月250時間労働は普通? 法定労働時間と時間外労働上限と過労死ライン

2024年05月13日
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月250時間労働は普通? 法定労働時間と時間外労働上限と過労死ライン

広島県が公表している毎月勤労統計調査の令和5年平均確報によると、広島県内におけるに総実労働時間は、事業所規模5人以上で137.5時間、事業所規模30人以上では142.3時間でした。いずれも2年連続の減少とされていますがあくまで平均値であるため、実際には月に250時間や300時間労働をされている方もおられるでしょう。

同じ職場内で長時間労働が当たり前になっていると、一般的な労働時間がどれぐらいなのかなどについてわからなくなってしまいがちです。このような長時間労働が常態化してくると、働きすぎにより体調を崩してしまったという方がおられるかもしれません。

本コラムではベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が、法定労働時間や時間外労働の上限や過労死ラインなどの関係性などについて、解説します。

1、1か月の法定労働時間

まず、労働時間に関して法律上ではどのように定められているかについて、解説します。

  1. (1)労働基準法における労働時間の定め

    労働基準法では、労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間以内とされています(労働基準法32条)。このような労働時間の定めを「法定労働時間」といいます。
    法定労働時間を超えて労働者に労働をさせる場合には、後述する時間外労働の要件(36協定の締結と届出)を満たし、かつ、法定労働時間を超える労働時間について割増賃金を支払う必要があります。
    これらに違反した使用者に対しては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになるのです(労働基準法119条1号)。

  2. (2)36協定で定める時間外労働の上限規制

    原則として、使用者は、上記の法定労働時間を守らなければなりません。
    しかし、一定の場合には例外として法定労働時間を超えて労働者を働かせることができるのです。
    具体的には、使用者は、労働者に法定労働時間を超えて時間外労働をさせようとする場合には、労働基準法36条に基づく労使協定(通称、36協定)を締結して、所轄の労働基準監督署長に届け出ることによって、時間外労働をさせることができます。
    36協定によって認められる時間外労働については、厚生労働大臣の告示によって、1か月45時間、年間360時間などの上限が定められています。
    なお、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行う必要がある場合には、特別条項付きの36協定を締結することによって、限度時間を超える時間外労働を行わせることが可能でした。
    しかし、これでは会社が上限なく労働者を働かせてしまうリスクがあることから、法改正によって、現在では限度時間が罰則付きで法律に規定されることになり、時間外労働時間の上限は、原則として月45時間、年間360時間となったのです。
    また、特別条項の有無に関わらず、時間外労働と休日労働の合計は1年を通して常に月100時間未満として、2~6か月の平均を80時間以内にする必要があります。
    このような時間外労働の上限規制に違反した場合には、使用者には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになるのです。

2、1か月の総労働時間が250時間以上のとき

1か月の総労働時間が250時間以上である場合に発生する、法律の問題や労働者の健康に関する問題について解説します。

  1. (1)1か月の総労働時間が250時間以上は違法な長時間労働の可能性

    36協定を締結していたとしても、時間外労働時間の上限は、月45時間までであるため、36協定の特別条項が締結されていなければ、違法な時間外労働です。また、仮に、36協定の特別条項が締結されていたとしても、2~6か月平均80時間以内という上限のギリギリであり、毎月の総労働時間数によっては、やはり違法な長時間労働となる可能性が高いといえます。
    このように、1か月の総労働時間が250時間以上になった場合には、違法な長時間労働と認定される可能性が高い状況にあるといえるでしょう。

  2. (2)80時間を超える時間外労働は過労死ライン

    過労死ラインとは、病気や死亡に至るリスクが高くなる時間外労働時間のことをいいます。長時間に及ぶ労働時間が長期間継続した場合には、労働者に疲労の蓄積をもたらして、脳や心臓に疾患が生じる可能性が高くなります。
    脳・心臓疾患に係る労災認定基準では、発症前1か月間におおむね100時間または発症前2~6か月間にわたって、1か月平均80時間を超える時間外および休日労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。
    毎月の総労働時間が250時間以上である場合には、おおむね80時間以上の時間外労働が行われていることになるため、上記の過労死ラインに当てはまるような残業時間であるといえます。

3、長時間残業の残業代は正しく支給されている?

1か月の総労働時間が250時間以上にもなると時間外労働も長時間となるため、残業代が正しく支給されていない可能性も生じます。

  1. (1)長時間残業のケースでは残業代計算が複雑になる

    使用者は、労働者に対して時間外労働を命じた場合には、割増賃金を支払う必要がります。割増賃金については、労働基準法37条で時間外労働に対しては1.25倍、深夜労働については0.25倍、1か月に60時間を超える時間外労働については1.5倍などの割増率が定められています。
    このように、時間外労働が長時間に及んだ場合には、深夜労働や60時間を超える時間外労働なども発生するため、通常の残業代計算に比べて複雑な計算になります。給与明細を確認して、労働時間に比べて残業代が少ないと感じることがあれば、正確な残業代計算が行われていない可能性が高いでしょう。

  2. (2)残業代が正しく支払われていない可能性もある

    残業代は残業時間に比例して増えていくため、長時間の残業が行われた場合には、使用者が支払わなければならない毎月の残業代は、非常に高くなります。しかし、使用者が正確な残業代を支払うことによる人件費の増加を回避するために、残業時間を少なく計算するなどして正確な残業代を支払わないケースもあるのです。
    また、固定残業代(みなし残業代)などの給与形態をとることによって、「どんなに長時間の残業をしたとしても、固定残業代以上の残業代を支払わない」という扱いがなされる場合もあります。
    しかし、これらはいずれも違法な取り扱いです。したがって、労働者は会社に対して未払いの残業代を請求することができる可能性があります。

4、残業代の請求はすばやく動くことが大切

残業代の請求には時効という期間制限があります。そのため、正確な残業代が支払われていないと思った場合には、すぐに行動に移すことが重要になります。

  1. (1)残業代と時効の関係

    法律上は認められている権利であっても、一定期間権利を行使しない状態が継続すると、権利自体が消滅してしまうことがあります。これを「消滅時効」といいます。
    残業代についても、未払いの状態が続くと一定期間で消滅してしまい、会社に対して残業代を請求することができなくなるのです。
    従来は、残業代の時効期間は2年とされていました。しかし、民法改正に伴い、労働基準法も改正されたことにより、令和2年4月1日以降に支払われるべき残業代については、3年で時効になります。
    時効期間が延びたとはいえ、3年という期間はあっという間に過ぎてしまうものです。また、令和2年4月1日以降に請求する場合でも、令和2年4月1日以前に支払われるべき残業代についての時効は2年です。未払いの残業代が存在する場合には、時効の更新などの措置を早めにとるようにしましょう

  2. (2)残業代請求をするためには証拠が重要

    企業側が未払いの残業代の存在を認めない場合には、労働者側で未払いの残業代が存在することを証拠に基づいて主張していく必要があります。そのため、「正規の残業代が支払われていないかもしれない」という疑いを抱いた場合には、会社に残業代を請求する前に、以下の証拠を集めておくようにしましょう。

    • 労働契約書、労働条件通知書
    • タイムカード
    • 業務日報
    • 日報、業務報告書
    • メモ、日記など
  3. (3)証拠収集や会社との交渉は弁護士へ

    きちんと証拠をそろえて会社に対して請求をしたとしても、会社によっては、労働者個人の訴えをまともにとりあってくれないこともあります。特に、会社が正確な残業代を支払っていないことを認識している場合には、適当な理由をつけてはぐらかされてしまうこともあるでしょう。
    そのため、会社に対して残業代を請求する際には、弁護士への依頼も検討することをおすすめします。
    弁護士に依頼すれば、複雑な残業代計算から証拠の収集まで、すべて弁護士にサポートさせることができます。また、「証拠に基づいて計算した結果、未払いの残業代が生じている」という場合には、弁護士が労働者の代理人として会社と交渉を行います。弁護士からの請求に対しては、会社としても真摯に対応せざるを得ないといえますので、弁護士に依頼をすることによって早期に解決が可能となるケースも少なくありません
    長時間の時間外労働をしている場合には、残業代計算も非常に複雑になりますので、漏れなく残業代を請求するためにも早めに弁護士に相談をするようにしましょう。

5、まとめ

長時間の時間外労働が行われている場合には、労働者の健康に重大な影響を与えることがあります。長時間労働の抑止につながることもありますので、長時間労働に悩む労働者の方は、労働基準監督署(労基署)などへの相談を積極的に検討してみるとよいでしょう。

ただ、長時間労働を強いられている方の場合、休みも取れないため労基署などへ相談に行く時間を作ることさえ難しい方は少なくありません。また、未払い分の残業代を請求したいと考えても、労基署では相談に乗ってはくれますが、個々の未払い分の残業代を代行して請求してくれるわけではないことに注意が必要です。

長時間労働による未払い残業代請求を検討されているのであれば、労働問題についての知見が豊富な弁護士に相談することにより、あなた個人の状況に適した対応をアドバイスすることが可能です。依頼を受けた弁護士は、あなたの代理人として会社と交渉などを進めます。ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでも、労働問題についての対応経験が豊富な弁護士が対応します。まずはお気軽にご相談ください。

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