑事裁判にかけられることはほとんどありません。
4、少年による万引き事件で弁護士を選任するメリット
少年が万引き事件を起こしてしまった場合、その家族としては、できるだけ将来に影響がないよう、少年への処遇が軽くなることを望むでしょう。その場合は、早急に弁護士に相談して、適切なサポートを受けましょう。
少年による万引き事件で弁護士を選任するメリットについて解説します。
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(1)不当な扱いを受けることを予防できる
少年は、家族や友だちなどとの関係を気にかけて、うその供述をしたり、捜査員の問いかけに迎合したりする特性があります。特に少年による万引きは、複数犯や誰かの指示などで犯すことが多い傾向があり、真の供述が得にくいものです。少年の特性を理解していない捜査員が取り調べなどを行う可能性も否定できず、供述の変遷などにいら立ち、少年が不当な扱いを受けてしまう可能性があります。
特に、逮捕から送致、勾留が決まるまでの間は、家族でも面会ができなくなります。弁護士を選任していれば、面会して本人の気持ちを聞き、精神的にも寄り添うことができるでしょう。さらには、取り調べの状況を記録する、不当な扱いに対する抗議をするなどの弁護活動を通じて、捜査機関をけん制することが可能になります。 -
(2)早期釈放や処分の軽減が期待できる
家族である少年が万引き事件の容疑者として逮捕されてしまえば、たとえ窃盗の事実があったとしても「早く釈放させてあげたい」と望むものです。身柄の拘束が長期化すれば、学校などへの影響も気になるところでしょう。
成人の窃盗事件であれば、示談によって早期釈放・処罰の軽減を図ることが、王道ともいえる、早期釈放を実現する方法です。しかし刑罰を科すことがない少年事件では、示談は成人事件ほど、有効にはたらきません。ただし、示談が成立し、被害者も許していて、本人が反省していることなどがアピールできれば、勾留などの長期にわたる身の拘束を回避できる可能性は高まります。
ただし、少年事件で検挙された際の早期釈放は、示談の成立以上に、本人の行状や性格、家族などの家庭環境が健全であることが重要視されます。よって、逮捕後の捜査を行う際も、監護者が責任を持って出頭させることが約束できれば、早期釈放の可能性が高まるでしょう。また、処分を軽減するには、真剣に反省していることに加えて、再犯に陥らないための対策を講じていることが重要です。
クレプトマニア(窃盗症)に陥り、スリルを求めて万引きを繰り返す子どもはもちろん、いじめなどによって万引きを行っていた子どもには、専門医による治療やカウンセリングに積極的に取り組むことこそが真の更生へとつながります。万引きは「初発型非行」とも呼ばれていて、繰り返すうちに罪悪感が薄れ、犯行がエスカレートする傾向があるともいわれています。なるべく早く手を打つ必要があるでしょう。
弁護士は、家族一丸となってカウンセリングに取り組んでいることなどを裁判官に示すことができます。家族ではない弁護士によって、事実がアピールされることによって「すでに更生に取り組んでいる」と評価される可能性が高まります。その結果、処分が軽減される可能性があるでしょう。
5、まとめ
今回は、14歳以上の子どもが万引き事件を起こした場合の対応を主軸にして、窃盗罪の概要や、少年事件の処理の流れなどを解説しました。
少年事件は、成人事件のように、刑罰を科すことを目的としていません。お店によっては、本人の将来を懸念して、注意で済ませてくれるケースも少なくなく、「軽い犯罪で、バレても大事には至らない」と誤認することが多くあります。
しかし、少年といえども成人と同じく逮捕される可能性はあります。その場合は、将来への影響も少なからずあるでしょう。親子ともに軽視することなく、素早く弁護士を選任して早期釈放と処分の軽減、それから、環境の安定を目指す必要があります。
もし未成年の子どもが、万引き事件の容疑者として逮捕・補導された場合は、まずはベリーベスト法律事務所・広島オフィスにご相談ください。窃盗事件・少年事件に精通した弁護士が、みなさんを強力なアドバイスを行います。
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