会社の金を横領してしまった場合、業務上横領罪で懲役になる可能性は?

2019年06月07日
  • 財産事件
  • 横領罪
  • 懲役
  • 広島
会社の金を横領してしまった場合、業務上横領罪で懲役になる可能性は?

仕事をしていると、出入金や在庫管理など、金品に関わる業務はつきものです。ふと魔が差して、横領をしてしまう人は後を絶ちません。

平成28年における広島県内での横領事件は、認知件数44件、うち検挙に至ったのは30件でした。県下で毎月発生していることから、けっして稀ではない犯罪といえるでしょう。

業務の一環で管理しているお金を私的な目的で使用した場合、業務上横領罪に問われる可能性があります。横領罪の量刑、横領罪に問われた際の対処法を広島オフィスの弁護士が解説します。

1、横領罪の種類と刑

横領罪とは、委託を受けて自己が占有する他人の物(お金や物)を、委託の趣旨に背いて、権限がないのに、所有者しかできないようなことをしたときに成立する罪です。
横領罪は、態様により以下の3種類に分かれており、それぞれ刑の重さが異なります。

  1. (1)横領罪(単純横領罪)

    「横領罪」(刑法第252条)は、自分が委託を受けて占有している他人の所有物を横領した際に適用される罪です。法定刑は「5年以下の懲役」です。選択刑としての罰金刑はありません。
    他の横領罪と区別するため「単純横領罪」とも呼ばれています。

  2. (2)業務上横領罪

    「業務上横領罪」(刑法第253条)は、業務者がその業務の遂行として占有している他人の物を、横領した場合に適用される罪です。法定刑は「10年以下の懲役」です。選択刑としての罰金刑はありません。
    業務に関わる犯罪のため、法人が被害者となるケースもありえます。被害額が高額である場合は、法人として告訴に踏み切ることもあり得るでしょう。

  3. (3)遺失物等横領罪

    「遺失物等横領罪」(刑法第254条)は、占有を離れた他人の物を、横領したときに適用される罪です。他の横領罪と異なり、委託関係は必要ありません。法定刑は「1年以下の懲役」または「10万円以下の罰金」もしくは「科料(かりょう)」とされています。なお、科料とは、1000円以上1万円未満のお金を徴収する刑のことです。
    道路など公共の場に落ちていた金品、海や川の漂流物など、誰の物かわからなくても、それを不当に自分の物にしてしまうと遺失物等横領罪が適用される可能性があります。
    横領罪として分類される犯罪の中で唯一、罰金刑が存在します。このように法定刑が低いのは、極めて誘惑的要素が大きいので、有責性が低いためといわれています。

2、横領が発覚したら、まずは示談

単純横領罪と業務上横領罪の法定刑は懲役のみであり、選択刑としての罰金刑はありません。つまり、もしも起訴されて執行猶予がつかなかった場合は、服役しなければなりません。
ただし、示談を成立させることができれば、逮捕勾留や起訴を回避できる可能性が高くなります。

  1. (1)横領事件における示談成立の重要性

    横領した財産の賠償ができるのであれば、被害者に対して示談を行うことをおすすめします。
    示談とは、当事者同士で話し合い、当事者間の紛争につき、取り決めをすることです。
    通常、加害者が謝罪と賠償を約束し、それを受けて被害者が「罪を許し、処罰を望まない」という意味の「宥恕(ゆうじょ)文言」を明記した示談書を作成することを目指します。示談が成立して、被害届が取り下げられている状況で、捜査機関が積極的に身柄拘束したり、起訴したりする可能性は高くありません。なぜなら、捜査機関は、被害者の意思を重視しているためです。ただし、被害額が非常に大きいなどの場合は、示談が成立していても起訴され、公判で裁かれる可能性があります。

  2. (2)示談が成立しない場合

    もっとも、被害者には、示談を受け入れる義務はありません。
    そのため、横領行為をしたあなたが十分な示談金を払えない、もしくは被害者の処罰感情が強いケースなどでは、当然ながら示談不成立となる可能性が高くなるでしょう。
    この場合も、示談を試みた事実だけでも主張する、示談不成立になった経緯を説明する、供託をする、贖罪寄付をするなど、少しでも刑を軽くするためにできることがいくつかありますので、なるべく早い段階で、弁護士に相談することをおすすめします。

3、逮捕後の流れ

逮捕に至った場合、以下のような流れで事件が進んでいきます。
早期に弁護士を依頼することで、不要な勾留や起訴を防げる場合もありますから、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

  1. (1)警察における捜査

    横領に限らず、刑事事件で逮捕された場合は原則48時間を上限として、警察で身柄を拘束されます。その間、取調べを受ける方が大半です。
    警察に身柄を拘束されている間に、微罪処分とするかを判断されます。
    微罪処分というのは、金額が軽微である等軽微な場合に、警察限りで事件を終了することです(厳密にいうと、微罪処分にした場合も、後で検察庁にまとめて送付し、報告をしているようです。)。

  2. (2)検察における捜査

    微罪処分にならなかった場合、検察に事件が送致されます。
    検察では、①勾留請求をするかどうかや、②起訴するかどうかを判断されます。

    ①について、逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合は、勾留請求されないこともあります。勾留請求されない場合は、検察には24時間までしか拘束されません。釈放されて自宅に帰ることができますが、終局処分がくだるまでは、いわゆる「在宅事件」として捜査が続きます。

    検察官が24時間を超えて身柄拘束を続ける必要があると判断されることがあります。この場合は、裁判所に対し「勾留(こうりゅう)請求」を行います。これが認められると、10日間の身柄拘束が行われます。延長が認められれば、最長で20日もの間、身柄が拘束されることになります。

    検察官は、起訴不起訴の判断をします。不起訴の場合は、釈放されることになります。しかし、起訴されて、公判による裁判を受けることとなった場合、保釈請求が通れば身柄は解放されますが、保釈が認められなければ、留置施設に身柄を拘束されたまま、裁判を受けることになります。

  3. (3)公訴提起・公判

    起訴された場合、裁判所が犯罪の成否や量刑について判断します。
    公開の法廷で公判が開かれますので、この手続きの中で、法律上、自分に有利な事情があれば積極的に主張すべきです。
    自分に有利なことを証言してくれる人がいればその人に証言してもらう、反省文を提出する、事実に間違っているところがあれば主張立証する、示談が未了であれば示談成立に向けた活動をする、など公訴提起後であってもできることはあります。

4、横領事件を弁護士に依頼するメリット

弁護士による弁護活動の開始が早ければ早いほど、将来への影響を最小限にできる可能性が高まります。

  1. (1)迅速な示談成立

    示談成立のタイミングによって、次のようなメリットがあります。
    検察送致前の、逮捕後48時間以内に示談が成立すれば、「微罪処分」で釈放される可能性が高まります。微罪処分として確定したのであれば、刑を科されることはなく、前科もつきません(ただし前歴は残ります)。

    他方、警察から検察に送致された後の示談成立であれば、勾留請求をされなかったり、不起訴となったりする可能性が高まるでしょう。
    横領事件の場合は、被害者と面識があることも多いので、示談交渉の連絡先を入手することは本人にもできるかもしれません。

    しかし、横領で告訴に至る場合には、すでに被害者との関係がこじれており、被害者との示談交渉を冷静に進めることが、困難になっていることも多いものです。
    このような場合も、第三者である弁護士が間に入って交渉を行うことで、冷静に話し合いを進められることがあります。

    また、弁護士に依頼すると、通常、弁護士が示談交渉書面を作成します。そのため、その後の紛争を未然に防ぐ示談交渉書面を作成することができるというメリットもあります。

  2. (2)他の人に会えない場合も弁護士とは面会できる

    勾留中は、接見禁止といって、家族らにも会うことができないという条件が付けられ、家族などにも会えなくなることがあります。そのような場合も、弁護士は、何回でも接見が許されています。そのため、他の人に会えない場合も、弁護士とは面会ができるので、取調べへの対応を相談したりすることができます。また、事案によっては家族への連絡を頼んだりすることもできますが、事案によっては、弁護士から家族への伝言等ができないこともあります。

  3. (3)取調べや裁判に対するサポート

    法律に関する知識がない状態で取り調べを受けていると、予想外のところで、自分の発言が不利になることがあります。
    犯罪事実を認める場合であっても、重すぎる刑罰を科されないためには、弁護士に相談したうえで取調べに対応することをおすすめします。

    また、無罪を主張したり黙秘したりする場合、捜査機関と対立する可能性があります。厳しい取調べになる可能性は否定できず、たったひとりで耐えることは非常に難しいものです。
    その場合、不適切な取調べがあったのであれば、弁護士が抗議文書を捜査機関に提出したりすることにより、適切でない捜査を防ぐための活動をすることも可能です。また、捜査官以外の人に会うことでほっとすることもあるでしょう。このように、心理面からも、弁護人を付けておいた方がよいこともあります。また、弁護士が、こちらに有利なことを述べてくれる証人と連絡を取る、こちらに有利な証拠を提出する等の裁判上必要な手続きをすることも多々あります。

    犯罪事実に記憶はないが、どのように対応したらよいかわからないという場合も、個々の案件ごとに、とるべき方針が異なります。どのように対応すべきか、戦略的に判断すべきですから、弁護士とよく協議して方針を決めるべきです。

5、まとめ

横領罪に限りませんが、刑事事件については、早い段階から弁護活動を開始し、被害者がいる場合には示談を成立させることが非常に重要です。
横領に関わってしまったかもしれないと悩んでいる方は、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスにご相談ください。刑事事件に対応した実績が豊富な弁護士が力になります。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています