新型コロナウイルスで自社のイベントが中止に! 損害賠償はどうなる?
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令和2年5月4日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全都道府県を対象とした緊急事態宣言が発令されました。広島県では5月14日に緊急事態宣言が解除されましたが、酒類を提供する移植店やライブハウスなどに対する休止要請は、5月22日まで続きました。そして、ライブや演劇などのイベントに対する制限は、令和2年10月の時点でも継続しております。
しかし、広島県内の感染ステージが2から1に下がったことを受けて、10月2日に「新型コロナウイルス感染拡大防止のための広島県の今後の対応」が発表されて、イベントに対する制限も緩和されました。具体的には、人数上限は「屋内、屋外ともに5,000人以下」から「収容定員が1万人以下の場合は5,000人、収容定員が1万人を超える場合は収容定員の50%となる」に、収容率要件は「屋内は収容定員の半分以下の参加人数」から「収容率の上限の100%」にまで緩和されたのです(大声での歓声、声援などが想定されないイベントの場合)。
しかし、緊急事態宣言や自粛要請を受けたイベントの中止は、県内の企業に大きな経済的ダメージを与えたと考えられます。また、イベントの中止によって発生した損害の賠償について、苦悩されている経営者も多いでしょう。そして、新型コロナウイルスの流行が依然続く日本社会は、いつまた状況が悪化して、緊急事態宣言や自粛要請が再び発令されるか予測ができない状態にあるといえます。将来に予定されるイベントには、中止のリスクが潜在しているのです。そのため、今後イベントを企画する場合には、中止になった際の損害賠償についても事前に想定した契約書や規定を作成することが、これまで以上に重要になると考えられます。
本コラムでは、新型コロナウイルスによってイベントが中止になった場合の損害賠償に関わる法律的な事項について、べリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説いたします。
1、新型コロナウイルスのためにイベントが中止になる事例とは
新型コロナウイルスの感染拡大によりイベントが中止になる事例について、簡潔に解説いたします。
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(1)緊急事態宣言
新型コロナウイルス感染症によるイベント中止の原因として特に目立つのが、政府が発令した緊急事態宣言です。
緊急事態宣言では不要不急の外出を控えるように市民に要請されるため、人が集まるイベントについても中止を余儀なくされることになります。
この場合は、国家や自治体の緊急事態であることをふまえて、イベントの中止は「不可抗力」として扱われる可能性が高いでしょう。 -
(2)自粛要請
政府による緊急事態宣言は、令和年5月25日に解除されました。
しかし、緊急事態宣言解除後にも、屋内のイベントや多人数が集まる大規模なイベントについては、政府や自治体から自粛要請が行われました。
自粛要請を無視してイベントを開催することも可能ですが、社会的な非難を避けるために、イベントを中止した企業が大多数であったと思われます。
このような場合においては、「イベントが中止されたことの責任の所在はどこにあるのか」という点が、損害賠償などを考えるうえで問題となるのです。 -
(3)主催者の自主的な中止
自粛要請が解除された後には、ほとんどのイベントは再開されるようになりました。
しかし、たとえば映画館や劇場などでは、感染対策として「間隔を保つために、収容人数の半分しか収容しない」という措置が取られています。このような措置は収入減にもつながり、イベントを再開しても、本来想定されていたような利益を生み出さない、という結果をもたらしています。
また、感染対策を行うことが難しい性質のイベントなどでは、社会的責任や道義的な問題を考慮して、主催者が中止を選択する場合もあります。
このような場合においても、イベントの中止による損失の責任を誰が負うか、という点が問題になるでしょう。
2、イベントが中止になったとき、出演者や関係者への損害賠償はどうなる?
イベントが中止したときに発生する可能性のある損害賠償の具体的な内訳について、検討していきます。
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(1)会場使用料
会場使用料は、主催者と施設事業者との間の契約により発生します。
主催者が施設事業者に対して持つ「会場使用料を払う義務」が発生するのは、施設事業者が主催者に対する「会場の利用を可能にする義務」を履行できている場合に限ります。
緊急事態宣言によるイベント中止の場合は、会場を使用すること自体が不可能になっているので、主催者や施設事業者に対して会場使用料を支払う義務を負わない、と考えることはできます。
一方で、自粛要請のもとでは、あくまで「イベントを行うことは社会的に望ましくない」だけであり、国や自治体が強制力を持ってイベントを中止させているわけではありません。そのため、施設事業者としては「会場を利用することは可能であったから、主催者には利用料を支払う義務がある」と主張することが想定されます。
また、自粛要請が解除された後に主催者が自主的な判断でイベントを中止した場合にも、施設利用者が同様の反論をする可能性は高いでしょう。
会場使用料の支払い義務については、民法の規定から考えることができます。
民法第536条では、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定されています。
つまり、主催者の責任でもなければ施設事業者の責任でもない理由でイベントが中止されて、施設事業者が「会場の利用を可能にする義務」を履行できなくなった場合には、イベントの主催者は「会場使用料を払う義務」を拒むことができるのです。
たとえば、令和元年の時点で、コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言を予測することは、誰にとっても不可能であるでしょう。感染拡大の前から予定されていたイベントが緊急事態宣言のために中止されることは、「主催者の責任でも施設事業者の責任でもない」と判断できます。
緊急事態宣言の解除後でも、政府や自治体からの自粛要請が出ている状態であれば、イベントを決行することには社会的な非難や道義的問題が伴います。そのため、イベントを中止しても、それが主催者の責に帰せられることとは判断されず、「会場使用料を払う義務」を拒める可能性は高いと考えられるのです。
しかし、自粛要請も解除された後であれば、基本的にはイベントを決行することには社会的・道義的な問題はない、とみなされます。それでもイベントの中止を決行した場合は、「主催者の責に帰せられる」と判断される可能性もあるでしょう。そのように判断された場合には、主催者は施設事業者に対して会場使用料を支払う義務を持つことになります。 -
(2)出演料
イベントの出演者に支払う出演料の扱いは、イベントの主催者と出演者との間で交わした契約の内容によって変動します。
契約書で「イベントが中止された場合の支払いの扱い」が特別に規定されていない場合は、会場使用料の支払いと同じように、民法536条の規定に基づいた扱いになると考えられます。
つまり、緊急事態宣言や自粛要請を原因とした中止の場合は出演料の支払い義務を拒める可能性が高いですが、自粛要請が解除された後にも主催者が自主的にイベントを中止した場合には出演料は支払わなければならない、と判断できるのです。 -
(3)チケット代
イベントのチケットを事前に予約販売している場合には、チケット代の返金という問題も浮上します。
返金の義務については、チケット発行時の契約によって扱いが変わります。
たとえば、「不可抗力によりイベントが中止になった場合には、チケット代は返金しないものとする」という規約を明記していた場合は、返金の義務は生じないものと考えられるでしょう
ただし、消費者に一方的に不利な内容の条項を含む契約は、消費者契約法10条によりその条項が無効とされます。そのため、「不可抗力」の範囲は限定的に解される必要があるのです。
返金に関する規定がない場合には、やはり民法536条に基づいて扱われます。この場合は、主催者が観客(チケットの購入者)に対して持つ「イベントを開催する義務」が履行できなくなるために、観客の「チケット代を支払う義務」もなくなります。そして、既にチケット代を支払った後でも、観客は「払戻請求権」を持つことになるのです。
また、払い戻しをしないことに法律的に問題がない場合でも、消費者の心象を悪化させて企業や団体のイメージを下げるというデメリットがあります。そのため、多くのイベント主催者は、払い戻しに応じています。
なお、コロナ禍によりダメージを受けている文化芸術・スポーツ産業を支援するため、文化庁は「チケットを払い戻さず寄付することにより、税優遇を受けられる制度」を新規に設立しております。チケットを購入した観客がこの制度を利用した場合には、主催者は観客に対してチケット代を返金しなくてもよくなります。
3、イベント中止で発生する損害にも保険が適用される?
イベントの主催者は、中止になった場合に備えるための保険として「興業中止保険」に加入することができます。
興行中止保険では、イベントが偶然の事情によって中止・延期になった場合に、イベントの準備のために既に支出していた費用や、中止・延期に伴い必要となった臨時費用に対して、保険金が支払われます。
興業中止保険は、個別の契約ごとに内容を定めるオーダーメイド形式である場合が多いです。
そのため、保険で補償される範囲は契約ごとに異なりますが、悪天候による中止、交通機関の事故による中止、会場の罹災による中止、出演者の傷病による中止などを対象とすることが一般的です。これらの理由で中止した場合に、会場費、チケット払い戻し手数料、制作費、衣装費、広告宣伝費、出演料、食事代、交通費、宿泊費などの費用が補償されます。
しかし、新型コロナウイルスのような「感染症」を理由とした中止については、ほとんどの場合、興行中止保険では損害が補償されません。
悪天候や自然災害による損害については、イベント開催地域の過去の天候データや地震発生予測を参考に保険料を設定することができますが、新型コロナウイルスのような感染症についてはこれまでに事例や情報が蓄積されておらず、被害とリスクの規模を予測することができないためと考えられます。
保険約款にも、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に規定する「一類感染症」、「二類感染症」、「新型インフルエンザ等感染症」、「指定感染症」および「新感染症」は補償の対象外とする」と明記されている場合が多いのです。
4、契約の内容が損害賠償に与える影響は?
イベント中止による損害賠償について判断する際には、「中止となった場合の負担」が契約書や規約の内容で事前に定められているか否かが、重要になります。
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(1)会場使用料
主催者と施設事業者の間で、契約内容として、「感染症や政府の要請によって公演ができなくなった場合には、会場使用料は発生しないものとする」と定める条項が記載されていれば、主催者は会場使用料を支払う必要はないでしょう。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が起こった後の社会ではこのような条項を定めることが一般的になることも考えられますが、それ以前から、感染症や緊急事態宣言・自粛要請によるリスクを明確に想定した条項を定めることは難しいといえるでしょう。
ただし、「天災など不可抗力によって会場が使用できなくなった場合、会場使用料は発生しない」という文言が定められている場合には、緊急事態宣言なども「不可抗力」に含めて、会場使用料については発生しないと解釈する、ということが考えられます。 -
(2)出演料
主催者と出演者との間の契約で「主催者に帰責事由がなく公演が中止になった場合には出演料は発生しないものとする」と規定していた場合には、緊急事態宣言などによる公演中止は主催者に帰責事由はないので、出演料を支払う必要がなくなると考えられます。
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(3)チケット代
チケット代については、規約にて「公演が中止となった場合には払い戻しする」と記載されていれば、主催者はチケット代を返金する義務を負います。
「主催者の都合により公演が中止となった場合には払い戻しする」と記載されている場合には、中止の理由が「主催者の都合」であうかどうかの判断が必要となります。
自粛要請の解除後の中止については、「主催者の都合」と判断される可能性もあるでしょう。一方で、緊急事態宣言や自粛要請を受けての中止は、規約の文言の細かな言い回しやイベントの具体的な内容などによっても、判断が異なります。
チケット代の払い戻し義務が不安な場合には、法律の専門家である弁護士に相談してください。
5、コロナ禍における顧問弁護士のメリット
新型コロナウイルスの感染拡大は、様々な産業の企業に重大な経営的負担を生じさせているのみならず、これまでにないような法的問題も生じさせています。
顧問弁護士を採用することで、新たに発生する法律的な問題にも、柔軟で速やかな対応を実施することが可能になります。
たとえば、「新型コロナウイルスが原因のイベント中止」という問題については、「会場のキャンセル料を支払う必要があるのかどうか」「チケット代の払い戻しについてはどのような判断をすればいいか」ということについて、顧問弁護士であれば個別の事情を考慮した具体的なアドバイスを提供することができるのです。また、損害賠償の責任や金額をめぐる交渉においても、弁護士に交渉を任せることで、自社の利益や正当性を主張することが容易になります。
6、まとめ
本コラムでは、新型コロナウイルスでイベントが中止になった場合の損害賠償に関わる事項ついて、解説いたしました。
コロナ禍におけるイベント中止の損害賠償は、イベントを中止したタイミングが緊急事態宣言の発令中であったか自粛要請の発令中であったか、あるいは自粛要請の解除後だったのかが、重要になります。また、契約書の内容や規約の文言なども関係してくるのです。
個別の事情を考慮した具体的な法律判断が必要となるため、イベント中止の損害賠償が不安な経営者の方は、弁護士にまでご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは顧問弁護士サービスを提供しており、グループ内の他士業とも連携して問題解決に対応いたします。広島県で顧問弁護士をお探しの方は、べリーベスト法律事務所 広島オフィスにまでご連絡ください。
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