交通事故の後遺障害と障害者手帳の関係とは? 後遺障害8級の場合を例に解説

2021年05月11日
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交通事故の後遺障害と障害者手帳の関係とは? 後遺障害8級の場合を例に解説

広島県の発表によると、広島県内では、令和2年では9月末の時点で3,430件の交通事故が発生しました。
コロナ禍による外出自粛などの影響があり、交通事故の件数自体は全国的に減少傾向であるものの、引き続き慎重な運転を心がける必要があるでしょう。

交通事故によるケガが原因で後遺症が生じてしまった場合、「後遺障害等級」と「身体障害者等級」、二つの種類の等級が認定される可能性があります。
両者は混同されがちですが、それぞれ、制度の目的と役割が異なるのです。

それぞれの等級の制度について正しく理解して、適切に認定を受けることが、加害者に請求できる損害賠償の金額や、行政から受けられる公的支援の内容に関わります。

本コラムでは、交通事故により後遺障害8級に該当する程度の後遺症が生じた場合を例にとりながら、後遺障害慰謝料などの請求や障害者手帳との関係などについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、交通事故の後遺障害等級と、身体障害者等級の違いは?

交通事故が原因で後遺症が発生した場合は、「後遺障害等級」と「身体障害者等級」という2種類の等級認定の対象になります。
後遺障害等級と身体障害者等級は、制度の目的や、等級が利用される場面が異なります。同じく後遺症を対象として等級を付ける制度ではありますが、実際には全く異なる性質を持っているのです。

  1. (1)後遺障害等級は、加害者から支払われる損害賠償に関係する

    交通事故の被害者は、示談交渉を行うことで、加害者に対して損害賠償を請求することができます。
    事故により後遺症を負った被害者は、加害者に対し、「後遺症を負ったことによる精神的苦痛への損害賠償」である「後遺障害慰謝料」と、「後遺症により労働能力が喪失したことで失われた、将来に得られるはずであった利益」である「逸失利益」を含めた損害賠償金を請求することができます。
    ただし、これらの項目を請求するためには、原則として、「後遺障害等級」が認定される必要があります
    また、認定された等級が高いほど、請求できる慰謝料や逸失利益の金額も高くなります。

  2. (2)身体障害者等級は、公的な支援制度に関係する

    「身体障害者等級」は、被害者が後遺症により身体に障害を負った場合に、行政から交付される「身体障害者手帳」を通じて受けられる公的なサービスの内容を決定するための等級です。
    より高い身体障害者等級が認定されるほど、被害者が受けられる公的なサービスも手厚いものとなります

2、後遺障害等級の認定基準と認定までの手続きは?

後遺障害等級の認定基準と認定までの流れについて、解説いたします。

  1. (1)後遺障害等級表に従って等級を認定

    後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行規則に定められている「後遺障害別等級表」に従い、後遺障害の種類や程度に応じて認定されます。
    (参考:「後遺障害別等級表」(国土交通省))

    認定された後遺障害等級に応じて、後遺障害慰謝料の額が算出されます。また、逸失利益の金額を算定する際に用いられる「労働能力喪失率」も後遺障害等級に応じて基準が定められています。

    たとえば、後遺障害8級の場合の後遺障害慰謝料および労働能力喪失率は、以下のようになります。

    <後遺障害8級の場合>
    後遺障害慰謝料:830万円
    労働能力喪失率:45%
    • ※後遺障害慰謝料は、いわゆる弁護士基準(裁判例を参考として定められた、被害者が受け取れる損害賠償の金額を算出する基準)による。
    • ※障害の種類や被害者の職業などによって、労働能力喪失率が変動する場合がある。
  2. (2)後遺障害等級認定の申請方法|「事前認定」と「被害者請求」

    交通事故の加害者が加入する自賠責保険会社に対して、医療機関で作成してもらう「後遺障害診断書」などの必要書類を提出することで、後遺障害等級の認定を請求することができます。

    申請の方法には、加害者側の任意保険会社に書類の提出を任せる「事前認定」と、被害者側で書類を準備して提出する「被害者請求」の二種類が存在します。

    事前認定には、被害者側で書類を準備する必要がないため、申請に手間がかからないというメリットがあります。
    一方で、書類を準備する任意保険会社はあくまで加害者側であるため、より高い等級が認定されるように書類の内容を充実させることが期待できないというデメリットがあります

    一方で、被害者請求であれば、被害者側で書類を準備することになるため、後遺障害等級の認定が有利になるように提出する書類の内容を充実させられるというメリットがあるのです。

3、身体障害者等級の認定基準と認定までの手続きは?

身体障害者等級の認定基準と認定までの手続きを、以下のとおり解説いたします。

  1. (1)身体障害者障害程度等級表に従って等級を認定

    身体障害者等級は、身体障害者福祉法施行規則に定められる「身体障害者障害程度等級表」に従って認定されます。

    (参考:「身体障害者障害程度等級表」(厚生労働省))

    後遺障害等級が1級から14級まで存在するのに対して、身体障害者等級は1級から7級までしかありません。
    そのため、障害の種類や程度が同じであっても、後遺障害等級と身体障害者等級とでは異なる等級が認定される可能性があります
    例を挙げると、後遺障害8級に該当する後遺障害の各種について、認定される身体障害者等級は以下のようになっています。

    後遺障害(8級)の内容 身体障害者等級
    一眼が失明し、または一眼の視力が〇・〇二以下になったもの 6級
    脊柱に運動障害を残すもの 5級(体幹の機能に著しい障害がある場合)
    一手のおや指を含み二の手指を失ったものまたはおや指以外の三の手指を失ったもの 4級(①おや指とひとさし指の2指を失った場合、②おや指を除き、ひとさし指を含めた3指を失った場合)
    5級(おや指およびなか指・くすり指・小指のいずれかの計2指を失った場合)
    7級(なか指・くすり指・小指の三指を失った場合)
    一手のおや指を含み三の手指の用を廃したものまたはおや指以外の四の手指の用を廃したもの 4級
    一下肢を5センチメートル以上短縮したもの 4級(10センチメートル以上または健側の長さの10分の1以上短縮した場合)
    5級(4級に該当しない場合)
    一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 4級
    一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 4級
    一上肢に偽関節を残すもの 3級~7級(機能障害の程度による)
    一下肢に偽関節を残すもの 3級~7級(機能障害の程度による)
    一足の足指の全部を失ったもの 7級
  2. (2)市区町村の福祉事務所の窓口で自ら申請

    身体障害者等級の認定は、市区町村の福祉事務所の窓口に行って、被害者が自ら申請します。
    身体障害者等級の認定には、医療機関で作成してもらう「身体障害者診断書」や「意見書」などが必要です

    手続きの詳細については、自治体によって異なる可能性がありますので、実際に申請を行う際には、必要な書類や手続きなどについて、お住まいの市区町村の担当窓口に問い合わせてみてください。

4、後遺障害慰謝料と逸失利益の金額は?

既述のとおり、後遺障害等級が認定された場合には、後遺障害が認められなかったときと比べて、後遺障害慰謝料と逸失利益を加えて請求することができます。
それぞれの請求金額の計算方法について、解説いたします。

  1. (1)後遺障害慰謝料

    一般に慰謝料とは「精神的苦痛に対する損害賠償金」をいいます。
    そのため、後遺障害慰謝料は、後遺障害を負ってしまったことにより被害者に生じた精神的苦痛に対する損害賠償金ということになります。
    後遺障害慰謝料の金額は、認定された後遺障害等級の級数のほか、慰謝料の請求に用いる「基準」によっても左右されます

    後遺障害慰謝料の算出基準は、以下の三種類です。

    • 自賠責基準
    • 任意保険基準
    • 弁護士基準


    このうち、自賠責基準は最低限度の金額となります。
    任意保険基準の金額は保険会社ごとに異なり、金額は公開されていません。しかし、ほとんどの場合で、自賠責基準よりも高額で弁護士基準よりも低額です。
    弁護士基準は、交通事故の損害賠償に関する過去の判例に基づいた基準です。三つの基準のなかでは、最も高額な基準です。
    ただし、弁護士基準で慰謝料を請求するためには、加害者側との示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。

    後遺障害等級が8級の場合、後遺障害慰謝料は、自賠責基準では324万円になります。人保険基準では、400万円程度とされることがあります。しかし、弁護士基準であれば、830万円の慰謝料が請求できるのです

  2. (2)逸失利益

    交通事故により後遺障害を負ってしまうと、身体の機能の一部が失われることによって事故以前と同様に身体を動かすことができなくなったり、認知障害によって事務処理能力が落ちたりしてしまいます。
    これらは、労働能力が低下することを意味し、これによって将来に労働によって得られるはずだった収入が得られなくなってしまいます。
    このように将来労働によって得られるはずであった利益(失われた将来の利益)に対する損害賠償金が、逸失利益です
    逸失利益の計算方法は、以下のよう行います。

    <後遺障害による逸失利益>
    (基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)


    労働能力喪失期間とは、事故の後遺障害によって労働能力が失われる期間のことを指します。限られた後遺障害等級を除いて、具体的には、治療が終了した「症状固定」の日から、一般的に就労可能と考えられている年齢である67歳までの年数が、労働能力喪失期間とされます。

    なお、被害者が67歳間近であったり67歳以上の高齢者であったりする場合は、「症状固定時から67歳までの年数」と「症状固定時における平均余命の2分の1にあたる年数」のうち、いずれか長い方の年数が労働能力喪失期間とされます。

    ライプニッツ係数とは、後から得られるはずだった金額を前倒しでもらえることによって発生する中間利息を控除した数字になります。

    労働能力喪失率は、基本的には、等級ごとに定められています。
    後遺障害8級の場合の労働能力喪失率は45%です。
    ただし、後遺障害の種類や、被害者が事故前に就いていた職業やキャリアプランなどの要素によって、労働能力喪失が変動する場合があります。

5、身体障害者手帳で受けられる公的サービスの内容は?

身体障害者手帳が交付された場合に利用できる、公的な助成制度などについて解説いたします。

  1. (1)医療費助成

    身体障害の症状を緩和するための治療を受けた場合、自立支援医療(更生医療)の制度が適用されて、医療費の自己負担は原則として1割になります。
    また、自治体によっては、さらに医療費の負担を軽減する制度を設定している場合もあります

  2. (2)車いすなどの補装具購入・修理費用助成

    身体障害をサポートするために必要となる補装具の購入や修理については、助成金が給付され、自己負担は原則として1割になります。
    補装具の具体例としては、以下のようなものがあります。

    • 盲人安全杖
    • 補聴器
    • 義肢
    • 車いす
    • 歩行器
    など
  3. (3)各種税金の軽減

    所得税・住民税・自動車税・相続税・贈与税などの各種税金が軽減されます。
    (参考:「障害者と税」(国税庁))

  4. (4)公共料金などの割引措置

    公共交通機関・公共施設などの利用料金、NHKの受信料、携帯料金などが割引になります。

6、交通事故で後遺障害を負ったら弁護士に相談するべき理由

  1. (1)示談交渉を弁護士に代行させられる

    加害者に損害賠償を請求するためには、示談交渉を行う必要があります。
    多くの場合、示談交渉では加害者に代わって加害者が加入する任意保険会社の担当者が交渉を行いますが、任意保険会社の担当者は示談交渉を仕事として行っており、いわば交渉のプロです。そのため、被害者本人が示談交渉の場に立つと、交渉が不利な方向に進んでしまうおそれがあります。したがって、示談交渉は交通事故案件の経験豊富な弁護士に示談交渉を依頼して、代行させることを強くおすすめします

  2. (2)慰謝料を弁護士基準で請求できる

    後遺障害慰謝料や、事故によりケガを負ったことによる精神的苦痛への賠償金である「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」の金額は、自賠責基準や任意保険基準で請求するか弁護士基準で請求するかによって、大幅に変わります。
    弁護士基準で慰謝料を請求するためには、原則として、示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。
    加害者に請求する損害賠償金の項目を増やすためにも、示談交渉は弁護士に依頼すべきであるということがお分かりいただけると思います

  3. (3)適切な後遺障害等級が認定される

    基本的には、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求するためには、後遺障害等級が認定される必要があります。
    症状に応じた適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、事前認定ではなく被害者請求によって認定のポイントを押さえた資料を提出することが重要になるのです。
    弁護士であれば、後遺障害診断書の内容に不備がないか確認を行うことや、等級の認定に有利な書類を作成するために医師と話し合うことができます

7、まとめ

交通事故により後遺障害が生じてしまった場合、加害者の損害賠償請求に関わる「後遺障害等級」と、行政から受けられる公的支援の内容に関わる「身体障害者等級」、二種類の等級認定を受けることになります。

特に後遺障害等級は、認定の可否や認定される級数によって加害者に請求できる損害賠償の金額が大きく変動させられる、重要な制度です。

交通事故の被害にあったら、後遺障害等級の認定や示談交渉について速やかに弁護士に相談することが、被害者にとって最善の利益につながります。
交通事故の被害にあわれた方は、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士にまで、ぜひご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています