間近に迫る「生産緑地の2022年問題」。税金に関する法律的な対策とは?

2021年04月15日
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間近に迫る「生産緑地の2022年問題」。税金に関する法律的な対策とは?

土地の相続において、「生産緑地」は重要な価値を持ちます。
しかし、令和4年には、農地から宅地への転用が認められる「2022年問題」が発生して、地価が下がることが予想されているのです。

両親などから自身が相続する予定の土地が「生産緑地」である場合には、自分が相続する財産には2022年問題によって具体的にどのような影響が生じる可能性があるのかを把握したうえで、相続税や贈与税のことを考慮した対策を行う必要があるでしょう。

本コラムでは、「生産緑地」および「2022年問題」の概要と対策について、べリーベスト法律事務所広島オフィスの弁護士が、法律的な観点から解説いたします。

1、生産緑地とは

生産緑地とは、生産緑地法で定められた一定の土地区分です。生産緑地法の目的は、生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資することです。簡単にいうと、農地等と宅地のバランスを調整することを目的に「生産緑地」というものを設定しているということです。

法律上の生産緑地の定義は、「第三条第一項の規定により定められた生産緑地地区の区域内の土地又は森林をいう。」となっており、第三条第一項では、次のように定められています。

① 公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等良好な生活環境の確保に相当の効用があり、かつ、公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているものであること。
② 500平方メートル以上の規模の区域であること。
③ 用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能な条件を備えていると認められるものであること。


生産緑地となると、最低30年間は農地等として土地を管理しなければならないという制約が課されます。その代わり税制面では大きな優遇が認められています。国土交通省「平成29年都市計画現況調査」のデータによると、全国で1万2972.5ヘクタールが生産緑地地区と指定されています。

生産緑地について使用又は収益をする権利を有する者は、当該生産緑地を農地等として管理しなければならず、生産緑地である旨を掲示しなければなりません。また、生産緑地地区において、建築物その他工作物の造成、土地に手を加える行為は基本的にできません。

ただし、市町村長の許可を受ければ、農産物等の処理又は貯蔵に必要な共同利用施設や従事する者の休憩施設等を設置することは可能です。

また、市町村長は、生産緑地の保全のため必要があると認めるときは、その必要な限度において、実施状況その他必要な事項について報告を求めたり、立ち入り検査をしたりすることができます。

このような厳しい制限があるため、税制面で大きな優遇が認められているわけです。

2、生産緑地の特典

生産緑地は、30年間という長い間土地の制約が課される反面、次のような税制上優遇が認められています。

  1. (1)固定資産税の減額

    生産緑地の農地については、不動産の評価や課税をするにあたっては、一般農地と同様の取り扱いとされています。つまり、大都市部であっても、固定資産税が一般農地と同じとなり、宅地と比較するとかなり税金が少なくなります。一般農地の固定資産税の計算は複雑なのでここでは省略しますが、宅地の固定資産税が数十万円だとすると生産緑地は数千円程度になるイメージです。

  2. (2)相続税の納税猶予

    相続や遺贈により生産緑地を取得し、引き続き農業を行う場合、一定の要件の下で、相続税の一定額について納税猶予が受けられます。

    具体的には、通常の評価額による相続税額と農業投資価格による相続税額の差額が猶予されます。農業投資価格とは、農業にしか使用することができないとした場合の価格のことです。この価格は、国税局長が定めます。たとえば広島県の場合には、令和元年分の農業投資価額は10アールあたり36万円~66万円程度と、通常の宅地評価額よりも低い価格が設定されています。そのため、多額の相続税が猶予されます。

    この猶予は、以下の要件を満たす場合には免除されます。

    • 特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合
    • 特例の適用を受けた農業相続人が特例農地等の全部を後継者への生前一括贈与した場合
    など


    また、農地を譲渡、贈与若しくは転用のほか、地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定若しくはこれらの権利の消滅又は耕作の放棄をしたり、3年ごとの「継続届出書」を提出しなかったりした場合には、納税猶予が打ち切られることもあります。

    納税猶予が打ち切られた場合、相続時までさかのぼって課税されます。猶予されていた本来の相続税だけでなく、猶予期間に応じた利子税も合わせて納付しなければなりません。

    被相続人の主な要件
    • 死亡の日まで農業を営んでいた個人
    • 農地等の贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与をした個人
    • 死亡の日まで、営農困難時貸付や特定貸付を行っていた個人
    など

    農業相続人の主な要件
    被相続人の相続人で次のいずれかに該当する人であること
    • 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後引き続き農業経営を行うと認められる者
    • 農地等の生前一括贈与を受けた者で一定の要件を満たす者
    • 申告期限までに特定貸付を行った者


    納税猶予を受けるためには、相続税の申告期限内(相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)に、相続税の申告書と一定の添付書類を税務署に提出する必要があります。この時、一定の担保を提供しなければなりません。また、納税が猶予されている間は、申告期限から3年目ごとに「継続届出書」を提出することが必要です。

  3. (3)贈与税の納税猶予

    贈与税についても一定の要件の下に、一定額の納税猶予を申請することができます。具体的には、3年以上農業を営んでいる人が、生前に農業を引き継ぐ推定相続人に農地等を一括して贈与し、その農地を農業の用に供する場合、贈与者が死亡する日まで贈与税の納税が猶予されます。

    贈与者の要件
    贈与の日まで3年以上引き続いて農業を営んでいた個人で、次に掲げる場合に該当しない人であること。
    • 贈与をした日の属する年の前年以前において、推定相続人に対し相続時精算課税を適用する農地等の贈与をしている場合
    • 贈与をした日の属する年において、今回の贈与以外に農地等の贈与をしている場合
    • 過去に農地等の贈与税の納税猶予の特例に係る一括贈与をしている場合


    受贈者の要件
    贈与者の推定相続人のうちの1人で、次の要件の全てに該当するものとして農業委員会が証明した個人であること。
    • 贈与を受けた日において、年齢が18歳以上であること
    • 贈与を受けた日まで引き続き3年以上農業に従事していたこと
    • 贈与を受けた後、速やかにその農地及び採草放牧地によって農業経営を行うこと
    • 農業委員会の証明の時において認定農業者等であること


    この特例の適用を受けるためには、贈与税の申告書に一定の書類を添付して、その申告書を贈与税の申告書の提出期間内に提出するとともに、農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。

    また、この特例の適用を受けた人は、納税猶予の期限が確定するか納税が免除されるまでの間、贈与税の申告期限から3年目ごとに、継続届出書を提出しなければなりません。

    この納税猶予税額は、受贈者又は贈与者のいずれかが死亡した場合には、その納税が免除されます。ただし、贈与者の死亡により納税が免除された場合には、贈与者から相続したものとみなされて相続税の課税対象となります。

3、2022年問題とは

生産緑地は、30年間にわたって農業を行わなければならず、その間は農地転用を認めないとしましたが、2022年には、この30年の期間が終了します。農業を継続する意思のない後継者は、その土地を宅地に変える可能性があるため、土地の供給量が増え土地の値段が下がるのではないかとの懸念があります。これが「生産緑地2022年問題」です。

空き家問題が深刻化する中で、新たに大量の宅地が供給されれば、さらに空き家が増えるという懸念もあります。

生産緑地はもともと三大都市圏の市街化区域を念頭に定められた規定のため、東京都がもっとも多く、東京都の生産緑地(2017年3月31日時点)は3164ヘクタールに及びます(「平成29年都市計画現況調査」より)。これは、生産緑地の全国合計の面積の約4分の1にあたります。

また、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府の6都府県を合計するとその面積は約1万0470ヘクタールになり、生産緑地の全国合計の面積の約8割になります。この6都府県がいかに多いかがわかります。これら都市部の生産緑地が宅地になれば、不動産価格が下がるのは必至です。

ただ、急激に不動産価格が下がるのかと言えばそうとは言い切れません。2022年に農業をする義務がなくなったとしても引き続き農業をしたいという方はいると考えられるからです。また、2020年に不動産価格が安ければ、すぐに売らずに高くなった時点で売ろうと考える方もいるでしょう。

元々日本は人口が減少しているので、不動産価格は将来的には下がると見られています。それに加えて2022年問題が加わるので、下がる可能性は高いと言えます。また、生産緑地に隣接する既存住宅などでは、生産緑地にマンションが建つことで、日照や景観が害され、資産価値が下落する可能性も考えられるでしょう。

4、2022年問題への対応

2022年問題に対しては、国や自治体も対策に乗り出しています。2015年に都市農業振興基本法を制定し、都市農業を重要なものとして位置付け、都市にあるべきものとして計画的に保全を図ろうとしています。生産緑地は、都市農地として維持していくべきものとして考えられています。

また、2016年度には「生産緑地法」を改正し、生産緑地の所有者の意向を基に、市町村長は告示から30年経過するまでに、生産緑地を特定生産緑地として指定できることになりました。特定生産緑地に指定された場合、買い取りの申し出ができる時期が10年延期されます。これによって、2022年に急に宅地が増えることがないようにしています。

特定生産緑地に指定されなかった生産緑地は、農地課税から、宅地並み課税となります。ただし、三大都市圏特定市においては、急激な税負担を防ぐ観点から、激変緩和措置が適用されます。

このようにさまざまな政策が打ち出されていますが、どうするかを決めるのは所有者です。買い取りの申し出をして自治体が買い取らない場合、行為制限がなくなるので、宅地として売却することも可能になります。

ただ、その場合、相続税の猶予が直ちに打ち切られ、固定資産税も宅地として課税されることになるので注意が必要です。

5、まとめ

今回は生産緑地について解説してきましたが、ご自身が相続する土地が生産緑地の場合、このような問題が生じるということを知っておくことは大事なことです。

生産緑地について相続した場合にどのような選択をするのがベストなのか、事前に考えておくと相続の際あわてずに済みます。

ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、相続や不動産問題についての相談を受け付けておりますので、相続に向けてどのような準備すればよいのだろうとお考えの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています