試用期間中の社員を解雇したい時の注意点は? 解雇の要件と手続きを解説

2019年07月19日
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試用期間中の社員を解雇したい時の注意点は? 解雇の要件と手続きを解説

労使関係において、終身雇用制は一般的でなくなりつつあるとはいえ、一度労働契約を結んだら労働者を簡単に解雇することはできません。

そこで使用者側は、雇用の際に労働者を慎重に選ぼうとします。試用期間を設けるのも、そのひとつの表れでしょう。

今回は、試用期間中の従業員解雇の可否や、解雇時の注意点などについて、広島オフィスの弁護士が解説します。

1、契約は自由でも、解雇には制限がある

  1. (1)契約の自由とは

    労使間の契約は、当事者同士で自由に結ぶことができます。誰とどのような契約を結ぼうが、お互いの意思に基づいてさえいれば、法律や公序良俗に反していない限り有効となります。
    このような「契約の自由」には、契約を解約する自由も含まれていると解されてもよいはずです。しかし、解雇は使用者による労働契約の一方的な解約であり、労働者にとっては、使用者の都合により突然職を失うことになってしまいます。つまり、解雇は労働者にとって非常に不利益の大きい制度といえます。そこで、法令上解雇は自由にできないよう制限されています。

  2. (2)解雇にはどんな制限があるか

    使用者が労働者に対して「あなたはクビだ」と言い渡したとしても、それが解雇として有効であるとは限りません。解雇には、期間と理由に関する制限が存在するためです。
    たとえば、解雇するには原則として30日前までに解雇予告をする必要があります。解雇予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項本文)。解雇予告または解雇予告手当の支払いなき解雇は、一部の例外を除いて無効となります。
    これは期間制限の一種ですが、他にも産前産後や業務災害の場合など、一定期間は原則として解雇できないものと定められています(同法第19条第1項本文)。

    労働契約法上、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)と規定され、解雇権濫用法理が明文化されています。客観的・合理的な理由とは、労働能力や適格性の欠如、重大な業務命令違反、経営不振などが挙げられ、ひとつひとつの理由について解雇という結論の相当性が判断されます。
    いずれにせよ、雇う側の一存で勝手気ままに従業員を解雇することはできないと考えておきましょう。

2、試用期間中であれば自由に解雇できる?

  1. (1)「お試し期間」の性質とは

    しばしば使用者側が勘違いをしているのは、試用期間と解雇の関係です。試用期間中であれば自由に解雇できる、という考えは誤っていますので注意しましょう。
    とはいえ、正式な雇用契約と同一にしたのでは、わざわざ試用期間を設ける意味がありません。そこで、試用期間の法的性質について解説します。

    一般的な試用期間は、判例によると「解約権留保付労働契約」だと捉えられています。
    留保とは法律上、権利や義務を手元にとどめておくことです。つまり、「解約権留保付」というのは、使用者側に労働契約を解約する権利がとどめられていることを意味し、通常の労働契約に比べてやや広い範囲で解雇が認められると解釈されます。
    ただし仮契約ではなく、あくまでも本契約という位置づけなので、無制約に解雇できるわけではありません。

  2. (2)試用期間中に解雇したい場合の注意点

    先述のとおり、試用期間中にせよ、労働者の解雇には制限があるという点に注意しなければなりません。すなわち、試用期間を設けた趣旨や目的に照らした上で、客観的・合理的な解雇理由と、社会通念上の相当性がなければ、解雇は無効となります。
    客観的・合理的な解雇理由とは、たとえば、以下のようなものが考えられます。

    • 接客業であるにもかかわらず、他人と話すことができないなど、明らかにその業種に不向きであることが試用期間中に判明した場合
    • 飲食業であるにもかかわらず、試用期間中に指導をしても食材を扱う際のルールを守らないなど、規律に違反する場合


    解雇するには、これらの客観的・合理的な解雇理由に該当することが明白であり、かつ社会通念上の相当性という要件も満たさねばなりません。
    相当性とは、他の類似事例と比べた場合に、解雇という処分が重過ぎないかどうかという判断です。たとえば、少し私語をしただけで使用者側からの注意や指導もなしにいきなり解雇というのでは、処分として相当性を欠くと判断される可能性が高いでしょう。解雇するには、それに見合った理由がなければならないのです。

3、試用期間中の解雇手続き

採用してから14日以内の場合、解雇の意思を労働者に伝えれば、特段の手続きは要りません(労働基準法第21条本文第4号)。書面で通知しておくと、より確実でしょう。
しかし、それ以降に解雇する場合は就業規則に解雇の定めを置いて周知をしておいた上で、その定めに該当する事由がなければなりません(同法同条但書)。さらに、解雇に客観的・合理的理由と社会通念上の相当性が求められるのは、上でご説明した通りです。
試用期間中であっても正式な手続きが必要となるので、いい加減に済ませることのないように注意してください。

4、まとめ

労働法上では、労働者があらゆる面で保護されています。そのため、試用期間中の解雇にも制限があることを理解しておきましょう。
試用期間中の解雇は、通常の労働契約に比べると広い範囲で認められると考えられていますが、個別の判断は労働審判や裁判に委ねられるのが現状です。
業務遂行能力に問題のある従業員や、業務命令に従わない従業員の解雇を検討されている場合、労働問題に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
もし試用期間中の解雇を考えており、有効と認められるかどうか心配であれば、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士までご相談ください。就業規則や具体的事情を踏まえ、解雇の当否や対応に関するアドバイスをいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています