台風による倒木で家が壊れた! 賠償責任は誰にあるのか?

2020年10月07日
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台風による倒木で家が壊れた! 賠償責任は誰にあるのか?

地球温暖化の影響もあって世界中で異常気象が続いていますが、日本も例外ではなく極端な豪雨や台風被害が発生しています。広島でも平成30年7月の豪雨によって、甚大な被害が出ています。

もし隣の家にある大きな樹木が、台風により倒木し、自分の家が破壊されたら隣の住人に損害賠償請求することはできるのでしょうか。自然災害は不可抗力とも考えられるので、自分の家が被害に遭った場合にどうすればいいのか心配という人も多いと思います。

そこで、今回は、隣家との間の損害賠償に関する問題について解説していきたいと思います。

1、隣家の倒木による賠償責任は発生するのか?

2019年9月9日の台風15号でゴルフ練習場が倒壊し、近隣住宅16軒の家屋が破壊されたというニュースがありました。「市原ゴルフガーデン鉄柱倒壊事故」というものです。この事故では、当初ゴルフ練習場オーナーは全額補償すると言っていましたが、その後、ゴルフ練習場側の弁護士から「鉄柱の撤去はするが、自然災害なのでそれ以外の補償はしない。各自が火災保険で対応してもらうことになる」と通告し、住民と対立することになりました。

その後、この弁護士は解任され、別の弁護士が事故処理に当たっており、ゴルフ練習場の土地を売却して補償するとの意向を示すようになりました。

住民からすれば、原因が台風とは言え、いきなりゴルフ練習場の柱が家を直撃して住めなくなったわけですから、補償してほしいと考えるのは自然なことです。ただ、日本の法律(民法)では、「過失責任主義」が採られており、不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、加害者に少なくとも過失がなければ責任は発生しません

そのため、この事故の当初の弁護士は、「自然災害なので補償はしない」と言ってしまったわけです。法律論的には間違ってしないのかもしれませんが、住民感情としては納得できないというのは理解できます。

このまま、裁判ということになれば被害者住民が加害者であるゴルフ練習場を訴えて、過失を立証する必要があります。ただ、自然災害の場合、それを予見し回避することができたと立証することは難しく、裁判所も心情的には救済したくても、過失があったと認定できないこともあります。これに対し、今回の事故のようにADR(裁判外紛争解決手続)が活用される等、双方の歩み寄りで解決することもあります。

このような、大規模な事故でなくとも、隣家の倒木により自分の家に損害が生じる場合はいくらでも起こりうるので、その場合の法律関係を理解しておくよいかもしれません。

2、隣家の木を勝手に切っても問題ない?

倒木まで至らなくても、隣家の枝が自宅の敷地まで入り込んだり、道路へはみ出たりして危険ということもあります。このような場合に、勝手に枝を切ってしまうことは許されるのでしょうか。

枝が自分の家の敷地に入り込んだ場合、それは所有権の侵害にあたるので、「その枝を切除してほしい」と、隣家に求めることができます。民法では、「隣地の竹木が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」と規定されています。(民法233条第1項)

ただし、この規定は、あくまで木の所有者に対して切除するよう求めることができるだけであって、勝手に枝を切ることは許されません。勝手に切ってしまった場合、民事上は不法行為に基づく損害賠償請求がなされる可能性があります。また、刑事上は器物損壊罪が成立する可能性もあります

他方、民法233条第2項では、「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」と規定しており、木の根が境界を越えて自分の家の敷地を侵害するような場合には、勝手に切ることも許されます。もっとも、近隣トラブルを避けるため、切るにしても事前に所有者に伝えておく方がよいでしょう。

3、倒木によりケガした場合の法的責任は?

倒木によりケガを負わせた場合、不法行為による損害賠償請求がなされる可能性があります。ただ、自然災害で木が倒れた結果、隣家に損害が発生したような場合、所有者に防ぎようがないのであれば責任は問われません。しかし、木の栽植または支持に瑕疵(かし)がある場合には、占有者または所有者は損害賠償しなければなりません(民法717条第2項)。

ここで言う瑕疵とは、通常備えているべき安全性を欠くことを言います。木がグラグラ動く状態では安全性がある状態とはいえず、押しても動かないような安定している状態であることが必要です。

たとえば、木の根が腐っていて普段からグラグラしていて、隣家に倒木してケガをさせたような場合には、瑕疵があったと認められ、損害賠償請求が認められる可能性があるでしょう。他方、台風や地震などの大きな自然の力が介入した場合には、その評価が難しくなります。

想定を超えるような台風が来て、近隣の木が全て倒れているような状態であれば、瑕疵があったとはいえることもあります。それに対し、近隣の木は倒れていないのに、1軒だけ木の根元が腐りかけていたため倒木し、隣家の人にケガを負わせたような場合には、瑕疵があったとして、所有者に損害賠責任が認められることもあります。

刑事責任としては、理論的には、「過失傷害罪」または「業務上過失致傷罪」の成立が考えられます。もっとも、実務上は、よほど管理がずさんで多くの人が大けがをしたような場合でなければ立件されることはないでしょう。

4、倒木による損害賠償請求を行う場合の手順

  1. (1)証拠の保全

    証拠は時間の経過と共に変化しますので、損害が発生したらすみやかに証拠を保全する必要があります。たとえば、倒木して家を壊したような場合であれば、倒木して家に木がめり込んでいる写真を撮るなどです。また、その木が隣家の木であることを明らかにするために隣家の敷地の木が倒れていて、家が破壊されていることがわかる写真も撮影しておいた方がよいでしょう。

  2. (2)損害額の計算

    証拠がそろったら、損害額の算定を行います。いくら請求するか決まっていなければ、請求のしようがないからです。家屋が損壊しているのであれば家屋の修理代、住めなくなり仮住まいをしている場合にはホテル代や家賃などの合計額です。なお、慰謝料については認められにくいですが、長期間居住していた建物で立て直しを余儀なくされたような場合には慰謝料が認められる場合があります。

  3. (3)加害者との交渉を行う

    加害者が誠意のある方であれば、生じた損害について話をした結果、そのまま支払ってくれる場合がありますので、まずは、加害者に損害について話をすることからはじめます。しかし、「自然災害なのだから損害賠償をするつもりはない」と言われてしまった場合には、法的措置を検討するしかありません。

  4. (4)損害賠償請求の根拠を決める

    法的な措置を取るためには、法的根拠が必要になりますので、倒木により損害を被った場合には、どのような根拠で請求するのか検討する必要があります。これまで説明してきたとおり、一般不法行為に基づく損害賠償請求なのか、工作物等の責任に基づく損害賠償請求なのか、あるいは複数請求をするのかなどについて検討します

    また、損害額が少ない場合には「少額訴訟」にするのか「通常訴訟」にするのか、管轄をどうするかなどの訴訟戦略を検討することになります。

    法的措置を行う場合、基本的に弁護士に依頼することになるので、弁護士に依頼した時点で弁護士が加害者と再度交渉することもあります。弁護士から連絡が来ると、相手も態度を変える場合があるからです。

    交渉の見込みがあるのであれば、裁判までしなくとも任意の和解や調停で話がつくこともあります。まずは、弁護士がそれを試みて、それでもダメなら裁判ということになります。

  5. (5)訴えを提起する

    任意の交渉ができないあるいは、調停で決裂したような場合には、裁判をするしかありません。訴額60万円以内であれば少額訴訟にするのか、通常訴訟にするのかを決めて訴えを提起することになります。訴えを提起する場合、「訴状」というものを作成し、法律で定められた金額の収入印紙とともに、管轄の栽場所に提出します。

    裁判官(裁判長)は訴状を審査し、形式的に不備がなければ、口頭弁論期日を指定して当事者を呼び出します。訴状に不備があれば、裁判官(裁判長)は補正を命じます。少額訴訟であれば原則として1回の期日で終わりますが、通常訴訟の場合、何回か口頭弁論が開かれ、判決まで1年以上かかることもあります

    判決がなされ、それに納得がいかなければ敗訴した側は、控訴をして争うことができます。手続きとしては、控訴状を第一審の裁判所に提出します。第一審判決正本が送達された日の翌日から起算して2週間以内に控訴状を提出しない場合、判決は確定します。

5、まとめ

今回は、台風による倒木で家が破壊された場合に、損害賠償請求ができるのか、また、できるとした場合には、どのような手続きによって請求していくのかについて解説してきました。

台風という自然災害の場合、倒木した家の住人も被害者という側面があり、「自分は悪くないのにお金を払わなければいけないのか」と疑問を呈する人も多いと考えられます。そのため、近隣トラブルに発展する可能性があります。近隣トラブルは、一度トラブルを起こしてしまうと、引っ越さない限り解決が困難というところに難しさがあります。特に隣の家であれば、頻繁に顔を合わせるので、トラブルになると大変です。

直接話をするとトラブルに発展しやすいので、間に弁護士を入れることで冷静に話しあうことができる場合があります。損害賠償額の計算や法的手続きに移行する場合にもスムーズですので、お困りの際は、弁護士に依頼することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 広島オフィスには、民事事件について経験豊富な弁護士がおりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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