夫が生活費を渡してくれない「経済的DV」をしてくるとき、離婚する方法を解説
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平成29年5月、ドメスティックバイオレンス(DV)被害により避難中だった女性の住所を広島市職員が加害者の夫に伝えてしまったという事件が起きました。女性に被害はなかったものの、市は転居費用・慰謝料を支払うことで示談が成立したという報道がありました。
DV被害者からすれば、加害者から隠れていることが死活問題となりますので、このような慰謝料・転居費用が成り立つのです。
暴力を受けるだけではなく、経済的DVも知られるようになってきました。まだまだ暴力的DVよりも緊急性がないとみられがちですが、こちらも死活問題になってくるでしょう。夫が経済的DVを働いているのなら、離婚を考えるのも当然の流れと思われます。では、経済的DVを理由とした離婚ができるのか、どう進めればよいかを、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、経済的DVとは?
いわゆる大黒柱と呼ばれる側が自分勝手な理由で生活費を渡さないことを、経済的DVといいます。夫・妻ともに加害者・被害者になりえる可能性がありますが、男性が働き女性が専業主婦となることが求められるケースが多い現代においては、ほとんどが「夫が加害者で女性が被害者」となると考えられます。
生活費を渡さない理由を問えば、さまざまな回答があるでしょう。どのような理由をつけていたとしても、正当な理由ではなければ経済的DVとして認められます。
2、経済的DVが理由で離婚は可能か?
本来、離婚は双方の合意がなければ成立させることはできません。しかし、あなたが離婚したい理由が民法第770条1項に定められた「法定離婚事由」に該当すれば、相手が合意しなくても裁判を通じて離婚が認められます。ただし、法定離婚事由に該当する行動をした「有責配偶者」側から離婚を求めても認められません。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
経済的DVは、「悪意の遺棄」もしくは「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性があります。もしその事実が証明できれば、相手が離婚を拒んでも裁判や調停で離婚できる理由となるでしょう。場合によっては、浮気したうえで経済的DVを行う配偶者が存在します。その際は「配偶者の不貞な行為」も当てはまるでしょう。
3、離婚の際、請求できる金額とは
離婚をする際、相手側に請求できるお金があります。今後の生活のためにも、あなたに権利があるお金は受け取っておいたほうがよいでしょう。
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(1)慰謝料が請求可能なケース
経済的DVのほか、相手が不貞行為をしていたなど、相手側が「法定離婚事由」に該当する行為をした「有責配偶者」であれば、慰謝料の請求が可能です。慰謝料とは、相手が不法行為をしたことによりあなたが受けた精神的苦痛を回復するために請求できるお金です。
慰謝料を得るためには、「生活費を渡さないなどの経済的DVがあった」ことなどをはじめ、配偶者が有責配偶者であることを証明できる証拠を提示する必要があるでしょう。 -
(2)婚姻費用分担請求が可能なケース
経済的DVで離婚を考え、その準備のために別居したい……と考えていたとしても、経済的なひっ迫を受けているとそれ自体が難しいのではないでしょうか。経済的部分だけでなく、身体的にもDVを受けているケースでは、逃げることもままならないと離婚自体をあきらめてしまう方は少なくありません。
しかし、そもそも民法第752条により「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」という定めがあります。また民法第760条には「夫婦は、その資産、収入、その他一切の事情を考慮して、婚姻から生じる費用を分担する。」と定められているのです。この条文では、夫婦の「生活保持義務」を指しています。
生活保持義務とは、養育費のときにも出てくるワードですが、自分と同等の生活を相手にも保持させる義務です。つまり、あまったお金だけを相手に渡せばいいという意味ではありません。自分が節約しなくてはいけなかったとしても、「相手を援助する義務がある」と法律で定められているのです。
さらにいえば、相手がどのような理由をつけてこようと、あなたには「婚姻費用分担請求」を行う権利があります。この「婚姻費用分担請求」は主に別居中の配偶者に対して、生活費を渡すことを義務付けるときに出てくる権利です。それを理由に別居したとしても生活保持義務としての婚姻費用分担請求が行うことができます。まずは別居して避難してから、離婚について話し合いを進めることは不可能ではありません。 -
(3)財産分与請求が可能
経済的DVの離婚であっても、他の離婚と同じように夫婦で婚姻期間中に築いた財産については、離婚時にきちんとわけてもらえることができます。基本的には2分の1ずつ分割することになるでしょう。
たとえあなたが専業主婦であっても、これは認められる権利です。中には持っている財産を隠して、お金を取られないようにしようとする方もいます。そのような場合も弁護士であれば、「弁護士会照会制度」を使って相手の預貯金などを調査することできることもあります。 -
(4)未成年の子どもがいれば養育費の請求が可能
経済的DVを理由にした離婚であっても、あなたが子どもを引き取るのでしたら、養育費を請求することは正当な権利です。裁判をしてでも、子どもの将来のために養育費は獲得したほうがよいでしょう。
その際、交渉が難しい場合やより条件のよい養育費を得るためは、弁護士に相談することがおすすめです。高校までの養育費と大学費用までの養育費とでは、かなりの金額の違いとなります。大学がもっともお金を必要としますから、この費用を出してもらえるかの交渉は重要となってくるでしょう。子どもの将来に関わってくることなので、あきらめずに取り組んでほしいところです。
4、経済的DVを理由に離婚するまでの手順
経済的DVを法的離婚事由として離婚をする場合、どのような段階を経ていくのかについて知っておきましょう。
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(1)経済的DVの証拠集め
経済的DVを理由に離婚する場合、経済的DV状態にあることの証拠を集めることが大切です。これを証明するのは、訴える側にあります。
夫が収入を独り占めしている点がわかるように、証拠を押さえておきましょう。ギャンブルなど無駄遣いをしているのなら、その証拠を集めるように努めてください。相手に生活費を要求して拒否されたやりとりの録音データを保存しておくこともおすすめです。あなた自身が働けないことの証明や、渡されたお金だけでは生活が成り立たないということを証明することも有効になると考えられます。
どのような証拠が裁判や調停で有効なのかは、弁護士に相談いただければアドバイスできます。 -
(2)離婚協議
証拠を集めたのちに、まずは話し合いでの離婚を目指しましょう。これを協議離婚といいます。ただ離婚するだけならば、この段階で終わる可能性もあります。協議離婚で決めた養育費、慰謝料、婚姻費用分担請求などは口約束だけにはせず、きちんと「離婚協議合意書」という書類にまとめておくことをおすすめします。後で話が違うとならないために、ぜひ作成しておいてください。
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(3)離婚調停
普段から生活費を渡さないくらいの経済的DV夫の場合、おとなしく請求に応じることはないでしょう。そのような場合は、家庭裁判所で「離婚調停」の申し立てを行うことができます。家庭裁判所では「調停委員」を介して、離婚条件の話し合いを進めることになります。婚姻費用分担調停も同時に行えるので、ぜひ申し立ててください。
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(4)離婚裁判
経済的DVの場合、相手方が金額の支払いを拒むことが多く、調停の話し合いでは解決できない可能性があります。調停で結論を出せないときは、離婚裁判を起こすことになります。離婚裁判では、双方の主張内容と提出した証拠をみて、最終的に裁判官が判決を下します。
5、経済的DVでの離婚を弁護士に相談するメリット
暴力的なDVに比べて、経済的DVは証明するのには難しい側面があります。夫側が生活費を渡さないからといって、妻側が働ける環境にあれば立証が難しくなることがあるためです。男女平等の世の中ですから、収入が逆転していた場合、生活費を渡さなかった夫側から金額を請求されることもありえます。現状経済的DVで困られているのでしたら、弁護士にアドバイスを求めることをおすすめします。
早い段階での相談が、今後離婚するにも慰謝料請求をするにもメリットが大きくなるでしょう。そのアドバイスも、離婚裁判経験が豊富な弁護士に依頼することで可能です。
いざ離婚をするにあたり、相手からのお金が望めない場合には生活保護などの公的支援を頼ることになります。そのような情報も弁護士からアドバイスすることができます。まずは相談することが大事でしょう。
6、まとめ
経済的DVは暴力的DVやモラハラ的DVとは違う、証明の難しさがあります。対応を誤ると、本来得られるべき金額ももらえないまま離婚となる可能性もあるでしょう。それどころか、努力したことによって、あなたがお金を支払う側になってしまいかねません。
そのような事態を避けるためにも、現在経済的DVで悩まれているときは、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスに相談ください。あなたが新しいスタートを切れるよう、全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています