転売で逮捕されたら? チケット不正転売禁止法の規制について弁護士が解説

2019年09月13日
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転売で逮捕されたら? チケット不正転売禁止法の規制について弁護士が解説

以前から大量のチケット転売問題に苦慮していた広島カープ。転売対策として、平成31年2月25日にマツダスタジアムでチケットの抽選券を配布したところ、5万人以上のファンが殺到し大混乱となりました。

これまでチケットの転売行為は原則として犯罪にはなりませんでしたが、このような社会的背景から、令和元年6月14日よりチケット不正転売禁止法が施行されました。

今後どのような転売行為が違法となるのか、また家族がチケット転売で逮捕されてしまったらどうすればよいか、広島オフィスの弁護士が解説します。

1、チケットの転売は犯罪になる?

本来、自分が買った物であればどのように処分しようと自由です。ここでいう「処分」には、壊したり捨てたりすることも、他人に売ることも含まれます。
実際、私的自治の範囲内での取引や、商社や小売業が商品自体に付加価値を付け加えない販売行為は法的には問題ありません。
しかし、チケットの転売行為や買い占めは円滑な取引を阻害し、社会全体に望ましくない影響を及ぼしているのも事実です。
そこで、チケットの転売行為を規制するための筋道がいろいろと考えられてきました。

2、これまでの転売規制

  1. (1)迷惑防止条例による転売規制

    広島県のほか、都道府県で定めている迷惑防止条例の多くは、公共の場所でのダフ屋行為を規制しています。
    ダフ屋行為とは、チケットなどの「札」を逆読みした隠語の「ダフ」に由来する、高額での転売行為を指すものです。
    ただし、迷惑防止条例はあくまで「公共の場」において規制されるもので、インターネット上の転売行為には及びませんでした。また、なかには規制のない自治体もあり、転売行為の規制としては不十分だったのです。

  2. (2)詐欺罪としての転売規制

    転売行為が詐欺罪となり逮捕されたケースもあります。
    平成29年9月22日の神戸地裁の判決では、アーティストの公演の電子チケットを転売目的で取得したとみられる男性を、詐欺の罪で有罪としています。本判決では、インターネット上で行われた電子チケットの購入行為を、詐欺罪における欺罔行為(騙す行為)として認定しました。売り主は転売目的でのチケット購入を禁じており、購入者本人が使用するものとして販売したのだから、転売目的を隠してチケットを購入するのは売り主を騙していることになる、との理屈です。
    本件では求刑通りの懲役2年6月、執行猶予4年という判決が下され、初犯にもかかわらず従来の例と比べても重めの刑罰となっています。
    しかし、すべての転売行為が詐欺にあたるかどうか、規制するのは困難です。

    このように繰り返される転売行為や間近に迫った東京オリンピックの開催を見据えて、全国的にダフ屋行為を規制する必要性が意識されるようになりました。
    そして「チケット不正転売禁止法」が成立したのです。

3、新たに成立したチケット不正転売禁止法とは

  1. (1)チケット不正転売禁止法の対象

    令和元年6月14日より施行されるのが「チケット不正転売禁止法」です。
    転売の対象となるのは、不特定多数者が視聴する映画、演劇、音楽、舞踏、スポーツのチケットなどです。ファングッズや書籍、列車の乗車券といったものは対象外とされています。

    ① 興行主やその委託を受けた販売業者が、販売時に(i)同意のない有償譲渡を禁止し、(ii)入場資格者又は購入者の氏名・連絡先を確認した上で、(i)(ii)が券面などに表示されているもの
    ② 興行の日時・場所のほか、入場資格者又は座席が指定されているもの

  2. (2)規制される転売行為の具体例

    規制される行為としては、主に以下になります。

    • 業として、興行主やその委託を受けた販売業者の事前の同意を得ないで、販売価格を超える金額で有償譲渡すること(不正転売)
    • 不正転売目的で、譲り受けること(不正仕入)


    ポイントとしては3点あり、販売者の事前同意がないこと、販売価格を超える金額で転売すること、そしてこれらを業として行うことが挙げられます。

    販売価格に関しては、手間賃や事務手数料といった名目の如何は問われません。また、現金以外のプリペイドカードなどとの交換でも転売に当たると判断されます。
    「業として」とは、反復継続して行った場合に該当し、たとえば体調を崩して行けなくなったイベントのチケットを定価で知人に譲るといった行為であれば問題ありません。

  3. (3)転売規制の刑罰

    規制対象となる転売を行った場合、1年以下の懲役か100万円以下の罰金、または併科となります。
    チケット不正転売禁止法が施行されるのは令和元年6月14日からであり、規制後どのような刑罰となるかは実際の運用が待たれるところです。
    ただ、対象や行為が限定され、なおも刑罰が重いとはいえないことからも、実務では詐欺罪と併せて犯罪の成否が判断される可能性があるでしょう。

4、家族が転売行為で逮捕されてしまったら

チケット不正転売禁止法が施行され、もしもご家族がチケット転売行為で逮捕されてしまったら、何かできることはないかと心配されることでしょう。
通常の詐欺とは異なり、被害者に弁償して示談するという流れにはなりにくいですが、転売が悪質ではないことを主張し刑罰を軽くするよう働き掛けたり、身柄拘束からの早期解放を求めたりすることは可能です。ご家族としては、なるべく早く弁護士に相談し、本人へのアドバイスとともに、今後の対応についてサポートを受けることをおすすめします。

5、まとめ

チケットの転売行為は正当なビジネスとの境目が曖昧な部分もあったため、犯罪だという認識なく行ってしまう方もいるでしょう。しかしチケット不正転売禁止法が成立した今、「知らなかった」では済まされません。
もしご家族が常習的なチケット転売行為によって逮捕されてしまったら、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士までご相談ください。法律的な助言や身柄拘束からの早期解放など、さまざまなサポートをいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています