「触らない痴漢」をしたら逮捕される? 前科がつく可能性はあるのか

2024年08月07日
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「触らない痴漢」をしたら逮捕される? 前科がつく可能性はあるのか

痴漢といえば満員電車の中で女性や男性の身体を触る行為などが代表的です。しかし、国語辞典などによると、痴漢は「みだらないたずらをすること」と定義されており、必ずしも身体的接触を伴うことを要しません。

最近では、相手に直接触れず、息を吹きかけたり、匂いを嗅いだり、エアドロップなどを用いて卑わいな画像を送りつけるといった「触らない痴漢」が取りざたされています。

「触らない痴漢」でも逮捕されたり、有罪とされたりする可能性はあるのでしょうか。どのような行為が「触らない痴漢」にあたりうるのか、どのような罪に問われうるのか、逮捕された場合にはどのように対応すればよいのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。


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1、そもそも痴漢とは? 定義と犯罪にあたりうる行為

  1. (1)痴漢行為で問われうる犯罪①|迷惑防止条例違反

    日本の法律・条例に「痴漢罪」という犯罪は規定されていません。いわゆる痴漢事件については、各都道府県の迷惑防止条例または不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)の適用が問題となります。

    痴漢行為等を規制する迷惑防止条例は都道府県ごとに制定されており、広島県では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」という名称で制定されています。

    痴漢行為について、広島県の迷惑防止条例は次のように規定しています。

    第3条 卑わいな行為の禁止
    何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、著しく羞恥又は不安を覚えさせるような次の各号に掲げる行為をしてはならない。

    1 衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から、又は直接他人の身体に触れること。
    2~4 (省略)
    5 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。


    1号で規制されている行為は、電車やバスなどの車内で女性や男性の身体に触わるなど身体的な接触を伴う一般的にイメージされる痴漢行為です。

    他方、5号では身体的な接触を伴うか否かにかかわらず「卑わいな言動をすること」が規制されており、後述するように「触らない痴漢」は同号違反として罰せられる可能性があります。

  2. (2)痴漢行為で問われうる犯罪②|不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)

    痴漢行為は、刑法第176条に規定されている不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)によっても規制されています。

    【刑法第176条】
    次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6か月以上10年以下の拘禁刑に処する。

    1 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
    2~4 (省略)
    5 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
    6 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
    7~8 (省略)


    わいせつな行為とは、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」をいいます(名古屋高裁金沢支部昭和36年5月2日判決。ただし、旧強制わいせつ罪ではなく、公然わいせつ罪についての裁判例)。

    このように、裁判例は、身体的な接触を伴うことをわいせつ行為にあたることの要件としていないため、いわゆる「触らない痴漢」であっても、個別の行為態様や状況によっては不同意わいせつ罪における「わいせつ行為」にあたると判断される可能性はあります

    もっとも、不同意わいせつ罪は、迷惑防止条例違反とは異なり、行為者が被害者に対して「暴行または脅迫」を用いてわいせつ行為をした場合、「(被害者がある行為を受けることについて)表明し又は全うするいとま(時間的余裕)がない」ことを利用してわいせつ行為行った場合、「(被害者を)予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又は(被害者が)その事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」を利用しわいせつ行為をした場合などでなければ犯罪として成立しない可能性はあります。

2、「触らない痴漢」で受ける処罰

  1. (1)触らない痴漢でも逮捕されうるのか

    身体を直接触らないのであれば痴漢にはあたらず、罪に問われることはないとお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。

    しかし、たとえ触れていなくても、息を吹きかけたり、匂いを嗅いだり、エアドロップなどを用いて卑わいな画像を送ったりする行為は、行為態様やその場の状況によっては迷惑防止条例の「卑わいな言動」や不同意わいせつ罪「わいせつ」な行為にあたると疑われ、逮捕される可能性はないとは言い切れません

    迷惑防止条例の適用が問題となった事案について、「ショッピングセンターにおいて女性客の後ろを執ように付けねらい、デジタルカメラ機能付きの携帯電話でズボンを着用した同女の臀部を近い距離から多数回撮影した本件行為(判文参照)は、被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安を覚えさせるような卑わいな言動にあたる」とした判例(最高裁判所平成20年11月)が存在し、被害者が「いやらしい」、「(性的に)不安だ」と感じる行為は「卑わいな言動」として迷惑防止条例違反として処罰される可能性があります。

    次のような行為は、「触らない痴漢」として、「卑わいな言動」や「わいせつな行為」にあたるとされる可能性がないとは言い切れないため、控えるべきでしょう。

    • 満員でもないのに女性の背後に接近する
    • 女性の背後に立って匂いを嗅ぐ
    • 女性の首筋や耳にむけて息を吹きかける
    • 女性に聞こえるように連続して卑わいな言葉を発する
    • 自分の持ち物を女性の身体に押し当てる
    • エアドロップなどを使用して卑わいな画像や動画を送りつける行為


    上記の行為の他、スマートフォンのカメラでスカートの中を撮影するなどの盗撮行為も広い意味で「触らない痴漢」にあたるといえるかもしれません。

  2. (2)触らない痴漢により科されうる処罰

    「触らない痴漢」行為が迷惑防止条例違反にあたる場合、広島県では6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。ただし、自治体によってはより重い罰則が規定されている場合もあるので注意が必要です。たとえば、東京都の迷惑防止条例では、単に卑わいな言動にあたるだけであれば6か月以下の懲役または50万円以下の罰金ですが、盗撮行為があれば1年以下の懲役または100万円以下の罰金になります。

    また、常習的に「触らない痴漢」を行っている場合は、より重い刑罰を科されることとなります。広島県の迷惑防止条例では、常習的に卑わいな言動を行っていた場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。

    「触らない痴漢」が、不同意わいせつ罪のあたる場合は、6か月以上10年以下の拘禁刑に処される可能性があります。

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3、「触らない痴漢」で逮捕された場合の流れ

「触らない痴漢」行為によって警察に逮捕されてしまった場合、どのような刑事手続きで事件が進むのでしょうか?

まず、逮捕されると直ちに身柄が拘束されて、自由な行動が制限されます。警察署で取り調べを受けたのちに署内の留置場で留置されるため、帰宅することはおろか、外部と連絡を取ることもできません。

逮捕から48時間以内を期限に、逮捕された被疑者の身柄は検察庁へと送致されます。
これがニュースなどでもよく耳にする「送検」と呼ばれる手続きです。

送致を受けた検察官は、さらに24時間以内を期限に起訴または釈放を判断します。ただし、この段階では警察の捜査も尽くされていないことが多く、検察官が起訴・釈放を判断するのは困難です。

そこで、検察官は裁判所に対して身柄拘束の延長を求めます。これが「勾留請求」です。

裁判官が勾留を認めると、原則10日間、延長を含めて最長20日間まで身柄拘束が延長されます。勾留されると身柄は再び警察に戻され、警察の留置施設で身柄を拘束されながら取り調べなどの捜査に対応することになります。家族などとの面会が認められるようになるのはこの段階からです。

最長20日間の勾留が満期を迎える日までに、検察官は再び起訴するのか釈放するのかを判断します。刑事裁判で罪を問うべきだと判断されれば裁判所に起訴され、証拠が不十分であったり罪に問う必要まではないと判断されたりすれば不起訴処分として釈放されます。

起訴された場合、さらに被告人としての勾留が続きます。保釈されない限り、刑事裁判が結審する日まで身柄拘束が続き、裁判の最終回で判決が言い渡されます。

4、痴漢の容疑をかけられたらすぐに弁護士に相談を

「触らない痴漢」を含めて、痴漢の容疑をかけられてしまった場合はすぐに弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談して弁護活動を依頼すれば、次のような効果が期待できます。

  • 被害者との示談交渉を進めることで、被害届や告訴状の取り下げが期待できる
  • 検察官にはたらきかけて不起訴処分の獲得が期待できる
  • 悪質な犯意がなかったことを説明して刑罰の減軽が期待できる
  • えん罪が疑われる場合は証拠をそろえて対抗できる


「触らない痴漢」の事実があったことを自覚しているのであれば、むやみに無罪を主張するのは得策ではありません。反省していないと評価されてしまうおそれがあるので、素直に罪を認めて被害者に謝罪し、穏便な解決を図るほうが賢明です。

ただし、「触らない痴漢」では被害者が不快に感じたことを根拠に犯罪が成立しているので、具体的な証拠が見あたらないケースも少なくありません。被害者の思い込みによっていわれもない疑いをかけられているのであれば、弁護士に依頼して無罪を主張するべきでしょう。

5、まとめ

たとえ相手の身体に触れていなくても、匂いを嗅ぐ、息を吹きかけるなどの行為が「卑わいな言動」とみなされて迷惑防止条例違反に該当することがあります。

警察に逮捕されてしまうと、起訴されるまでに最長で23日間の身柄拘束を受けるため仕事や学校などへの悪影響が生じるでしょう。また、実名報道を受けて近隣住民から厳しい非難の目にさらされてしまうことも予想されます。

「触らない痴漢」の容疑をかけられてしまいお困りの方は、すぐにベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください。痴漢事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、痴漢容疑をかけられてしまった方を全力でサポートします。

特に「触らない痴漢」事件では、被害者との示談成立を目指すべきケースと、無罪を主張すべきケースで対応が異なります。早急な対応が必要となるため、ひとりで悩みを抱えず、弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています