DVから身を守るための接近禁止命令とは? 内容や手続きを広島の弁護士が解説

2020年09月02日
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DVから身を守るための接近禁止命令とは? 内容や手続きを広島の弁護士が解説

配偶者などからの暴力(DV)に悩みを抱えている場合、ひとりで何とかしようとせず、周囲や自治体などからサポートを受けることが大切です。

広島市でもホームページ上で「ひとりで悩まないで、相談してください」として、配偶者やパートナーから暴力を受けたときの相談窓口を紹介しています。

自らの身を守るために、裁判所から「接近禁止命令」をだしてもらうという方法があります。この記事では、接近禁止命令とはどんな命令なのか、命令をだしてもらうためには何をすればよいのかについて解説します。

1、接近禁止命令とは

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称:DV防止法)で定められた「保護命令」という措置のひとつです

保護命令には次の5種類があります。

  • 接近禁止命令
  • 電話等禁止命令
  • 被害者と同居する子どもへの接近禁止命令
  • 親族などへの接近禁止命令
  • 退去命令


  1. (1)申し立てができるのは誰なのか

    接近禁止命令は、被害者の申し立てによって、裁判所が加害者へくだす命令です。被害者の性別や国籍は問わないため、男性や外国の方がDVを受けた場合でも利用できます
    申し立ての主体はあくまでも本人なので、親族や友人などが代わりに申し立てることはできません。ただし弁護士が代理人となり申し立てをすることは可能です。

  2. (2)誰に対してどんな行為を禁止する命令なのか

    次のいずれかの人が「被害者の身辺につきまとうこと」「被害者の住居や勤務先などの付近をはいかいすること」を禁止します。

    • 配偶者
    • 事実婚の配偶者
    • 生活の本拠をともにする交際相手(同棲相手)
    • 上記の関係が解消される前から引続き継続して暴力・脅迫を受けている相手方


    婚姻中は暴力がなかったが離婚後に暴力が始まった元配偶者、同棲していない恋人、交際していない相手などは対象外です。
    ただしこれらの人の行為に対しては刑法が適用できるケースがあり、ストーカー規制法にもとづく警告や禁止命令の申し出も可能です

  3. (3)いつ申し立てができるのか

    申し立てできるのは、身体に対する暴力または生命・身体に対する脅迫を受けたときで、かつ今後もさらに暴力をふるわれて生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときです
    したがって、相手方が反省してすでに暴力をふるわなくなっている場合や、相手方が入院中で物理的に接近できなくなっているような場合は申し立てできません。

  4. (4)接近禁止命令の効果

    命令がでてから6か月の間、加害者は、被害者の身辺や住居などに近づくことができなくなります。これにより、加害者からの接触を防ぎ、自分の身を守ることができます。この間に新しい住居や仕事を探すことも可能でしょう。

    また命令発令後には警察の協力を得られやすくなります
    警察は基本的に民事不介入の姿勢をとるため積極的な協力は得られない場合がありますが、命令があると命令違反という犯罪のおそれが生じているため、警察も積極的な姿勢を示すのです。

    なお、ご自身の子どもや親族などへの接近、電話やメール、嫌がらせなども禁止してほしい場合は、ほかの保護命令をあわせて申し立てる必要があります。

2、接近禁止命令をだしてもらうための手続き

接近禁止命令をだしてもらうまでの流れは次のとおりです。

  • 事前の相談
  • 裁判所への申し立て
  • 本人への面接、相手方への面接(意見聴取)
  • 接近禁止命令


以下、各項目の手続きについて詳しく解説しましょう。

  1. (1)事前の相談

    申し立てにあたっては、原則として、事前に配偶者暴力相談支援センターもしくは警察への相談事実が必要です。

    配偶者暴力相談支援センターは、広島県の施設として「広島県こども家庭センター」(西部、東部、北部にあり)や広島市の施設として「広島市配偶者暴力相談支援センター」があります。連絡先や相談時間などの詳細は広島県や広島市のHPで確認できます。
    警察署は生活安全課などが担当です。まずは警察専用相談電話である「#9110」へ相談し、担当部署を紹介してもらってもよいでしょう。

    配偶者暴力相談支援センターや警察への事前相談を経ずに申し立てるには、公証役場で宣誓供述書を作成する必要があります。暴力・脅迫を受けた事情などについて記載した書面を作成し、公証人の面前で記載内容が事実だと宣誓し、署名・押印またはその自認をします。
    広島市には広島公証人合同役場(中区)をはじめとする公証役場があります。広島法務局のホームページなどから確認してください。

  2. (2)裁判所への申し立て

    申し立てをする裁判所は、ご自身か相手方の住居地、または暴力・脅迫があった場所を管轄する地方裁判所です。
    暴力の内容などについて詳しく記載した陳述書を作成して提出します。広島地方裁判所へ申し立てる場合の手数料は、収入印紙代1000円と郵便切手代2500円です。

    注意点としては、申立書は相手方へ送付されるため、現在の住所や実家の住所などを書かないようにする必要があります。以前の住所を書くなど状況にあわせた方法がありますので、裁判所で相談しましょう。

    陳述書以外には次のような資料も提出します。

    • 夫婦関係や同棲関係にあることを証明する資料(例:戸籍謄本、住民票、賃貸借契約書など)
    • 暴力・脅迫を受けた事実を証明する資料(例:診断書、負傷部位の写真など)
    • 相手方から今後も暴力などをふるわれ、身体・生命に重大な危害を受けるおそれが大きいことを証明する資料(例:当事者の関係性をよく知る第三者の陳述書など)
  3. (3)本人への面接、相手方への面接(意見聴取)

    申し立ての日または翌日頃には、被害者本人に対する面接がひらかれます。
    その1週間後頃に、相手方に対する面接(意見聴取)がおこなわれます。相手方の面接に同席する必要はありませんので、その日は裁判所の近くなどへ立ち寄らないようにしましょう。
    接近禁止命令をだしてもらうには、証拠資料などをしっかりそろえ、面接で深刻な被害状況を訴えることが大切です

  4. (4)接近禁止命令

    裁判官は陳述書や添付資料、面接の内容などを総合的に考慮し、接近禁止命令をだすか、却下するのかの判断をおこないます。
    早ければ相手方の面接日に接近禁止命令が言い渡されますが、決定までに時間がかかるケースもあります。相手方が面接に来なかった場合は命令書が書留送達で送付されます。

    一方、診断書などの証拠がない、何か月も前の暴行でいまは暴行されていないなどの場合は、申し立てが却下される可能性があります。
    却下の判断に不服がある場合は即時抗告の申し立てが可能ですが、最初の申し立てとは違った視点が必要になるため、弁護士へ相談したほうがよいでしょう

3、相手が接近禁止命令に違反したらどうなる?

接近禁止命令に違反した相手は逮捕される可能性があります。刑事罰も用意されており、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。
これを回避するためにも命令に従う人がいる一方で、命令に違反する人もいます。違反して近づいてくるようであれば迷わず警察へ通報しましょう。緊急の場合はすぐに逮捕もあり得ますが、そうでなくてもパトロールや職務質問などで対応してくれる可能性があります。

警察の対応に期待できない場合や、接近禁止命令以外に身を守る方法を知りたい場合、DVをする配偶者と離婚したい場合などは弁護士への相談も視野に入れましょう。

4、まとめ

接近禁止命令は、配偶者やパートナーから暴力・脅迫を受けている方を守るために、DV防止法にもとづき設けられている措置です。発令の間は相手方からの接近を防ぎ、安心して新しい生活へ向けた準備ができるでしょう。
ただし、裁判所に命令をだしてもらうには、証拠の準備や面接で適切な主張をすることが重要です。少しでも不安があるのなら弁護士のサポートを受けることも検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が力を尽くします。おひとりで悩まず、まずはご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています