盗みをして店員を振り払ったら事後強盗!? 逮捕された場合の対処法とは
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広島県警察の公表する犯罪統計資料によると、平成30年における広島県内での刑法犯認知・検挙件数のうち、強盗として検挙されたのは32件となっています。これは空き巣などの侵入窃盗(684件)や暴行(534件)、脅迫(73件)の件数に比べると少ないように思えます。
刑法上、強盗は非常に重い罪として定められています。ただし、本人が強盗をしたと意識せず、個々の行為としては窃盗や暴行、脅迫であっても、それらを組み合わせると強盗の罪に問われることがあることをご存じでしょうか。
本コラムは、事後強盗罪について、犯罪の内容や刑罰を、広島オフィスの弁護士が解説します。
1、事後強盗とは
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(1)事後強盗について
一般に、物をこっそり盗んだ場合は窃盗(刑法第235条)となり、物を奪い取るなど無理やり盗んだ場合は強盗(刑法第236条)となります。暴力をふるったり凶器で脅したりして強引に物を盗むのは、財産にも身体にも被害が生じかねない非常に危険な行為です。そのため、窃盗よりも強盗のほうが罪は重く定められています。
ただ、盗んだ時点では単なる窃盗だったのに、途中で犯行が見つかって呼び止められ、あるいは引き止められることもあります。このとき、盗んだ物が取り返されたり逮捕されたりするのを防ぐために追っ手を暴行・脅迫したら、最初から無理やり盗んだのと大差ないと考えられます。
そこで刑法では、窃盗犯が盗品の取り返しや逮捕されるのを防ぎ、または犯罪を隠すために暴行や脅迫をした場合には、強盗として扱うとしています。これを事後強盗と呼び、刑法第238条で以下のとおり定められています。
「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」 -
(2)事後強盗罪に問われる場合とは
事後強盗罪が成立するには、いくつかのポイントがあります。
・ 事後強盗の要件① 事後強盗か否か
まず、事後強盗にみなされる前提としては、条文どおり、主体が窃盗犯である必要があります。では、「物を盗みかけだったが盗んでいなかった場合」はどうなるのか気になるかもしれません。その答えもまた、刑法上にあります。第243条において、事後強盗罪の未遂は罰すると明言されているのです。したがって、窃盗の実行の着手、つまり物が盗まれるという現実的な危険性の発生した状態があった末に、相手に暴力をふるってしまえば、事後強盗罪は成立し得ると考えられます。
・ 事後強盗の要件② 暴行・脅迫の内容と程度
次に、事後強盗にあたる暴行・脅迫の内容や程度が気になるかもしれません。暴行・脅迫の内容としては、暴行は、身体に向けられた不法な有形力の行使をいい、脅迫は害悪の告知をいいます。
程度については、いずれの場合も「反抗を抑圧するに足りる」程度であることを要すると考えられます。簡単にいえば、通常人の観点からしても逆らうことができない程度ということです。
・ 事後強盗の要件③ 暴行・脅迫の被害者
さらに、暴行・脅迫をした相手方が、通りがかりの人物である可能性もあるでしょう。たとえば、逃亡しようとした先にたまたま立っていた人物を突き飛ばしてしまったケースなどが考えられます。また、盗品の取り返しや逮捕を防ぐ、あるいは罪証隠滅をするとの目的があり、目撃者に対して暴行・脅迫を行うケースがあるかもしれません。
したがって、事後強盗に該当する要件として問われる暴行・窃盗をした相手は、被害者だけに限られないといえます。警備員や通りすがりの目撃者相手でも事後強盗罪の要件は満たします。
加えて、事後強盗罪での暴行・脅迫は、窃盗の機会になされた行為である必要があります。盗みをしてから逃げ切って、後日に暴行や脅迫を行ったとしても、「事後」の強盗とは評価できないため、事後強盗罪にはならないのです。
このように多くの要件を満たしていなければ、重い事後「強盗」の罪としては裁かれません。
2、事後強盗罪の刑罰
事後強盗にあたると警察や検察に判断され、起訴されて有罪になると、どのくらいの刑罰が科されるのでしょうか。
事後強盗罪は刑法第238条に定められていますが、この条文には「強盗として論ずる」と書かれています。これは、強盗罪と同じ刑罰を科すという趣旨です。そこで強盗罪(第236条)を見ると、「5年以上の有期懲役に処する」とあります。
窃盗罪などのように「○年以下の懲役」と書かれている場合は最短で1か月ですが、事後強盗罪なら、酌量減刑などの例外を除けば、有罪になった時点で最低でも5年の懲役刑が科されるということです。また、罰金刑の定めもないため、罰金で済むという可能性もありません。
事後強盗と判断されることの厳しさは、こうした点にあるのです。
3、逮捕されたあとの流れ
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(1)事後強盗と逮捕
逮捕には、犯行現場での「現行犯逮捕」と、逮捕状が発行されて犯行後日逮捕される「通常逮捕」とがあります。物を盗んだあとに逮捕を免れようとして暴行・脅迫したものの、結局目撃者や店員などに取り押さえられれば現行犯逮捕となります。なお、逃走に失敗しても事後強盗罪は成立します。
また、監視カメラの映像や目撃証言などが証拠となり、あとから通常逮捕されることもあります。 -
(2)逮捕されたあとの取り調べ
逮捕されると、48時間を上限として警察での取り調べが始まります。誤認逮捕だったなどの例外を除いて検察に送られます。これを送致と呼びます。
検察での取り調べは24時間以内に起訴・不起訴の判断をする目的で行われます。しかし、事後強盗罪のような重大犯罪では、検察も入念に調べるため、制限時間以内に取り調べが終了しない可能性が高いでしょう。この場合、1回につき10日間が上限で身柄拘束が延長されます。これを「勾留」と呼び、1度の延長が認められると最長で20日間も勾留され続けることになります。勾留中は基本的に留置場で暮らすこととなり、スケジュールや食事などにさまざまな制限が加えられます。もちろん勾留中は、帰宅したり仕事に行ったりすることはできません。
その後、不起訴となれば釈放されますが、起訴されると刑事裁判が行われて有罪か否かが争われます。有罪となれば、事後強盗罪で有罪になった場合、情状酌量などで減刑されて執行猶予がつかない限り刑務所に入ることになるでしょう。
4、事後強盗罪における示談の難しさ
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(1)示談の重要性
示談とは、被害者と話し合って事件を解決することを指します。いわゆる和解の一種です。
刑事事件における示談では、加害者側が反省を示すとともに受けた損害を賠償することによって、被害者に許してもらうことを目指すことになります。なぜなら、検察や警察、裁判所は、被害者の処罰感情を非常に重視するためです。具体的には、すでに賠償を受けた被害者が「許してあげていいですよ」という意思(宥恕意思)を示していると、検察官が不起訴処分をしたり裁判官が刑罰を軽くしたりする可能性を高めることができるでしょう。 -
(2)事後強盗罪の示談の困難さ
ところが、事後強盗罪は示談が難しいとされています。そもそも強盗自体が暴行・脅迫を伴うため、被害者に強度の恐怖心を植え付ける性質を持つ犯罪であるのに加え、事後強盗は逃げるために暴行・脅迫を行うので、反省の姿勢を信じてもらいにくいためです。
もし被害者と示談交渉を行いたいのなら、刑事事件に伴う示談交渉に対応した経験が豊富な弁護士による協力が非常に重要と言えるでしょう。
5、まとめ
今回は事後強盗罪が成立する条件や刑罰、逮捕されたあとの流れについて解説しました。強盗罪は類型的に財産と身体の双方へ被害を及ぼすことから、刑罰も非常に重く定められています。しかし、事後強盗罪は「結果的に強盗を働いてしまう」という行為の性質上、軽微な窃盗で済むはずの罪が強盗として処罰されるといったおそれの大きい犯罪といえます。
もしご自身やご家族が事後強盗罪に問われている、もしくは逮捕される心配があるのであれば、なるべく早くベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士までご相談ください。被害者との示談をはじめ、重すぎる罪が科されないようさまざまなサポートを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています