飲食店を廃業する場合の手続きは? 手順や必要書類などを解説
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帝国データバンクの調査によると、令和元年度における広島県内の企業の休業・廃業・解散件数は650件、法的手続きによる企業倒産は183件でした。
新型コロナウイルス感染症の影響が収まらないなか、企業や商店の経営は、低迷を続けています。
特に、飲食店には影響はコロナウイルスの影響が直撃しています。令和2年には全国で780件の飲食店が倒産し、令和元年の732件を超えて、過去最多となりました。
コロナウイルスの感染終息の目処が立たず、売り上げの回復が見えてこない状況が長引く限り、今後も飲食店の倒産や廃業は続くことが予想されます。
実際に飲食店を営んでいる店主や経営者の方々には、「廃業」を経験することが初めてである方が多くおられるでしょう。
廃業の手続きや必要書類などについての勝手がわからず、お困りの方も多いはずです。
本コラムでは、飲食店が廃業する際の手続きや必要書類などについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説いたします。
1、新型コロナウイルスの影響により飲食店の廃業が増加
令和2年から続く新型コロナウイルスの感染拡大は、令和3年になっても収まっておりません。
令和3年1月7日には、31日間の緊急事態宣言が1都3県に発令されました。一週間後の1月14日には、さらに2府5県に、25日間の緊急事態宣言が発令されています。
これにより、飲食店に対する午後8時までの時短営業や、酒類の提供を午後7時までに制限することなどが要請されました。
広島県は上記の緊急事態宣言の発令対象外の地域ではありますが、市民の自粛などによる売り上げ減少が発生することにより、飲食店の経営状況は引き続き厳しいものになると考えられます。
特に、賃料などの固定費が大きい店舗については、持続化給付金などを利用しても、長期間にわたる売り上げ減少を耐えきることは難しくでしょう。そのために、飲食店が廃業を選ぶ事例が増加しているのです。
2、飲食店の廃業手続きの流れは?
廃業を行うために必要な手続きは、法人経営であるか個人経営であるか、また債務を支払える状況にあるかどうかなどによって、異なります。
以下では、飲食店を廃業する際の基本的な手続きの流れについて解説いたします。
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(1)各種行政上の届出を行う
飲食店は、衛生管理・消防・風俗営業など、さまざまな領域の行政機関から監督を受ける立場にあります。経営者の方は、開業時に各行政機関に対して届出を行われたでしょう。
同様に、廃業時にも、それぞれの行政機関に対して廃業の旨を届け出ることが必要とされるのです。
具体的に必要となる届け出は、以下の通りになります。- 保健所に対する廃業届
- 消防署に対する防火責任者の解任届
- 警察署に対する風俗営業の廃業届(居酒屋やバーなど、風俗営業の許可を得て営業していた飲食店のみ)
- 税務署に対する各種届出
- 都道府県税事務所に対する閉店届 など
また、従業員を雇用している場合には、以下の届出も必要となります。
- 社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)に関する日本年金機構への届出
- ハローワークへの届出
- 労働基準監督署への届出
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(2)従業員を解雇する
従業員を雇用している場合、廃業の際に全従業員を解雇することが必要となります。
その際、労働基準法第20条第1項に基づき、30日前の解雇予告または平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払わなければいけません。
従業員に対して解雇を通告する際には、従業員が今後の生活に困らないように、雇用保険の受給や「未払賃金立替払制度」の利用を案内することが望ましいでしょう。
各制度に関する詳細については、ハローワークや厚生労働省のホームページに掲載されている案内をご利用ください。
「雇用保険手続きのご案内」(ハローワーク)
「未払賃金立替払制度の概要と実績」(厚生労働省) -
(3)債務を支払えない場合は破産手続きを行う
事業に関する債務を支払いきれない場合には、廃業に伴い破産手続きも行うことになります。
破産手続きを開始するためには、まず、裁判所に対して申し立てを行います。
その後、債務者の財産や債務の調査を経たうえで、債権者に対して資産を配当します。この配当が完了したのちに、破産手続きが終了します。
法人の場合、破産手続きによる処分の対象は、あくまでも法人の資産のみとなります。
しかし、経営者が法人の債務を連帯保証している場合には、結果的に経営者個人も連鎖倒産せざるを得ない可能性も生じます。
個人事業主である場合には、事業用であるか家庭用であるかを問わず、事業主が所有する全財産が破産手続きによる処分の対象になってしまいます。
つまり、自宅や車などの資産についても、原則として処分されてしまうことになるのです。
そのため、個人事業主である場合には、破産手続きをするか否かの決断には特に注意が必要となるでしょう。 -
(4)法人を清算する
法人経営の飲食店が廃業する場合には、最後に「法人の清算」が必要となります。
清算手続きは、会社法に従って行われます。
基本的には取締役が清算人となって、残務の処理・売掛金の回収・債務の弁済を行ったのちに、株主に対する残余財産の分配を行うことになるのです。
決算報告を行ったうえで、法人格を消滅させることで、清算手続きが完了します。
なお、破産手続きを行った場合には、破産手続きの終結をもって法人格が自動的に消滅します。そのため、清算手続きを別途に行う必要はありません。
3、飲食店の廃業に必要な書類
飲食店を廃業する際に行政に提出する書類や、破産手続きを行う場合に必要となる書類について、具体的に記載いたします。
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(1)行政機関への提出書類
行政機関に対する各種届出については、それぞれの行政機関が定める書式にしたがって、提出書類を作成する必要があります。
また、開業時に受け取った営業許可証は返納しなければいけません。①保健所に提出する書類
・廃業届
・飲食営業許可書(返納)
②消防署に提出する書類
・防火管理者解任届
③警察署に提出する書類(風俗営業関連)
・廃止届出書
・風俗営業許可証(返納)
④税務署に提出する書類
・個人事業の開業・廃業等届出書(個人事業の場合のみ)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書
・所得税の青色申告の取りやめ届出書
・事業廃止届出書(課税事業者のみ)
⑤都道府県税事務所に提出する書類
・閉店の届け出
⑥日本年金機構に提出する書類
・健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届
・雇用保険適用事業所廃止届(事業主控え)
⑦ハローワークに提出する書類
・雇用保険適用事業所廃止届
・雇用保険被保険者資格喪失届
・雇用保険被保険者離職証明書
⑧労働基準監督署に提出する書類
・労働保険確定保険料申告書
店舗を経営している地域によっては、その他の書類の提出が求められる可能性もあります。詳しくは、地域の各行政機関の窓口に確認してください。
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(2)破産手続きを行う場合に必要な書類
行政機関に届け出する書類とおなじく、破産手続きを行う場合の必要書類も、地域によって異なります。
基本的には、以下の書類が必要となります。- 申立書
- 陳述書
- 債権者一覧表
- 滞納公租公課一覧表
- 財産目録
- 債権者あて名ラベル原稿
- 添付書類一覧表
- 住民票(法人の場合は法人登記の全部事項証明書)
- 収入に関する資料(源泉徴収票、確定申告書、課税証明書など)
- 現在の住居に関する資料(不動産登記簿謄本、賃貸借契約書など)
- 過去の破産免責等に関する書類(もしあれば)
- 資産に関する書類(不動産、車、保険など、有価証券、債権、預貯金など)
- 営業関係の資料(報告書、税務申告書控え、決算書、資産目録など)
なお、破産手続きを担当する機関は「裁判所」です。
そのため、必要となる書類の問い合わせ先も、裁判所となります。
4、飲食店の廃業手続きを弁護士に相談すべき理由
飲食店の廃業を検討されている経営者の方や、廃業を決心された経営者の方は、ぜひ、弁護士にまでご相談ください。
弁護士は、経営者の方々の廃業手続きを様々な側面からサポートいたします。
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(1)必要な手続きを漏れなく任せられる
飲食店を廃業するにあたっては、膨大な数の書類を準備することが必要になります。
破産手続きを行う場合には、裁判所における複雑な法的処理も発生してしまいます。
そのため、経営者の方が個人で対応すると、精神的・時間的に多大な負担がかかってしまうのです。
企業法務の経験が豊富な弁護士であれば、法人・個人事業主の廃業に関するノウハウを蓄積しております。
そのため、飲食店の廃業に関しても、必要な手続きや書類の準備を経営者の方に代わって遂行することができるのです。 -
(2)従業員・債権者への対応を代行させられる
廃業にあたって従業員を解雇する場合、事業主から従業員に対して解雇を通告することは、精神的に負担となる場合があるでしょう。
「なぜ廃業に至ったか」「なぜ解雇せざるを得ないか」という点についても、冷静に説明しなければいけません。
また、破産手続きを行う場合には、債権者に対して十分な説明を行うことが求められるでしょう。
さらに、解雇に関しては労働法にて様々な要件が定められています。そのため、専門的な観点から法律上の注意点を漏れなく確認することが必要となるのです。
弁護士に依頼すれば、従業員や債権者への対応を代行させることができます。
また、解雇に関する労働法の要件についても、弁護士に確認させることができます。これにより、手続き上のミスから労働問題に発展することを未然に防ぐことができるのです。 -
(3)経営者個人の債務整理も任せられる
飲食店の廃業に伴って破産手続きを行う場合には、個人経営ではなく法人経営であっても、経営者個人が多額の債務を背負っている事例は珍しくありません。
その際には、経営者個人についても、破産をはじめとした債務整理を検討することが必要になります。
弁護士に相談すれば、法人破産の手続きと併せて経営者個人の債務整理についても、最適な方法がなにかについてアドバイスを受けられます。また、個人の債務整理についても、法人の破産手続きと同様に弁護士に任せることができるのです。
5、まとめ
飲食店の廃業には、行政機関に対する各種必要書類の提出や従業員への対応、破産手続きなどが必要となります。
書類の準備にも手続きの遂行にも膨大な手間と労力が求められ、経営者にとっては多大な精神的負担となる場合もあるのです。
書類の準備や各種手続きは、弁護士に依頼することができます。
また、ベリーベスト法律事務所では、飲食店の廃業に関する法律や税務に関するご相談を、総合的に承っております。
そもそも本当に廃業をすべきなのかどうか、廃業をするならばどのように手続きを進めるべきであるかなど、ご相談者さまの具体的な状況について詳細にお聞きしたうえで、企業法務の経験と専門的な法律知識に裏打ちされたアドバイスをご提供いたします。
飲食店の廃業を決心・検討されている経営者の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスまでご相談ください
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