従業員による自主的な持ち帰り残業。賃金発生の有無や違法性とは?
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令和4年度に広島県内の労働基準監督署が監督指導を行った692事業場のうち、賃金不払い残業があったものは38事業場でした。
従業員が自主的に持ち帰り残業をしていることが分かったら、使用者である企業としては、その状況の解消に努めるべきです。自主的な持ち帰り残業に気づいたにもかかわらず黙認していると、企業は労働基準法違反の責任を問われるおそれがあります。
本記事では、従業員による自主的な持ち帰り残業に関する労働基準法のルールや、会社が自主的な持ち帰り残業を把握した場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(広島労働局)
1、自主的な持ち帰り残業は違法? 賃金が発生する?
従業員による自主的な持ち帰り残業については、会社が黙認しているかどうかによって、賃金が発生するかどうかが変わります。
賃金が発生する自主的な持ち帰り残業について、会社が賃金を支払わないと、違法なサービス残業に当たるので注意が必要です。
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(1)会社が黙認していなければ賃金は発生せず、違法ではない
従業員による自主的な持ち帰り残業は、会社が黙認していなければ原則として賃金が発生しません。
賃金は、従業員が会社の指揮命令下に置かれている時間(=労働時間)について発生します。
従業員による自主的な持ち帰り残業に会社が気づいていない場合は、原則として、自主的な持ち帰り残業が会社の指揮命令によって行われているとはいえません。この場合、自主的な持ち帰り残業は労働時間に該当しないので、賃金は発生しないことになります。
したがって、会社が自主的な持ち帰り残業に対して賃金を支払わなくても、違法ではありません。 -
(2)会社が黙認していると賃金が発生する|違法となる場合もある
これに対して、自主的な持ち帰り残業を会社が黙認している場合は、労働時間(時間外労働など)と評価される可能性が高いです。この場合、自主的な持ち帰り残業の時間について賃金が発生し、会社がその賃金を支払わないことは違法となります。
会社が自主的な持ち帰り残業の事実を把握した上で、それを解消しようとせずに放置している場合は、自主的な持ち帰り残業を黙認していると評価される可能性が高いでしょう。
また、業務量や会議の時間などに鑑みて、自主的な持ち帰り残業が必然的に発生するような働き方を従業員に課している場合も、会社が黙認していると判断される可能性が高いと考えられます。
2、自主的な持ち帰り残業が行われる主な原因
従業員が自主的に持ち帰り残業を行うことの主な原因としては、以下の例が挙げられます。
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(1)自宅などの方がストレスなく仕事できる
従業員の中には、ストレスが小さく済むなどの理由で、オフィスなどよりも、自宅など仕事場を離れた環境での仕事を好む人もいます。
このような従業員は、特に抵抗感なく持ち帰り残業をする傾向にあります。会社にも持ち帰り残業をした事実をあまり報告しない傾向にあるので、労働時間を正確に把握する観点からは注意が必要です。 -
(2)業務量が多すぎる
会社によって課される業務量が多すぎるために、職場だけでは仕事が終わらず、自宅に持ち帰って仕事をせざるを得ない状況に追い込まれているケースもあります。
このような状況は、従業員の心身の健康を害するおそれがあることに加えて、違法な長時間労働や残業代の未払いなどによって会社が摘発されるリスクもあります。
会社としては、業務の配分を見直したり、新規採用によって従業員を増やしたりすることによって、業務負担の軽減を図るべきでしょう。 -
(3)上司の評価が気になり、進捗を増やそうとする
仕事に関する上司(管理職)からの評価を強く気にする従業員は、仕事上の成果・進捗をさらに増やそうとして、自主的に持ち帰り残業をするケースがあります。
このような従業員には、実際は持ち帰り残業をしていても、それを隠して勤務時間内に仕上げたかのように見せかけようとする行動などが見られます。
会社が把握していないところで長時間労働を行い、その結果心身を害して休職または退職をしてしまうケースも多いので、こうした傾向がある従業員には十分注意を払いましょう。 -
(4)業務時間外に会議が行われている
本来の業務時間以外の時間帯で会議が行われる場合、その前後の時間帯で議題の検討を行ったり、会議後に議事録を作成したりする時間が生じます。
残業扱いとしてオフィスで会議が行われる場合は問題になりにくいですが、自宅などからリモート参加をする従業員については、会社が把握していない持ち帰り残業の時間が発生する可能性が高い点に注意が必要です。
3、企業が自主的な持ち帰り残業をなくすための対応
従業員の健康を確保するため、および違法な長時間労働や残業代の未払いを回避するために、企業は従業員による自主的な持ち帰り残業をできる限りなくすように努めるべきです。
従業員による自主的な持ち帰り残業をなくすためには、企業は以下の対応をとることが考えられます。
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(1)残業を許可制にする
残業するかどうかの判断を従業員に任せていると、自主的な持ち帰り残業が行われるリスクは高くなります。
自主的な持ち帰り残業を抑制するためには、残業を事前申請による許可制とするのがよいでしょう。正確に残業時間を把握できるようになり、さらに全体として残業時間が抑制されることも期待できます。 -
(2)自主的な持ち帰り残業の禁止を周知徹底する
自主的な持ち帰り残業を禁止するという方針を立て、従業員に対して十分に周知することも大切です。
自主的な持ち帰り残業がもたらす弊害や、残業をする際に行うべき手続きや対応などについて、社内研修などを通じて従業員への周知を徹底しましょう。 -
(3)社内風土・職場の雰囲気の改善を図る
自主的な持ち帰り残業が横行する背景には、「上司から仕事の進捗について圧力をかけられている」「仕事の状況を上司に話しづらい」など、社内風土や職場の雰囲気が影響していることもあります。
社内風土や職場の雰囲気については、経営層が主導してトップダウンで改善することが求められます。
社内のルールを変える、休暇の取得を奨励する、イベントを通じてコミュニケーションの機会を増やすなど、自主的な持ち帰り残業が行われにくいような職場環境を作るための取り組みを行いましょう。 -
(4)従業員の業務状況を随時確認・把握する
自主的な持ち帰り残業は、多くの業務を抱えて追い込まれている従業員によって行われることが多いです。
会社としては、すべての従業員の業務状況を随時確認・把握することが求められます。その上で、多くの業務を抱えている従業員には新規業務を割り当てないなど、一部の従業員に負担が偏らないような配慮をしなければなりません。
従業員の業務状況を把握するためには、機械的な勤怠管理システムを導入する、スケジュールをクラウド上で共有する、上司との1on1ミーティングの機会を設けるなどの方法があります。会社の状況に応じて、適切な方法によって従業員の業務状況の把握に努めましょう。
4、労働環境の整備・改善は弁護士に相談を
従業員による自主的な持ち帰り残業は、健康を害することによる休職・退職、違法な長時間労働、未払い残業代請求など、さまざまな問題に発展する可能性があります。
会社としては、従業員の増員や勤務制度の改善などを通じて従業員の持ち帰り残業を抑制し、労働時間を適正化する取り組みを行うべきです。
持ち帰り残業の削減を含めて、従業員の労働環境の整備・改善に取り組む際には、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談すれば、労働基準法その他の法令を順守した勤務制度の構築や、労働時間の把握方法などについて、会社の実態に合わせた具体的なアドバイスを受けられます。
自主的に持ち帰り残業をする従業員への対応に悩んでいる会社は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
従業員による自主的な持ち帰り残業を会社が黙認していると、違法な長時間労働や残業代の未払いを理由に、労働基準法違反の責任を問われるおそれがあります。勤務制度の改正や業務配分の見直しなどを通じて、自主的な持ち帰り残業の抑制に取り組みましょう。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員による自主的な持ち帰り残業が横行しており、それを抑制するために何をすればよいか迷っている企業は、お早めにベリーベスト法律事務所 広島オフィスへご相談ください。
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