業務上横領罪の構成要件とは? 単純横領罪や背任罪との違いや逮捕後の流れを解説
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令和元年9月、広島県内の金融機関で勤務していた職員が顧客の預金を着服していた不祥事が発覚しました。着服総額は3300万円にのぼり、その多くを遊興費として費消していたとのことです。職員は、着服が発覚したのちに懲戒解雇を受けました。元職員の男は、令和2年2月に、金融機関側からの告訴を受けた警察によって逮捕されています。
この事例のように、勤務先から預かっていたり保管を任されたりしている金銭を着服すると、刑法の「業務上横領罪」が成立します。被害届や告訴状が提出されれば逮捕される事態にも発展するため、横領をしてしまった場合には、ただちに弁護士に相談することが大切です。
このコラムでは、「業務上横領罪」が成立する構成要件を中心に、単純横領罪や背任罪との違い、罰則、逮捕後の流れについて、ベリーベスト法律事務所 広島オフィスの弁護士が解説します。
1、業務上横領罪とは
ここでは、業務上横領罪がどのような犯罪なのかを法的な角度から確認しながら、業務上横領罪が成立するケースや近い関係にあるほかの犯罪との違いをみていきます。
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(1)業務上横領罪の法的根拠
業務上横領罪は、刑法第253条に定められている犯罪です。
「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」を罰する犯罪で、刑法第38章の「横領の罪」のなかの一形態として規定されています。 -
(2)業務上横領罪が成立するケース
冒頭で挙げた広島県内の金融機関の事例のように、業務上横領罪の名を報道で耳にするのは、金融機関などのように顧客のお金を扱う機会の多い企業や団体で起きた着服事案が多いでしょう。
しかし、業務上横領罪が成立するのは、金融機関に限定されません。- 一般企業の経理担当者が自宅からインターネットバンキングで会社名義の口座から自己名義の口座に不正に送金した
- 県立高校の事務職員が学校名義の口座から現金を引き出して自己名義の口座に入金した
- 成年被後見人の財産管理を委託されていた司法書士の補助者が、成年被後見人名義の口座から預金を着服した
一般企業、団体職員、公務員、司法書士など、さまざまな業種において、業務上横領罪は成立する可能性があるのです。
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(3)単純横領罪・遺失物等横領罪・背任罪との違い
業務上横領罪と近い関係にあるのが「横領罪」「遺失物等横領罪」「背任罪」です。
● 横領罪(刑法第252条)
自己の占有する他人の物を横領した場合に成立します。
「横領の罪」の基本形であり、委託者と受託者の間にある委託信任関係を保護しながら、委託者がもつ所有権も保護する犯罪です。
業務上横領罪のように業務上の委託関係がない場合でも成立するので、たとえば友人・知人の間柄で預けた物を着服する行為や、レンタル品を返却しない「拐帯(かいたい)」と呼ばれる行為が対象となりえます。
ほかの横領罪と区別するために、「単純横領罪」とも呼ばれます。
● 遺失物等横領罪(刑法第254条)
遺失物・漂流物など、占有を離れた他人の物を横領する犯罪です。
「占有を離れた」という点に注目して、「占有離脱物横領罪」と呼ぶ場合もあります。
道に落ちていた財布を拾って自分のものにする、俗にいう「ねこばば」と呼ばれる行為や、持ち主の管理を離れてしまった自転車を自分のものにしてしまう行為が該当します。
● 背任罪(刑法第247条)
他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為によって本人に財産上の損害を加えたときに成立する犯罪です。
業務上横領罪が「財物の横領」を罰する犯罪で、領得行為認められたときに成立すると考えられているのに対して、背任罪には図利加害(とりかがい)の目的をもって「任務違背によって財産上の損害を加える行為」を罰する犯罪で、領得行為が認められない場合に成立すると考えられているという違いがあります。
2、業務上横領罪の構成要件
業務上横領罪が成立するための構成要件を確認しましょう。
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(1)業務上自己の占有する他人の財物であること
業務上横領罪が成立するうえでは、対象が「業務上」の関係において「自己の占有する他人の財物」であることが必要となります。
ここでいう「業務上」とは、一般的な仕事に限られません。社会生活上の地位に基づいて反復継続しておこなわれる事務を指すため、会社に雇用されている社員が仕事のうえでおこなう行為のほかに、非営利の団体や同窓会・PTAなどの活動も「業務性がある」と認められることがあるのです。
「自己の占有する他人の財物」とは、他人からの委託を受けて管理を任されている財物であることを意味します。
たとえば、経理担当の職員や団体の会計係のように金銭の管理を任されている立場であれば「自己の占有」といえるでしょう。
一方で、コンビニエンスストアのレジ係のように、金銭のやり取りをするのみで管理までは任されていないようなケースでは占有があるとはいえず、業務上横領罪ではなく窃盗罪が成立することもあります。
この「業務上自己の占有する他人の財物であること」という点が、業務上横領罪と単純横領罪、窃盗罪とを区別するもっとも大きなポイントです。 -
(2)横領すること
「横領」とは、「不法領得の意思」を実現する一切の行為のことをいい、「不法領得の意思」とは「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」であるされています。
横領罪が成立するには不法領得の意思が必要とされています。
会社の金銭を自分の懐に入れて着服する行為はもちろん、自己の保身を目的として会社の金銭を本来の目的外で支出する「流用」や、会社の資金を別の場所に移す「隠匿」も、横領となりうる行為です。
3、業務上横領罪の罰則
業務上横領罪の罰則は、10年以下の懲役です。
罰金の規定はないので、刑事裁判で有罪判決が下された場合は必ず懲役が科せられます。
なお、近い存在にある犯罪のなかでも、業務上横領罪はもっとも重い刑罰が規定されています。
- 単純横領罪…………5年以下の懲役
- 遺失物等横領罪……1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料
- 背任罪………………5年以下の懲役または50万円以下の罰金
なお、刑法第25条の規定に従い、3年を超える懲役に対しては執行猶予がつきません。
業務上横領罪は信任関係に対する違背が強く、厳しい刑罰が規定されている犯罪です。
検察官に「悪質である」と評価されて3年を超える求刑を受けるケースも少なくないため、判決が3年を超えてしまうと実刑となり、刑務所に収監されてしまうのです。
4、業務上横領罪で逮捕された場合の流れ
業務上横領罪で逮捕されてしまうと、その後はどのような事態になるのでしょうか?
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されてしまうと、警察段階で48時間、送致された検察官の段階で24時間の合計72時間にわたる身柄拘束を受けます。
逮捕された時点で自由な行動は大きく制限されるため、自宅へ帰宅することも、携帯電話などで自由に連絡することもできません。
さらに検察官が勾留を請求し、裁判官がこれを許可した場合は、最長20日間にわたる身柄拘束を受けます。
逮捕から数えると最長23日間の身柄拘束を受けるため、社会生活に多大な悪影響をおよぼすでしょう。 -
(2)起訴されると刑事裁判に発展する
検察官が起訴に踏み切った場合は刑事裁判へと移行します。
それまでは被疑者であった立場は起訴によって被告人へと変わり、刑事裁判への出廷を確保する目的で被告人としての勾留を受けるため、保釈が認められない限りは判決が下される日まで釈放されません。
刑事裁判では、検察官が提出した証拠や被告人・証人の供述をもとに裁判官が審理し、有罪・無罪を決定します。
有罪の場合は法定刑の範囲内で適切な量刑が言い渡されて刑罰を受けることになり、実刑判決の場合は釈放されないまま刑務所へと収監されてしまいます。 -
(3)逮捕・刑罰を回避するには弁護士のサポートが不可欠
業務上横領罪は厳しい刑罰が規定されている重罪です。
被害者からの被害届や告訴が受理されると、逃亡や証拠隠滅を防止するために逮捕される可能性が高いでしょう。
逮捕・刑罰の回避を目指すうえでは、横領した金銭などの弁済を尽くしたうえで、被害者に許しを請うことが最善策となります。
そもそも、業務上横領罪は会社などの被害者が捜査機関に届け出をしない限りは認知されにくい犯罪なので、横領が発覚した時点で真摯に謝罪し、弁済を尽くすことで事件化の回避が期待できます。
刑事事件に発展する事態を回避できれば、逮捕されることもないでしょう。
また、捜査機関が認知して逮捕されてしまった場合でも、被害金が弁済できれば被害者の実害はなくなります。
実害が解消されたことで被害者が被害届や告訴を取り下げれば、検察官が不起訴処分を下して釈放される可能性も高まるのです。
被害者への謝罪や弁済を含めた交渉は、刑事事件の弁護実績が豊富な弁護士に一任することをおすすめします。
公平中立な第三者である弁護士が本人の代理人となり、本人が深く反省している状況を伝えて、被害金の弁済について話し合うことで、一度に全額弁済ができない場合でも分割による弁済が認められる可能性があります。
逮捕されてしまった場合でも、身柄拘束の必要がないことを主張して早期釈放を目指す、深い反省や家族などの嘆願を検察官・裁判官にはたらきかけて処分の軽減を得るなどといった弁護活動が期待できます。
5、まとめ
業務上横領罪は、管理を任されている会社の金銭や顧客からの預り金などを着服するといった行為を罰する犯罪です。
単純横領罪などと比較すると格段に重い罰則が規定されており、行為の態様や被害額によっては厳しい刑罰を受けるおそれがあります。
業務上横領罪の容疑をかけられてしまった場合は、ただちに弁護士に相談しましょう。
逮捕による身柄拘束や厳しい刑罰を回避するためには、刑事事件の弁護実績が豊富な弁護士のサポートが不可欠です。
業務上横領事件の解決はベリーベスト法律事務所 広島オフィスにお任せください。
刑事事件専門チームの弁護士が、被害者との示談交渉を含めた弁護活動によって、事件化の回避や早期釈放、不起訴処分の獲得を目指します。
金銭を着服したことが発覚して会社から対応を求められている、まだ着服は発覚していないが早い段階で解決しておきたいといった悩みを抱えている方へのアドバイスも可能です。
まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 広島オフィスへご相談ください。
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