暴行をした上司に対して慰謝料を請求する方法とは?
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広島県は、県の雇用労働情報サイト「わーくわくネットひろしま」でパワハラに関する情報とパワハラ被害に悩む方へのサポートを提供していますが、パワハラのひとつの形態として挙げられるのが「暴行」です。
ひと昔前では、上司や先輩からの軽度の暴行は「指導の一環」として容認される傾向がありました。しかし、後遺障害が生じるような事態へと発展すればとても許されるものではないでしょう。
本コラムでは「上司からの暴行」に焦点をあてて、慰謝料請求の方法を広島オフィスの弁護士が解説していきます。
1、「暴行」を加えてきた上司はどのような法的責任を負うのか
他人に暴力を加えることは、たとえ上司と部下、雇用主と労働者といった上下関係があっても許されるものではありません。
暴行の加害者は、刑事責任と民事責任の両方を負うことになります。
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(1)暴行罪としての刑事責任
刑法第208条は、他人に暴力をふるった結果、相手がケガをしなければ「暴行罪」になると規定しています。
暴行罪は正当業務行為であれば違法になりません。たとえば、ボクシングの選手はお互いに暴行を加えあっていますが、スポーツ競技という正当な業務にあたるためその範囲内であれば犯罪にはならないのです。
暴行を加えた上司は「指導のためだった」「口でいってもきかないから」といった、まるで正当な行為であるかのような反論をしてきますが、もちろん正当業務行為にはあたりません。
暴行罪に問われると、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科せられます。
拘留とは1か月未満の刑事施設への収容、科料とは1万円未満の金銭徴収で、刑罰としては非常に軽いものですがれっきとした前科になります。 -
(2)不法行為に対する民事責任
民法709条は「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
たとえ業績不振や勤務態度が悪いといった理由があったとしても、すべての日本国民は憲法による保護を受けています。他人からの暴力を受けない自由が保障されているため、これを害した上司は、損害賠償の民事責任を負います。 -
(3)刑事責任と民事責任の両方が発生する
暴行を加えてきた上司は、暴行罪の刑事責任と損害賠償の民事責任の両方を負います。
刑罰を受ければ損害賠償の責任を負わなくなるわけではなく、損害を賠償すれば刑事責任に問われないわけでもありません。
基本的に暴行の加害者には刑事と民事の両方の責任が発生するので、警察に被害届を提出したうえで賠償を求めるといった対応も可能です。
2、上司から暴行を受けたら慰謝料請求は可能?
暴行を加えてきた上司は民事責任を負います。
ここでいう「民事責任」とは、どのようなものを指すのでしょうか?
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(1)慰謝料の請求が可能
民事責任のひとつとして挙げられるのが「慰謝料」です。
慰謝料とは、不法行為によって生じた精神的苦痛に対する賠償金を指します。
慰謝料の金額は一定ではありません。
「パワハラの一環としての暴行では◯◯万円」という決まりはなく、ケースに応じて精神的苦痛の程度は異なるので相場もありません。
度重なるパワハラや特定の個人に嫌がらせをする目的での暴行となると、被害者の精神的な苦痛は相当なものです。このようなケースでは、慰謝料が高額になることもやむを得ないでしょう。 -
(2)慰謝料以外も請求できる
不法行為によって発生した慰謝料以外の損害に対する賠償も請求することが可能です。
たとえば、次のようなものが賠償の対象になり得ます。- 暴行を受けた箇所の診察費
- ケガや精神疾患の治療費
- 後遺症への介護費用
- 休業や失業に対する補償
- 暴行によって壊れた物品の修理代や弁償
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(3)示談金とは? 慰謝料や損害賠償との違い
上司からの暴行トラブルを解決する方法のひとつとして考えられるのが「示談」です。
示談とは、トラブルの加害者と被害者の双方が、話し合いによって和解する方法をいいます。
示談は、加害者による謝罪と示談金の支払いによって行われます。
示談金とは、精神的苦痛に対する慰謝料と実際に被った損害に対する慰謝料以外の損害賠償をあわせた金銭を指すと考えれば良いでしょう。
上司からの暴行トラブルでは、後遺障害を伴うほどの重大なケガが発生しなかったり、休業や物品の損壊なども重大な被害ではなかったりするケースが大半です。なかには後遺障害が生じるケースもありますが、主に精神的苦痛の賠償が争点になるでしょう。
パワハラなどの暴行トラブルでは、慰謝料と慰謝料以外の損害賠償を細かに仕分けるのではなく、ひとまとめに慰謝料に含んで示談金とするケースが一般的だといえます。
3、上司に慰謝料を請求する方法
「指導の一環だ」などと暴力を加えてきた上司に対して慰謝料を請求するには、どのような方法をとれば良いのでしょうか?
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(1)上司に直接請求する
慰謝料の請求は、まず暴行を加えてきた本人に対して直接請求するのが基本です。
請求の方法に法律の決まりはありませんが、口頭でやり取りをすると発言の証拠が残らないので書面によって請求するべきでしょう。
書面による請求では、いつ、どのような内容で請求したのかの証拠を残すために内容証明郵便を使用するのが一般的です。
当事者同士の話し合いによるため、この方法は「示談」による解決を目指すものとなります。
加害者となった上司にとっても「警察に被害届を提出してほしくない」「前科はつけたくない」という考えをもっているため、示談によって解決できるケースも珍しくありません。 -
(2)裁判所の手続きを利用する
上司が慰謝料を含めた示談金の支払いに応じない、慰謝料を請求しても返答がなく無視されているといった場合、裁判所の手続きを利用することになります。
慰謝料を請求する場合の手続きには次の方法があります。・ 調停
裁判所の調停委員を介して、被害者と加害者が話し合いによって解決を目指す手続きです。
・ 支払い督促
書面審査のみで金銭支払いが決定される手続きです。もっとも、相手方である加害者が異議を述べると訴訟に移行します。
・ 少額訴訟
60万円以下の金銭支払いを求める場合に限って利用できて、原則1回の審理のみで判決が下される訴訟手続きです。
・ 通常訴訟
正式な裁判の手続きで、裁判官がそれぞれの証拠を取り調べて審理し判決を下します。
4、上司からの暴行を弁護士に相談するメリット
上司から暴行を受けた場合、示談または裁判所の手続きによって慰謝料を請求することになりますが、被害者個人でこれらの手続きを遂行するのは困難です。
上司から暴行を受けて慰謝料を請求するには、弁護士に相談すべきです。
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(1)真摯(しんし)な対応が期待できる
職場の上司と部下の関係であれば、暴行を加えた側は「厳しい指導を受けても当然」という誤った認識をもち、慰謝料請求についても真剣にとらえてくれないおそれがあります。パワハラが常態化している会社では、慰謝料を請求した社員に対して不利益な扱いをすることも予想されます。
弁護士に相談し、代理人として示談を進めてもらえば、刑事責任・民事責任を厳しく追及していこうとする強固な姿勢が伝わりやすく、真摯(しんし)な対応が期待できるでしょう。
パワハラを暗に容認しているような会社でも、弁護士が介在すれば不当な扱いはしないことが多いです。 -
(2)慰謝料の獲得が期待できる
指導などの理由をつけて暴行を正当化するような上司の場合、法律によって保護されている慰謝料請求の権利も無視する可能性が考えられます。
弁護士が代理人となって示談交渉を進めれば、法に基づいた正当な権利であることを上司に知らしめることができ、慰謝料の支払いに応じる可能性が高まります。
もし慰謝料の支払いに応じない場合でも、弁護士は代理人として裁判所の手続きを進めていくので、結果的に慰謝料の獲得が期待できるでしょう。 -
(3)刑事責任の追及も期待できる
上司が慰謝料請求に応じず示談交渉が決裂してしまった場合、警察への被害届や告訴状の提出を検討することになるでしょう。
弁護士に相談すれば、刑事責任を追及するために有効なアドバイスが受けられます。告訴状の作成や提出は弁護士に頼るところが大きいため、上司の刑事責任を追及するには弁護士のサポートが大切です。
示談交渉が決裂してしまった場合でも、刑事責任を追及する姿勢をみせていれば逮捕や前科がつくのを避けたい上司としては示談に応じずにはいられなくなります。本来は刑事責任と民事責任の両方を追及できますが、慰謝料請求を有利に進めるには刑事責任を不問にする条件を提示するのも有効でしょう。
5、まとめ
近年、パワハラに対する意識は改善されつつありますが、一部ではいまだに「指導の一環だ」などと暴行を加えることに罪悪感のない上司も存在しています。
暴行は刑事責任・民事責任の両方を負う不法行為ですから、上司からの暴行を甘んじて受けいれる必要などありません。もしあなたが上司からの暴行被害を受けたのであれば、慰謝料を請求して精神的苦痛からの回復を目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスは、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士がトラブルにみまわれてしまい悩みを抱えている方を強力にサポートします。
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