自分の土地上に隣人の塀が…境界トラブルへの対応方法を解説
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土地を持っている、あるいは購入や相続をするという場合、どこまでが自分の土地であるのか、つまり境界について意識する必要性が出てきます。
広島県土地調査士会の報告によれば、平成30年度に受け付けた境界問題相談センターの面談44件のうち、25件が境界不明、紛争に関するもので、5件が越境による侵害に関するものとなっています。面談内容の大半が境界に関わる争いといえ、境界の確認や確定の重要さがうかがえるでしょう。
土地は大切な財産ですし、その上に建築物が建ってしまうと撤去するにも費用や手間などが生じてしまいます。境界のトラブルとなると、相手が隣人や知り合いであることが多く、対処の仕方も悩ましいところでしょう。そこで今回は、自分の敷地内に隣人が塀を建てたケースを例題に土地の境界トラブルを取り上げ、その対処方法について弁護士がご説明します。
1、境界トラブルとは
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(1)境界トラブルの事例
主な土地の境界トラブルとしては、主に以下のような2つのケースが挙げられます。
- 土地を売買する際に一部が隣人の所有する土地だと判明したケース
- 隣人が塀や垣根などの建築物をこちらの土地に作ったケース
いずれも土地の所有や占有に関わるトラブルです。争いをできるだけ避けるためであっても、放置しておくとさまざまな問題が生じかねません。 -
(2)境界トラブルが発生する理由
元々土地は誰のものでもなく、区分けも後から人間が利用するために行ったものです。当然、目に見える線が引かれているわけでも、物理的に分かれているわけでもありません。
そこで、境界線を区分するためにいくつかの方法が採られていますが、それぞれの理由で、それも万能ではないという事情があります。
・ 境界標
土地と土地の間には境界標という四角い杭が打ち込まれていることが多いものです。
しかし、以下のようなケースで境界標が意味をなさなくなっているケースがあります。
① 土砂災害などで位置がずれた
② 過去、工事などで一時的に境界線を移動して正しい位置に戻すことを忘れてしまった
③ そもそも設置されていない、設置されたが老朽化して失われてしまった
・ 地積測量図
土地の所有範囲や面積を管理するものとして、地積測量図という公的な書類があります。
地積測量図は、道路や隣接する土地との境界が定められた上で測量され、その結果が図面として記載され、土地登記簿に登録されるものです。しかし、所有権は当事者の同意で簡単に変動するにもかかわらず、これらの書類が同時に改訂されるわけではないことから、図面上の境界と現実の土地利用状況とが食い違っている場合があります。
このように、境界の曖昧さに基づく誤解や誤認、人為的なミスや実務上の食い違いなどが境界トラブルを生んでいるといえるでしょう。
2、越境状態をそのままにしておくことの問題点
前述したような境界トラブルは放置しておくと、さまざまな問題を引き起こします。具体的にどのようなことが起きるのか、みていきましょう。
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(1)所有権の侵害
隣人が本来の境界を越えて塀や垣根、車庫などを建てていた場合、その部分は所有者が自由に使えなくなるため、土地所有権の侵害状態が生じます。
所有者は所有権に基づいて、それらの建築物の撤去を求めることができます。同様に、畑や花壇などが越境状態にある場合も、使用の停止を要求できます。他人が自分の持ち物を勝手に使っていた場合に使用を停止し、返還を求めるのは当然の権利です。 -
(2)時効取得
自分の所有している土地を他人が利用していた場合でも、長期間その状態を維持していると、それらの撤去や使用停止が要求できなくなります。時効によって、越境部分の土地所有権が隣人のものとなってしまうからです。
法律には、長年にわたって維持されてきた事実状態を権利として保護しようという考えがあります。これは、長く続いた事実状態を法律関係と一致させることが、社会の安定化につながるという考えによるものです。これを時効といい、民法第162条で定められています。
越境状態を作り出している隣人が以下の要件を満たした場合、その越境部分は時効取得され、所有権は隣人に移ってしまいます。・ 長期取得時効
悪意、または過失によって、20年間の占有を平穏かつ公然と続けた場合に土地は占有者のものとなります。自分の土地ではないと知っていて、もしくは知ることができたにもかかわらず、他人の土地を占有している状態が20年継続していた場合をいいます。
・ 短期取得時効
占有開始時に越境部分を自分の土地だと過失なく信じて、10年間の占有を平穏かつ公然と続けた場合に、土地は占有者のものになります。これは、土地の占有開始時に、その土地が自分のものだと信じていればよいとされています。
もし、隣人が越境部分について、自分の土地だと無過失で信じて使用を開始したのであれば、わずか10年間で所有権を取得されてしまいます。越境部分の時効取得を防ぐためには、隣人の使用開始から10年以内に撤去ないし使用停止の請求を裁判上の手続きを経て行う必要があるのです。
3、境界トラブル解決に向けて
もめ事を避けたいという理由で境界トラブルを放置し、我慢し続けてしまうと、取り返しのつかない事態になりかねません。
では、これらの問題を解決するにはどうすればいいのか、一連の手続きの流れを紹介します。
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(1)当事者同士での話し合い
まず、越境問題などのトラブルは当事者間で話し合い、新たに境界線を作り直し、隣接地の買い取りや塀などの作り直しといった解決策を探るとよいでしょう。
ただ、話し合いがまとまりそうにない場合は、別の手段をとる必要があります。 -
(2)役所・法務局などへの相談
境界トラブルの相談先として、自治体の役所や法務局で受け付けている無料相談があります。相談内容に応じて解決制度の説明や、助言がもらえますので、まずは確認としてこのような制度を利用してみるのもひとつの手です。
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(3)境界問題相談センターへの相談
土地家屋調査士の団体である土地家屋調査士会では、境界問題相談センターを運営しています。各地域によって名称は異なりますが、たとえば広島であれば「境界問題相談センターひろしま」が相談先となります。こちらに問い合わせてみる方法もあります。
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(4)筆界特定制度の利用
筆界特定制度は国が設けている制度で、土地の所有者として登記されている者などの申請に基づき、筆界特定登記官が外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえ、土地の筆界(境界)の位置を特定する制度です。
対象となる土地の管轄法務局か地方法務局に、筆界特定申請書を提出して申し込みます。なお、土地の所有権を特定する制度ではありません。また、結果に納得がいかない場合は、後から裁判で争うこともできます。 -
(5)境界確定訴訟の提起
どうしても当事者同士で折り合いがつかなかった場合、最終的には裁判所に訴訟を提起し、境界を画定してもらうことになります。この場合、測量の結果やその他の証拠を提出して争うことになる可能性が高いでしょう。
裁判になってしまった場合は、手続きや専門的な書類作成などに時間や手間がかかります。したがって、早期に弁護士に相談して、証拠の準備や、主張の整理などを手伝ってもらい、代理人として裁判を任せることをおすすめします。
なお、裁判で争う事態になる前から弁護士に相談しておくことで、話し合いによる早期解決が実現する可能性をより高めることができます。いずれにせよ、境界トラブルが起きた際は、あらかじめ弁護士への相談を視野に入れて進めたほうがよいといえるでしょう。
4、まとめ
今回は境界トラブルの内容や、トラブルを放置していてはいけない理由、トラブルの解決方法についてご説明しました。
土地を所有している方にとって、境界に関するトラブルは決してひとごとではありません。話し合いや紛争が面倒だからと越境状態をそのままにしておけば、土地を時効取得されてしまうおそれもあります。
自分の土地上に塀や垣根を作られてしまった、境界標が破損している、登記簿上の筆界と所有している土地の範囲が一致しない、などの問題がありましたら、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士にお気軽にご相談ください。民事事件に対応した経験が豊富な弁護士が、迅速丁寧に対応いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています