睡眠薬で眠らせて性行為を強いることは犯罪。 罪名や罰則を解説。

2021年05月11日
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睡眠薬で眠らせて性行為を強いることは犯罪。 罪名や罰則を解説。

広島県警察のデータによると、2020年中の同県内における性犯罪(強制性交等罪、強制わいせつ罪)の認知件数は合計115件で、前年に比べて58件の減少となっております。
新型コロナウイルスにより人々の交流が制限されていることも影響して、件数自体はかなり減ったものの、依然として100件以上もの性犯罪が、県内各地で発生していたのです。

暴行や脅迫を用いて性的な行為を強制する場合と同様に、睡眠薬を飲ませて抵抗不能な状態に陥れて性暴力を行う場合も、刑法上の重大な犯罪に問われて、重罰を科される可能性があります。
軽い気持ちであるとしても、睡眠薬を用いた性犯罪に手を染めてしまった場合には、重い刑事処分を避けるため、速やかに弁護士に相談することをおすすめいたします。

本コラムでは、睡眠薬を用いて眠らせているあいだに性的な行為をした場合に成立する犯罪について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説いたします。

(出典:「身近な犯罪 認知・検挙状況」(広島県警察))

1、睡眠薬(レイプドラッグ)を用いた性犯罪が社会問題化

デートや飲み会などにおいて、本人にわからないように睡眠薬を飲ませて、眠っているあいだに性的な行為に及ぶ事件が社会問題化しています。
性的な行為に及ぶことを目的として用いられる睡眠薬などは、俗に「レイプドラッグ」と呼ばれます。

レイプドラッグを用いた性犯罪では、多くの場合、被害者の寝ているあいだに性的な行為が行われます。
そのため、性被害を受けたこと自体に気が付かないケースも多く、また証拠の保全も困難であり、立件が難しい点が特徴的です。

暴行や脅迫を用いて性的な行為を強いる場合と同様、レイプドラッグを用いた性犯罪も、被害者の性的な自己決定権を侵害する重大な犯罪行為です

また、性に対する自己決定権の重要性を社会が強く認識するようになった昨今では、レイプドラッグを用いた性犯罪者に対して、いっそう重い刑罰が科される傾向にあるのです。

2、睡眠薬で眠らせて性的な行為をした場合に問われる犯罪とは?

被害者を睡眠薬で眠らせて性的な行為に及んだ場合に問題となる犯罪は、主に「準強制性交等罪」と「準強制わいせつ罪」の二点になります。

また、両罪は被害者が男性・女性のいずれの場合であっても適用されます。

  1. (1)準強制性交等罪

    準強制性交等罪は、以下の要件を満たす行為について成立します(刑法第178条第2項)

    ①:人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心身を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせたこと
    被害者がすでに寝ている、気を失っているなどの状態にあることを利用して性交等をした場合や、睡眠薬等を用いて眠らせた場合などが該当します。

    ②:①の状態を利用して、性交等をしたこと

    「性交等」に該当するのは、「性交」「肛門性交」「口腔性交」の3種類の行為です。
    以前は「性交」のみが本罪(旧:準強姦罪)の対象とされていましたが、性犯罪に対する処罰を強化する目的で、最近の法改正により「肛門性交」「口腔性交」も本罪の対象に含められました。
  2. (2)準強制わいせつ罪

    準強制わいせつ罪は、以下の要件を満たす行為について成立します(刑法第178条第1項)

    ①:人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心身を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせたこと
    準強制性交等罪と同様の要件です。

    ②:①の状態を利用して、わいせつな行為をしたこと

    「わいせつな行為」には、被害者の身体を触る、キスをする、衣服を脱がせるなどの行為を指します。
  3. (3)現行法下ではいずれも非親告罪

    以前は、準強制性交等罪(旧:準強姦罪)と準強制わいせつ罪は、いずれも「親告罪」とされていました。
    親告罪とは、被害者の告訴がなければ起訴できない類型の犯罪を意味します。

    しかし、性犯罪は被害者にとってのプライベートな事柄に関わるため、被害者に告訴を強いることによって生じる「二次被害」が大きな問題となっていました。
    そのため、被害者からの告訴がなくとも、必要に応じて捜査機関が性犯罪を立件できることの必要性が論じられていたのです。

    そして、2017年の刑法改正によって、準強制性交等罪・準強制わいせつ罪は非親告罪化されました

    したがって、現行法下では、犯罪被害者の告訴がない場合であっても、捜査機関が準強制性交等罪・準強制わいせつ罪によって被疑者を立件することが可能になっているのです。

3、準強制性交等罪・準強制わいせつ罪に科される刑罰の内容は?

準強制性交等罪・準強制わいせつ罪はきわめて重大な性犯罪であるため、加害者に科される刑罰も、かなり厳しいものとされています。

  1. (1)準強制性交等罪・準強制わいせつ罪の法定刑

    準強制性交等罪・準強制わいせつ罪は、被害者を抵抗不能の状態にして性的な自己決定権を奪うという意味では、暴行や脅迫を用いて性的な行為を強制する強制性交等罪・強制わいせつ罪と差がありません。

    そのため、準強制性交等罪の法定刑は強制性交等罪と、準強制わいせつ罪の法定刑は強制わいせつ罪と、それぞれ等しいものに定められています(刑法第178条第1項、第2項)

    それぞれの法定刑は、以下のとおりです。

    準強制性交等罪 5年以上の有期懲役(最長20年)
    準強制わいせつ罪 6月以上10年以下の懲役
  2. (2)被害者を死傷させた場合はさらに刑が加重される

    睡眠薬(レイプドラッグ)を用いた性犯罪のケースでは、以下に挙げる例のように、行為の最中に被害者を死傷させてしまうケースがあります。

    • 致死量を超えるレイプドラッグを飲ませた結果、被害者が死亡してしまった
    • 多量のレイプドラッグを飲ませた結果、被害者の脳機能などに障害が残ってしまった
    • 乱暴に性的な行為をした結果、被害者の性器などが傷ついてしまった


    このように、性犯罪の過程で被害者を死傷させた場合には、さらに重大な犯罪として、以下のとおり加重された法定刑が設定されているのです(刑法第181条第1項、第2項)。

    準強制性交等致死傷罪 無期または6年以上の懲役
    準強制わいせつ致死傷罪 無期または3年以上の懲役
  3. (3)実際の量刑を決定するための考慮要素とは

    性犯罪に対して実際に科される量刑は、法定刑の範囲内で、以下のような各要素を総合的に考慮して決定されます。

    • 犯罪行為の悪質性(回数、性的暴行の強度など)
    • 犯行の動機
    • 常習性の有無
    • 被害回復の状況(被害者との示談など)
    • 反省の状況
    • 前科の有無
    など


    もし性犯罪で起訴されて刑事裁判にかけられた場合、被告人としては、上記の観点をふまえて、自身にとって有利な情状があることを裁判官に理解してもらう努力が必要になるのです。

4、睡眠薬を用いた犯罪に及んでしまった場合は弁護士に相談を

準強制性交等罪・準強制わいせつ罪に当たる犯罪行為に及んでしまった場合、いずれは捜査機関による捜査が及び、逮捕・起訴に至ってしまう可能性が高いでしょう。

もし睡眠薬などを用いた性犯罪に手を染めてしまったという自覚がある場合には、速やかに弁護士に相談することをおすすめいたします。

  1. (1)逮捕後に弁護士に相談するメリット

    すでに性犯罪で逮捕されてしまっている場合、弁護士に身柄拘束からの解放や、不起訴処分に向けた弁護活動を依頼することが、最優先事項となります。

    逮捕や拘留されているあいだ、被疑者は身体を拘束されることになるため、外部とのやり取りを自由に行うことができなくなります。

    弁護士に依頼をすれば、家族などとの情報のやり取りやものの受け渡しを、弁護士を通じてスムーズに行うことができます。

    また、被害者との示談交渉を弁護士に代行してもらえるほか、被疑者にとって有利な情状を検察官にアピールするための資料を提出してもらうことも可能です
    「被疑者には社会のなかでの更生可能性がある」ということが検察官に伝われば、不起訴処分によって刑事手続きから解放される可能性も高まるのです。

    さらに、万が一起訴されてしまった場合にも、公判手続きに向けた準備を早期にすすめられるという利点があります。

    いったん逮捕されると、起訴・不起訴の判断が下されるまでの猶予はほとんどなくなってしまいます。
    そのため、速やかに弁護士に依頼をすることが大切になるのです。

  2. (2)逮捕される前に弁護士に相談するメリット

    また、現状逮捕されていなかったとしても、今後の捜査機関による捜査の結果、性犯罪で逮捕されてしまう可能性は十分あります。

    性犯罪が非親告罪化されたとはいえ、被害者が被疑者に対する処罰感情をどの程度抱いているかということは、逮捕・起訴をするかどうかの判断において、依然として重要な考慮材料とされています。

    いちど逮捕されてしまうと、被害者とのあいだで示談交渉をすすめているあいだに起訴されてしまう可能性が高くなってしまいます

    したがって、逮捕される前から、弁護士を通じて被害者とコミュニケーションをとり、示談によって穏便な解決を図ることが重要だといえるのです。

5、まとめ

睡眠薬(レイプドラッグ)を用いた性犯罪は、暴行や脅迫を用いた性犯罪に匹敵する重罪です。

特に、被害者が後日になって「自分は性犯罪の被害にあった」という事実に気づいて、犯罪が発生してから日数が経過してから捜査が行われる場合があるので、「今のところ、逮捕されていないから」といって安心することはできないのです。

睡眠薬(レイプドラッグ)を用いた性犯罪について心当たりがある場合には、速やか、にベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください

依頼者に対する刑事処分を適切なものとするため、被害者との示談交渉をはじめとする弁護活動に、弁護士が尽力いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています