フリー素材でも要注意! 著作権侵害にならない、引用のルールとは?
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著作権は、ひとがつくる様々なものに存在します。広島では、平成30年4月に、楽曲を無断使用して著作権を侵害したとされたダンスクラブに楽曲の使用禁止を求める仮処分が執行されました。クラブにおける著作権侵害に対する仮処分の執行は、広島での例が全国初となります。
現代では、大半の企業が、自社の商品を販売したりPRしたりするためのサイトをインターネット上に開設しています。しかし、自社サイトを運営するうえでは、思わぬかたちで著作権侵害が発生しないように充分に気を付ける必要があるのです。
本コラムでは、自社サイトのコンテンツを作成するときに知っておくべき、著作権の定義や著作権侵害にならない引用ルールについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説いたします。
1、自社サイトを作成するときには著作権を侵害しないように注意!
現在では、ほとんどの企業が自社の商品を販売したりPRしたりするためのサイトをインターネット上に開設しているでしょう。
自社サイトを作成するうえで重要となるのが、「著作権」です。思わぬかたちで他人の著作権を侵害してしまわないように、注意しましょう。
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(1)著作権とは
著作権は、知的財産権の一種です。著作者の思想や感情を表現した「著作物」が、他人に無断で利用されたりしないようにするための権利となります。著作権には保護期間が定められており、日本では原則として著作者の死後70年間までが保護期間となっています。
著作権の範囲と内容は、著作権法によって定められています。
著作権を侵害した場合、民事訴訟によって差し止めや損害賠償など請求される可能性があるほか、故意の侵害に対しては刑事罰がくだされるおそれがあります。 -
(2)著作物とは
著作権法第2条では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。
小説やその他の本、論文などだけでなく、ネット上の個人ブログに書かれている文章も著作物です。絵や画像、映画や動画のほか、口頭による「講演」も著作物にあたるのです。
そのため、インターネット上に掲載されているコンテンツの大多数は誰かの著作物である、とみなしたほうがよいでしょう。
ただし、単なる「情報」は著作物にあたりません。たとえば、「ある自治体の人口」や「ある建物の面積」などのデータは「思想または感情を創作的に表現したもの」ではないので、著作物とみなされないのです。このようなデータは、原則的に、誰でも自由に使用することができます。もっとも、データであっても思想や感情の表現を伴うものであれば著作物に該当する可能性があります。
また、法律の条文や裁判所の判決文、役所による通達なども、著作権ではありません。 -
(3)「フリー素材」も著作物?
インターネットには、著作者に断りを入れずに使用することが認められている「フリー素材」を集めたサイトが多数存在します。そのなかでも「いらすとや」は有名であり、街中の広告や官公庁の掲示物でも見かけることがあります。
しかし、「フリー素材」であっても、「思想または感情を創作的に表現したもの」であるため、著作物であるのです。著作者が著作権を放棄したものや著作者の保護期間が終了したものであれば、文字通り「著作権フリー」の著作物といえるでしょう。しかし、ネット上で公開されているフリー素材の大半は、「条件の範囲内で、無料で利用することが許可されている」ものとなります。
たとえば、「いらすとや」の利用規約では、「素材のイメージを損なうような攻撃的・差別的・性的・過激な利用」や「素材自体をコンテンツ・商品として再配布・販売」することは禁じられています。また、「素材を21点以上使った商用デザイン」(ただし、重複はまとめて1点)は無料ではなく有料での利用となります。
他のサイトでも、素材を利用する際の条件が利用規約に明記されていることが多いです。そのため、フリー素材を利用する場合には、サイト内の利用規約をしっかり確認しましょう。規約に違反した利用を行うと、フリー素材であっても、著作権侵害に問われる可能性があるためです。
2、著作権侵害にならないように著作物が引用できる場合
著作権侵害にならずに他人の著作物を自社サイトで使用することができる場合について、説明いたします。
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(1)著作権者の許可がある場合
著作権者が著作物の利用を許可している場合には、著作権侵害とはなりません。
先述したように、「フリー素材」とは、(大半の場合は条件付きでの)利用を著作者が許可している著作物ということです。そのため、条件を満たした状態でフリー素材を用いれば、著作権侵害とはならないのです。
また、「フリー素材」ではない著作物であっても、著作権者と交渉することで利用を許可してもらえる場合があります。その際には、認識の不一致により後々にトラブルが発生することを防ぐため、利用条件を明記した契約書をしっかり作成しましょう。 -
(2)一定のルールに従った引用
著作権法第32条では、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定されています。
つまり、「公正な慣行に合致」している「正当な範囲内」の引用であれば、著作者の許可をとらなくても著作物を利用できるということです。
公正で正当な引用とみなされるためには、一定のルールに従う必要があります。引用のルールの具体的な詳細については、後述いたします。 -
(3)著作権者の許可のある転載
「引用」と「転載」の違いを明確に定義することは難しいですが、「転載」は、「引用」よりも大きな範囲を複製してそのまま掲載することだといえます。
文章でたとえると、著者自身が書いた文章が大部分を占めるなかで意見の補強や例示のために他人の文章を一部だけ掲載する行為が「引用」だといえるでしょう。一方で、著者自身が書いた文章と同じくらいかそれ以上の量の他人の文章を掲載して、著者の文章よりも他人の文章のほうが主たる内容になっている状態は「転載」だといえます。
原則的に、転載をする場合には著作者の許可をとる必要があります。ただし、以下のような場合では、許可をとらずに転載してもよいことが著作権法で認められています。- 行政機関などが一般に周知させる目的で作成した広報資料などを新聞などに転載すること(著作権法32条)
- 新聞などに掲載された政治や経済や社会上の時事問題に関する論説を他の新聞などに転載すること(著作権法39条)
- 公開して行われた政治上の演説や裁判手続きにおける公開の陳述(著作権法40条)
3、引用をするときに守らなければいけないルールとは?
先述したように、他人の著作物を引用する場合「公正な慣行に合致」かつ「引用の目的上正当な範囲内」で行わなければなりません。
引用のルールの具体的な詳細について、解説いたします。
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(1)自社のコンテンツが「主」であり、引用したものが「従」になっていること
適切な引用のためには、自分で創作した部分と他人の著作物を引用した部分との主従関係が明確であることが求められます。
自社のサイトなどをつくる際に他人の著作物を引用するときには、あくまで自社サイトのコンテンツを中心において、他人の著作物には自社のコンテンツの印象を補強したり詳しく解説したりするための副次的な役割だけを与えましょう。
引用部分が多すぎて「転載」といえる状況になっていたり、自社のコンテンツよりも引用部分の方が目立つ状況になっていたりしたら、明確な主従関係が成立しません。そのため、著作権侵害とみなされる可能性も高くなります。 -
(2)引用部分がそれ以外の部分と明確に区別されていること
引用部分については、それ以外の部分と明確に区別できるように表示しなければなりません。他人の著作物から引用している部分も自分が創作したものであるかのように読者や視聴者に誤認させるような表示をすると、「盗用」とみなされてしまうおそれがあります。
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(3)引用する必要性があること
他人の著作物を引用する場合には、引用を行うことの必要性が求められます。
たとえば、他人の著作物を引用しなければ説明が難しいという場合や、引用をすることでコンテンツの内容を引き立てられる場合には、引用の必要性が認められるでしょう。一方で、コンテンツの内容を水増ししたいという理由で漫然と引用を行うことには、必要性が認められません。引用の「ねらい」を明確にしなければいけないのです。 -
(4)引用部分の出典が明示されていること
著作物を引用する場合には、その出典を明示することが著作権法で求められています(著作権法48条)。
本や論文などから引用する場合には、ページ数や書誌情報などを記載しましょう。Webサイトから引用した場合には、サイトのURLやサイト名を表示するなど、インターネットの慣例に従った表示をすることが求められます。
4、著作権法に違反した場合の罰則
引用のルールを守らずに他人の著作物を無許可で利用したときには、著作権法違反とみなされて、民事訴訟や刑事罰の対象となるおそれがあります。
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(1)民事上の責任追及
他人の著作物を無断で利用した場合には、その著作物の著作権者から民事上の責任を追及される可能性があります。
著作権者は、著作権を侵害している相手に対してその行為を停止又は予防するように求める差止請求を行うことができます(著作権法112条)。また、著作権の侵害者が利益を得ていた場合、その額が著作権者の損害額であると推定されて、損害賠償請求を行うこともできるのです(著作権法114条)。
著作権侵害によって発生する損害は立証が難しいため、著作権法では算定規定を設けて著作権者の立証責任を緩和しています(著作権法114条)。
また、著作者は、財産権である著作権とは別に、著作者としての感情を保護するための「著作者人格権」も保持しています。著作物の内容が無断で改変された場合、著作者人格権の侵害とみなして、著作権者は侵害者に対して損害賠償とともに謝罪文を掲載するなどして著作者の名誉を回復する措置を請求することもできるのです(著作権法115条)。 -
(2)刑事上の責任追及
著作権侵害に対しては、刑事罰がくだされるおそれもあります。
原則的に、著作権侵害は「親告罪」とされており、著作権者からの告訴がなければ検察官が控訴を起こすことはできません。つまり、著作権者が訴えない限りは刑事罰に問われないということです。
しかし、平成30年12月30日施行の改正法により、漫画や映画などの「海賊版」をネット配信する行為などについては非親告罪となりました。
著作権を侵害すると、最長で10年以下の懲役と、最大で1000万円以下の罰金、いずれかまたは両方が科される可能性があります(著作権法119条)。
また、企業などの法人が著作権侵害をした場合には、罰金の金額は最大で3億円にもなるのです(著作権法124条)。
5、自社サイトの著作権侵害が心配なら、弁護士に相談
インターネット上に自社サイトを開設するときや、自社サイトに新たなコンテンツを加えるときには、他人の著作権を侵害しないように注意を払いましょう。著作権侵害をしてしまうと、民事訴訟や刑事罰のリスクがあるだけでなく、公益に反する反社会的な企業だというイメージがインターネットで広がって経営に悪影響を与えるおそれもあります。
著作権に関する事項にはあいまいな部分もあります。「転載」ではなく「引用」であると判断したり、「公正な慣行に合致」しており「引用の目的上正当な範囲内」であるかどうかを判断したりすることは、法律の専門家ではない方には難しい場合もあるでしょう。個人で運営しているサイトならまだしも、企業サイトでは著作権侵害が発生したときの影響も甚大になる可能性が高いため、不安になられる方も多いかと思われます。
法律の専門家である弁護士になら、自社サイトで著作権侵害が発生していないかどうか、チェックを依頼することができます。適切な引用になるようにサイトを修正する方法についてのアドバイスや、もしも著作権侵害で訴えられた場合の対応や予防策なども、弁護士に相談することができるのです。
ベリーベスト法律事務所では、全国的に顧問弁護士サービスを展開しております。顧問弁護士サービスでは、自社サイトの著作権の問題にあわせて、企業を経営するうえで発生する様々な法律問題への対応を提供しております。
6、まとめ
本コラムでは、自社サイトの作成時に知っておきたい、著作権の定義や著作権侵害にならない引用ルールなどについて解説いたしました。
インターネットで取得できる画像や文章の大半は、「フリー素材」のものを含めて他人の著作物であり、著作権法の対象となります。サイト内で文章や画像などの引用を行う際には、著作権法に違反しないかたちで引用を行うことが重要になります。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士は、自社サイトに関する法的なアドバイス、また企業の経営に関わるその他様々な法律問題についての対応を提供しています。自社サイトの運営などについて悩まれているなら、お気軽にお問い合わせください。
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