「介護施設で親が骨折した…」介護事故の損害賠償を請求する方法を解説

2019年10月28日
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「介護施設で親が骨折した…」介護事故の損害賠償を請求する方法を解説

高齢化の進展によって介護施設を利用する方も多くなってきています。しかし、一方で利用者が増えたことによって介護職員による暴力事件や介護施設内での事故というのもニュースで目にするようになりました。

広島県内の介護保険施設数は357施設で、定員は2万3764人となっています(平成30年年4月1日時点)。ご家族の方で利用している、あるいは、これから利用を考えているという方も多いと思いますが、施設内でのケガや虐待があった場合、どうすればよいのか不安という声も聞かれます。

そこで、今回は、介護施設に入り事故に遭った場合、どのような請求ができるのかについてベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、介護現場で起こりやすい事故とは

事故には、「人身事故」と「物損事故」があります。交通事故をイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、ケガなどをした場合が「人身事故」、物を壊した場合が「物損事故」です。介護施設での人身事故としては、転倒による打撲や骨折などがあります。物損事故としては、介護職員が介護する際に物を壊してしまうということがあります。

公益財団法人介護労働安定センターの報告書(平成30年3月)によると、入所サービスの事故の内92.2%は人身事故となっています。事故状況の分類を見ると、77.9%が転倒・転落・滑落で、次いで、紛失・破損が7.8%、誤嚥(ごえん)・誤飲・むせこみが2.7%となっています。

傷病状況の分類を見ると、骨折が63.5%、打撲が7.8%、あざ・腫れ・擦傷・裂傷が7.4%、死亡が2.3%となっています。転倒した際の内容を見ると、室内移動中が22.4%、他の利用者を介助中が15.9%、見守り中が12.9%となっています。

人身事故だけで見ると、転倒・転落・滑落が84.5%、誤嚥・誤飲・むせこみが2.9%となっているので、この2つが介護現場でおこりやすい事故と言えます。

2、介護施設に損害賠償の支払いが争われた裁判例

実際、介護施設でおきた事故で裁判となった事例を紹介します。主に過失が争点となっており、その点についてご紹介します。

  1. (1)損害賠償請求事件(高知地方裁判所平成28年(ワ)第228号)平成30年2月6日判決

    【事件の概要】
    被告が経営する特別養護老人ホームにおいて、ショートステイのサービスの提供を受けていた被害者が本件施設内のトイレで転倒し、その頭部を強打する等して急性硬膜下血腫及び脳挫傷の傷害を負ったことにより、被害者に左片麻痺等の後遺障害が残存した事故について、民法715条に基づく損害賠償請求を求めた事案である。

    【裁判所の判断】
    介護施設においては、その運営者に当該施設の利用者の身体の安全を確保する義務があると解され、このことは本件施設においても異ならない。本件事故は、被告職員が、特に早朝に被害者を一人で行動させた場合には、転倒等の危険性が高いことを予見可能であり、付添介助を行う等の同人の身体の安全を確保する義務があったにもかかわらず、これを怠り、漫然と同人を一人で行動させたことによって生じたものと認められる。

    したがって、本件事故について、被告職員に過失があると認められる。本件事故に関する被告職員の過失が認められることからすると、その過失の内容・性質に鑑み、これが被告の事業の執行につき生じたものであることも明らかである。

    【解説】
    本件は、被害者自ら転倒した事故について、介護施設の職員の過失が争点となりました。裁判所は、介護施設においては、利用者の身体の安全を確保する義務があるとし、転倒の危険があることは予見でき、付き添え介助でそれを回避できるのに、それを怠ったとして施設に対して過失があると判断しました。この裁判例から、想定できないような行為によりケガをしたような場合でない限り、介護施設でのケガは介護職員の過失と認定される可能性が高いと考えられます。

  2. (2)損害賠償請求事件(大阪地方裁判所平成26年(ワ)第7324号)平成29年2月2日判決

    【事件の概要】
    被害者が、被告が運営する特別養護老人ホームに入所していた際に転倒して頭部を負傷したところ、被害者の相続人である原告らが、本件事故が発生した原因は被告が転倒防止措置を講じておらず被害者に対する安全配慮義務に違反したことにある等と主張して、被告に対し債務不履行又は民法715条所定の使用者責任に基づく損害賠償求めた事案である。

    【裁判所の判断】
    本件契約は、要介護認定を受けた高齢者が本件施設に入居した上で、被告から介護サービスの提供を受けることを目的とするものであるから、被告は介護事業者として、その能力に応じて具体的に予見することが可能な危険からその生命及び健康等を保護するよう配慮すべき義務を負うというべきである。

    被告は、本件事故当時、被害者がナースコールをせずに一人でトイレに行こうする可能性があること、その際に転倒して頭部に傷害を負う可能性があることを具体的に予見することができたと認められる。さらに、被告は、前記可能性が相当に高いものであると予見することができたと認めるのが相当である。

    被告が離床センサーを設置しなかったことは結果回避義務の違反に当たると認めるのが相当である。被告が、被害者が一人でトイレに行こうとして転倒する危険があることを予見していたにもかかわらず、離床センサーを設置するという結果回避義務を怠ったことは、本件契約に基づく被害者に対する安全配慮義務に違反したものと認められ、被告は、被害者に対して債務不履行責任を負う。

    【解説】
    (1)と同様、施設に安全配慮義務があることを前提に、予見可能性と結果回避義務が争点となりました。結果的に、裁判所は予見可能性も結果回避義務も認めました。介護施設でケガがあった場合の争点としては、ほぼこの枠組みで判断されるものと思われます。

3、介護事故で損害賠償請求をするための準備

損害賠償(慰謝料を含む)を請求する場合、事実関係を明らかにしなければなりません。相手が介護施設ということになると、施設の協力は得られにくくなるので、すみやかな証拠収集が大事になります。

被害者が話せる場合には、被害者から被害の状況を聞き、いつ、どこで、どのようなことが起こったかを記録に残すようにしましょう。日にちが経過するほど記憶はあいまいになるので、事故後すみやかに聞くことが望まれます。また、同時に被害の状態を客観的に記録する必要があります。外傷がある場合には写真を撮ったり、病院で診断書をもらったりしてください。

被害者の家族などが事故の現場を直接見ているということはあまりないので、目撃者を探し、目撃者からの証言を録音するなど記録しておきます。実際には、目撃者を探すことは大変です。また、裁判になった場合に証言してくれるかどうかも重要になります。

それらを踏まえ、施設の責任者に事故の経緯や原因について説明をしてもらいます。介護記録の開示を求めると共に、ヒアリングを録音しておくことをおすすめします。介護施設の場合、賠償責任保険に加入していることが多いので、介護施設に保険の加入の状況について確認をしておくとよいでしょう。

介護施設の内部の情報だけでは不足の場合、市町村への事故報告、介護保険認定調査票、救急活動記録、医療機関の診療記録などを開示請求しておきます。

準備が整ったら、介護施設を相手に損害賠償を請求していくということになります。

4、介護事故で損害賠償を考えるなら弁護士に依頼すべき理由

前の章で事実関係の確認をすることついて説明しましたが、これを個人で行うことは結構大変なことです。特に、損害賠償を請求するとなると介護施設も構えるので、協力を得ることは難しくなります。

この点、弁護士からの調査依頼であれば、介護施設もむやみに断りづらくなるため、調査に協力してくれる可能性があります。仮に、調査に協力せず、資料を改ざんされる可能性があるような場合には、証拠保全手続を行うことにより、強制的に証拠を差し押さえることも可能です。

最近は、介護施設での事故も多いことから、介護施設側に顧問弁護士が付いていることもあります。損害賠償請求を行う場合、争点となるのは、①過失の有無、②損害額、③過失割合などですが、個人が弁護士を相手にこれらの内容を争うのは非常に難しいと言えます。

損害賠償請求をした場合に、相手が請求額全額をすぐに支払うということはまずありません。過失を認めたとしても、損害額や過失割合で争ってきます。そのため、早期に解決するためには、一定の妥協点を考え、和解をするのが得策です。その点でも弁護士を依頼しておくことで、証拠の収集、事実関係の整理、過失の有無の検討など全て任せることができるので、迅速に交渉を進めることができます。合意ができる場合には、正確な合意書を作成し、確実に損害賠償の支払いをしてもらうと共に、後日紛争とならないようにすることができます。

合意ができない場合、裁判ということになりますが、弁護士に依頼しておけば、すぐに訴えを提起することができます。裁判となると1年から2年はかかり、準備書面の作成や証拠の提出などが必要になりますが、弁護士に依頼していれば全て弁護士が行います。

裁判の審理の途中で裁判所から和解を勧められ、和解により終結という場合もありますが、そうでない場合には判決ということになります。判決の言い渡しから2週間が経過すると判決は確定しますが、判決の内容に不服がある場合には控訴となるので、裁判はさらに続くことになります。

このように、損害賠償請求をする場合、専門的で時間も長くかかるものなので、精神的な負担軽減も含めて弁護士を活用するメリットがあると言えます。

5、まとめ

今回は、介護施設で親が骨折した場合、損害賠償はできるかというテーマで解説してきました。介護施設には安全配慮義務というものがあり、介護職員が予見でき、それを回避することができる場合には、施設側に過失が認められます。

骨折の原因が職員によるものであればもちろん、自ら転倒という場合でも、状態によっては施設側に過失が認められる場合がありますので、ご自身のケースでどのように対応したらよいか悩まれる場合、まずはベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください。弁護士がお話を伺い、解決に向けて尽力いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています