家賃滞納者を強制退去させるには? 手続きの流れを弁護士が解説

2021年08月16日
  • その他
  • 家賃滞納
  • 強制退去
家賃滞納者を強制退去させるには? 手続きの流れを弁護士が解説

平成30年(2018年)の住宅・土地統計調査によると、同調査時点での広島県内における持ち家世帯率は61.3%(普通世帯1212000世帯に対して、持ち家に居住する主世帯742600世帯)で、全国平均(61.0%)に比べて0.3ポイント上回っていました。

家賃を滞納した入居者が賃貸物件にいつまでも居座った状態では、オーナーとしては賃料が得られず、機会損失がどんどん拡大することになります。

家賃滞納者が交渉によっても立ち退かない場合には、法律に則って、強制退去の手続きを早めに実施する必要があるでしょう。スムーズに退去を実現するためにも、早めに弁護士に相談しながら対応に着手することが重要です。

この記事では、家賃滞納者の強制退去を実現するための流れについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説いたします。

(出典:「平成30年住宅・土地統計調査結果の概要<広島県の概況>」(広島県統計局統計課))

1、家賃滞納者の強制退去には強制執行手続きが必要

家賃滞納者が賃貸物件からの退去を拒否している場合、合法的に家賃滞納者を強制退去させるためには、「強制執行」の手続きをとることが必要となります。

  1. (1)強制執行とは?

    「強制執行」とは、民事執行法という法律に基づいて、判決などで確定した権利内容を、裁判所を通じて強制的に実現する手続きのことをいいます。

    家賃滞納者を強制的に退去させる場合、開錠・鍵の交換・荷物の搬出などの作業が必要となります。これらのすべてが、強制執行では手続きの一環として行われるのです。

  2. (2)オーナー・管理会社がやってはいけないこと

    家賃滞納者の強制退去が実現できるのは、裁判所を通じた強制執行の手続きによってのみとなります
    逆に言えば、裁判所を通すことなく、オーナーや管理会社が賃借人に無断で強制的に明渡しを敢行したり、権利濫用的な手段を用いて賃借人に退去を迫ったりすることは認められておりません。そのような行為は、法律に触れて犯罪に該当する可能性もあるのです。

    家賃滞納者の強制退去を目的として、オーナーや管理会社がやってはいけない行為の例としては、以下のようなものがあります。

    • 賃借人に無断で開錠し、居室内に立ち入る行為
    • 賃借人に無断で居室の鍵を交換する行為
    • 賃借人に無断で居室内の家具などを搬出したり、処分したりする行為
    • 居室のドアなどに退去を要求する旨の張り紙を貼る行為
    • 賃借人に対して暴行や脅迫を用いて退去を迫る行為
    • 賃借人の居室付近に居座る行為
    • 深夜から早朝にかけて退去を迫る行為
    など

2、家賃滞納者との退去交渉の流れ

家賃滞納者の退去を交渉によって実現できれば、時間的・経済的なコストを節約することができます。
家賃滞納者との間で退去交渉を行う場合の流れは、おおむね、以下のようになっております。

  1. (1)管理会社を通じた退去要請

    まずは賃借人に対する警告として、管理会社を通じて家賃の督促を行い、滞納がこれ以上続くようであれば、賃貸物件から退去するように要請しましょう。

    この段階で賃借人が滞納家賃の支払いを再開するか、任意に賃貸物件から退去してくれれば、もっとも穏便に家賃滞納問題を解決することができます

  2. (2)内容証明郵便による賃貸借契約の解除

    管理会社を通じた催告や要請に対して賃借人が応じる姿勢を見せない場合には、賃貸借契約を解除して退去を迫ったほうがよいでしょう。

    なお、家賃の滞納があったとしても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があると、賃貸借契約の解除が制限されます。

    家賃滞納のケースでは、おおむね3か月間程度滞納状態が継続しており、その他にも特に事情がなければ、「背信的行為と認めるに足りない特段の事情がない」と評価されることが多い傾向にあります。
    そのため、3~4か月分程度の家賃滞納が確認された時点で、賃借人に対して、契約解除の旨を記載した内容証明郵便を送付するようにしましょう

  3. (3)代理人(弁護士)による退去交渉

    賃貸借契約が適法に解除された場合、賃借人が賃貸物件を占有する権限は失われます。
    この段階に至ったなら、代理人(弁護士)を通じて、法的な権利をバックに賃借人に対して退去を迫るのがよいでしょう。

    ただし、場合によっては、賃借人から退去までの猶予期間や未払い賃料の免除などの条件を提示されることがあります。
    その場合、訴訟に発展する場合のコストや、早期に退去を実現できることのメリットなどを天秤にかけたうえで、賃貸人側が一定の譲歩を行ったほうがよい可能性もあるのです

  4. (4)連帯保証人がいる場合には未払い賃料を請求可能

    賃貸借契約に関して連帯保証人(賃借人の親族・家賃保証会社など)が付されている場合、滞納分の家賃については、連帯保証人に対して全額の支払いを請求することができます。

    もし連帯保証人がいる場合には、連帯保証人に対して速やかに連絡をとり、滞納分の家賃の回収を図るようにしましょう。

3、家賃滞納者を強制退去させる手順

家賃滞納者との間での退去交渉が不調に終わった場合には、訴訟および強制執行の手続きを通じて、強制退去を敢行することになります。

  1. (1)建物明渡請求訴訟を提起する

    強制退去を実現するため、オーナーはまず賃借人に対して「建物明渡請求訴訟」を提起する必要があります。
    訴訟を提起するためには、以下のいずれかの管轄裁判所に対して、訴状を提出する必要があります(民事訴訟法第133条第1項)

    <建物明渡請求訴訟の管轄裁判所>
    1. ①被告(賃借人)の住所地等を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(同法第4条第1項)
    2. ②建物の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(同法第5条第12号)


    なお、訴額が140万円以下の場合には、地方裁判所と簡易裁判所のどちらにでも訴訟を提起することができます。
    これに対して、訴額が140万円超の場合には、地方裁判所に訴訟を提起しなければなりません。
    建物明渡請求訴訟の訴額は、「建物の固定資産税評価額の2分の1」となります。

    建物明渡請求訴訟では、明渡しを求めるオーナー側が、請求を基礎づける要件事実のすべてを主張・立証しなければならず、法律上の要件事実を踏まえた適切な主張・立証が要求されるため、弁護士に相談して対応することをおすすめいたします。

  2. (2)判決確定後、明渡しの強制執行を行う

    建物の明渡しを命ずる判決が確定したら、確定判決の正本を「債務名義」(民事執行法第22条第1号)として、裁判所に対して強制執行を申し立てることになります。

    申立ての際には、強制執行の費用として、裁判所に予納金を納付する必要があります。
    予納金額は裁判所によって異なりますが、建物明渡しの場合は8万円~10万円程度となりますが、事案や裁判所によって異なりますので、事前に確認するとよいでしょう。

    申立てが受理されると、裁判所書記官によって確定判決の正本に「執行文」(同法第26条第1号)が付与されて、強制執行の手続きが開始することになります

    建物明渡しの強制執行の大まかな流れは、以下のとおりです。

    ①執行官による明渡しの催告(同法第168条の2第1項)
    明渡しの断行に先立ち、執行官から賃借人に対して、引渡し期限を定めて「明渡しの催告」が行われます。
    引渡し期限は、原則として催告日から1か月です(同条第2項)。

    明渡しの催告が行われた後、実際に明渡しが断行されるまでの間に、賃借人が任意に退去する場合もあります。
    賃貸人としては、その方が手続きの費用負担を軽減できるので、賃借人に対して任意の退去を催促することも有効でしょう。

    ②執行官立会いの下での開錠・鍵交換・荷物の搬出(同法第168条第1項)
    引渡し期限が到来しても賃借人が任意に建物から退去しない場合には、執行官立会いの下で明渡しを断行することになります。

    この段階では、主開錠・鍵交換・荷物の搬出(+搬出した荷物の倉庫保管)が主な作業となります。
    これらの作業を担当する業者は、オーナー側で依頼する必要があります。

    依頼費用は後で賃借人に対して請求できますが(同法第42条第1項)、賃料の未払いが生じている状況では、賃借人からの支払いは期待できません。
    なお、賃貸借契約の連帯保証人がいる場合には、連帯保証人に対して強制執行の費用を請求することができます

    上記の作業が完了したら、執行官からオーナーに新しい鍵が手渡されて、明渡しの強制執行は完了となるのです。

4、家賃滞納者をスムーズに退去させるには弁護士に相談を

交渉・強制執行の手続きを通じて、家賃滞納者をスムーズに賃貸物件から退去させるには、弁護士に依頼することをおすすめいたします。

家賃滞納によって明渡しを求めるケースでは、賃借人がさまざまな理由を付けて退去を拒否することも多く、解決までに時間がかかってしまうものです。
この点、弁護士に依頼をすれば、交渉のポイントや訴訟への移行タイミングなどを適切に見定めて、迅速に退去が実現できるようにサポートさせることができます

原則的に、弁護士に依頼をすると、一定の弁護士費用がかかることになります。
しかし、退去実現が長引いて賃料を得られない機会損失に比べれば、弁護士に依頼をして速やかに退去を実現するメリットが大きいケースが多いでしょう。

家賃滞納者をスムーズに退去させたい場合には、ベリーベスト法律事務所の弁護士にまで、お早めにご相談ください。

5、まとめ

家賃滞納者が任意に賃貸物件から退去しない場合、最終的には訴訟や強制執行などの手続きをとる必要があります
賃借人との交渉、訴訟や強制執行などの法的手続きをスムーズに進行するためには、手続き全般の準備や法律的なアドバイスを弁護士に依頼することが有効です。

オーナーの方が一刻も早く賃貸物件の収益を再開できるように、ベリーベスト法律事務所では、迅速な退去実現を目指して適切に対応いたします。

賃借人による家賃滞納にお悩みの建物オーナーの方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています