他人からの預かり物を勝手に処分したら損害賠償請求される?

2020年04月24日
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他人からの預かり物を勝手に処分したら損害賠償請求される?

知り合いに「物を預かってほしい」と言われて預かったものの、その後、疎遠になり、「預かった物をどうしていいかわからない」という経験をしたことのある方もいるのではないでしょうか。

預かった物は、他人の物なので、勝手に処分することはできないのが原則です。では、相手の了解なく処分してしまった場合、どのような展開が待ち受けているのでしょうか。また、損害賠償請求などされたりするのでしょうか。

今回は、意外にやっかいな「預かり物」の管理に関する法律問題についてベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。

1、寄託契約とは

物を預かるという行為は、法律上「寄託契約(きたくけいやく)」ということになります。物を預けた人を「寄託者(きたくしゃ)」といい、預かった人のことは「受寄者(じゅきしゃ)」といいます。

現行民法では、「要物契約(ようぶつけいやく)」ですが、改正民法では「諾成契約(だくせいけいやく)」になります。要物契約というのは、物の引き渡しが契約の成立要件になっているものです。諾成契約というのは当事者の合意だけで契約が成立するものです。実務的に寄託も諾成的な契約がなされてきたことから法律が改正されました。

寄託契約には、有償のものと無償のものがあり、有償か無償かで法律関係が異なります。寄託契約で、受寄者は預かった物を注意して保管しなければなりませんが、有償と無償とで注意の程度が異なります。

有償の場合は「善良な管理者としての注意」で保管しなければなりません。他方、無償の場合は「自己の財産に対するのと同一の注意」で保管すれば足ります。善良なる管理者としての注意というのは、その業態における一般的なプロとしての水準での注意で扱うということです。たとえば、ホテルのクロークでお客さまが物を預けた場合、一般的なホテルでなされているレベルの保管サービスが求められるということです。

自己の財産に対するのと同一の注意というのは、自分の物と同じように扱うということなので、普通に保管していればいいということです。ただ、預かり物は、他人の所有物なので、承諾なく勝手に使ったり、他人に保管させたりすることはできません。また、受寄者が死亡すると相続によりその義務は相続人に引き継がれます。

預かり物を返還する時期については、①期間の定めがあるときは、受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返還することができません。他方、寄託者は期間の定めにかかわらずいつでも返還を請求することができます。②期間の定めのない場合には、受寄者はいつでも返還することができます。

2、預かっている荷物はどうすればいい?

期間の定めがあってその期間が満了した場合や期間の定めがなく受寄者が寄託者に返還したいという場合、寄託者がすんなり受け取ってくれれば何の問題もありません。問題になるのは、寄託者が所在不明であったり、寄託者の相続人などが返還を拒否したりしているような場合です。

  1. (1)処分することはできるか?

    寄託契約がある場合、預かり物は寄託者の所有物なので、受寄者が勝手に預かり物を処分してしまうことは許されません。日本は法治国家なので、自力救済が禁じられているからです。必ず、法的手続きを取る必要があります。

  2. (2)寄託者の住所がわかっている場合

    寄託者の住所がわかっている場合、まずは内容証明郵便を送付して預かり物を引き取るよう催告することになります。これをすることにより、受寄者から返還の申し出があった事実が証拠として残こすことができます。

    内容証明郵便を送付して受寄者が預かっている物を返したいと催告しても応じてもらえない場合は、預かり物を送り返し、送付にかかった費用を請求するということもできます。その他、預かり物の保管に費用が発生している場合には、その費用も請求することができます。

  3. (3)寄託者の住所がわかっていない場合

    住所がわからない場合、内容証明郵便を送付したり預かり物を送り返したりすることはできないので、別の手段をとる必要があります。そのひとつが「公示送達」です。公示送達とは、相手方の所在が不明で意思表示ができないような場合に、裁判所に申し立てをすることで、裁判所の掲示板に通知書を掲示し、法律上意思表示を到達したことにしてしまう制度です。

    公示送達をすることにより、意思表示することができるので、まずは引き取りについて催告し、保管料が発生している場合にはその費用を請求します。一定の期間が経過しても連絡がない場合(通常は掲示板を誰も見ないので連絡はありません)、寄託契約を解除する旨の意思表示をすることになります。

    その上で、保管料請求について裁判を起こすことになります。公示送達しているため、基本的には被告は反論してこないので、訴えた側である原告の主張がそのまま認められる判決がなされます。勝訴判決が得られれば、それを根拠に預かり物を差し押さえ、競売にかけて換価し、保管料などと相殺することになります。

3、預かっている物に料金がかかっている場合

預かり物が小さい物であれば、自宅などで保管すればいいので、費用が発生することはないと思いますが、自動車を預かっている場合や自宅に入らないような大きな物を預かっている場合には、駐車場代や倉庫代が発生することもあります。

このように受寄者が第三者に費用を支払っているような場合には、受寄者は寄託者に費用の償還を請求することができます。これは、寄託契約が有償であろうと無償であろうと変わりありません。

寄託契約は委任の規定を準用するので、必要な費用を支出したときは、寄託者に対してその費用と、支出の日以後の利息の償還を請求することができます。なお、改正民法では、費用償還請求については1年以内という制限がついています。

請求できる期間が短いので、費用償還請求をする場合には、寄託者に請求をしてすぐに支払われないような場合には、訴えを提起する必要があります。

訴えを提起するにあたっては、訴える側が原則として主張・立証をしなければなりません。そのため、費用償還請求をする場合には、契約が成立した事実、費用が発生し、その費用を原告が負担した事実について主張・立証しなければなりません。そのため、具体的な証拠を集める必要があります。

具体的には、寄託契約についての契約書やメールの内容、費用を支払った領収書などです。なお、裁判となると法律の知識がない場合には個人で行うことは難しいので、弁護士に依頼することになります。

4、寄託者や受託者が亡くなっている場合

  1. (1)寄託者が亡くなっている場合

    寄託者が亡くなっている場合には、寄託者の相続人がその地位を引き継ぎます。したがって、寄託契約が期間の定めのあるものであれば、それまでの間、物を預かってもらうことができます。

    もちろん、寄託者はいつでも預かり物について返還請求することができますので、寄託者の相続人が預かり物を使いたいというような場合には、受寄者に連絡して預かり物を返還してもらうことができます。

    なお、預かり物に関し費用償還請求がある場合には、寄託者の相続人がそれを支払う義務も相続することになるので、その点は注意が必要です。

  2. (2)受託者が亡くなっている場合

    受託者が亡くなっても、受託者の相続人が受託者の地位を引き継ぎます。そのため、物を預かるという義務は受託者の相続人がその後も担うことになります。受託者が亡くなったのだから物を返還したいと思っても、期間の定めがある場合にはできません。

    他方、期間の定めがない場合には、受寄者はいつでも預かり物を返還できるので、受託者の相続人が預かり物を返還したいと考える場合には、預かり物を返還することができます。

    なお、預かり物に関し費用償還請求がある場合には、受寄者の相続人は寄託者に対して請求する権利も相続することになります。改正民法では、費用償還請求は1年間しか請求できないことから、すみやかに請求する必要があります。

5、お困りの場合は弁護士へ相談

私人間における寄託契約は、物を預けるという性質上、信頼関係があることが前提になっています。そのため、通常、寄託者と受託者は密接な関係があることが一般的です。寄託契約において問題になるのは、その密接な関係が崩れた場合や、当事者が死亡して相続人が地位を引き継いだためその関係が希薄になってしまったような場合です。

まず、受託者と寄託者の関係が疎遠になってしまったように、連絡を取り合うような仲でなくなった場合、物の管理いついて話し合うことも難しくなります。特に、「口も聞きたくない」という関係になってしまった場合、膠着(こうちゃく)状態になってしまいます。

また、当事者が死亡して相続人が地位を引き継いだような場合も相手と面識がない場合もあり、やはり連絡が取りづらいということもあります。

その他、費用償還請求というようにお金が絡む問題の場合、たとえ当事者の関係が良好だったとしても話がこじれることもあります。

このような懸念がある場合には迷わず弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、必要な手続きを確実に進めることができ、また、相手も弁護士からの連絡であれば、真剣に話を聞いてくれます。

6、まとめ

今回は、物を預かった場合の法律関係について解説してきました。物を預かるという行為は日常的に行われることであり、誰でも経験があることだと思います。しかし、連絡が取れなくなるなど、不測の事態が生じることもあります。

そのような場合に、預かっている物を勝手に廃棄することは許されないため、適切な手続きを取る必要があります。何かと複雑な法的な処理については、弁護に相談するのが一番です。

ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、民事手続きの経験豊富な弁護士がおりますので、預かり物に関してお困りのことがありましたらどうぞお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています