牡蠣やハマグリなどの貝を採ると密漁? 漁業権など関係法令と罰則

2023年12月18日
  • その他
  • 密漁
牡蠣やハマグリなどの貝を採ると密漁? 漁業権など関係法令と罰則

広島名産の牡蠣は12月から3月の寒い時期に旬を迎えます。春に旬を迎えるアサリやハマグリも美味しく人気があることは疑いようのない事実です。そのため、素潜りや潮干狩りなどで貝を採って楽しみたいと考える方がいるかもしれません。

しかし、貝類の多くは漁業権の対象となっています。そのため、無免許で採捕すると「密漁」となる危険があるのです。レジャーのつもりで少量を採捕した場合でも犯罪になってしまうため、注意が必要です。

本コラムでは「密漁」にあたる行為の種類や罰則について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、潮干狩り・貝類の採捕が密漁になった事例

「密漁」といえば大がかりな犯罪であるかのように思われる方が多いかもしれませんが、家庭の食事のために少量の貝類を採っただけでも、法律に違反して密漁になってしまうことがあります
貝類を採捕したことが密漁になった事例としては、以下のようなものがあります。

  1. (1)素手でハマグリを採った事例

    令和3年4月、茨城県内の海水浴場で素手を使ってハマグリ約1トンを採捕した男2名が海上保安庁に摘発されました。
    この海域では、県知事の許可を受けた漁業者以外の者が1人あたり1キロ以上のハマグリを採ることや、許可を得ず一定以下のハマグリを採ることが禁止されています。
    摘発された男2人は、100回以上にわけてインターネットオークションに出品し、落札額約120万円を得ていたのです。

  2. (2)禁止された漁具を使ってアサリを採った事例

    令和元年6月、愛知県・三重県の海岸や河口付近でアサリ・ハマグリ・シジミを採った男女23名が密漁の疑いで海上保安部によって書類送検されました。
    禁止区域における採捕のほか、漁業者以外には使用が禁止されている「じょれん」と呼ばれる漁具を使った者もいました。

2、密漁で問われる罪

貝類を採捕する行為が「密漁」にあたるのは、漁業に関する法律の定めに反した場合です。
密漁行為で問われる罪の種類について解説いたします。

  1. (1)漁業権侵害

    アサリやサザエ、ワカメ、伊勢エビ、ウニ、ナマコといった定着性水産動植物は、地元の漁業協同組合に第一種共同漁業権が免許されています。
    対象物を無免許で採捕した場合には、「漁業法」の第195条1項に規定されている「漁業権侵害」が成立するのです

    なお、漁業権侵害は同条2項によって「親告罪」に規定されています。
    したがって、漁業権の侵害を受けた漁業協同組合からの告訴がない限り、検察官は被疑者を起訴することができません。

  2. (2)漁業調整規則違反

    漁業者でなければ使用が認められない漁具を使用して貝類を採捕した場合や、採捕が認められている大きさに満たない貝類を採捕した場合は「漁業調整規則」の違反になります。

    漁業調整規則は各都道府県において個別に規定されており、広島県には「広島県漁業調整規則」が存在しています。
    同規則においては、第44条において規定されている漁具または漁法以外の方法による水産動植物の採捕が原則として禁止されているほか、第36条1項において殻長3センチメートル以下のハマグリの採捕が禁止されているのです。

  3. (3)水産資源保護法違反

    各都道府県の漁業調整規則のほかに水産動植物の採捕方法を規制する法律が、「水産資源保護法」となります。
    同法第6条では、麻痺させることによる採捕や、有毒物を用いた採捕が禁じられています。

  4. (4)窃盗罪

    養殖されている貝類を無断で採捕した場合には、刑法第235条の「窃盗罪」が成立する可能性があります
    広島湾の海上には牡蠣の養殖いかだが多数設置されていますが、養殖されている水産動植物はすべて養殖者の財産であるため、それを採捕することは他人の財産を無断で持ち去る「窃盗」行為と見なされうる行為といえます。

    なお、養殖いかだのほとんどが養殖者の権限によって立ち入りが禁止されているため、養殖いかだに乗るだけでも、軽犯罪法における「立ち入り禁止場所等への侵入」が成立するおそれがあります。

3、密漁行為に科せられる刑罰

密漁行為を罰する各種法令のそれぞれについて、違反した場合に科せられるおそれのある刑罰を解説します。

  1. (1)漁業権侵害の場合

    漁業権侵害にあたる行為には、漁業法第195条1項の規定に従って100万円以下の罰金が科せられます。

    なお、漁業法は令和2年12月に厳罰化を含めた改正が施行されました。
    ナマコなどの「特定水産動植物」に指定された動植物については、無許可で採捕した者や密漁品と知りながら譲受・運搬した者に、同法189条の規定に従って3年以下の懲役または3000万円以下の罰金という極めて重い刑罰が科せられるようになったのです。
    少量や自家消費用であっても罪は免れませんので、くれぐれも漁業権を侵害しうる行為をしないようにしてください。

  2. (2)漁業調整規則違反の場合

    漁業調整規則違反にあたる行為については、各都道府県の規則によって刑罰が異なります。

    広島県漁業調整規則第44条の漁具使用の違反にあたる場合は、第60条に従って「科料」が科せられます。
    第36条1項の全長等の制限に違反すると、第59条に従って6か月以下の懲役もしくは10万円以下の罰金またはこれらを併科されます。
    科料とは、1000円以上1万円未満の金銭徴収を受ける刑です。

  3. (3)水産資源保護法違反の場合

    麻痺・有毒物を用いて水産動植物を採捕するなど、水産資源保護法に違反した場合には、同法第41条に従って3年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます。

  4. (4)窃盗罪の場合

    養殖されている貝類を無断で採捕して窃盗罪が成立した場合には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

4、貝の密漁でトラブルになったら弁護士に相談を

レジャーや自家消費のための潮干狩りでも、貝類を採捕する行為が法律に違反した場合には、密漁として厳しい刑罰を科せられてしまいます。
また、漁業関係者から厳しく叱責されて、現場でトラブルが起こるケースも多々あるのです。

貝類の密漁を疑われてしまい、警察・海上保安庁の捜査対象になったり、漁業関係者とトラブルになったりした場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)実際に密漁にあたるのかを確認できる

    貝類の密漁については、主に漁業法・都道府県の漁業調整規則の定めに照らして違法であるかを判断することになるため、適法であるか違法であるかの判断は容易ではありません。
    特に漁業関係者から密漁を指摘されたケースでは、潮干狩り客や釣り客のことを快く感じていない漁業関係者が法律を拡大解釈したうえで「密漁だ」と非難する場合もあります。このようなトラブルが生じたときには、法律について正確に確認することが重要になるのです。

    弁護士に相談すれば、対象となっている区域・対象物・漁具が禁止されているのか否かについて、法律の専門知識に基づいて正しく確認することができます

  2. (2)示談交渉を依頼できる

    採捕行為が密漁にあたる場合は、採捕した貝類の相場・数量や重量に応じて、被害額が算出されます。
    被害者となる地元漁業協同組合との間で示談交渉の場を設けて、謝罪したうえで被害額に相当する金額を弁済できれば、被害届・告訴状の提出を回避できたり、すでに提出された被害届・告訴状を取り下げてもらえたりする可能性があります。
    特に、漁業権侵害は親告罪として規定されているため、示談が成立して刑事告訴を取り下げられたら、検察官に起訴される可能性がなくなるのです。
    したがって、密漁にあたる行為をしてしまった場合には、速やかに示談を成立させることが重要になります。

    ただし、「密漁者に対しては厳しい姿勢で応対する」という方針をとっており、示談交渉には応じないとする地元漁業協同組合も少なからず存在しています。そのため、容疑をかけられてしまった本人が交渉しようとしても、示談が成立しない場合が多々あるのです。
    第三者である弁護士が示談を持ちかければ、漁業協同組合も交渉に応じる場合があります第三者である弁護士が示談を持ちかければ、漁業協同組合も交渉に応じる場合があります。そのそのため、示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします

  3. (3)不起訴・刑罰の軽減に向けた弁護活動が期待できる

    警察・海上保安庁が密漁事件として捜査を行った後には、検察官へと事件が送致されます。
    密漁者を起訴して刑事裁判で罪を問うか、それとも不起訴とするのかの判断は、検察官に委ねられているのです。

    密漁行為が事件化した場合にも、早い段階から弁護士に依頼して弁護活動を開始できれば、検察官にはたらきかけて不起訴処分となる可能性が高まります。
    また、もし起訴されて裁判にまで至った場合にも、有利となる事情の証拠を早い段階からそろえて法廷の場で行う主張を練ることで、刑罰を軽減できる可能性が高まるのです。

    したがって、自分の採捕行為の違法性が高いことを自覚されている場合には、速やかに弁護士にまで相談することをおすすめします

5、まとめ

たとえレジャーのついでに貝を採るなど、転売などをするつもりはない自家消費の目的であっても、法律・規則で禁止されている区域・対象物・方法で貝類を採捕する行為は「密漁」とされて、厳しい刑罰が科せられてしまうおそれがあります。
密漁に関する法律・規則の解釈や判断には難しい点が多いため、密漁を疑われたらまずは弁護士に相談して、自分の行為は実際に密漁にあたるのか否かを確認しましょう。

もし密漁の事実があれば、穏便な解決を目指すため、最善を尽くす必要があります。
被害者となる地元漁業協同組合との示談交渉や、警察・海上保安庁といった捜査機関へのはたらきかけは欠かせません。密漁の前科をつけてしまわないためにも、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 広島オフィスまで、直ちにご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています