遺産分割協議書の書き方を、広島オフィスの弁護士が解説します

2019年11月05日
  • 遺産を受け取る方
  • 分割協議書
  • 書き方
  • 広島
遺産分割協議書の書き方を、広島オフィスの弁護士が解説します

相続が発生したときの重要なイベントのひとつとして、遺産分割協議があります。当然ですが、広島市内においても、必要な手続きです。

そして、後日の遺産分割手続き、あるいは不測のトラブルが発生したときのために作成しておくべき書面が遺産分割協議書です。この遺産分割協議書は書き方やルールなどが法定化されていないため、書き方がよくわからない、そもそも作成することが必要なのかというお声をよく聞きます。

そこで本コラムでは、相続業務を幅広く承っているベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が、遺産分割協議書の書き方や重要性などについて解説します。

1、遺産分割協議書とは?

遺産分割協議とは、相続発生後の相続人間における遺産の共有関係を解消するために、遺産を誰が・何を・どの割合で相続するか相続人間で話し合って決めることです。共有状態にある遺産は、この遺産分割協議の結果に基づいて所定の手続きに基づき分割されます。これにより、たとえば自宅不動産は配偶者・預貯金は相続人全員で均等に分けるなどというように、それぞれの相続人が単独で遺産を所有できるようになります。

そして遺産分割協議書とは、相続人間における遺産分割協議の合意内容をまとめた書面を指します。なお、家庭裁判所における調停または審判により遺産分割割合などが定められた場合は、裁判所により調停調書または審判書が作成されます。

2、遺産分割協議書は必要?

遺産分割協議書の作成は、法律で義務付けられているわけではありません。しかし、もし遺産分割協議が成立しあとに相続人間遺産をめぐり争いが起きたとき、遺産分割協議書の有無が明暗を分けます。他の相続人全員と正式に合意済みだという証拠となり、紛争そのものを防止する機能が期待できるのです。

また、以下のような場合は、遺産分割協議書が必要になります。

・ 不動産の相続登記
相続登記とは、不動産の名義を被相続人から相続人に変更することです。協議の結果、法定相続分以外の持ち分割合で相続登記をすることとなった際は、法務局から遺産分割協議書の提出が求められます。

・ 預貯金の払い戻し
金融機関に対して被相続人名義の預貯金の払い戻しを請求する場合も、金融機関から遺産分割協議書の提出が求められることが一般的です。

・ 相続税の申告・納付
税務署に相続税を申告した人が、分割を受ける遺産の割合に従って適切に申告しているかを税務署が確認するための書面として、遺産分割協議書の提出が必要です。

3、分割協議書の書き方と、記載すべき事項10個

遺産分割協議書の書式やルールについては、特に法律で定められていません。しかし、以下の諸点については漏れがないように注意が必要です。

  • 日付
  • 相続人全員が住民票の記載内容と一致する住所と氏名を手書きする
  • 相続人は印鑑証明を受けた実印を用いて押印
  • すべての換価可能な財産および債務について、種類と金額を記載
  • 預貯金などの金融資産は、特定できるように保護預かり先の金融機関名や口座番号などを明記
  • 土地や建物など不動産については、登記事項証明書通りに記載
  • 代償分割(特定の相続人が不動産など特定の高額資産を相続する場合、これにより生じる他の相続人との不公平分を金銭の支払いで補填すること)がある場合、その金額や支払う相続人および支払いを受ける相続人を明記
  • 遺産分割協議書締結後、新たに財産および債務が見つかった場合の取り扱いについて明記
  • 複数以上のページ数になる場合は、それぞれのページに相続人全員で割り印(契印)する
  • 誤字脱字は、必ず訂正印を押す

4、分割協議書作成の注意点

  1. (1)分割する遺産に漏れがないようにする

    遺産分割協議を行う前に、必ず被相続人の遺産を詳細に調査して、漏れがないか入念に確認しましょう。

    もし遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合は、遺産分割協議のやり直しやその財産について新たに遺産分割協議を行うことになります。

    遺産分割のやり直しによる再分割の結果次第では、相続人に想定外の手間が生じる可能性もあります。具体的には、再度の遺産分割協議の結果、追加の相続税を支払う「修正申告」を行う必要が生じることがあります。

  2. (2)相続人が一部でも欠けた遺産分割協議書は無効となる

    遺産分割協議は、相続人全員(代襲相続人・包括受遺者を含む)で行う必要があります。

    もし、一部の相続人を除外して遺産分割協議を行い合意に至ったとしても、無効となるのです。したがって、遺産分割協議を行う前に、被相続人の戸籍謄本などから調査し、すべての相続人を探し出して遺産分割協議に参加してもらう必要があります。

    しかし、遺産分割協議を行う段階になっても相続人の居所が不明なことや、時には生死すらも不明の場合があります。もし十分に調査したのにも拘らず行方不明の相続人がいる場合は、当該相続人が失踪宣告の要件を満たしている場合は失踪宣告を行い死亡したという法律効果を発生させたほうがよいでしょう。

    単なる不存在のように失踪宣告の要件を満たしていない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申し立てを行います。その後、不在者財産管理人との間で遺産分割協議を行うことになります。

  3. (3)相続税の申告・納税期限までに作成しよう

    遺産分割協議による合意および遺産分割協議書の作成について、その期限に関する規定はありません。しかし、相続税の申告・納税期限は、被相続人が亡くなり相続が発生した日の翌日から起算して10ヶ月以内と決められています。たとえ遺産分割協議がまとまらず遺産分割協議書の作成が終わってなかったとしても、それを理由として相続税の申告・納税期限延長が認められることはありません。

    相続税の申告・納税期限までに遺産分割協議がまとまらず遺産分割ができていない「未分割」の状態のことがあります。そのときは、いったん法定相続割合で各相続人に遺産分割がなされたものと仮定し、期限までに相続人それぞれが相続税を申告・納税することになります。

    しかし、未分割の状態では税務上のデメリットや余計な手間が生じてしまう可能性があります。まず、未分割の状態では「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減の特例」などの適用を受けることができません。したがって、このような特例が適用できていた場合と比べ、相続税額が上がってしまうのこともあり得るのです。

    また、未分割の遺産は相続人全員の共有財産となるため、原則として、他の相続人全員の同意が得られていないかぎり遺産の一部であろうと単独で処分できません。このため、相続税の納税資金が不足する場合は被相続人の預貯金を納税に充てることは非常に難しくなるうえに、不動産を物納することも難しくなるのです。

    なお、相続税申告・納税の時点で小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例が適用できなかったとしても、救済措置はあります。税務署に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで原則3年以内に遺産分割協議書を提出することで、上記特例の適用を受けることができるでしょう。

    また、たとえ3年以内に遺産分割協議書を提出できなかったとしても、税務署に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し承認されれば、さらに上記特例適用の延長が可能です。しかし、これらの手続きは相応の手間を要することになります。

5、雛形やサンプルを使うデメリットと、弁護士に相談するメリット

インターネットでは、遺産分割協議書の雛形やサンプルが数多く掲載されています。これはこれで便利なのですが、雛形やサンプルを使用するうえで注意したい点は、雛形やサンプルが「すべての相続に当てはまるわけではない」ということです。

相続は非常に個別性の強いイベントです。相続人の数や状況、あるいは遺産の内容次第で、相続のパターンは無限にあるといってよいでしょう。あなたが作成すべき遺産分割協議書は、あなたの相続に合わせた唯一無二のものなのです。

したがって、遺産分割協議書の雛形やサンプルが、あなたの相続に当てはまるとは必ずしもかぎらないのです。もしかしたら、安易に雛形やサンプルを用いて遺産分割協議書を作成したことが原因で、何らかのトラブルが発生してしまうこともあるかもしれません。

しかし、今後のトラブルを防ぐ、円満な遺産分割協議書の作成は、相続人間の関係や遺産の状況、さらには法的知見からも難しいものです。そこで、弁護士と相談しながら遺産分割協議書を作成することをおすすめします。

相続全般について知見のある弁護士であれば、遺産分割協議書を作成する際の法的なアドバイスはもちろんのこと、相続人や財産の状況などを考慮したうえでそれにふさわしい遺産分割協議書作成のサポートを行います。また、遺産分割協議書作成の前段となる相続人や遺産の調査も可能です。さらに、他の相続人とトラブルになったときも、あなたの代理人として問題解決に動くことを依頼できます。

6、まとめ

遺産分割協議書の作成は、一連の相続手続きのなかでも重要なイベントのひとつです。今後のトラブルを防止するためにも、弁護士と相談しながら作成することを強くおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、遺産分割協議書の書き方にかぎらず相続全般のご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています