夫婦財産契約(婚前契約)とは何か? 契約内容やメリット、注意点を解説
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広島県では平成29年中に1万3177組ものカップルが婚姻しており、婚姻率も全国的にみて高い水準にあります。婚姻を控え、幸せな気持ちになると同時に、婚姻後に夫婦が円満に過ごすために何かできることはないかとお考えの方もいらっしゃるでしょう。
夫婦間では、しばしばお金にまつわるトラブルが生じることがあります。これを回避するための手段として「夫婦財産契約」というものがあることをご存じでしょうか。あまり聞き慣れない契約かもしれませんが、メリットもあり、すすめる専門家も最近ではいるようです。
今回は、夫婦財産契約をテーマに、取り決める内容や注意点、手続きの流れなどを、広島オフィスの弁護士が解説します。
1、夫婦財産契約とは
夫婦財産契約とは、夫婦が婚姻する前に交わす財産に関する取り決めです。民法第755条では、夫婦が婚姻前に財産について別段の契約をしなかったときに、下記の法定財産制度に従うとしています。
- 婚姻により生じる費用を分担すること(民法第760条)
- 夫婦の一方が日常の家事に関して他人と取引したときの債務は夫婦が連帯責任を負うこと(民法第761条)
- 婚姻前の財産や婚姻後に自己の名で得た財産は夫婦の一方が単独で有する財産とすること(民法第762条)
しかし、婚姻前に双方が合意すれば、上記の定めと異なる内容の夫婦財産契約を結ぶことができます。また、契約は原則として当事者間で自由に締結できるので、法定財産制以外の点について取り決めることも可能です。そのため、夫婦財産契約を婚前契約と呼ぶことがあります。
2、夫婦財産契約で決める具体的な項目
夫婦財産契約に定めることができる項目について、詳しくみていきましょう。
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(1)財産に関する項目
法律上の夫婦財産契約とは、前述のとおり民法の法定財産制と異なる取り決めをする契約を指します。たとえば、次のような内容を定めることができます。
- 共有財産の管理、処分方法
- 生活費の分担割合
- 特有財産(夫婦の一方に帰属する財産)の内訳
- 離婚するときの財産分与の方法、割合
- 共同で負担した債務(住宅ローンなど)の責任割合
- 家事労働に関する寄与度
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(2)財産以外の項目
財産以外についての取り決めは、厳密には夫婦財産契約とは呼びません。しかし、付随する婚前契約として公序良俗に反しない限り、自由に決めることが可能です。内容や形式にも特別な決まりはありません。
たとえば次のような項目は夫婦がのちのちもめやすいと考えられます。結婚後になってから「こんなはずではなかった」とならないように婚前契約に盛り込まれやすい項目ともいえるでしょう。- 家事分担割合
- 義両親との同居の有無、親戚付き合い
- 子どもができたときの仕事について
- 浮気をしたときの違約金、ペナルティー
- 離婚をしたときの慰謝料、養育費の金額、算定方法
3、夫婦財産契約を結ぶメリットは?
契約を結ぶ過程で双方が財産の状況や考え方を婚姻前に明らかにしておくことにはいくつかのメリットがあります。まずは隠しごとをしないで済み、強固な信頼関係を築くことができます。財産以外の項目についても、お互いの価値観を確認し、理解しあうのは円満な結婚生活の実現に貢献するでしょう。
さらには、婚姻後にもめやすい点をあらかじめ決めておくことで「言った、言わない」の水掛け論がなくなり、万が一借金や離婚などのトラブルが起きたときも問題がこじれずに済むこともあります。
たとえば、離婚の際に財産分与の方法や割合でもめるケースは少なくありません。しかし、あらかじめ特有財産の範囲や共有財産の分配方法、割合まで定めておけば、そうしたトラブルを回避できるでしょう。婚姻前は離婚時と異なり、ふたりが円満な状態ですので、お互いを思いやった公平な契約内容になることが多いものです。互いにとってデメリットが少ないことも多くあります。
4、夫婦財産契約を結んだほうがよいカップル
夫婦財産契約は誰でも結ぶことができますが、財産上のトラブルが起こりやすい、もしくは起こってほしくないと考える方は特に結んでおくことをおすすめします。
たとえば資産家は多くの財産をもっていることから、残念ながら離婚する際の財産分与や相続におけるトラブルが生じる可能性が高いともいえます。米国では「プレナップ」と呼ばれる夫婦財産契約に相当する契約があり、財産分与についてあらかじめ取り決めるケースが一般的です。
事子連れや再婚も扶養や離婚時の財産分与が問題になりやすいものです。したがって、夫婦財産契約を結んでおくと、夫婦のみならず子どものためにもなります。
5、夫婦財産契約を結ぶ前に知っておくべき注意点
夫婦財産契約は法律上の契約ですので、ルールが厳格に定められています。注意点を確認しましょう。
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(1)婚姻前の締結と登記が必要
まず、婚姻前に締結しなくてはなりません。これは婚姻後に結んだ契約は、夫婦の一方からいつでも自由に取り消すことができるからです(民法第754条)。また、相続人や第三者など夫婦以外の人に対して契約の存在を主張するには、契約の内容や目的についての登記が必要です(民法第756条)。この登記も婚姻前にしなければ効力を発揮しません。
財産に関する契約は登記が基本ですが、実際には財産以外の契約も一緒に登記されることがあります。 -
(2)婚姻後に変更できない
夫婦財産契約は原則として婚姻後に変更することができません。したがって、長い目でみて慎重に契約を締結する必要があります(民法第758条)。
ただし、相手が財産を管理する旨を定めていても、相手の不適切な管理によって財産を失いそうになるときは、自らが管理することを裁判所へ求めることができます。なお、財産以外の婚前契約については婚姻後に変更をすることも可能ですが、法的効力をもたせるために公正証書にしておくなどの手続きが必要となります。 -
(3)余分な税金がかかる場合がある
夫婦財産契約を結ぶことで、税金がかかるケースがあります。たとえば、夫が得た収入を夫婦が1/2ずつに分ける取り決めをした場合、法的には夫の収入100%のうち、50%を妻に無償で移転することになり、みなし贈与として扱われます。つまり贈与税の課税対象となるわけです。
これを避けるためには、法定財産制の範囲内で財産の所有関係を定める必要があり、弁護士や税理士など専門的な知識が必要になります。
6、契約を結ぶタイミングや手続き方法
夫婦財産契約は婚姻前に締結する必要があるので、少なくとも婚姻前6ヶ月以内には動き出すようにしましょう。一般的には、話し合いから登記まで6ヶ月程度かかると言われています。
流れとしては、まずはふたりがよく話し合ったうえで夫婦財産契約の内容を精査します。個々で弁護士に相談したほうがよい理由は後述します。
話し合って内容が決まったら、公正証書にする場合は公証役場に行き契約書を作成しましょう。その後、登記を行います。登記の際に必要な資料や情報は、夫婦財産契約登記規則に定められおり、契約書や婚姻前であることを示す戸籍謄本、不動産登記情報などがあります。
7、夫婦財産契約は弁護士へ依頼を
婚姻を考えている状態であれば、基本的に互いへの不満も少ないはずです。そのため、婚姻後にどのようなトラブルが起こり得るのか、考えの変化が生じるのかを想定するのは難しいものでしょう。しかし、円満だからこそ夫婦の財産について真剣に考える機会がほしいものです。
夫婦財産契約を依頼できる弁護士は多数の夫婦が直面したトラブルを法的に解決してきた経験が豊富です。あらかじめ、取り決めておくべき内容をアドバイスしてくれます。また、お互いに冷静に話をする仲介役ともなってくれるでしょう。
他にも、公正証書作成や登記など、一般にはなじみのない手続きを行うことは非常に骨が折れる作業です。弁護士に依頼して手続き面のサポートを受ければ、夫婦財産契約をスムーズに締結することができます。まずは相談してみることをおすすめします。
8、まとめ
今回は夫婦財産契約について、知っておくべき注意点や手続き方法などを解説しました。日本で夫婦財産契約を結ぶ方はまだまだ少数ですが、夫婦の間でさまざまなトラブルが生じている現状を考えると、夫婦財産契約の締結にはメリットがあります。
ただし、法律でルールが決められた契約であるため、専門家の手を借りて契約を結ぶことを強くおすすめします。ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでも夫婦財産契約の相談を受け付けております。夫婦財産契約を検討されている方は、お気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています