詐欺師からお金を取り戻したい。詐欺事件の時効と、時効を中断させる方法とは?
- 損害賠償請求
- 詐欺罪
- 時効
令和元年における広島県内の特殊詐欺の被害総額は、約3億2000万円でした。「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」が社会問題となって久しいですが、現在でも多くの方が詐欺の被害にあっています。
詐欺の被害にあった方にとって、気がかりなのは「お金はかえってくるのか」という点と、「犯人を罰することできるのか」という点です。一般的に、犯罪には「時効」が存在します。時効が成立してしまうと、お金を取り戻すこともできず、犯人も罰せられないのではないか、と不安になられる方も多いでしょう。
本コラムではベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が、詐欺事件の「時効」について、刑事、民事の両方の側面から解説します。
1、詐欺事件の時効は?
ひとくちに「時効」といっても、刑事と民事によって、時効は異なります。
まず、刑事と民事のちがいから、解説いたします。
刑事事件とは、警察や検察などの公権力が、個人や法人などの「私人」に対して、捜査を行ったり逮捕したりする事件のことを指します。
刑事罰は、犯罪に対する「応報」と、犯罪の予防を主な目的として定められています。そのため、被害者の救済は、直接的には刑事罰の目的ではありません。
加害者が刑事裁判で有罪判決を言い渡されても、被害者にお金がかえってくるわけではないのです。
民事事件とは、個人間や法人間など、私人の間でおこるトラブルのことです。
詐欺事件においては、一般的に、加害者にとられたお金の返還を求めたり慰謝料を請求したりするためには被害者が加害者に対して民事裁判を起こす必要があります。
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(1)刑事の時効
刑事事件の時効は、正式には「公訴時効」のことを指します。
公訴時効とは、検察官が刑事裁判を起こすことができなくなる時効のことです。
公訴時効が成立すれば、被疑者が詐欺をはたらいたことが明らかであったとしても、検察官が起訴をすることができなくなり、刑罰に処することもできなくなります。
詐欺罪の公訴時効は7年となっています。詐欺事件が発生してから7年間は被疑者を起訴することができる、ということです。
詐欺事件の公訴時効は、「犯行が終わったとき」から計算が始まります。わかりやすい事例でいえば、「加害者が、被害者のお金を自分のものにした時点」から、時効の計算が開始されることになるのです。
刑事事件の公訴時効は、刑罰の長さや犯罪の結果によって異なります。詐欺は「人を死亡させていない15年以下の懲役禁固刑に該当する罪」にあたるために、公訴時効が7年となっているのです。ただし、詐欺の具体的な詳細によっては、詐欺罪ではなく別の罪に該当する可能性があります。その場合には、時効の年数も変動する可能性がありますので、ご注意ください。 -
(2)民事の損害賠償請求の時効
詐欺によって損害を被った場合、加害者に対して損害賠償を請求することができます。
損害賠償請求は、民法で規定されている不法行為による損害賠償請求権に基づいて請求します。不法行為の損害賠償請求権の時効は、被害者が被害の内容や加害者を知ってから3年、もしくは事件が発生してから20年のいずれかです。
「詐欺の被害にあったことに気付いたのが、詐欺から5年後だった」という場合には、被害に気付き犯人を知ってから3年後(詐欺の被害にあってから8年後)が、損害賠償請求の時効ということになります。詐欺の被害にあったことを知っているが、犯人はわからないという場合には、事件がおこってから20年が経過しないうちは損害賠償請求の時効が成立しません。 -
(3)詐欺事件における慰謝料の時効
詐欺事件の損害賠償では、加害者にだまされたことで被った損害金額のほか、精神的な苦痛への損害賠償である慰謝料の請求が可能なこともあります。その場合の時効も、不法行為による損賠償請求権の時効と同じであり、3年もしくは20年となります。
2、詐欺罪の損害賠償は、時効が成立したあとにも請求可能?
原則的に、詐欺で失ったお金を取り戻すためには、民事の時効の期間内に損害賠償を請求する必要があります。
ただし、「援用」や「完成猶予」「更新」によって、請求できる期間が延長できることもあります。
民事上の損害賠償請求と時効の詳細について、解説いたします。
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(1)損害賠償の請求に関係があるのは、民事上の時効
詐欺で失ったお金を取り戻す行為は、不法行為による損賠償請求権の行使ということになります。そのため、刑事事件の公訴時効は、直接には関係しません。
詐欺事件が発生してから7年が経過していても、被害者が詐欺の犯人を知らない、詐欺の被害にあったことを認識していなかったという場合には、詐欺事件が発生してから20年間は損害賠償請求が可能ということになるのです。
ただし、詐欺の加害者が誰であるかということを被害者が知っている場合には、時効は3年になります。3年のうちに請求を行わなければ、時効が成立してしまいます。そのため、詐欺の被害にあったことや加害者が誰であるかを知ったなら、早期の段階から損害賠償請求を行うことが重要になるのです。 -
(2)時効は、加害者が「援用」しなければ効果が生じない
不法行為による損賠償請求の時効が成立するためには、3年や20年などの年数が経過することのほかにも条件があります。
それは、年数が経過したあとに被害者が損害賠償請求を行った時点で、加害者が「時効だから支払いません」という意思表示をすることです。このことを、「時効の援用」といいます。もっとも、民法改正前の20年の期間は時効ではなく除斥期間とされており、援用をする必要はないので注意が必要です。
加害者が時効の援用をすることなく損害賠償を支払った場合、あとから「あれは時効だったから、損害賠償で支払った分を取り戻したい」と加害者が望んでも、損害賠償を取り戻すことはできないとされています。 -
(3)時効の完成猶予、更新
時効には、「完成猶予」や「更新」という仕組みが存在します。「完成猶予」や「更新」があった場合に、時効の進行が一時的に停止したり新たに時効が進行したりするのです。なお、時効の「完成猶予」や「更新」は、改正前民法においては「中断」や「停止」という概念が用いられていました。
つまり、時効成立寸前であっても、「完成猶予」ないし「更新」事由が存在すれば、時効が到来することを一時的に防いだり、新たに時効を進行させたりすることが可能になるのです。
「完成猶予」ないし「更新」事由には、具体的には以下のようなものがあります。- ① 被害者が催告を行う
- ② 被害者が損害賠償請求訴訟を提起する
- ③ 加害者が賠償義務を承認する
被害者の方が最も容易に行える手続きが、「催告」です。
催告とは、簡単な言葉でいえば、「請求」のことを指します。つまり、加害者に対して損賠償の請求をした時点で、時効の完成を猶予させることができるのです。
とはいえ、電話や口頭で請求をしても、証拠がなければ「請求を受けていない」と主張されるおそれがあります。そのため、損害賠償を請求するときには、内容証明郵便で請求文書を作成して送付することが確実な手段となります。その際には、加害者が郵便を受け取ったことを記録するため「配達記録」などの制度を利用することで、より確実に記録がのこせるでしょう。
また、加害者が、賠償しなければならないことを承認した場合は時効の更新事由となります。たとえば、被害金額の返金に対して、「確かに支払います」というように約束をした場合は、賠償義務を承認したとみなされて、時効が更新します。ただし、この場合にも、「加害者が約束をしたこと」を証明できる記録の存在が重要になります。 -
(4)公訴時効と損害賠償請求の時効が無関係ではない事例
先述した通り、公訴時効は刑事に関係するものであり、損害賠償請求の時効は民事に関係するものです。
しかし、刑事と民事それぞれの時効は、必ずしも関係がないものではありません。公訴時効が成立してしまうことで、損害賠償請求が難しくなるという場合もあるのです。
一般的に、詐欺の事実や発覚してしまった加害者は、起訴されることを避けるために被害者との示談交渉を急ぎます。被害者との民事上の示談が成立した場合、刑事事件は不起訴や執行猶予になる可能性が高くなるからです。そのため、加害者としては実刑を言い渡されたり前科をつられたりするよりも、被害者に損害賠償を行うことを優先する場合が多いのです。
しかし、公訴時効が成立した場合には、刑事処分を受けて前科がついたり実刑に処せられたりするおそれがなくなります。つまり、加害者としては、被害者に損害賠償を行う積極的な理由も少なくなるのです。
これにより、加害者は示談交渉や損害賠償の請求に対して消極的になります。刑事事件の公訴時効が成立している間と比べて、損害賠償を請求するためには被害者の方から積極的に働きかける必要性が高くなるといえるでしょう。
3、時効が完成しそうな場合の対処方法
「詐欺の被害にあって、加害者の名前や連絡先を知っている」という場合には、事件の発生から3年間何もしなければ時効が到来します。相手が援用をしてしまえば、そのまま時効が成立してしまいます。
そのため、3年間が経過するまでに損害賠償の請求を行うことと、時効の到来が近くなっている場合には時効の完成猶予や時効の更新をさせることが、重要になるのです。
先述したように、加害者に対いて損害賠償の支払いを「催告」することで、時効の完成を猶予させることができます。また、「裁判上の請求」をすることで、時効を更新させることもできます。
催告や裁判上の請求の方法としては、具体的には以下のようなものがあります。
- 加害者に内容証明郵便を送る
- 被害金額が60万円以下なら少額訴訟を申し立てる
- 被害金額が60万円を超えている場合は訴訟を申し立てる
内容証明郵便の送付であれば、郵便局などに行くことで、すぐに実行することができます。ただし、内容証明郵便には、法的な強制力は存在しません。郵便を受け取っただけの加害者が、損害を賠償してくれるとは限らないのです。
そのため、少額訴訟や訴訟の申し立ての準備も同時並行で進める必要があります。このとき、内容証明郵便は「催告をした」という事実を記録する証拠になるのです。
4、詐欺事件の時効が心配なら、弁護士に相談
詐欺事件の損害賠償請求の時効がもうすぐ成立してしまうという事態である場合は、速やかに弁護士に相談をしましょう。弁護士は法律の専門家であるため、個人で催告などを行う場合よりも、損害賠償の請求が成功する可能性が高まります。
弁護士に相談することには、具体的には以下のような利点があります。
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(1)時効の起算点、完成日を検討してもらえる
詐欺事件の時効の起算点は、事件ごとの異なる事情によって、解釈がわかれることもあります。
そのため、被害者が「時効が完成した」と考えていても、実はまだ時効が完成していないこともあります。その逆に、被害者が時効の計算を間違えて、損害賠償を請求しようと思ったらすでに時効が完成してしまっている……という事態がおこるおそれもあるのです。
弁護士に相談すれば、時効の計算を始める「起算点」の正確な日付や、時効が到来する時期などについて、判断してもらえます。かんちがいや計算ちがいのために損害賠償が請求できなくなる、という事態を防ぐことができるのです。
そのため、詐欺の被害にあわれて損害賠償の請求を考えている場合には、早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)訴訟が必要な場合は速やかに着手できる
損害賠償の請求は示談交渉によっても可能ですが、示談がまとまらなかったり、加害者が示談に応じなかったりする場合には、訴訟によって請求する必要が生じます。
損害賠償を訴訟で請求する手段としては、「少額訴訟」や「損害賠償請求訴訟」が存在します。
しかし、訴訟をするためには、訴状をはじめとした各種の書類を用意して記載する必要があります。また、加害者が詐欺をはたらいたり被害者がすでに損害賠償を請求していたりすることを示す、様々な書類も必要とされます。
これらの準備や裁判所での手続きは、慣れていない方がすると時間がかかったり不備が生じたりしてしまいます。特に時効が近づいている場合には、手続きに時間がかかったり不備が生じたりすることは深刻な問題になりえます。
弁護士は訴訟の経験が豊富であるため、書類の作成や手続きも速やかに行い、必要な証拠についてもアドバイスをしてもらえます。
そのため、時効が迫っている状態で訴訟を行う場合は、弁護士に相談して手続きなどを代行させる方が安全だといえるでしょう。 -
(3)弁護士が請求をすることで、加害者が速やかに支払いをすることがある
被害者が損害賠償をいくら求めても、加害者によっては全く応じない事例も多いです。
しかし、被害者が弁護士に相談した場合、弁護士の名義で加害者に対して督促状を送ることができます。
加害者としては、法律の専門家が介入したことで、訴訟や強制執行に発展する可能性をおそれます。たとえば、加害者が会社員である場合は、「強制執行がなされて、給与が差し押えられる」という事態になりえるためです。
会社員でない場合であっても、弁護士の名前が出ることで加害者が事態の深刻さを認識して、速やかに交渉に応じることも多いです。
そのため、弁護士に依頼することで、交渉に応じない加害者からも損害金額を請求できる可能性が高まります。
5、まとめ
詐欺による損害の賠償を加害者側に請求する場合の時効は、「詐欺により自分が被害にあった」「詐欺の加害者が誰であるか」という事実を知っているかどうかによって、起算日や年数が変わります。
時効の年数は最長で20年ですが、最短の場合は3年です。
損害賠償の請求においては、思わぬ手間や不備などが発生して、請求までに時間がかかる可能性があります。また、時効の起算日や年数の判断には法律の知識が必要となり、詐欺にあわれた被害者が個人で判断すると、かんちがいや計算ちがいによって時効の完成日を正しく把握できなくなってしまうおそれがあります。
時効が間近に迫っている場合には、速やかな対応が必要となります。弁護士に相談することで、時効について正しく判断して、適切な方法で督促を行い、より確実な方法で加害者に損害賠償を請求することができます。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、詐欺事件の被害にあわれた方の相談を、親身になって承ります。ご相談をいただけるタイミングが早いほど、弁護士が対応できることも増えます。詐欺の損害賠償の請求を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
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