離婚でADRを利用することのメリットは? 調停との違いも解説
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広島では毎年どのくらいの方が離婚されているかご存じでしょうか? 平成29年の統計によると、離婚件数は4603組で前年からは88組減少しています。人口1000人に対する離婚率は1.65で全国では高い方から23位ということです。
もしもあなたが離婚を検討されているなら「ADR」を利用できる可能性があります。ADRとは「裁判外の紛争解決手続き」です。離婚や交通事故などの法律トラブルは「裁判」で解決するイメージがありますが、ADRなら裁判所以外の第三者機関に間に入ってもらい話し合いを進められます。協議離婚がうまくいかないときADRを利用すれば解決できる可能性があります。
広島にも「広島弁護士会」や「広島司法書士会」「広島県市民相談センター」などのADRがいくつか存在しています。今回はADRとはどのようなものか、裁判所で行う調停との違いやADRを通じて離婚をした場合のメリットデメリットについて弁護士が解説します。
1、ADRとは
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(1)そもそもADRとは
ADRは「Alternative Dispute Resolution(裁判に代替する紛争解決手段)」の略です。
「裁判外紛争解決手続き」「裁判外の紛争解決機関」ともいわれます。広い意味では「訴訟外の紛争解決手続き」なので裁判所の調停も含まれますが、一般的には「裁判所を使わずに民間機関を使って法的トラブルを解決する方法」をADRといいます。ここでもその前提で解説していきます。
ADRを主催しているのは裁判所ではない民間機関です。法律(ADR法)にもとづき国(法務大臣)によって正式に「ADR」として認証されている機関と認証を受けていない機関があります。 またADRにはさまざまな「分野」があり、それぞれの専門家が話し合いのあっせんや仲裁を行っています。たとえば以下のような分野のADRがあります。- 住宅紛争
- 交通事故
- 建築紛争
- 医療事故
- 労働関係トラブル
- 境界トラブル
- 離婚トラブル
離婚でADRを利用したいときには「離婚問題を取り扱っているADR機関」に相談や申請をする必要があります。また離婚で利用できるADRにはいくつもの種類があるので、どういった機関を利用するかといった選択も重要です。 -
(2)離婚ADRでできること
離婚のADRでできるのは、以下のようなことです。
・ 相談
多くのADR機関では、離婚の相談を受け付けてくれます。相談した結果ADRによるサポートが必要な場合には申し込みをして、次に説明する話し合いのあっせんや仲裁の手続きに進んで行きます。
・ 話し合いのあっせん
ADRに申し込むと、ADR機関に間に入ってもらって相手との話し合いができます。ADRの担当者が間に入って当事者の意見を調整してくれたり和解案を提示したりします。
話し合いのあっせんがADRの主な機能です。
・ 仲裁
話し合いのあっせんによっては解決できない場合「仲裁」を利用できるADRがあります。仲裁とは、当事者両名が了承する場合においてADRが解決方法を決定する手続きです。
ただし仲裁はすべてのADRで利用できるわけではないので事前確認が必要です。
2、ADRの費用について
ADRは無料ではありません。たいていどこのADRでも一定の費用がかかります。
金額は一律ではなく各ADRが定めています。
多くのADRにおいて「申込金」が必要です。話し合いのあっせんを利用すると1回の期日ごとに手数料が発生するADRもありますし、解決できたときにまとまった手数料が発生するADRもあります。
「無料」あるいは「安く利用できる」と考えていると、意外と高額な費用がかかる可能性もあるので注意が必要です。ADRを利用する際には、事前に「どのくらいの費用がかかるのか」しっかり確認しましょう。
3、ADRと裁判所の調停手続きとの違いは?
ADRと裁判所の民事調停や家事調停は似ていますが、以下の点が異なります。
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(1)間に入る機関が異なる
「離婚調停」の調停者は「家庭裁判所(調停委員会)」ですが、民間のADRの場合、間に入るのは裁判所ではありません。法務大臣の認証を受けていない一般人による民間ADRもありますし、認証を受けているとしても民間人であることに変わりありません。サービス内容や料金も一律ではなくADR機関によってさまざまです。
離婚でADRを利用するときには、どういったサービスをどの程度の費用で受けられるのかしっかり確認しましょう。 -
(2)時効中断効が認められないADRがある
裁判所の調停を利用すると「時効が中断」されます。たとえば財産分与や年金分割には時効がありますが、時効成立前に調停を申し立てると時効を止めて権利を守れます。
ADRの場合、法務大臣の認証を受けている機関であれば「時効中断効」が認められるので時効成立前にADRに申請をすれば時効を中断できて権利が保全されます。
しかし、これまで説明してきた通り、ADRの中には法務大臣の認証を受けていない機関があります。そういったADR機関を利用しても時効は中断されません。時効を止めるには裁判所の調停や訴訟、あるいは認証ADRを利用する必要があります。 -
(3)強制執行力がない
裁判所の調停で決まったことには強制執行力があります。たとえば離婚調停で養育費の約束をしたのに相手が支払わなければ、調停調書を使って給与の差し押さえなどが可能となります。
しかしADRで決まった内容には強制執行力がありません。差し押さえをしたければ、別途公正証書を作成する必要があります。 -
(4)調停前置が適用されない可能性がある
日本では「調停前置主義」が採用されているので離婚調停なしにいきなり訴訟をすることはできません。裁判所で離婚調停をして不成立になると、離婚訴訟(裁判)へ進むことが可能です。
一方、ADRは「調停」ではないので、離婚ADRが不成立になっても調停前置の要件を満たさず離婚訴訟に進めないケースがあります。認証ADRであれば調停前置として認められる可能性がありますが、認証を受けていないADRの場合には再度裁判所で離婚調停をやり直さないと訴訟提起できません。
4、ADRで離婚を目指すメリットとデメリット
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(1)メリット
ADRで離婚を目指すと以下のようなメリットがあります。
・ 自分たちで話をしなくて良い
ADRを利用すると、専門知識を持った担当者が間に入って話を進めてくれます。自分たちで話し合いをするとどうしても感情的になって解決できないケースが多数ですが、ADRの担当者が交通整理してくれると合意しやすくなります。
・ 調停より専門的な人が間に入ってくれる可能性がある
離婚ADRの場合には、一般的に「弁護士」や「元裁判官」「家裁調査官OB」など離婚についての専門知識を持っている人が担当するケースが多です。
一方、裁判所の調停の場合、間に入る調停委員は民間から選ばれる人もいます。もっとも、弁護士が調停委員になることもありますし、裁判所の調停でも裁判官はいるので、裁判所の調停に専門的な人が関与しないというわけではありません。
・ 平日の昼間以外の時間に利用できるケースもある
裁判所の調停で話し合いをできるのは「平日の日中のみ」です。午後は5時に閉まります。
民間ADRの場合には土日や夜などにも利用できるケースがあります。 -
(2)デメリット
・ 時効中断効、強制執行力、調停前置が適用されない可能性がある
先にも説明したように、ADRで決まった内容には強制執行力がありませんし、時効中断の効力や調停前置の効力も認められないケースが多々あります。
こういったことをきちんと理解せずにADRを利用すると、慰謝料や養育費が支払われなかった場合に差押えができないなど、思わぬ不利益を受ける可能性もあり要注意です。
・ 費用がかかるケースも多い
ADRを利用すると通常、費用が発生します。金額は各ADRセンターによって異なりますが、裁判所の調停と比べると高額になるケースが多数です。
申し込みの際にも費用が発生しますし、期日の1回ごとに費用が発生したり解決時にまとまった手数料を加算されたりするケースもあります。数十万円単位の費用がかさんでしまう場合もありますし、公正証書を作成すると別途、数万円がかかります。ADR調停を利用する際にはこうした費用負担について理解しておく必要があります。
5、離婚問題をADRで解決するより弁護士に相談した方が良い理由
離婚問題を抱えているとき、ADRを利用するより弁護士に交渉や調停などを依頼する方がスピーディーかつ有利に解決できる可能性が高くなります。理由は以下の通りです。
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(1)弁護士は依頼人の味方
ADR調停で夫婦の間に入る担当者は、一方の当事者に肩入れすることはありません。夫婦双方の了承を得るため公正中立な立場で話を進めます。しかしそれでは当事者が不満を感じる可能性もあります。「話を聞いてくれない」「理解してくれない」と感じる方もおられるでしょう。
一方、弁護士は完全に依頼者の味方です。あなたの代理人として相手と交渉し、有利な結果を導くために活動します。自分ひとりでADRを利用するよりも弁護士に依頼した方が「納得できる解決」を得られる可能性が高まります。 -
(2)スピーディーに解決できる
ADRを利用すると、期日を決めて相手を呼び出し何度か話し合いを繰り返さねばなりません。期日間も開くので解決に時間がかかります。
弁護士が間に入って交渉をする場合、電話やメールなどで即時対応できるのでスピーディーに解決できる可能性が高くなります。 -
(3)公正証書を作成して強制執行力を確保する
ADRで解決しても決まったことに強制執行力が認められません。自分たちで公証役場に申し込んで公正証書を作成しなければなりません。
弁護士に依頼すれば、協議離婚書の作成や公正証書の作成まで弁護士が代行して一気に進めるので、自分たちで公証役場に申請する手間を省けます。(ただし公証役場へは基本的に自分で行く必要があります)
6、まとめ
離婚ADRは役に立つケースもありますが、費用やデメリットも考えると弁護士に直接交渉を依頼した方が良い場合も多々あります。
広島で相手との離婚協議がうまくいっていない方や離婚問題でお悩みの方は、一度ベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください。弁護士が親身になってお話を伺い、どのように対応していくべきかなどアドバイスいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています