ねずみ講は犯罪か? マルチ商法との違いや巻き込まれたときの対処法
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もし、友人や知人から「もうかるビジネスがあるから一緒にやらないか」などと誘われたときには、安易に誘いに乗るのではなく、どのようなビジネスなのかをしっかりと見極めた上で返事をすることが大切です。
万が一、そのビジネスが「ねずみ講」であった場合には、違法な取引に加担したものとみなされ、刑事罰が科されるおそれもあるためです。
本コラムでは、ねずみ講の概要やマルチ商法などの違いや、ねずみ講に巻き込まれた場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、ねずみ講は犯罪か? マルチ商法との違い
まず、ねずみ講というビジネスの概要や、マルチ商法との違いなどについて解説します。
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(1)ねずみ講とは
ねずみ講とは、加入者が下位の会員をねずみ算的に増やしていくことによって、加入金以上の利益を得ることを内容とするシステムのことです。
ねずみ講は、無限連鎖講の防止に関する法律(以下「無限連鎖防止法」といいます。)で「無限連鎖講」にあたるとして禁止されています。
ねずみ講では、先に加入した人が2人以上の人を勧誘し、さらにこの2人以上の人が同じく2人以上ずつの人を勧誘して組織に加入させていきます。このように順次同様の方法によって加入者を無限に拡大させていきます(これが「ねずみ算」と表現されます)。先に加入した人は加入する際に入会金を支払いますが、後に加入した人、つまりねずみ算的に増えた加入者らから入会金の一部を受け取ることができるため、その加入者が複数いれば、自分が支払った入会金以上のお金を取得することができます。
このようにねずみ講では、自分の勧誘による加入者が増えれば増えるほどもうかる仕組みになっており、倍々ゲームの要領で会員が増えていくことになります。
組織が成立した当初は、ねずみ算が破綻せずに、うまく回る可能性もあります。
しかし、加入者が無限に増加していくということはあり得ないため、最終的には必ず加入者の増加が行き詰まり破綻することになります。 -
(2)ねずみ講とマルチ商法との違い
マルチ商法とは、商品等の販売組織が拡大することによって利益が得られることを誘い文句にして、会員を増やし、商品等を販売するシステムをいいます。
ネットワークビジネスやマルチレベルマーケティング(MLM)とも呼ばれます。
マルチ商法は、特的商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)で連鎖販売取引として規制がなされています。
ねずみ講もマルチ商法も「加入者が次々と新たな加入者を増やしていくことによって、利益を得ていく」という点では共通します。ただし、ねずみ講では、下位の加入者の入会金等を上位の加入者に分配することを主目的としているのに対して、マルチ商法では、加入者が商品を販売するなどして売り上げを得ることを主目的としているという違いがあります。
端的に言えば、「加入者が商品を販売することを主目的としているかどうか」が、ねずみ講とマルチ商法の違いとなるのです。 -
(3)ねずみ講は犯罪になるのか?
ねずみ講は、勧誘するだけでお金を得ることができるという手軽な仕組みであることからまん延しやすい性質があるうえに、加入者の入会金等を当てにしているにもかかわらず加入者が無限に増加することはないため最終的には必ず破綻するという欠点が存在します。したがって、加入者に大きな経済的損失を与えるおそれの強い、反社会的なビジネスといえます。
そのため、ねずみ講は「無限連鎖防止法」によって禁止されています。
以下のような行為をした場合には、犯罪として処罰の対象となるのです。- 無限連鎖講を開設または運営:3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金またはこれらの併科
- 業として無限連鎖講に加入することを勧誘:1年以下の懲役または30万円以下の罰金
- 無限連鎖講に加入することを勧誘:20万円以下の罰金
ねずみ講と知らずに加入してしまったとしても、それだけで罪になるわけではありません。しかし、ねずみ講の加入者として他の人を勧誘してしまった場合には、犯罪として処罰の対象となってしまいます。
2、ねずみ講の実際の摘発事例
以下では、ねずみ講として摘発された実際の事例について紹介します。
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(1)天下一家の会事件
天下一家の会事件とは、日本最大規模のねずみ講事件であり、無限連鎖防止法制定のきっかけとなった事件です。
天下一家の会(当時は第一相互経済研究所)は昭和42年に熊本県で創設「4人の子会員を勧誘すれば、2080円が102万4000円になる」といううたい文句で会員を勧誘して、全国から120万人以上の会員と1896億円近いお金を集めました。
当時はねずみ講を取り締まる法律が存在しておらず、多くの人が天下一家の会に参加しました。しかし、ねずみ講はいずれ破綻する性質のものであるため、天下一家の会についても配当ができなくなり、破綻することになりました。
無限連鎖講防止法は、昭和54年、天下一家の会事件を受けて施行されることになったのです。 -
(2)年金たまご事件
年金たまご事件とは、健康食品の販売会社である「ライフ・アップ」が「年金たまご」と称して、ねずみ講を運営していた事件です。
勧誘では、「「たまご」と呼ばれる会員になり健康食品を毎月1万3500円分購入すれば、積み立て年金型ボーナスが3カ月ごとに増額していきながら、1年後には約19万円、2年後には約340万円を受け取ることができる」などと説明することで、会員を増やしていきました。
先行会員へのボーナスは、後に加入した会員が支払うお金が回るという仕組みでしたが、会員拡大が徐々に行き詰まるようになり、会員へのボーナスの支払いも滞って、組織が破綻することになったのです。 -
(3)コンピューター・ネットワーク利用のねずみ講
電子メールを利用したねずみ講が摘発される場合もあります。
たとえば総務省が紹介する事例では、電子メールに記載されている4人の会員に1000円ずつ振り込んだうえで、自分の口座を下に書き加えて、多くの知り合いに送信するという悪質なチェーンメールが利用されていました。
3、ねずみ講の被害に遭った時の対処法
もし、ねずみ講の被害に遭ってしまった方は、以下のような対処法を検討することができます。
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(1)消費生活センター
各都道府県、市町村に設置されている消費生活センターでは、消費者からの消費者問題についての相談を受け付けています。
ねずみ講による被害も消費者被害の一種であるため、消費生活センターに相談をすることによって、具体的な解決方法をアドバイスしてもらうことができます。
消費生活センターへの相談は、消費者ホットラインに電話をすることで、最寄りの消費生活センターや消費生活窓口に案内してもらえます。 -
(2)警察
ねずみ講は、無限連鎖防止法によって規制されている犯罪にあたります。
したがって、ねずみ講の被害にあった場合には警察に相談をするというのも有効な対処法となります。
警察では、相談内容からねずみ講にあたる可能性がある場合には、捜査を行います。そのため、ねずみ講の運営者などが摘発される場合があるでしょう。
ただし、警察に相談をすることによって、ねずみ講の運営者に刑事上の制裁を加えることはできますが、損害賠償の請求は民事の領域にあたるため、支払ったお金を取り返すことはできません。 -
(3)弁護士
ねずみ講によって支払ってしまったお金を取り返したいと考えている方は、弁護士への相談をご検討ください。
自分がお金を支払ったビジネスが違法なねずみ講やマルチ商法であるかどうかは、法律の専門家でなければ判断が難しい内容です。
また、違法なねずみ講であったとしても、個人で交渉すると、相手にうまく言いくるめられてしまい、返金を請求することが困難になってしまう場合があります。
早期から弁護士に相談をすることによって、返金を受けられる可能性が高くなります。
もしねずみ講の被害にあってしまった場合には、速やかに、法律事務所に連絡しましょう。
4、まとめ
「簡単にお金を増やすことができる」といった誘い文句でビジネスに勧誘された場合には、ねずみ講の可能性があります。
安易なもうけ話には乗らず、怪しい勧誘についてはきっぱりと断ることが大切です。
もし、知らずにねずみ講に勧誘されてしまった場合には、ねずみ講だと気付いた段階ですぐに抜けることが必要です。一人でも勧誘をしてしまうと無限連鎖防止法により処罰される可能性があるため、注意が必要です。
ねずみ講の被害にあってお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています