【前編】子どもを置いて家出してしまった! 離婚するとき親権はどうなる?
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広島県が取りまとめている「平成29年人口動態統計年報(第46号)」によりますと、平成29年における広島県の離婚件数は4603件、人口1000人あたりの離婚率は約1.65でした。広島県の離婚率は、全国の離婚率1.70にほぼ近いということがわかります。
離婚するときは、配偶者と話し合って決めなければならない条件がいくつもあります。そのうち、配偶者ともめやすく話し合いがまとまりにくい条件のひとつが、親権です。しかし、離婚を決意したのち配偶者と別居している方は多く、話し合いが難しくなるケースがあるでしょう。なかには、さまざまな事情により子どもを置いて家出してしまったものの、親権が欲しいと考える方は少なくありません。
ここでは、「子どもを置いて家出したものの親権は欲しい」という方のために、裁判所が親権を決める際の基本的な考え方から親権をとるために取るべき方法について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、親権について解説
まずは、民法で定められている「親権」の基本的な事項について説明します。
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(1)親権は親の権利と義務
親権とは、未成年の子どもを監護・養育するために、親に認められた子どもに対する権利および課せられた義務のことをいいます。
親権は、「身上監護権」と「財産管理権」の2つから構成されています。
「身上監護権」とは、子どもの住居を決める権利(居所指定権)、しつけのために子どもをしかる権利(懲戒権)、子どもが職業に就くことを許可する権利(職業許可権)、子どもが行う一定の行為についての代理権(子の代理権)に細分されます。このうち、懲戒権については近年増加している子どもへの虐待事件を受け、民法からの削除を含めた見直しが検討されています。
「財産管理権」とは子どもの財産を管理し、必要に応じ財産に関する子どもの法律行為を代理または同意を与える権利のことです。
また、「監護権」や「監護者」という言葉を親権の解説などでよく見かけるかもしれません。この監護権とは、上記のうち「身上監護権」のみを示す言葉であり、身上監護権のみを持つ者を監護者と呼ばれています。 -
(2)離婚後の親権は父母の一方のみ
民法第818条3項では、婚姻期間中の親権は母親と父親が共同して行使する「共同親権の原則」を定めています。しかし、離婚した場合は民法第819条によって「その一方を親権者と定めなければならない」と規定されています。
なお、離婚するために必要な離婚届には子どもの親権者を記入して提出する必要があります。つまり、離婚届を提出するためには、あらかじめ親権について話し合い、決定しておく必要があるということす。 -
(3)親権者でなくても監護者になることがある
離婚後したあとの父母の一方は親権者として、子どもの身上監護権と財産管理権を併せ持つことが原則です。
ただし、必ずしも親権者が子どもの身上監護権と財産管理権を併せ持ち行使する必要はありません。たとえば、親権者が長期の海外出張や入院などで子どもの世話をすることができない場合は、子どもの父母のうち親権を獲得しなかったいずれかが子どもの監護権者として子どもの世話をすることが認められているのです。
2、離婚までのプロセスは主に4パターン
前提として、離婚そのものは結婚と同様、夫婦間で合意さえあれば自由にできます。
ところが、離婚では親権のほかに面会交流、養育費、財産分与、慰謝料、年金の分割など、離婚までに決めておくべきさまざま条件が出てくるものです。親権などの離婚条件についてお互いの主張や意見が対立している場合は、まとめるために向けて家庭裁判所など第三者に入ってもらうことになります。家庭裁判所による介入の有無および介入の方法によって、離婚の方法は4パターンあります。
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(1)夫婦での協議
離婚に関する条件などを基本的に夫婦間で話し合い、合意に至れば役所に離婚届を提出し終了します。場合によっては親族などがあいだに入って調整することもあり得ますが、費用もかからず、裁判所などに赴く必要もなく、もっとも簡単な離婚方法といえます。
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(2)調停
どうしても夫婦間での話し合いで離婚条件についての結論を得られない場合は、家庭裁判所へ調停を申し立てることになります。
離婚調停では、調停委員が夫婦のあいだに入って話し合いを進めます。顔を合わせることなく話し合いを進めることができる点が大きなメリットです。ただし、調停委員は裁判官ではないため夫婦に対し強制力のある判決などを出すことはできません。
調停で離婚および離婚条件の合意に至ると、その内容にもとづき「調停調書」が作成されることにより離婚が成立します。この調停証書が作成されることにより、合意したはずの財産分与や年金分割の不履行に対して強制執行が可能になります。 -
(3)審判
調停において離婚することについては夫婦双方が合意しているものの、離婚条件が一部折り合わず、最終的な合意に至らないことがあります。この場合、離婚することが妥当と家庭裁判所が判断すると、夫婦の離婚を認める審判を出します。
ただし、離婚の審判が出ても2週間以内に夫婦の当事者一方が異議の申し立てを行うと、離婚の審判は無効となります。このためか、審判による離婚はきわめてまれです。 -
(4)裁判
調停で話し合いが付かない場合は、「調停不成立」として裁判に移ります。なお、日本では離婚について「調停前置主義」がとられており、調停を経ることなく裁判に移行することはできません。
裁判では、調停と異なり主張について証拠にもとづいた客観的事実の有無や、過去の判例など法的側面が重視されるようになります。裁判所の判決は強い法的拘束力を持ちますが、もし夫婦の一方あるいは双方が判決に対して不服の場合、高等裁判所や最高裁判所に上告することもできます。
後編では、子どもを置いて家出した場合親権はどうなるのか、裁判で争ったとき、親権はどのような条件で決定されるのかについて、広島オフィスの弁護士が解説します。
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