認知症の親が結んだ契約を取り消したい! 解約のためにすべきことは?

2020年12月01日
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認知症の親が結んだ契約を取り消したい! 解約のためにすべきことは?

令和2年の年末年始は、新型コロナウイルスの影響で、遠方の実家に帰省することができない方も多いと思われます。

遠方に暮らす親が認知症になりかけていることは把握していたのですが、最近、訪問販売が来るたびに何らかの契約を結んでしまっていることを初めて知りました。明らかに不要で高価なものを買わされているようなのですが、この契約は解除できないのでしょうか。

親御さんが訪問販売等で不要なものを買わされてしまった場合、どのように対処すべきか、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、契約が有効か無効かを検討する

まずは、お父さまの状況を確認しましょう。
といいますのも、お父さまの認知症がとてもひどい場合には、契約がそもそも有効でなくなることがあるからです。契約が無効となると、その契約が、法律上は「なかったもの」として扱われますから、その契約のために払ったお金などを取り戻すことができる可能性があります。

では、どのような場合に無効になるのでしょうか。法律上に規定があります。
民法3条の2によると、売買契約などの法律行為をした当時に、「意思能力」がなければ、その法律行為は無効とされています

「意思能力」とは、ざっくり言いますと、行為の結果がわかる精神能力のことをいいます。そのため、生まれたばかりの赤ちゃんや、認知症が進んだ高齢者で、認識能力や判断能力がなくなってしまったような場合は、意思能力がないとされ、契約が無効とされる可能性があります。

2、契約を取り消しにできるケース

そのほかにも、契約を取り消すことができるしくみがあります。
もし、親御さんが訪問販売で不要なものを購入していたら、以下の取り消しができないか、検討しましょう

  1. (1)消費者契約法に基づく取消権

    ① 誤認した場合の取消権(消費者契約法4条1項、2項)
    事業者が重要な事実について違うことを言ったことにより、消費者が誤認した場合、うっかり誤解をして、契約してしまうこともあります。

    また、相場の変わりやすい商品など、将来の金額の変動が不確実な事実について、「確実に値上がりする」などと断定的にいわれた場合なども、うっかり誤認して契約してしまうことがあります。

    そのほか、重要な事実について、いいことだけ言って、意図的によくないことを言わないでいた場合なども、誤認して契約してしまうことがあります。
    これらの場合、消費者契約法によって取り消すことができる場合がありますので、あてはまるようであれば、すぐに取り消しを検討すべきでしょう。

    ② 困惑した場合の取消権(消費者契約法4条3項)
    帰ってほしい、と言ったのに帰ってくれなかった場合や、帰りたいといったのに帰してもらえなかった場合などにも、契約を取り消すことができる場合があります。
    この場合も取り消しを検討すべきでしょう。

    ③ 過量契約による取消(消費者契約法4条4項)
    認知症や加齢によって判断が十分できないことにつけこんで、事業者が勧誘して、大量の物品を買わせるケースが多くあります。筆者の周りの高齢者にも、訪問販売を受け、同じ商品を大量に買ってしまっていたケースがありました。

    このようなケースに対応するため、「過量契約による取消」の規定が、平成28年改正によって新たにつくられました。

    すなわち、事業者が、勧誘の際に、販売する量や期間や回数が普通の人にとっての通常の量や期間や回数を著しく超えることを知っていた場合、取り消すことができる場合があります
    同じ商品が、押し入れからたくさん出てきた、という場合は、過量契約による取り消しを検討してもよいでしょう。

  2. (2)特定商取引法に基づく解除権等

    ① クーリングオフ(特定商取引法(正式名称を「特定商取引に関する法律」といいます)9条1項など)
    クーリングオフという言葉を耳にされたことがある方も多いでしょう。
    クーリングオフとは、消費者保護のため、一定期間内であれば、無条件で、書面により、申し込みの撤回や契約の解除をすることができるという制度です。

    とはいえ、どんな契約でも申し込みの撤回や解除ができるというわけではなく、訪問販売、電話勧誘販売など法律で決められた一定の種類の契約に限られます。
    消費者にとても有利な制度なのですが、解除などをできる期間が、書面を受けとってから8日間と短いので、「もしかして解除できるのでは」と思ったら、すぐに解除する必要があります。

    ちなみに、クーリングオフは、特定商取引法以外にもさまざまな法律に規定されています
    たとえば、保険業法のクーリングオフ制度があります。保険期間が1年を超えるものであれば、クーリングオフの対象になる可能性があります。これも、書面を受け取った日か契約日のうち、いずれか遅いほうから8日以内に解除する必要があり、使える期間が短いので注意が必要です。

    加えて、宅地建物取引業者と事務所以外の場所で不動産を取引した場合も、クーリングオフ制度があります。この制度も、告知の日から8日以内と期間が短いので気をつけてください。

    ② 過量販売(特定商取引法9条の2など)
    消費者契約法と似ているのですが、訪問販売や電話勧誘販売で、通常必要とされる量を著しく超える商品・権利を購入してしまったときは、一定の条件のもと、申し込みの撤回や契約の解除ができます。

    ③ 不実告知(特定商取引法9条の3など)
    これも消費者契約法と似ているのですが、訪問販売や電話勧誘販売などで、事業者が、不実のことを告げたり、不利な事実をわざと説明しなかったりして、消費者が誤認して契約したときは、その契約を取り消すことができます。

    ④ 中途解約権(特定商取引法49条など)
    また、エステ、英会話のレッスン、学習塾などの一定期間続けてサービスを提供するものにつき、不実のことを告げられたりしたために誤認して契約したときは、クーリングオフの期間を過ぎても、将来に向かって、その契約を解除することができます。

  3. (3)割賦販売法に基づく取り消しを忘れずに

    契約を取り消したり解除したりしても、その契約のために結んだクレジット契約が残ってしまっては意味がありません。
    そのため割賦販売法に規定がありますから、割賦販売法に基づく取り消しができるようであれば、処理しておきましょう。

  4. (4)民法による取り消し

    また、民法上、詐欺や錯誤によって契約した場合、取り消しができることがあります(民法95条、96条)

3、契約トラブルを回避する成年後見制度とは

  1. (1)親御さんの財産を守るための制度

    上述した制度があるとはいえ、制度の適用があるかどうかを判断することは難しいですし、期間制限の短い制度もありますので、使い勝手の良くない部分もあります。
    そのため、事前に後見などの手続きをしておくことがおすすめです

    後見とは、ざっくりいいますと、判断力などが十分でなくなった方を、別の方が後ろ盾する制度です
    後見には、法律上、任意後見と法定後見があります。この2つは、後見をしてくれる人を、いつ、誰が選ぶか、という点で大きな違いがあります。

    任意後見は、本人が、本人に十分な判断力があるうちに、判断力が不十分になった場合に備え、前もって後見人を選んで契約をしておくものです。なお、この任意後見契約は、公正証書でしなければなりません(任意後見契約に関する法律3条)。
    これに対し、法定後見は、本人の判断力が不十分になった後に、家庭裁判所に請求して、後見人を選んでもらうものです。

    高齢者本人の意向が尊重されるため、近年、任意後見制度が注目を集めています。
    ちなみに、任意後見と法定後見は、効果の点でも異なります。

    任意後見は、後ろ盾する人(任意後見受任者といいます)が、判断力が不十分になった本人に代わって契約などの法律行為をするという「代理権」しか与えられません。これに対し、法定後見は、後ろ盾する人(後見人などとよばれます)が、本人がした行為を取り消すこともできることがあります。ことがある、というあいまいな言い方をしたのには理由があります。法定後見にはいろいろなものがあり、取り消し権が与えられない場合もあるためです。

  2. (2)法定後見制度

    法定後見制度には、3つの種類があります。
    ① 成年後見制度
    ② 保佐制度
    ③ 補助制度

    の3つです。

    本人の判断力等が限られている度合いが一番大きいのが① 成年後見、その次が② 保佐、一番本人の能力の制限が少ないのが③ 補助です。いずれも家庭裁判所の審判で始まるという点は同じです。

    ① 成年後見制度では、保護される本人は、同意なく日用品を購入することができますが、それ以外の行為にはすべて後見人の同意が必要で、同意のない行為を取り消すことができます。

    ② 保佐制度では、本人は、日用品の購入に限らず、同意なく法律行為をすることができますが、借金や補償をしたり、不動産を購入したりといった、法律に決められた重要な行為はできません(民法13条1項)。保佐制度では、後ろ盾する人(保佐人といいます)に対し、裁判所が一定の行為の代理権を付与することができます。

    ③ 補助制度では、本人は、裁判所が審判で決めたもの以外は同意なく法律行為をすることができます。また、裁判所が審判で、後ろ盾する人(補助人といいます)に対し、一定の行為の代理権を与えることもできます。


    そのため、親御さんの判断力が十分ではないために何度も不適切な契約をしてしまうというようでしたら、不適切な契約を取り消しやすくするため、法定後見の利用を考えてみた方がよいでしょう。

4、弁護士に相談・依頼した方がよいケース

もし親御さんの判断力が十分でないことにより、不適切な契約をしてしまっているようでしたら、取り消せないか、弁護士に相談してみるとよいでしょう

また、法律上明らかに取り消せる行為であるにもかかわらず、適切な手続きを踏んで取り消したのちも、金銭の請求を続けてくる業者もいます。この場合も、弁護士が内容証明を送ると請求がやむ場合もありますので、弁護士に相談・依頼することを考えてみた方がよいでしょう。

5、まとめ

遠く離れて住んでいる親御さんの家から、同じ商品がいくつもでてきたりすると、心配してしまうものです。法律上、いろいろな方法がありますから、気がかりなことがありましたら、お気軽にベリーベスト法律事務所 広島オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています