敷金を大家に返金させる方法とは? 返金を請求するための手段を解説
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アパートやマンションの部屋を借りるときには、敷金や礼金を大家に支払うことが通例になっています。謝礼金である礼金とはちがい、敷金や保証金はあくまで賃貸人が大家に「預けている」お金です。そのため、家賃の滞納や賃貸人の責任による部屋の損傷などの事態が発生していない限り、賃貸人が部屋を退去する際には、本来であれば敷金は賃貸人に全額返金されるべきものなのです。
しかし、部屋のクリーニング代や畳・襖の張り替えなどの名目で、差し引いた金額しか返金しなかったり、返金を一切行わなかったりする大家が多数いることが実情になっています。大家に敷金を返金させるためには、弁護士の名義による内容証明郵便の送付や少額訴訟など、法律的な手段が必要となる可能性があります。
本コラムでは、べリーベスト法律事務所 広島オフィス所属の弁護士が、敷金の民法上の定義からその正当な用途、大家に敷金を返金させるための法律的な方法について解説いたします。
1、敷金の法律上の定義とは?
敷金とは、賃借人が家賃を支払わない場合や部屋や建物を損傷して修理が必要になった場合などに備えて、大家が賃借人から担保として預かっているお金のことを指します。
過去の民法では敷金の定義が明記されていませんが、令和2年4月1日施行の民法改正により、以下のように定義されることになりました。
「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」(民法622条の2)
上記の定義によると、敷金から差し引くことができるのは、賃借人(借主)が賃貸人(大家)に支払う義務のあるお金のみ、ということになります。そして、「賃借人が賃貸人に支払う義務があるお金」とは、家賃の滞納がなければ、建物に損傷が生じた場合の原状回復費ということになるのです。
原状回復費についても、民法改正により、明確に規定されました。具体的には、以下の通りです。
「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」(民法621条)
ここで重要になるのは、「賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは除く」という箇所です。ここでは、賃借人に落ち度がない理由による損傷については、賃貸人は原状回復義務を負わない、ということが示されているのです。
また、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」という規定も重要です。
家具の設置による床のへこみや家電製品による壁の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)、日照や建物構造欠陥による雨漏りなどで発生した畳の変色など、通常の方法で部屋を利用していたら発生するような損傷や経年劣化による変色などについては、賃借人に原状回復義務はない、ということが民法に明記されるようになったのです。
なお、敷金と同時に大家に支払う初期費用として、「礼金」があります。
礼金とは、文字通り、大家に対する「謝礼金」です。そのため、敷金とはちがい、原則として退去時に返却されることはありません。
また、部屋や家を借りる際に大家から敷金ではなく「保証金」が求められる場合があります。保証金は、呼び名がちがうだけで、敷金と同じものとされています。特に関西では、敷金ではなく保証金と呼ばれることが多いようです。
敷金の相場は一ヶ月分ですが、物件によっては二カ月分以上とされる場合もあります。敷金が高い物件は、退去時の返却に原状回復費として多く控除することを前提にしている可能性が高いため、借りる際には気を付けたほうがいいでしょう。
逆に、敷金を要求しない物件もあります。しかし、敷金を要求しない物件は、条件が悪かったり設備が古かったりして借り手が見つからないために、敷金や礼金を0円にすることで契約者を取り付けようとしている、という事情が背景にあることが多いです。また、敷金を支払わずに借りた部屋や家を損傷した場合でも、退去時に原状回復費を賃借人が支出しなければならないおそれがあります。
2、原状回復費用として認められるもの、認められないもの
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(1)原状回復費として認められないもの(大家が負担すべきもの)
- 次の入居者のための鍵の交換
- 次の入居者のためのクリーニング代
- 耐用年数を過ぎたことによる備品の交換
- 家具の重みによる床のへこみ
- 畳の経年劣化による次の入居者のための畳の張り替え
- 日焼けによる変色
- 画鋲やピンなどの小さな穴
- 家電製品による壁の黒ずみ
- お風呂やキッチンの通常のカビ
もっとも、これらが生じた程度や原因によっては賃借人負担とされる場合もあります。
なお、契約書の特約で「退去時のクリーニング代は入居者の負担とする」と定めている場合があります。この場合、原則として敷金からクリーニング代が差し引かれてもやむを得ませんが、入居者が退去時に清掃を行った場合には、個人による清掃では落ちない汚れに限って差し引くよう求められる可能性があります。
また、特約があるからといって、なにもかもを賃借人の負担にすることはできません。たとえば、「自然損耗及び通常の使用による損耗についても無条件に原状回復費用を敷金から控除するものとする」といった時効が特約で定められていても、消費者契約法10条により無効とされる可能性があります。 -
(2)原状回復費として認められるもの(入居者が負担すべきもの)
- 不注意で鍵を破損した場合や鍵を紛失した場合の鍵の交換
- 間違った使い方で給湯器を壊した場合の給湯器の交換
- 模様替えのときに床に傷を付けた場合
- ペットによる傷やにおいが部屋に付けた場合
- 入居者の不注意(子どもの落書きなど)で壁に汚れを付けた場合
- 結露を放置したことで付けた部屋のカビやシミ
3、敷金に関する、昨今の事情
敷金は、あくまで大家に預けているだけであり、本来は賃借人のお金です。そのため、賃借人が退去するときには、原則として全額返金されるべきものなのです。
敷金を全額返金しないことが認められない場合は、下記の二つに限られます。
- 家賃の滞納がある場合
- 賃借人に帰責事由のある建物の損傷がある場合
しかし、実際にはお金は大家の元にあるため、上記以外の事例でも大家が敷金を使用してしまう場合があります。大家が勝手にクリーニング代を敷金から差し引いたり、畳や襖の張り替え費用を敷金から差し引いたりすることが慣例化している、という事情があったのです。賃借人としても、敷金をすでに大家に預けているために「もう支払ってしまったお金」という感覚になり、理不尽な理由で敷金が全額戻らない場合でも新たにお金を支払わせる場合に比べて抵抗感が薄まって、しぶしぶ敷金の不正利用を認めてしまう……という事例が多かったでしょう。
近年では、敷金の定義や用途について賃借人がインターネットで気軽に調べられるようになったこともあり、「自分の責任による損傷も発生していないのに、クリーニングや畳の張り替えなどを理由にして敷金を返金しないことは不当だ」という意識が賃借人たちに広がってきました。これにより、大家による敷金の不正利用に対する批判の声が強くなってきているのです。
また、国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や各自治体による「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」など、敷金をめぐるトラブルとその対策には行政も気をつかっています。これまでは大家による敷金の不正利用が慣例化していましたが、その状況も変わりつつあるのです。令和2年の民法改正で「敷金」が明確に規定されたことも、昨今の状況を反映したものと考えられます。
4、敷金の返金を請求するための具体的な方法
家賃の滞納がなく、賃借人が負担すべき原状回復費用もないと思われる場合、退去時には敷金を全額返金するように求めることが重要です。原状回復費等を差し引かれた敷金が返金されてしまう前から、すみやかに対応を開始することが重要になります。
もし、クリーニング代などの原状回復費用を差し引いた金額しか戻ってこない場合や、そもそも大家が敷金を返金してこない場合には、敷金の返金をめぐって大家と争うことが必要になるでしょう。
その場合、まずは、「敷金を何に使ったのか」ということについての明細の提出を、大家に要求してください。そして、敷金が使われた対象が、賃貸人の責任による損傷の修復ではないことを確認してから、返金を請求することになります。
返金を請求しても大家が敷金を返さない場合には、「返金を請求した事実」を記録にのこすために、返金の期限を定めた内容証明郵便を大家に送りましょう。
このときには、弁護士に依頼して、弁護士の名義で内容証明郵便を送ることをおすすめします。弁護士の名前を目にすることで、賃貸人が敷金の返金を真剣に求めていることが伝わって、多くの場合、大家はこの時点で敷金を返金するためです。
内容証明郵便を送った後にも大家が返金を行わない場合には、少額訴訟を提起することになります。
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める民事訴訟のことを指します。
少額訴訟では、原則として1回の審理で紛争解決を図ります。基本的には、裁判官と当事者がラウンドテーブルを共にして審理が進められることになります。
しかし、訴訟であることに変わりはないので、証拠の提出や事実の立証などが必要となります。特に、大家が「家や部屋に起こった損傷は賃貸人の責に帰せられるべきものだ」と主張した場合には、その主張に対して反論できるかどうかが結果の成否を分けます。
不安な要素があれば、弁護士に相談してください。
5、まとめ
本コラムでは、敷金の定義や用途、大家に敷金を全額返金してもらうための方法について解説いたしました。
敷金は、本来であれば賃貸人に全額返金されるべきものですが、大家に預けているために、返金されないことも多いものです。不当な請求に対しては「支払わない」という対処をすれば済むところですが、敷金に関しては、全額を返金するように賃貸人の方から行動を起こす必要があるのです。
民法の改正や昨今の風潮の変化を受けても、「敷金をクリーニング代や畳や襖の張り替えに使うことは慣例化しているから、勝手に使ってしまっても賃貸人は泣き寝入りするだろう」と考えている大家がいることは、否めません。
「大家は敷金を返金する気がない」と判断される場合には、すみやかに弁護士に依頼して、内容証明郵便の送付や少額訴訟の手続きをすすめましょう。弁護士が介在することで返金に対する賃貸人の意志が伝わり、大家が敷金の返金をしてくれる可能性が高まるためです。また、もし少額訴訟になった場合も、弁護士であれば大家側の主張に対して適切な反論を行うことができます。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、敷金の問題や不動産の契約トラブルに関するご相談も積極的に受けつけております。民事事件の解決経験が豊富な弁護士が対応いたしますので、トラブルでお悩みの方は、ぜひべリーベスト法律事務所 広島オフィスにまでご相談ください。
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