一人法務体制のリスクとは? 顧問弁護士を雇うべき【3つ】の理由

2020年02月28日
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一人法務体制のリスクとは? 顧問弁護士を雇うべき【3つ】の理由

ベンチャー企業の場合、はじめのうちは社員の数も少なく、法務人材がいなかったり、いても一人だったりということが多いと思います。

しかし、ベンチャー企業こそ新しい試みをすることから、法律上の規制やさまざまな法務リスクにぶつかります。法務人材が一人しかいないという場合、その人が辞めてしまうと後任を探すのも一苦労です。

そこで、今回は、一人法務体制のリスクと顧問弁護士を活用することのメリットについて解説します。

1、一人法務体制のリスク

日本では、これまで法務部門があまり重要視されておらず、中小企業のなかには法務部がない会社もあります。創業間もないベンチャー企業であれば、なおさら組織として整備されていないことが多いので、法務部があるところはほとんどないといえるでしょう。

法務部がないにしても、契約書のチェックなどの法務対応は必要なため、ベンチャー企業などでは、一人の担当者が業務にあたっているというケースも多いと思います。しかし、その法務担当者が辞めてしまった場合、法務リスクに対応できなくなってしまいます。

少子高齢化によって人手不足が深刻化する中、コンプライアンス意識の高まりにより、法務人材の獲得は非常に難しいものとなっています。そのため、法律に必ずしも詳しくない人材を法務担当に据えて業務を行っているケースもあります。

法律に詳しくない人材が担当者の場合、法的リスクに適切に対応することができず、不祥事が発生してしまう可能性があります。最近は、SNSの普及もあり、企業に不祥事があるとインターネット上で炎上し、企業の社会的評価も著しく下落することがあります。最悪の場合、倒産ということもあり得るので、十分な対応を考えておく必要があります。

2、ベンチャー企業における法務の重要性

  1. (1)適法性確認の必要性

    社会において事業を行う場合、さまざまな法的規制があります。悪意がなくても知らないうちに法律違反をしてしまっているということもあります。そのため、当該事業の適法性の確認はとても重要です。

    万が一、違法行為をしてしまうと、多額の罰金が科されたり、業務改善命令や業務停止命令などの行政処分が科されたりすることもあります。そうなると、事業を撤退することも検討しなければならなくなります。多額の費用や時間をかけて起業したのに、撤退となれば大きな損失になってしまいます。

    また、ベンチャー企業の場合、資金調達も重要となりますが、投資家から投資を受けるためには、財務諸表が公正な会計基準で作成され、財務諸表に記載されていない隠れた債務は存在しないことを表明保証すると共に、ビジネスが適法になされており、訴訟係属はないことを表明し保証することが求められます。万が一、表明保証しておきながら、違法な行為をしていた場合、損害賠償請求をされる可能性があります。

    このように投資契約において表明保証が求められた場合、適法性が確認できていないと投資を受けることができません。

  2. (2)上場やM&Aでのリスク

    ベンチャー企業としては、事業に成功して、企業を高い値段で企業を売却するか、上場を目指していることが多いと思いますが、M&Aにおいては、法務デューデリジェンスが行われます。法務デューデリジェンスというのは、その企業に法的リスクがないかを買収側の企業が依頼した弁護士などがチェックするというものです。

    このデューデリジェンスで違法な行為をしていることが判明すると売却価格が下げられたり、M&Aが実行されずに終わったりすることもあります。

    上場を考えている場合、証券取引所の審査があります。その際に、違法性のある行為が確認された場合、上場ができないという事態になってしまいます。

  3. (3)新たな分野であることのリスク

    ベンチャー企業は、基本的に新しいことに挑戦するケースが多いことから、法律が追いついていない可能性があります。そのような場合、明確な基準や判例もなく、違法なのか適法なのかの判断に迷うことがあります。そのため、法務部門は最新の動向を注視するとともに関係機関にこまめに連絡をとり適法かどうかを確認しながら業務を行っていくことが求められます。

  4. (4)気を付けるべき法律

    ① 各種業法
    業種によって規制の法律は違うので、一般化して説明することは難しいのですが、日本の場合、規制が厳しいので何らかの業法規制があるはずです。業法とは、「銀行法」や「保険業法」のようにその業界のルールについて定めた法律をいいます。関係する業法がある場合には、営業停止などの行政処分があるのが通常なので最低限、業法に違反していないかは確認する必要があります。

    ② 会社法
    会社である以上、会社法に従うのは当然のことなのですが、意外にも業法ばかり注意して会社法には無頓着という会社があります。適法に取締役会や株主総会が開催されていることや計算書類の作成、登記の変更など、基本的な事項は順守する必要があります。

    ③ 税法
    会社を運営する場合、法人税、消費税などの申告納税義務があるので、期限内に申告や納税をするようにしなければなりません。また、従業員などの源泉徴収義務や支払調書の作成など、やるべきことはたくさんあるので、創業当時、人手が足りなければ税理士に依頼するなどした方が良いといえます。

    ④ 社会保険関係法令
    会社の規模にもよりますが、就業規則の届け出や雇用保険、健康保険、厚生年金など、社会保険に関する届け出もたくさんあります。これらを順守しなければ違法となりますので、こちらも人員が足りず提出が難しいという場合には、社会保険労務士に依頼するなど検討することが必要です。

    ⑤ 知的財産関係法令
    知らずに特許権を侵害した場合には特許権侵害として差し止めや損害賠償請求をされるおそれがあります。また、製品を作る場合、デザインが似てしまうこともあるため、意匠権侵害として訴えられる可能性もあります。その他、他社の売れている商品に便乗して、似た商品を販売した場合、不正競争防止法違反の責任を問われる可能性もあります。このように、知的財産権の侵害については、どの業界であっても法に抵触する可能性があるので注意が必要です。

    ⑥ 個人情報保護法
    最近は、個人情報に対する意識が高まり、企業が扱う個人情報は厳格に管理しなければなりません。万が一、個人情報が漏えいするようなことになれば、悪評はネットですぐに拡散するので社会的信用を失い、事業の存続ができなくなるということもありえます。そのため、個人情報保護法に違反しないよう、最善の注意を払う必要があります。

3、一人法務、顧問弁護士、それぞれのメリット・デメリット

  1. (1)一人法務のメリット

    一人法務のメリットは、担当者が会社内部にいるため、業務について熟知しており、かつ、一人が全ての法務業務に関わることで全体像が見渡せるというメリットがあります。法律の正論を述べることは簡単ですが、法務部員に求められるのは、単に法律の正論を述べることではなく、会社の利益を最大限にするために必要な法的措置を検討することです。社員であることは同時に会社を守る動機にもなるので、事業内容を詳しく把握していない弁護士よりもアドバンテージがあると言えます。

    また、社内法務部員であれば、人間関係についても把握できるので、関係部署とのコミュニケーションを取るのも容易です。法務においては、どのような効果を望んでいるのかを把握することも重要なので、日頃からさまざまな社員と接する機会のある社内法務部員はその点で有利といえます。

  2. (2)一人法務のデメリット

    一人法務の最大のデメリットはその担当者が辞めた場合、そのノウハウが全て失われてしまうということです。複数の法務担当者がいる場合、一人が辞めても、他の担当者がノウハウを維持することができますが、一人法務の場合それができません。

    また、一人法務の場合、その人に全ての責任が乗りかかるため、担当者の負担が大きいというデメリットがあります。特に、知らない法律について相談を持ちかけられた場合、一から調べなければならず、負担が大きくなります。

  3. (3)顧問弁護士のメリット

    ① 気軽に相談できる
    顧問弁護士がいない場合、法律事務所に相談に行くというのは、よほどのことがないとしないものですが、顧問弁護士がいる場合には、気軽に相談できるというのが大きなメリットといえます。顧問弁護士であれば、メールや電話でもできるので、迅速に法的問題を解決できるのもメリットといえます。

    ② 緊急を要するかの判断が可能
    法的トラブルは緊急を要するものとそうでないものとがあります。その判断自体難しいものですが、顧問弁護士がいれば、その判断をすぐに仰ぐことができます。誤った対応によりトラブルが悪化することがなくなるというメリットがあります。

    ③ 事前予防が可能
    取引をする場合、契約書を交わすことが通常ですが、事前に弁護士がチェックすることで、紛争について事前に予防することが可能になります。また、会社のコンプライアンス体制を整備することで、社内の法的トラブルも予防することができます。

    ④ 法務部を設置するよりも安価
    法務部を設置する場合、人件費が発生しますが、最低で一人何百万円というコストが発生します。それに比べ顧問料を支払ったとしても何百万円というコストにはなりません。もちろん、訴訟などになると別途費用は発生しますが、顧問先であれば割引になるのが一般的なので、その点でも有利です。

    ⑤ 会社の事情を理解してくれる
    法律相談を受けるにあたっては、その会社の事情を理解する必要があります。顧問先でないと弁護士は会社の内容について聞くことからはじめなければなりませんが、顧問先であれば会社の事情は事前にわかっているので、すぐに法的問題に対応することができます。結果的に会社のニーズに即したアドバイスをすることにつながります。

    ⑥ 安心して経営に専念できる
    経営をしていると、法的リスクに気を配らなければなりませんが、顧問弁護士がいれば法的な問題は顧問弁護士に任せることができるので、経営に専念することができます。

    ⑦ 企業の信頼が向上する
    顧問弁護士がいるということは、企業が法的問題に真剣に取り組んでいると思われるので企業の信頼が向上します。自社のホームページやパンフレットなどにも顧問弁護士名や法律事務所名を載せることができます。

  4. (4)顧問弁護士のデメリット

    顧問弁護士をつける場合、月額の顧問料が発生します。弁護士によって顧問料は異なるものの一般的に顧問料は月3万円から10万円前後です。

    また、顧問料を支払っていても、訴訟などの場合には別途着手金等の費用が発生するので、顧問契約内で対応してもらえることの範囲を確認しておく必要があります。

4、ベンチャー企業が顧問弁護士を活用するべき3つの理由

  1. (1)創業時の法的リスクの回避

    創業時は、人員も少なく、事業を安定させ、拡大するのに精いっぱいで法的リスクに十分対応できないものです。しかし、創業時だからこそ、コンプライアンス体制をしっかりと構築することが大切で、さまざまな法的規制に対応しなければなりません。

    そのような時には顧問弁護士に法的問題について任せてしまうのがおすすめです。創業時は資金にも余裕がないことが多いため、顧問料を払うことに抵抗があるかもしれませんが、法令違反によって事業が継続できなくなるおそれを考えれば決して高いものではないといえるでしょう。

  2. (2)コストの削減

    社員を雇用するとよほどのことがない限り解雇することはできません。ベンチャー企業においては、固定費をできるだけ抑えることが重要です。顧問弁護士は法務社員を採用するのに比べ低コストで、いつでも解約は可能なので、固定費の削減に役に立ちます。

  3. (3)法務部の補完

    ベンチャーであっても法務を担当する職員を採用し、法務部を作るところもあります。しかし、法律は複雑にからみあいますので、できるだけ複数の意見を聞くことが重要になります。法務部に加え、法の専門家である弁護士にも見てもらえば、より確実な対応が可能になります。

5、まとめ

今回は、一人法務体制のリスクと顧問弁護士の活用について解説してきました。顧問弁護士などは大手企業が利用するものというイメージを持つ方もいますが、ベンチャー企業にこそ、法的リスクは多く潜んでいます。

法務専任の社員がいない場合はもちろん、法務部員がいる場合でも、顧問弁護士を活用して法的リスクを回避することが重要です。

ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、ベンチャー企業を積極的に支援したいと考えております。顧問契約について迷われている場合には、まずはお気軽にご連絡ください。

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