早出したのに残業代がつかないのは違法? 広島の弁護士が解説

2019年12月26日
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早出したのに残業代がつかないのは違法? 広島の弁護士が解説

「働き方改革」が進む中、残業が多い会社は「ブラック企業」と呼ばれ、求人を出しても応募が来なくなるなど企業を継続する上で深刻な事態に陥ります。

また、厚生労働省も長時間労働は厳しく対処する方針を打ち出しており、悪質な企業については企業名などを公表する措置をとっています。広島県内でも、安芸郡の物流会社が労働者7名に36協定の延長時間を超えて違法な時間外労働をさせたとして2019年2月に厚生労働省労働基準局から企業名の公表がなされています。

このような事態にならないよう、多くの企業は残業を減らす努力をしているものの、悪質な企業の中には従業員の知識不足を良いことに、違法な残業を強いているケースもあることでしょう。

今回は、多くの企業で行われている早出出勤をテーマに、早出が時間外労働になる場合とならないと場合の違いについて解説するとともに、残業代の計算方法について解説していきます。

1、早出は「残業」にあたるのか?

早出が残業にあたるかどうか説明する前に、そもそも労働時間とはどのようなものなのか確認しておきましょう。労働時間とは、労働者が使用者(役員や上司)の指揮命令下にある状態で就労をしている時間のことをいいます。

ポイントは、「使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか」ということです。たとえば、「着替えなどの準備行為が労働時間に含まれるか」という点が問題になります。準備行為であってもそれが義務付けられていたり、実作業を行う上で必要な場合には、基本的に労働時間に含まれます。

この点について、判例も「業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当する。」としています(最高裁平成12年3月9日判決)。

就業規則や労働協約、労働契約などで、実作業のための準備行為などを労働時間に含めないと定めている場合もありますが、規定があるからといって労働時間に含まれないということはなく、あくまで客観的に判断されます。

労働基準法では、労働者に休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めでいます。これを「法定労働時間」といいます。これに違反した場合には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。

ただし、
① 商業
② 映画・演劇業
③ 保健衛生業
④ 接客娯楽業
については、業務内容から法律通りの労働時間を順守することが難しいケースがあります。そのため、この4業種については特例として法定労働時間が1週間あたり44時間までと定められています。

また、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定において、時間外や休日労働について定め、行政官庁に届け出た場合には、法定の労働時間を超える時間外労働、や休日労働が認められます。

この他、
① 変形労働時間制
② フレックスタイム制
③ みなし労働時間制
という変則的な労働時間制も労使協定または就業規則などにおいて定めることにより認められています。この場合にも所定の範囲内であれば法定労働時間を超えても問題ありません。

残業代は、所定労働時間や法定労働時間を超えて労働した場合に支払われる賃金です。1日でいうと8時間を超えた場合に残業代を支払わなければなりません。就業規則などで、たとえば、9時から18時までと定められている場合、休憩時間の1時間を除くと8時間となるので、この時間を超えて労働した場合には残業代が発生します。

つまり、残業代が発生するのは、所定労働時間又は法定労働時間を超えた場合であって、所定の勤務時間の前後を問いません。所定勤務時間が9時から18時までの会社で、7時から出社して18時まで働いた場合には、2時間の超過となるので、2時間の残業代が発生します。実際に働き出した時間が労働時間の開始時となるので、早く来た分早く帰った場合には残業代は発生しません。

2、早出が時間外労働と考えられるケース、考えられないケース

「早出」と言っても、さまざまな態様があるので、どのような場合が時間外労働になるのか解説します。

  1. (1)上司からの明確な指示があって早出している場合

    勤務時間の開始が9時の会社で、「明日は8時に出社してくれ」と上司に言われたような場合には、時間外労働になります。もし、「早出は残業ではないから残業代はつかない」と言われた場合には違法ということになります。

  2. (2)無言の圧力によって早出している場合

    明確に早く来るようには言わないが、たとえば「若手社員は、先輩より早く出社するのが当然だ」など日ごろから公言し、早く出社しなければならないような空気を作っているような場合も時間外労働となる場合もあります。上司がそのように仕向け、それを黙認してきたと言いうるためです。もっとも、明確な指示と異なり、残業代を請求する場合には合理的に説明できる必要があるので、同僚の証言を得ておくなど客観的証拠を集めておくことが望まれます。

  3. (3)自主的に早出している場合

    会社から早出するよう言われていないのに、自主的に出社している場合には基本的に時間外労働にはなりません。ただし、毎日のように早出し、会社がそれを認識しながら黙認していたような場合には、事実上業務遂行として承認していたと認定される可能性もあります。会社としては、残業代を払いたくないのであれば、自主的に早出する社員に対して早出せず、所定の時間内に業務を行うよう注意するなどする必要があります。

  4. (4)判例

    早出出勤が労働時間として認められた判例としては、「三菱重工業長崎造船所事件(最判平成12年3月19日)」があります。この事件は、作業服や保護具を着る時間等が労働時間にあたるかが争われました。結論としては、始業時刻前や終業時刻後の作業服や保護具を着る時間も労働時間にあたるとの判決が下されました。

    このほかには、「京都銀行事件(大阪高判平成13年6月28日)」があります。この事件は、銀行での金庫の開錠のための早出出勤が労働時間となるかが争われました。こちらも始業時間前に金庫を開けることが業務として行われていたため、その時間が早出出勤とみなされ、残業代の支払いが認められました。

3、早出残業の計算方法

法定労働時間を超過した場合には、割増賃金が支払われます。割増賃金とは、時給に「割増率」を掛けた賃金です。割増率は次のとおりです。

割増率
① 法定労働時間を超えた場合 25%以上 ② 時間外労働が1か月60時間を超えた場合 50%以上(※1 中小企業は2023年4月から) ③ 深夜労働(22時~5時まで)した場合 25%以上 ④ 法定休日に勤務した場合 35%以上 ⑤ 法定時間外労働で深夜労働をした場合(①+③) 50%以上 ⑥ 1か月60時間を超えた労働で深夜労働の場合(②+③) 75%以上 ⑦ 休日に深夜労働した場合(④+③) 60%以上


なお、上記の割増率は最低限の率です。会社によっては就業規則でこれ以上の割増率に設定されているケースがあり、それは問題ありません。

【残業代の計算方法】
まず、1時間あたりの賃金を計算します。

時給 = 月給 ÷ 1年間における1か月平均所定労働時間


月給には、基本手当だけでなく各種手当も含まれますが、家族手当・扶養手当・子女教育手当、通勤手当、別居手当・単身赴任手当、住宅手当、臨時の手当は含まれません。

具体例
  • 勤務時間: 9:00~18:00
  • 1年間における1か月平均所定労働時間: 162時間
  • 月給: 29万1600円

7:00に出社して20:00まで働いた場合(早出が時間外労働と認められた場合)
時給 29万1600円 ÷ 162時間 = 1800円

法定労働時間を超えた時間は、4時間
残業代 = 1800円 × 1.25 × 4時間 = 9000円


なお、上記の具体例は所定労働時間と法定労働時間が同じなので、問題はありませんが、所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合には、法定労働時間までは割り増しにはなりません。もっとも、就業規則によって所定労働時間を超えた場合には割増賃金を払うと定めていればそれは有効です。

4、早出残業分の残業代を請求するときの流れや注意点

  1. (1)証拠を収集する

    残業代を請求する場合というのは、会社が残業代を支払わないときなので、自ら残業したことを証明しなければなりません。そのためには、証拠を集めておくことが必要になります。 具体的には、
    早出残業したときの、
    ① 入退出の記録(ICカードやタイムカードなど)
    ② PCのログイン記録
    ③ 出勤時間を記録したメモ
    ④ 早出を指示されたメール
    ⑤ 給与明細書
    ⑥ 就業規則
    ⑦ 業務日報
    など
    です。

  2. (2)残業代の計算

    証拠を収集したら、残業代がいくら発生しているかを計算します。請求する以上、残業代がいくらなのかを自分で計算します。

  3. (3)会社への請求

    残業代を計算したら、その金額を会社に請求します。記録が残る内容証明郵便で行うのが一般的です。

  4. (4)弁護士に依頼する

    労働基準監督署は会社が労働基準法に違反しないようにすることが目的なので、従業員個人を守ることが主眼ではありません。そのため、迅速に残業代を回収したいという場合、弁護士に依頼するのが効果的です。弁護士が会社と交渉することで迅速に残業代が支払われることもあります。

    万が一、それでも残業代を支払わないという場合、労働審判や裁判ということになりますが、弁護士に依頼していれば、それら手続きも行ってもらえます。

5、まとめ

「残業」というと夜遅くまでというイメージがありますが、早出も立派な残業です。会社は「早出するよう指示はしていない」とか「着替えなど準備行為は労働時間に含まれない」など残業代はつかないと主張することがあります。
そのような場合には、しっかりと記録をとって、証拠を収集した上で、会社に請求することが大事です。その際、弁護士を活用することで会社の対応が変わることもあります。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、労働事件の経験豊富な弁護士がおりますので、労働問題でお困りのようでしたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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