念書の法的効力とは? 契約書や覚書との違い
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社会の中で生きていくうえで、他人との約束ごとは欠かせません。約束ごとを法的にいうと「契約」といいます。もし相手方が約束した事項を破り、当事者間での話し合いで解決しないような場合は裁判で争うことになります。広島県では、広島地方裁判所および支部、簡易裁判所などで審理されることになるでしょう。
このような場合、「念書」など約束ごとの内容を事前に明記した書類の存在が裁判の結果を左右することになります。約束ごとつまり契約をするとき、相手方から念書などの書類を得ておくことは、後々のトラブルが発生したときに自身の権利を守るうえでとても重要なのです。
そこで本コラムでは、念書の性質や契約書などの類似した書類との違い、そして念書が持つ法的効力について、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、念書とは?
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(1)念書とは?
念書は当事者の一方だけが義務を負担するような場合に利用されることが多く、当事者(債務者)からもう一方の当事者(債権者)に対して差し入れる形式が一般的です。念書の差し入れは、債務者としての当事者の意思を明確にしておく意味があり、そのため念書には差し入れた債務者の記名・押印しかありません。
なお、債務者がその負担義務について意思を明確にしているものであれば、「誓約書」や「借用書」、「確約書」なども念書のひとつといえるでしょう。念書の基本的なポイントは、「当事者の一方が相手方に差し入れる形式のもの」なのです。 -
(2)念書が必要と考えられるケースとは?
たとえば、二者間でお金を貸し借りする契約を考えてみましょう。お金を貸し借りすることを、民法では「消費貸借契約」といいます。民法第587条では、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と規定しています。つまり、お金を貸し借りすることについて民法では念書など書類の作成や差し入れは義務付けられておらず、口約束でも有効に成立するのです。
実際に、親族間や親しい友人どうしでお金を貸し借りするとき、何も念書などの書類を作成しないことは珍しくないと考えられます。
しかし、もしお金を借りた当事者からの返済が滞ったときに、何も書類がないとお金を貸した・借りていないなどの水掛け論になってしまう可能性があります。このようなトラブルを少しでも防ぐために、お金の消費貸借契約が発生したときに返済について規定した念書などの書類を作成しておくことは有効なのです。
2、契約書や覚書との違い
念書や契約書、覚書は、混同しやすいものです。以下で契約書と覚書の性質を踏まえながら、念書との違いについてご説明します。
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(1)契約書
念書と契約書の大きな違いは、念書が当事者の一方が記名・押印して相手方に差し入れる形式のものであることに対して、契約書は「当事者双方が記名・押印していること」です。つまり、当事者一方の意思を示す念書と異なり、契約書は当事者双方の意思が合意に至っていることを証明する書類として作成されます。
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(2)覚書
覚書も契約書と同様に、当事者全員が記名・押印し、当事者全員の意思が合意に至っていることを証明する書類として作成される書類です。
覚書は、基本となる契約書がすでに存在しており、これを補完するような合意事項を取り決める場合や正式な契約を締結する前に合意に至った事項を念のために表面化しておく場合に使用われるケースが多いといえます。
3、念書に印紙は必要?
契約の内容が以下の3つに該当する場合、印紙法第3条の規定により契約の内容に定められた収入印紙を貼付しなければなりません。
- 印紙税法別表第一(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されていること
- 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
- 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと
では、契約書とのタイトルが付されていない念書であれば、内容によらず収入印紙貼付が不要かといえば、そういうことはありません。
契約の内容を証する書面には、契約書や念書にかぎらずさまざまなものがあります。しかし、実際はタイトルによらず、その内容が当事者間の約束ごとを記載したもので、かつ後述する法的拘束力を持つものであれば、念書は広義の契約書なのです。
したがって、タイトルが念書かつ当事者の一方が記名・押印して相手方に差し入れる形式のものであっても、その内容が印紙法第3条の規定に該当するものであれば収入印紙の貼付が必要です。タイトルや形式ではなく、約束ごとの中身が重要なのです。
4、念書の法的効力とは?
民法第415条では、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる旨、規定しています。「債務者がその債務の本旨に従った履行をしない」とは、債務者が念書などで約束した内容を守らないことをいいます。債務者による契約不履行には、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つの類型があります。
契約不履行とは、債権者に対して債務者が契約で定められた債務を履行しないことです。たとえばお金を貸し借りする念書を作成した後、相手方がお金を返済しない場合、これにより生じた損害について、債権者は債務者に対して賠償することを請求する権利を有し、債務者は賠償する義務を負うのです。
しかし、念書に基づいて直ちに相手方の不動産や金融資産などを強制的に差し押さえ、それにより債務者から賠償を受けることはできません。この場合、訴訟を提起して勝訴判決を得たうえで、強制執行をすることになります。このとき、念書は訴訟において有力な証拠となり得ます。
なお、もし債務者が合意した事項を守らないとき、直ちに強制執行をしたい場合は、念書ではなく債務者の契約不履行時に債権者が強制執行できるとする内容の公正証書を作成しておくことが必要です。
5、念書を作成するときの注意点
念書に記載すべき事項について、法的に定められた要件はありません。しかし、念書を作成するときは約束ごとを余すところなく記載しておくことが必要です。念書に記載しておくべきと考えられる事項は、以下のとおりです。
- 債権者と債務者の氏名と住所
- 具体的な債権と債務の内容
- 債務を履行する年月日、および履行する場所
- 債務を履行する方法、および手段
- 念書の作成日
- 債務者の記名および押印
たとえば、お金の貸し借りに関する念書については、「〇月〇日に〇さんから借り入れた〇万円については、〇年〇月〇日までに現金または小切手により返済します。」という記載例が考えられます。
なお、念書は約束ごとの当事者の一人が一方的に差し入れているという性質がある分、念書だけを根拠として相手方の債務不履行につき訴訟を提起することは難しい場合があるかもしれません。特に、契約書を作成している場合において契約書と念書の内容に矛盾や齟齬(そご)があると、かえってトラブルが複雑化する可能性があります。念書を作成するときは、その主張が正当性を持っていること、さらに根拠となる契約書があるときは、その内容と齟齬(そご)などがないようにすることに留意してください。
6、まとめ
後々の不利益やトラブルが生じないような念書を作成しようと思うときは、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、契約の内容を十分に理解したうえでトラブルを未然に防ぐ念書を作ることはもちろんのこと万一、相手方とトラブルが発生した場合にも解決に向けて交渉や裁判において代理人として弁護活動を行います。
ベリーベスト法律事務所 広島オフィスでは、念書の作成方法やトラブル発生時の対応についてご相談を承っております。念書の作成についてお悩みがあるときはぜひ弁護士までお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています