有印私文書偽造罪に問われうるケース|構成要件から有印などの定義
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令和5年6月、広島県警広島東署が偽造有印私文書行使の容疑で保釈中の男を逮捕したという報道がありました。文書偽造罪には、私文書と公文書の区別、有印と無印の区別、偽造と変造の区別などがあり、どの構成要件に該当するかによって、成立する罪や罪の重さも変わってきます。
本コラムでは、有印私文書偽造罪を中心に、構成要件から私文書と公文書の区別、有印と無印の区別、偽造と変造の区別などについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、文書偽造とはどのような犯罪?
文書偽造とはどのような犯罪なのでしょうか。偽造する文書の種類や方法によって成立する犯罪が異なってきますので、以下で詳しく説明します。
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(1)文書偽造罪とは
文書偽造罪とは、私文書や公文書を偽造・変造したり、虚偽内容の診断書を作成したりすることにより成立する犯罪です。
契約書や戸籍などの文書は、一定の事実関係を証明するために用いられるものであり、その文書が偽造されてしまうと、公衆の信用や社会生活における取引の安全は著しく害されることになります。したがって、刑法では、文書に対する公共の信用を保護することを目的として文書を偽造する行為を処罰の対象としているのです。
「文書偽造罪」という名称の犯罪があるわけではなく、文書の種類や行為によって、成立する犯罪は細分化されています。具体的には、公文書偽造罪や私文書偽造罪などが規定されています。 -
(2)私文書偽造罪の種類
私文書偽造罪については、印章や署名の有無によって、有印私文書偽造罪と無印私文書偽造罪に分けられます。
他人の署名や押印がある文書のほうが、書名や押印のない文書に比べて文書の信用性が高いため、有印私文書偽造罪のほうが重い処罰を科されるのです。
2、有印私文書偽造罪や、その他の文書偽造罪の構成要件は?
有印私文書偽造罪の構成要件について、その他の文書偽造罪の構成要件と比較しながら、解説します。
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(1)有印私文書偽造罪の構成要件
有印私文書偽造罪が成立する要件としては、「行使の目的」で「他人の印章若しくは署名を使用」して、「権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画」を「偽造」することをいいます(刑法159条1項)。また、使用される他人の印章・署名が偽造したものである場合にも、有印私文書偽造罪が成立する要件となります。
それぞれの用語の意味は、下記の通りになっています。
① 行使の目的
「行使の目的」とは、他人に対して、偽造した文書を本物の文書であると信じ込ませようとする目的のことをいいます。
文書偽造罪は、行使の目的があれば成立しますので、実際に偽造文書が他人に行使されたかどうかは問われません。
② 他人の印章・署名を使用
「印章」とは、人格の同一性を表彰する印のことをいいます。それによって文書の信用力が高まれば足りるため、実印に限られるものではありません。
「署名」とは、氏名その他の呼称を表記することをいいます。
③ 権利、義務、事実証明に関する文書・図画
「権利、義務に関する文書」とは、権利または義務の発生、変更、消滅の効果を生じさせる文書あるいはその原因となる事実について証明力のある文書のことを指します。具体例としては、私人間の売買契約書などがあります。
「事実証明に関する文書」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書のことを指します。具体例として、郵便局の転居届、私立大学の答案用紙、履歴書などがあります。
④ 偽造
「偽造」とは、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいいます。
たとえば、買い主がAとされている売買契約書にBが勝手にAの名前を書き、押印をした場合には、名義人がAであるにもかかわらず、Bが作成した文書となり、名義人と作成者の人格の同一性を偽っていることになります。このような場合には、有印私文書偽造罪が成立するのです。 -
(2)その他の文書偽造罪の構成要件
有印私文書偽造罪以外の類似の文書偽造罪としては、以下のものが挙げられます。
① 公文書偽造罪
偽造する文書が私文書ではなく公文書であった場合には、公文書偽造罪が成立します(刑法155条)。
公文書偽造罪の客体とは、公務所または公務員が、職務に関し、所定の形式に従って作成すべき文書・図画です。これらの公文書に該当する例としては、運転免許証、印鑑証明書、納税証明書などがあります。
公務所または公務員が職務上作成すべき文書については、各種証明に用いられることもあり、類型的に私文書に比べて信用性が高いといえます。そのため、公文書を偽造する罪については、私文書偽造罪よりも重い法定刑が定められているのです。
公文書偽造罪には、有印公文書偽造罪と無印公文書偽造罪があり、前者の法定刑は、1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)、後者の法定刑については、3年以下の懲役または20万円以下の罰金と規定されています(刑法155条3項)。
② 無印私文書偽造罪
印章または署名がない私文書を偽造した場合には、無印私文書偽造罪が成立します(刑法159条3項)。
無印私文書の例としては、封筒に封入した署名のない文書などが挙げられます。印章または署名がない点で、有印私文書よりも信用性は低いと考えられるため、有印私文書偽造罪よりも軽い法定刑が定められています。
無印私文書偽造罪の法定刑は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金と規定されています。
③ 私文書変造罪
私文書を偽造ではなく変造した場合には、私文書変造罪が成立します。
「変造」とは、名義人ではない者が、権限なく真正文書の内容の非本質的部分に改ざんを加えることをいいます。
私文書変造罪には、有印私文書変造罪と無印私文書変造罪があり、前者の法定刑は、3か月以上5年以下の懲役(刑法159条2項)、後者の法定刑については、1年以下の懲役または10万円以下の罰金と規定されています(刑法159条3項)。
3、有印私文書偽造罪の罰則は?
有印私文書偽造罪の法定刑は、3か月以上5年以下の懲役と規定されています。
無印私文書偽造罪とは異なり、罰金刑などは規定されていませんので、有罪になれば、判決で執行猶予が付かない限り刑務所へと収監されることになります。
有印私文書偽造罪が成立する場合には、偽造した有印私文書を行使して何らかの不正な行為をすることが多いため、有印私文書偽造罪の他にも、偽造有印私文書行使罪(161条1項)や詐欺罪(刑法246条1項)も成立する可能性が高いのです。
偽造有印私文書行使罪の法定刑は、3か月以上5年以下の懲役、詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役と規定されています。
4、有印私文書偽造罪で逮捕された場合の流れ
有印私文書偽造罪で逮捕された場合には、以下のような流れで裁判までの手続きがすすんでいきます。
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(1)逮捕された後の流れ
刑事事件で逮捕された後の流れは、以下の通りになっています。
① 逮捕
有印私文書偽造罪で逮捕された場合には、警察署の留置場に身柄が拘束されて、警察官による取り調べを受けることになります。
逮捕による身柄拘束には法律上時間制限があり、警察は、逮捕をしたときから48時間以内に事件および被疑者の身柄を検察に送致しなければなりません。
② 勾留
警察から送致を受けた検察は、必要な取り調べを行い、24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断しなければなりません。
検察官から勾留請求がなされて、裁判所が勾留を認めると、原則として10日間の身柄拘束が続くことになります。勾留については延長も認められていますので、勾留延長決定がなされた場合には、さらに最大10日間も身柄拘束が継続することになります。
③ 起訴または不起訴
検察官は、勾留の満期までに必要な捜査を終えて、最終的に被疑者を起訴するのか身柄を解放するのかを決めなければなりません。起訴された場合には、刑事裁判によって犯罪事実の審理が行われることになります。
有印私文書行使罪は、罰金刑がありませんので、略式起訴が選択されることはありません。
不起訴になった場合には、身柄が解放されて、前科が付くこともありません。一方で、起訴されて有罪になってしまった場合には、前科が付くことになります。 -
(2)逮捕された場合には早期に弁護士に相談を
有印私文書偽造罪の疑いで逮捕された場合には、上記の通り最大で23日間も身柄拘束が続くことになります。長期間身柄拘束が続くことによる本人の不利益は多大です。できる限り早期に身柄を解放するために、信頼できる弁護士に弁護活動を行わせることが重要になります。
有印私文書偽造罪が成立するためには、「行使の目的」が必要になります。したがって、客観的事実から行使の目的がなかったことが明らかな場合には、そのことを主張して不起訴処分を目指すこともあります。そのためには、逮捕勾留中の取り調べに対するアドバイスや検察官に対する意見書の作成など、弁護士によるサポートが不可欠です。
早期に弁護士に相談をすることによって、より早く有効な対策を講じることが可能になります。逮捕された場合には、すぐに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
文書偽造は、文書の種類や改ざんの方法などによってさまざまな種類の犯罪が成立する余地があります。特に有印私文書偽造として罪に問われることになった場合、私文書偽造の罪の中でも比較的重い罪であり、適切な弁護活動を行われなければ、長期間の懲役が科される可能性があるのです。
何らかの理由で有印私文書偽造罪として罪に問われうる行為をしてしまい、警察から連絡がきた場合は、できるだけ早期にベリーベスト法律事務所 広島オフィスへご相談ください。刑事事件についての知見が豊富な弁護士が、あなたが過剰に重すぎる処罰が科されないよう、力を尽くします。
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